鉱物についての書籍紹介〜「三重県 地学のガイド」



まえがき

 本書は,中学生・高校生・一般の人々に主眼をおき,専門家を対象としたものではありません。したがって,内容や表現にもややその適切さを欠くこともあると思いますが,これはあくまで教育的配慮に基づくものであることをおことわりしておきます。

 従来,この種の本は,とかく採集に重点がおかれ,ややもするとコレクションのマニアや,この方面の業者の手助けをするようなものになりがちであったと思います。そこで執筆にあたっては,その点を故意に敬遠したきらいもあります。したがって,収穫の少ない本と思われるかもしれません。しかし,私たちはあくまで三重県の地質を紹介し,知っていただきたいのです。

採集よりも見学を多くし,また過去の遺物・遺跡の面にも重点をおきました。過去の文化遺産を知り,先人の功績をたたえ,次の世代に何を残していくべきかを知ってほしいのです。

 見た目にきれいな鉱物・岩石・化石を採集し,秘蔵するだけでなく,もっと広い視野でみていただきたいのです。鉱物・岩石・化石・地層は,一度採集したり,破壊したりすると生物のように翌年に生長してくるというものではありません。何万年,何億年とかかってできたものを一瞬にして失う場合もあるのです。どうかその点に十分注意し,三重県下の地質を研究してください。

 本書では,県下全般にわたって紹介したつもりですが,紙数が限られていましたので湯ノ山温泉,御在所岳,丹生鉱山などの紹介をすることができなかったのは残念です。さらに市街地の津市,松阪市,亀山市についても触れられませんでした。とはいえ,市街は露頭をはじめ交通事情,道路事情も変化が激しいので意図的にさけました。また従来,北勢地方はよく研究されてきましたので,今回は熊野市,尾鷲市といった南部を重視しました。

 また,「地学」イコール「地質」という観念がありますが,本書は地学がもう少し広い意味をもっていることを知っていただくために,人間生活とのかかわりにも触れました。たとえば,尾鷲の豪雨や北勢地方に分布するマンボなどがそれです。昔から,人間がいかに自然とかかおりあってきたかを知ってほしいためです。

 最後に,この本を出版するにあたって,三重県高等学校理科研究会地学部会,藤原岳自然科学館,理科センターの諸先生方にお世話になりました。文献も引用および参考にさせていただきましたことを感謝いたします。

 本書が一人でも多く,少しでも長く御愛読いただければ幸いです。

1979年9月
編者・執筆者一同


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