線路に横たわって電車を止めた話

 大田水穂は、いつも憂鬱な顔をしている若山牧水を慰めるのは、酒であったと言って、水穂自身は下戸であったが、牧水が来訪すると酒ほがいをした。

 或る夕べ、北原白秋、山本 鼎、山崎某が来て夜楽しく、飲みかつ語って気がついたら深夜に及んでいた。怱怱にして水穂邸を辞去して、外に出たら教育大学前から最終電車が赤い灯を点けて来るところであった。

 これに乗り遅れたら、次の電車がないというので、次の停留所まで行っている時間がない。すると白秋は電車のレ−ルの上に寝てしまった。牧水と鼎らはびっくりして、突進してくる電車に手をあげ、大声で停車の合図をした。

 電車は停車し、おもむろに起き上がった白秋は運転台に乗るや運転手に抱き着き席についた。牧水はそのまま電車の中で寝てしまい終点の品川の車庫の中で一夜を明かしてしまった。