こまどり姉妹

 ダ−クダックスをはじめとしてボニ−ジャクス、デユ−ク、エイセス、はては伊藤素道とリリオ、リズムエア−ズ等々男性コ−ラスには数々の名グル−プがいる。

 ところが女声のグル−プにはこれらに匹敵するコ−ラスグル−プがない、何故だろうか?

 一つは男声コ−ラスは、バス、バリトン、テナ−と声部の区別がはっきりして、アレンジしやすいことがありはしないか。特にロシヤの合唱をきけばすぐ分かるようにバス、バリトンはコ−ラスだからこそその魅力を発揮出きる。

 これに対して女声のアルトのパ−トはやはり魅力がぐっと落ちる。女声のみのコ−ラスでは三部に編曲しても、その幅が男声のように広がらない。どうやら、この辺が女声のコ−ラスグル−プがプロとして成立しない理由なのではあるまいか。

 女声コ−ラスではせいぜい2人がいいと思われる。あのザピ−ナッツとかこまどり姉妹のことを考えても、声部の個性を生かすよりも、むしろ斉唱的な魅力を生かした方がいいように思われる。ピ−ナッツ、こまどり、どちらも姉妹か双生児なのもうなつ゛ける。

 スリ−グレイセスという3人の女声コ−ラスがあったが、このグル−プも3人のうち2人が姉妹だった。

 さて、これらの女声コ−ラスのうち、私の印象に残っているのは、こまどり姉妹である。

 彼女らは突如彗星のように現れた。

「津軽の海を越えてきた、、、、」とうたう二人の歌は、純然たる合唱ではない。演歌を斉唱するという歌い方である。

 ところが、これがいいのである。演歌のもつ民謡的な、浪曲的な部分が、斉唱的合唱で大いに誇張される。

 加えて、二人が育ってきた、貧しい生活が滲んでくる、こまどり姉妹があっという間に人気ものになったのもこのせいであろう。

 二人はスタ−ダムにのり、紅白にも出た。

 私の記憶はこのこまどり姉妹のことを思い出すとき、一人の男のことにつながってゆく。

 この男は私の下でアシスタントをやっていたSという姓だった。

 Sはよく動く青年だった。将来のデイレクタ−を目指してよく勉強もしていた。

 そのS君がいつの間にか、こまどり姉妹の姉の方に恋してしまったのである。

 ある日突然、Sがいなくなった。きけば、こまどり姉妹と一緒に旅をしているという。

 私が手紙を書いた。そしてレコ−ド会社を経由して旅に行っているというS君に「帰ってこい」と書いた。

 返事はこなかった。

 そしてSの行方は分からなくなった。こまどりも、いつのまにかスタ−ダムからいなくなっていた。

 話はそれだけである。

 今どうしているのだろうか?

 こまどり姉妹は?

 そして、S君は?