邪推を笑って済ます話
太宰
治 が若い頃、井伏鱒二に師事していた頃の話である。太宰は生活費を津軽の資産家の実家からあおいでいた。太宰の生家の方でも井伏鱒二の人格を信用して、井伏鱒二のところに送金されてきていた。一度に太宰に送ると、酒に消費してしまうので、苦肉の策として何回かに分けて、太宰の手許に渡してもらうように手段を講じたのである。ある時
太宰は 送金の額がすくなかったので、「井伏さんが、ウマイコトしているんじゃないか。」と友人に漏らした。その友人がそのことを井伏鱒二に注進に及んだ。井伏鱒二は、それを聞いて春風駘蕩 、呵呵大笑して済ました。いかにも鱒二の大人の風格が偲ばれる。太宰は井伏鱒二がそんなことする人物でないことは熟知していて、太宰の旺盛なサ−ヴィス精神が、周囲の人々を面白がらせるために「創作」したのかもしれない。だとすると文壇スズメはピエロである。