刀剣を手放した後の慰め方

 犬養木堂は刀剣に造詣があり、秘蔵していた数も相当なもので中には名剣がすくなくなかった。そんな名剣も貧乏神には抗する事が出来ずに、所蔵全部を久原房之助に売り渡すことになった。

 それを聞いた木堂夫人は目に涙をためて、「30年もかかって、やっと溜めたのですもの、子どものようにしか思えません。せめて一本でも残したいものですね」と言うと、木堂は狼のような頭をきつく振った。

「わしが一本でも残してみなさい。世間の人達は、犬養め一番良いのを引っこ抜いて置いた。ずるい奴だと噂するだろうて」とてんで相手にしなかった。

 刀剣は久原久之助の土蔵に持ち込まれたが、さすがに30年間朝夕に手慣れたものだけに、犬養も時々思い出してはほろりとする。

 それ以来木堂は刀剣が恋しくなると、手近の押形を取り出してそれを見ることにした。

「で、こうして毎日のように押形を取り出している始末なんだ。そこでこの頃は画剣斎と名乗っているんだが、もしかこの押形まで手放さなくならなかったら、その折りは夢剣庵とでも名乗るかな」と笑っていた。