エッセイ・西澤作品にはまった話

 前にもちょこっと触れたのだが、西澤保彦という作家に、いま、どっぷりとはまっている。『麦酒の家の冒険(講談社ノベルズ)』に代表される匠千暁シリーズという正統派の推理小説もあるが、もっぱら『幻惑密室(講談社ノベルズ)』の神麻嗣子ちゃんシリーズのような、SFっぽいパズル推理小説を得意とする作家である。
 わざわざ「ぽい」と表現したのは理由がある。作者本人が、ことあるごとに作品はあくまで推理パズルであって、SFではないと明言しているからである。確かに、宇宙さえ出てくればSF小説、というわけではないし、スペースオペラをSFとして分類することに嫌悪感を示す人も多い(別に、西澤作品に宇宙が出てくるわけではなく、もののたとえなのでそのてんご了承頂きたい)。あくまでメインは推理なのである。だが、その主張とは裏腹に、充分SF作品として愉しめる作品も多い。『七回死んだ男(講談社ノベルズ)』など、日本SFに多々あるエブリデイSFのノリが非常に楽しい。決して壮大なドラマではなく、どちらかというと盆栽のようなちまちました話なのであるが、おもしろい本であることは保証する。この話は、むしろ推理小説としては破綻しているかもしれない。
 本来、SFと推理小説は水と油である。一見何でもありというSFでは、フェアな論理の展開が難しいのだ。逆に、たとえ作者やSFファンにとって自明の(それこそ中学生レベルの科学知識でさえ)、それによって話を読み解くことは、推理小説ファンや作家にとって、アンフェアなこととされるのではないか。「しがらみによって起きる殺人事件を解決する探偵」の図式がない限り、正統派の推理小説とは認めない――そんな狭量な意識しか、実は推理な人たちにはないのではなかろうか……そんな偏見が、以前より自分の中にはびこっているのである。前述の表現を用いれば、「人が死ねば推理小説である」というわけではない、といったところか。推理の人たちがSFを一段低いものとみているような風潮が何となく感じられて、ちょいとひがんでいるだけかもしれない。
 それはさておき、あとは、前述『麦酒の家の冒険』がオススメである。主人公たちがひたすらうまそうにグビグビとビールを飲みまくるのが楽しい(こんなことを書くから、俺は所詮はただの飲んべえなのだが……(苦笑))。あの有名な『九マイルは長すぎる』にインスパイアされたと書いてあるが、まああの作品ほど見事な論理の展開はされないが(それが短編と長編の決定的な相違でもある)、充分匹敵する読みごたえの作品でもある。ちなみに、この人の著作には飲酒のシーンがいっぱいでてくる。高知出身ということもあって、ひょっとするとこの人もお酒が好き? とか推理すると(偏見とも言う……)楽しかったりする。
 ただ、気になる点も多い。話を展開する都合上か、何か個人的な偏見を論理的に論じることによって、一般化する傾向が多々見受けられるのだ。辛口、ともちょっと違う、
 また、あまりにもきれいな推理パズルで話が構成されているので、トリックはわからなくても犯人が特定できたりするのだ――消去法で。これは、推理小説としては話が破綻しているという証拠ではなかろうか。ちょっと残念である。
 また、変化球勝負の作家なので、外れたときは目も当てられない。『殺意の集う夜(講談社ノベルズ)』は、残念なことにおもしろくなかった。
 ともあれ、この作家の作品はおもしろい。



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