酒徒 故に命拾いをした話

幕末の世情は物騒で、暗殺は日常茶飯事と言ってもいい位横行していた。福沢諭吉がある晩、さる知人の家に赴いた。用向きが済み、知人の家では諭吉がかねてから、酒好きであることを承知していたので、まあまあと酒が出された。酒飲みの常でいつしか深夜に及んだ。

其の家の外では、諭吉が家から出て来たら、一刀のもとに切り付けようと、数名の凶徒が手ぐすねを引いて待っていた。その時はわれ先にやると、仲間割れしてしまい、あたりが騒々しくなった。

隣家の人が何事かと思ったら、福沢諭吉を刺し殺そうと企んでいることがわかった。早速その旨諭吉のいる所へ通報した。諭吉はその夜一歩も出ず、夜明けを迎えて事無きを得た。もし諭吉が酒徒でなかったら、その後の福沢諭吉はなかったであろう。酒飲みの喜びそうな話である。