054 小倉昌男  経営学  日経BP社  平成17年04月27日

  クロネコヤマトの宅急便を手がけた小倉氏の、宅急便事業成長の足跡を淡々と綴った1冊ですが、随所になるほどと唸る事柄が記載されており、経営者には、是非一読して欲しいお勧めの本だと思いました。

  ヤマト運輸は、戦前は、売上、利益率など日本一のトラック会社と認められる成績の会社でしたが、戦後は、西濃運輸や日本運送などの会社に抜かれ、借金だらけの財務、古い設備、作業効率の低さ、ぎすぎすした労使関係、収入の頭うち、利益の低下・・・といった悪循環に悩まされたようです。

  善い循環にするための出発点は何かと考えたとき、基本は、「よく働くこと」であるから、「労働生産性を高めよう」ということを出発点にする決断をしたそうです。

  また、自社が儲からないのに同じ事をしている他社が儲かっているということがあり、理由を探るために、積荷のターミナルまで行って、儲かっている他社のトラックにどのような荷物が積み込まれているのかを見に行ったとも書いてありました。その結果分かったことは、他社は儲けの多い小口貨物が多く自社は儲けの少ない大口貨物が主体だったとのことです。

  小口貨物は利益率が高いということが宅急便事業を手がけるきっかけと思いますが、全国ネットワーク作りなど、膨大な設備投資が必要な事業を果敢に作り上げた小倉氏の経営戦略は、すばらしいものがあります。

  常にお客様の論理に立って考えることを主眼にされていたようです。たとえば、翌日配達と宣伝しているのに、お客様が不在で、翌日未配達率が2桁であったとき、お客からの論理では、一日中留守にしていた訳ではなくたまたま出かけていたときに配達にに来たので受け取れなかったという理由だとするならは゛、お客様が帰宅する夜に配達したらどうかというふうに、改善、改善を実行したそうです。

  この本の中で、痛快だったのは、1983年に宅急便の運賃を3サイズに分けて6月1日から改訂しようと、その年の3月に申請書を運輸省に出した際、運輸省がすぐに審査をしようとしないため事前に、

新聞広告に、「これまでより200円安いPサイズを6月1日から実施します!」と打ち出したあと、5月の31日の朝刊に、

「値下げを運輸省が認めないので、開始予定を延期せざるを得ません。」という広告を出して

運輸省の重い腰を上げさせその後1ヶ月後に認可を得たというくだりです。運輸官僚の許認可権力に物を言わせる態度には腹立たしい限りですが、マスコミを味方にして真正面から戦った様子は拍手喝采です。

 政治家なども一切頼ることもなく、マスコミを味方に官僚と戦いつづけた姿勢は、ただただすばらしいの一言です。この本を読んで小倉昌男さんという人の大ファンになりました。