ニシさんとブレサンポツズ

 ことしも一月早々に素晴らしい会があった。ところは東京下北沢、駅から真近いところにある「しもきたリバテイ」、二階に小さい空間がある。

 ここで「プレサンポウズ」という催しが行なわれた。ブレさん坊主!といいたくなるが、これは、レッキとした朗読の会である。主宰者はニシさんこと西沢実さん。西沢さんは、ラジオテレビを通じてず−つと放送作家としていいお仕事をしてこられた。「マイクの旅」、「テレビでん助」、「架空実況放送」、すばらしい作品をずっと書いてこられた。勿論、今でも現役の作家である。しかも堂々と放送作家の看板をかかげていらっしゃる。

 そうそう何年か前までは放送作家協会の理事長もやっておられた。NHK放送文化賞の受賞者でもある。

 そうそうもう一つのニシさんの顔は、文学博士、日本大学の教授でもあり学問的な功績も又たいへんに大きい。しかも八十歳をこえてから博士号をとられた。

 そのニシさんが、ずっとやっておられるのが朗読の会ブレサンポウズ−ブレス(呼吸)アンド、ポウズ(間)なのである。

 なるほど、朗読する時の最大のポイントは呼吸のしかたと間のとり方であろう。だからグル−プの名をブレサンポウズという。

 二シさんは、この会の極めて熱心な指揮者として先頭に立ってやってこられたのだ。

 今でこそ、朗読の会は全国各地にありすぐれた朗読人(!?)も枚挙にいとまがないが、やはりニシさんたちのお仕事が光っている。

 さて、ことしのブレサンポウズは会の初めに、「西沢実さんの朗読」が入ったことで皆がどっと期待した。

 この西沢さん、まことに朗読がお上手なのである。しかもその朗読の台本は勿論、ご自分でお書きになる。

 いつもはお弟子さん方のために台本を書き朗読の指導をなさる。がこんどはお弟子さん、全員、そしてニシさんの名調子を知っているお客さん方からの圧倒的なご要望をうけてご自分で朗読なさった。

 今回の出し物は「本邦ストリップ事始め」

 古事記の中の天の岩戸のくだりなのだが、そこはそれ、架空実況放送の生みの親、話はギリシャに飛び地中海をへめぐっては、又日本に帰る。

 しかもそのお話を日本式の張り扇たたいての講談かと思えば流れるような西洋流離たんになり、かと思うと、現代若い者向けの小話風に鮮やかに転換する。

 さすがに学識ゆたかに、しかも現代の若者にも通ずるように、まことに見事な話芸である。

 ヤンヤの拍手はしばし止まらなかった。

 大先生のお話のあとは、門下生の方々のこれは、キチンと崩さない朗読である。

 下北沢の夜の街に出ると夕闇が迫っていた。

 ニシさんこと、西沢実さんはニコニコしながら手をふって送って下さった。語る、話す、という話芸の世界に生きているニシさん、いつまでもいつまでもご健在であれ、と祈る。