サンデー毎日 12月9日号 岩見隆夫のサンデー時評  池田大作さんのインタビュー  批判されるのは気持ちのいいものではないが、そこからいろいろわかってくるとい う副産物もある。  『毎日新聞』は創価学会の池田大作名誉会長とのインタビューをやり、九月二十五 日付の紙面に掲載された。インタビュアーは北村正任主筆と私(特別顧問)である。  話題は同時多発テロ、政治、世相・教育、憲法、創価学会、と多岐にわたった。し ばらくして、『THEMIS』という月刊誌の十一月号に、〈大新聞に続々登場!池 田大作「中選挙区復活」へのシナリオ―池田氏の著書の広告を貰ったせいか厳しい質 問もない、君らは誇りを捨てたのか〉という長い見出しの特集記事が載った。無署名 だから、文責は編集部にあるのだろう。  〈続々〉というのは五月二十三日付『朝日新聞』の投稿を皮切りに、『読売』『産 経』『毎日』の順でインタビュー記事が掲載されたからだ。特集のなかに、〈岩見隆 夫顧問のおべっか質問〉という見出しも立っていて、私が名指しで批判の対象になっ ている。  批判には慣れているだけでなく、反論の値打ちがないことも多いから、放置しても いいのだが、何万人かの読者がいると思われる雑誌から〈おべっか〉と決めつけられ て、黙っているわけにもいかない。  その個所を引用すると、〈とくに、毎日新聞の池田への擦り寄り記事は、新聞人と してのプライドをかなぐり捨てたような内容である。聞き手は……。なかでも岩見の おべっか質問は読んでいて恥ずかしいものだった。  「名誉会長は、ずいぶん歴代総理に接触が多いようですが」「公明党が日本の政界 に刺激を与える役割はあるんじゃないかと」「首相公選制について、名誉会長はいい んじゃないかというお考えとうかがっていますけど」など、池田が答えやすい質問ば かりで、まるで突っ込みがない。そればかりか、過去の言論出版妨害事件など創価学 会・公明党が抱える最大の問題である「政教一致」の問題にまったく触れていないの は、ジャーナリストとして欠格である。  毎日新聞OBが、次のように嘆いている……〉最後のOB発言は、実名がないから 創作だろう。そうでないなら、実名を公表してもらいたい。さて、〈おべっか質問〉 批判の当否である。 私の率直な感想を言うと、『THEMIS』という雑誌が以前 から反学会キャンペーンを売りものにしてきたことは承知しているが、いかなる立場 からでも〈おべっか〉と批判されるスキを与えたのは、未熟、不覚だったかもしれな い。しかし、正常な質問をしても、反学会という固定した立場からみると、池田さん に聞くこと自体が〈おべっか〉と映るようだから、これは論争相手の値打ちに欠け る。『THEMIS』はそれに近いと思われるので、この雑誌がまともなジャーナリ ズムかどうかがまず問われなければならない。なぜなら、〈反〉と〈批判〉は明らか に違うからだ。ジャーナリズムは〈反暴力〉〈反貧困〉〈反全体主義〉には徹する が、あとは自由にして柔軟な批判姿勢をとる。〈批判〉というのは先入観なく批判的 な視点でみることで、すべてにそうである。創価学会・公明党に対しても、〈反〉で なく、〈批判〉の対象であるのは当然だ。〈反〉で書けば商売になるのかもしれない が、それならジャーナリズムを装った売文業でしかない。批判で肝心なのは "フェア "な説得力次に、インタビューとは何か、である。これほど奥深くむずかしいものは なく、記者歴四十三年の私にも、そのつど達成感などない。めざすものははっきりし ていて、読者が知りたい本音をできるだけふんだんに相手から引きだすことに尽き る。  手法はさまざまであっていい。相手をみて、追及型、突っ込み型、和気あいあい 型、誘導型、おだて型と駆使する。沈黙型が得意の同僚もいた。最初の一問だけで、 あとは沈黙に耐えていると相手がしゃべりだす。突っ込みをやっても、相手が口を閉 ざしてしまえば、ただの自己満足に終わってしまう。〈恥ずかしいほどのおべっか〉 と酷評された私の質問だが、公明党の役割について言えば、『THEMIS』は意図 的につまみ食いをしている。私はその数問前で、「公明党は最近、宗教政党らしい純 潔性とか寛容さが感じられなくなって、自民党や民主党と同じ普通の政党という印象 ですね。惜しいなあと感じているんですが」と聞いた。公明党に対する不満である。 池田さんは、「全く同感です。私もそう思っています。そうなると何の魅力もなくな る」と率直に認めている。その延長線上で、役割を尋ねたのであって、私の質問意図 は〈おべっか〉とは逆の注文だ。それさえも〈おべっか〉と受け取るのは、受け取る 側に色がついているからにほかならない。批評も批判も自由で、私も日常的にやって いるが、肝心なことは説得力とフェアプレーである。この特集には、〈岩見隆夫は学 会機関誌『潮』の常連執筆陣である。創価学会による文化人や学者、ジャーナリスト 対策は実に緻密に行われている。評論家の田原総一朗や作家の猪瀬直樹、ニュース キャスターの筑紫哲也らも、「潮文化人」といわれている……〉 という記述もあっ た。私が学会側の人間だから、〈おべっか〉になると言いたいらしいが、これはフェ アでなく、『毎日新聞』の名誉のためにも抗弁しておかなければならない。『潮』に は〈永田町発信〉という政治コラムを何年も書いているが、私の基本的立場は、前に 言ったように〈反〉でなく、〈批判〉である。学会・公明党が例外であるはずがな く、読んでもらえばわかる。ライターは場所を与えられれば書くのが本性であって、 偏った注文がつけば、即刻執筆を取りやめるのは当然だ。とにかく、国政選挙で約八 百万票の大量票を集める公明党とバックの創価学会が、日本の社会に与える影響力は 決して小さくはない。そのパワーが好ましい方向に向かうように注視し、批判、注文 するのはジャーナリズムの役割である。『毎日』インタビューがそれなりの素材を提 供できたと考えている。人をやっつける場合でも、〈おべっか〉などと品の悪い言葉 は、めったに使うものではない。雑誌の格が落ちる。