パンツをかりて泳いだ話し

   鵠沼の時であったが、我々は皆海岸に出た。皆で海に入ろうということになったが、芥川は賛成しなかった。自分はその頃洋服を着ると(妙な話だが)猿又を用いない習慣があったので、そのことを言って海に入れないというと、芥川はそれではと彼のをその場で脱いで貸してくれた。芥川が,佐藤は詩人にも似合わずなかなか立派な体をしていると、その後時々言ったのはこの時に自分の裸を見て以来である。
 芥川龍之介が田端の自宅で自殺したのは、昭和2年7月24日であるが、上記の一文はその一周忌を前にして、佐藤春夫が書いた 「芥川龍之介を憶う」の一節である。