2006.3.2SP  創価大学・創価学園代表協議会での創立者のスピーチ ◆◆◆ 哲学の柱を! まず教師が変われ     ── 教え子は神聖な預かりもの ◆◆◆ 可能性よ花開け! 一人も残らず 【創立者のスピーチ】  一、きょうはご苦労さま!  こうして協議会を行うたびに、私は、不世出の人間教育者であった戸田先生 を思い出す。  先生は厳しかった。  来た人をひと目見れば、頑張っているのか、たるんでいるのか、たちどころ に見抜いた。  堕落した人間やインチキな人間、うまく困難を避けて、自分だけいい子にな って、戦わない人間 ── そういう人間には、百雷(ひゃくらい)が落ちた。  そうやって、全魂こめて青年を鍛えてくださったのである。  一、人を育てる。そのためには、まず教師自身が変わることだ。わが心に確 固たる「哲学の柱」を打ち立てるのだ。  生き生きと、温かく、若き友を励ます。ご父母の方々に真心を尽くす。  人格と教養光る名教師として、世界の平和の指導者を、いよいよ育てていた だきたい。  ブラジルの女性詩人セシリア・メイレレスは綴った。  「教育者とは、自由と調和の取れた、発展の創造者、建設者です。  現代を生きながら、未来を探求するのです。  なぜなら、その未来こそが、教え子たちが夢を必ず叶える、より良い人生が 約束された場所だからです」  教育は「希望の未来」を創造しゆく、最も尊き仕事である。  その大いなる使命を深く自覚し、最高の誇りとしていただきたい。 ◆「失望することを自分に許さない」  一、創価教育においては、女性教育者の方々の尊い活躍が光っている。きょ うも代表が出席しておられる。  皆さまのご健闘を讃えつつ、アメリカの女性教育者であるメアリー・マック ロード・ベスーン(1875?1955年)の言葉を贈りたい。女性教育の偉大 な先駆者である。  ベスーンは言う。  「一人ひとりの人間には、本来、才能も、可能性も備わっています。こうし た資質を、最高に価値ある人生を生きるために、そして、全人類の幸福のため に開花させるのが教育の本義です」  まったく正しい。  教育は、「社会のため」よりも、まず「子どもたち自身のため」にある。  そして教育は、「国家」よりも「全人類」に奉仕する人を育てるべきである。  ベスーンは信念の女性であった。  彼女が、アフリカ系アメリカ人の少女たちのために学校を開いた時、生徒は 5人の少女と彼女の息子だけだった。何の設備もなく、木箱が机、炭が鉛筆の 代わりだった。  彼女は最初、事務員や管理者などの役割も全部、一人でこなし、経営を助け るために、子どもたちと一緒にパイやアイスクリームを売ったりもした。そう した労苦の土台があって、のちに彼女の女子学校は、伝統ある「ベスーン・ク ックマン大学」に発展していくのである。  彼女は言った。  「私は、失望することを自らに許さなかった」  「信念があれば、不可能なことなど何もない」  「私たちは、困難を乗り越えることによって、一段と強くなりました。  私自身、あえて険しく困難な道を選び、そして、信仰心篤(あつ)く、忍耐 強く、希望を抱いて生きようと心がけてきたおかげで、さらに強くなることが できたのです」  時代も社会も、激しく揺れ動いている。だからこそ、社会の依枯依託(えこ えたく)たるべき教育者が、確固たる信念をもつことが、どれほど重要か。  「創価教育」の哲学に生きる皆さまへの期待は、あまりにも大きい。 ◆大演奏家が一人の少女に真剣に  一、「教師であることは、簡単なことではありません。そのような責務は、 心にたくさんの愛情があり、無私でなければ果たせることではありません」(デ ィーツ=リューディガー・モーザー編、伊藤はに子訳『おばあちゃんからの手 紙 ── クラーラ・シューマンから孫娘ユーリエへ』、春秋社)  これは、有名な、19世紀ドイツの女性音楽家クララ・シューマン(181 9?96年)の言葉である。  彼女は、作曲家ローベルト・シューマンの夫人である。本年が没後110年。 全欧州に影響を与えた、19世紀を代表する女性ピアニストである。  少女時代、文豪ゲーテと交流があり、ゲーテもその才能を絶讃していた。  彼女は、音楽教育においても、偉大な功績を残している。世界的な演奏家で ありながら、彼女は、一人の少女を教えることですら重大な責任と受け止めた。 真剣に、誠実に、青年たちを教えていった。  クララ・シューマンの薫陶のもとからは、続々と優秀な人材が巣立ち、彼女 の音楽に対する哲学は、今日まで影響を及ぼしているという。  教え子の一人が、証言している。  「彼女にとって、ひとりひとりの生徒は、音楽に関してばかりでなく、ひと つの人格として、神聖な預かりものであった。彼女はわたしたちに、あらゆる 点で決定的な影響をあたえたのだった」(ナンシー・B・ライク著、高野茂訳 『クララ・シューマン ── 女の愛と芸術の生涯』音楽之友社)  一人ひとりを、「神聖な宝の存在」として大切にする。ここに、教育の出発 点がある。  "何としても、立派な人材に成長してもらいたい"という無私の情熱、誠実 さ、慈愛の深さにこそ、人は集まり、人は育つのである。  クララ・シューマンは、人生の先輩として、こう語りかけている。  「たとえひとつやふたつ上手(うま)くいかないことがあったとしても、勇 気を失ってはいけませんよ」(前掲『おばあちゃんからの手紙』)  青春時代は多感である。  ある時は大らかな心で包みながら、ある時は友人のごとく快活に笑い合いな がら、ある時は毅然たる人生の先輩として、勇猛(ゆうもう)に善のために戦 う姿を示しながら、青年に「勇気の心」を呼び起こしていただきたい。  教師の真剣な励ましは、若き生命に、不滅の名曲のごとき感動を残していく からだ。 ◆◆ 悠々と勝利の人生を    ── 学園生、創大生、志願者、父母の栄光を祈る ◆≪アメリカの女性教育者≫    ── 困難を越えて 一段と強くなれ ◆受験生の方々へ 一、先日、私は、創価大学法科大学院の受験生の方々に、そっと伝言を送らせ ていただいた。  「勝っても悠々と! 負けても悠々と!  長い人生だから。最難関の試験に挑戦したこと自体を、誇りとしてください」  創立者として、私は、創価学園・大学・女子短大を受験してくださった方の 全員に入学していただきたい気持ちで、いっぱいである。ただ現実には、定員 があって、そういうわけにもいかない。  それでも私は、志願者全員が、一人ももれなく、必ず、人生の栄光を勝ち取 っていかれるように、祈り続けている。  また、受験生の家族の方々、そして、受験の応援をしてくださった方々に、 感謝の祈りを捧げている。  それが、創立者としての責務と思うからだ。  それだけに、「創価学園を受験して不合格でしたが、ついにアメリカ創価大 学に合格しました」「自分は駄目でしたが、子どもが創価学園に合格しました」 等の報告をうかがうことほど、うれしいことはない。  学生・生徒を大事にするのは、教育者として当然である。  さらに、ご父母の皆さま、ご家族の方々、受験生、受験生の家族の方々にま で、誠心誠意、尽くしていくことである。  そこまで実践してはじめて、大学・学園の社会的な信用が築かれ、発展の道 が開けていくことを知っていただきたい。  ともあれ今年も、大勢の方々が学園・創大を受験してくださった。そのご健 闘を心から賞讃するとともに、あらためて、関係する方々に御礼を申し上げた い。 ◆教育環境を一段と充実  一、創価学園では、明年、創立40周年を迎えるにあたり、各種の整備事業 が現在、東京、関西ともども進められている。  主なものとして、東京学園では、「学園講堂」「高校普通教室」「小学校体 育館」のリニューアル(改装)工事。  関西学園では、「高校棟」のリニューアル工事、「万葉の池」から「白鳥の 池」へと続く「遊歩道」の整備などが予定されている。  各校とも安全な施設・設備の拡充をはじめ、いっそう充実した教育環境を整 備していく。  全学園を包括(ほうかつ)する「創価教育センター」では、園児・児童・生 徒と保護者のサポートをしていく「支援センター」部門を開設する予定となっ ている。  また、関西校の高校箏曲部(そうきょくぶ)は、8月の「第30回全国高等 学校総合文化祭」出場が決定している。  同じく関西校の高校ダンス部は、3月、4月にアメリカのロサンゼルスで行 われる国際大会への出場が決まった。  本当におめでとう!(大拍手)  なお、昨年10月に創大講堂のロビーで開催した第16回「創価芸術展」は、 全国5会場(愛知、群馬、北海道、和歌山、山口)を巡回し、2月5日に大成 功のうちに幕を閉じた。関係者の方々に、心から感謝申し上げたい。  一、創価大学では、「新・女子寮」の建設が決定した。  4月には、「池田大作研究センター」がオープンする。  通信教育部では新たに「文学・歴史コース」「健康・生きがいコース」が開 かれる。  また、工学部「環境共生工学科」の大学院開設へ向けて、また、文学部の教 育の充実へ、準備が進められている。  そしていよいよ、この3月には、中国に創価大学の「北京事務所」が開かれ る。  中国との教育・学術交流を、一段と推進していくセンターとなる。  一、なお、東京富士美術館も、本年から増設を進めていく。新たに、東京富 士美術館が所蔵している西洋絵画などを常設展示する予定である。  ルネサンスの大芸術から、バロック・ロココ・新古典主義・ロマン主義を経 て、印象派・現代に至る500年の潮流を俯瞰(ふかん)できる、日本屈指の 所蔵コレクションが展示されるとうかがっている。 ◆各界で活躍する学園出身の友  一、学園出身の英才たちが、各界で、また世界を舞台に活躍する時代を迎え ている。  現在、学園出身の医学博士には、  酒井英樹君(東京校2期)  李正男君(2期)  成見正作君(3期)  中泉明彦君(4期)  吉武典昭君(8期)  川辺昭浩君(9期)  下川哲昭君(9期)  高橋則尋君(10期)  大畑恵之君(10期)をはじめとする友がいる。  学園出身の医師は、医学生も含めて310人にのぼる。  また、各地の学術機関、国際機関で活躍するメンバーの代表を紹介しておき たい。  英謙二君(東京校1期、信州大学教授、工学博士)。  尾張真則君(4期、東京大学教授、理学博士)。  森本仁君(7期、宇宙航空研究開発機構〈JAXA〉研究員、工学博士)。  小椋厚志君(8期、明治大学助教授、工学博士)。  松岡勝実君(11期、岩手大学教授、法学博士)。  斉藤武彦君(19期、ドイツ国立重(じゅう)イオン研究所研究員、グルー プリーダー、物理学博士)。  山上武尊君(19期、宇宙航空研究開発機構研究員)。  和田真一君(関西校11期、広島大学大学院理学研究科助手、理学博士)。  八木良平君(13期、チューリヒ大学分子生物学,研究所特別研究員、医学 博士)。  久保友明君(15期、九州大学助教授、理学博士)。  加藤美華さん(16期、東京都神経科学総合研究所研究員、理学博士)。  国際機関では、荻野有一郎君(東京校10期、アジア開発銀行)、渡辺宣義 君(13期、ニューヨーク国連本部職員)たちが活躍している。  学園出身の博士号取得者は190人を超える。  〈創価学園出身の国会議員は現在11人(東京=10人。関西=1人)。国 会議員の出身高校として東京の創価高校が、昭和以降に創立された高校では第 1位の数である。  衆議院議員=北側一雄(1期)、富田茂之(2期)、大口善徳(4期)、上 田勇(7期)、高木陽介(8期)。参議院議員=木庭健太郎(1期)、魚住裕 一郎(1期)、荒木清寛(5期)、遠山清彦(18期)、谷合正明(22期)、 鰐淵洋子(関西校16期)〉 ◆◆ 勇気の炎を若き生命に     ── 〔誠実〕〔情熱〕〔無私の心〕で! ◆「ここから日本と世界の指導者が」  一、創価学園を訪れた世界の識者からは、次のような賞讃の声が寄せられて いる。  「現代社会は複雑な問題を抱えています。  しかし、きょう、皆さんにお会いして、創価の思想が掲げる世界市民育成の 現実の姿に接し、人類が希求(ききゅう)する平和と友情に満ちた世界は間違 いなく実現すると確信しました。  原子爆弾や対立する思想によってではなく、皆さんの手で世界平和は実現可 能であると信じるものです」  こう語られたのは、ドミニカ共和国・サンティアゴ工科大学のプリアモ・ロ ドリゲス・カスティジョ総長である。  インドの「調和を目指す作家フォーラム」のパドマナーバン会長は、学園生 に対して、次のように温かく声をかけてくださった。  「世界全体を新しいものの見方へと触発しておられるのが、創立者・池田博 士です。博士が教えてくださっている平和・文化・調和・兄弟愛などの理念は 普遍的であり、世界中の学校・教育機関が必要としている重要な理念なのです」  「皆さんは、今は一生徒ですが、将来は日本の、そして世界の指導者になら れる方です。ここから首相や大臣、大統領、大使、学校の校長といった世界の リーダーがたくさん生まれることと思います」  ペルー国立教育大学のソリス総長も、学園生の歓迎に応えて語っておられた。  「皆さんの人情味あふれる歓迎に胸打たれました。創価学園は、創立者・池 田博士の教育哲学に基づいた素晴らしい教育現場です。この高邁(こうまい) な精神が世界中に広まり、子どもたちを大切にする教育が行われるならば、人 類の未来は盤石です」  一、創価大学を訪れた方々も、熱いエールを送ってくださっている。  同じくペルーの名門、リカルド・パルマ大学のイバン・ロドリゲス総長は創 大の印象をこう語られた。  「池田博士の創立された創価大学を訪問し、深い感動を覚えました。この大 学は、施設、機構、機能など、あらゆる面から考えて『世界一の大学』である と思います。  キャンパスに足を踏み入れた瞬間から、教育に対する確固たる指針が息づい ていることを感じました」  インド文化国際アカデミーのロケッシュ・チャンドラ博士は、「国際的な文 化、学術の交流を推進するのが、本当の最高学府の伝統であります。今日、創 価大学に、その真実の姿を見ました」と、来学の感想を述べておられた。  ラテン・アメリカを代表するブラジルの詩人・チアゴ・デ・メロ氏は、「"日 本の大学"ではなく、"世界の大学"であると称賛したい」と創大の印象を語 り、さらに「創価大学を訪問して、私は、"世界と人類の理想郷"の実現は可 能であると確信しました」と、創価教育に強い期待を込めておられた。  続々と伸びゆく後輩たちのために、私は全力を尽くしていく。  教職員の方々にも、さらに充実した、価値創造の教育をお願いしたい。 ◆世界を変えるなら人間を変えよ  一、インドの世界的な農学者で、パグウォッシュ会議会長であるスワミナサ ン博士との対談集『「緑の革命」と「心の革命」』が、この4月、潮出版社か ら、いよいよ発刊の予定である。  暴力と貪欲(どんよく)の世界を「共生」と「調和」へと転換する地球革命 が必要だ。そして、そのためには「心の革命」から出発する以外にない ── 。  これが、私たちの対談の重要な結論の一つであった。「心の革命」とは、す なわち「人間革命」のことである。  スワミナサン博士は、「人間革命」の重要性をこう語っておられた。  「今日の世界に横行(おうこう)するこの"貪欲革命"を押し止められるも のは、ただ一つ、倫理と正義と公平性と精神性に基づく『人間革命』のみです」  「私は、今こそ『人間革命』を実現すべきときが来ていると思うのです。  つまり、一方には『人間革命』のチャンスがあり、もう一方には、『人類絶 滅』の可能性があるのです」  「私たちは今こそ、この問題をより深い次元から見つめる必要があります。 そして『人間革命』を基盤とする社会改革と文化改革が、まさに重要な課題と なるのです」  一人ひとりの人間を、かけがえのない存在として、慈(いつく)しみ育てて いく。また、自身がかけがえのない存在であることに目覚めていく。それが、 生命尊厳の世界の建設へとつながっていく。  世界最高峰の知性たちは、この「人間革命」の原理を注目し、また志向して いるのである。  一、終わりに、19世紀アメリカの先駆的教育者ブロンソン・オルコットの 言葉を贈りたい。  このオルコットについては、アメリカの哲人ソローとエマソンをめぐるてい 談(教育誌「灯台」で本年1月号まで連載)でも紹介させていただいている。  彼は言った。  「すべての職業のうちで、教師のしごとは、もっとも充実して広いよろこび の道を開くのである」(『ブロンスン・オルコットの教育思想』、宇佐美寛著、 風間書房)  私も本当にそう思う。  人を育てるに勝る喜びはない。教師ほど幸せな仕事はない。  まもなく、卒業、入学の季節を迎える。  新たな出発へ、若々しい息吹に満ちて前進することを約束し合って、記念の スピーチとしたい。  またお会いしましょう! ありがとう!(大拍手)                  (2006・2・20)