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第一段
所がら名にし負ふ、明石の浦の秋の頃、月冴え渡り寄る波に、
うつろふ影の面白や。
第ニ段
この頃はいとどしく、都の方の恋しきに、かかる所の人心、憂
きを慰む今宵かな。
第三段
いつとなく、長き夜を語り明石の浦なくも、いかで岩根の松の
葉の契りは末も変はらじ。
第四段
幾夜明石の浦の波、寄せて返り浮き沈み、哀れを思ふ折から
に、哀れを添えて鳴く千鳥。
第五段
庭の落葉か村雨か、かき鳴らず琴の音か、よそに知られぬ我が
袖にあまりてもるる涙かな。
第六段
四智円明の明石潟、迷いの雲も打ち晴れて、八重咲き出づる九
重の、都に帰る嬉しさよ。
八橋検校の高弟、北島検校(?〜1690)の作曲である。彼は、それまで
の組歌の筝の手に、旋律自体の音楽的効果を高めるという新しい試みを
加えた。
朗々と流れる歌と、器楽曲性を持った筝の旋律とが、お互いに作用し合
い、品格のある情緒を一層盛り上げている。
作品は、源氏物語「明石の巻」に拠るもので、前半三段は、都の紫の上
を偲んでいる心情を四・五段は身の上の浮き沈みを憂い、第六段は晴
れて都に帰れる喜びを、それぞれの気持ちに忠実に歌っている。
美しく、高貴な香りを漂わせながら私達の心に深く訴えてくる。 |