10月22日(水)その2

 この夜のテーマは「苦手意識の克服」でありまして、まさかこれが吉とでるとは 思ってもみなかった。行ってみるもんです。

●10/7 TETHERED MOON at サントリー小ホール

 菊池雅章(p)、Gary Peacock(b)、Paul Motian(ds)

 だいたいこの「繋がれた月」というグループ名からして、よく分からん。 やってることも、なんか小難しい感じがして、気になるグループなんだけどどうも苦手。 CDで聞いてる分には、そんな感じだったですね。 かなりきっちりかっちりしたベース・ドラムと、ひたすら意の赴くままなプーさん (菊池雅章)のピアノ、という取り合わせというかバランス感覚も、 いまいちぴんとこなかった。

 プーさんのソロを聞いたときの印象がダブってしまうのもいけないんですね。 自分の内面を切り刻んで、絞り出すように弾くあの演奏姿が脳裏に焼き付いていて、 つい身構えてしまったり、もしくは拝聴するような態度になったり。

 ところが今回のコンサート。予想に反してすごーく良かった! プーさんのピアノがあんなにやさしく聞こえたのは初めてです。 ここ数年のソロ作品は切々としてますが、今回の演奏はあたたかい!
 ポツリポツリと問わず語り....な調子は相変わらずですが。その行間を 埋めるように、ベースの豊かな音、ドラムの軽妙なリズム。3人とも 適度にテンション高く適度にリラックスして、演奏を楽しんでいたようです。 プーさん、時折何の脈略も無しに弾きながら立ち上がるのは、多分彼は彼なりに のっているのです。あ、こんなテンポのいい曲もやるんだー、 というご機嫌な曲に意表をつかれることもありました。

 ステージ運びは一見とっても無愛想。MCはおろか、曲が終わった時の挨拶すらなし。 プーさんが、二言三言ゲイリー・ピーコックと言葉を交わし、時にはポール・モチアンに 伝言ゲームして、即座に次の曲に移ってしまう。でもステージ上の雰囲気はとてもなごやかで、 なんだか3人のプライベートな集まりを、 外からこっそり覗いているような気がしてきます。
 1部・2部とも終わるとプーさんはさっさと席を立って袖へ。 右にならえでポール・モチアンもすぐ消え、一人ゲイリー・ピーコックだけが、 「少しはお客さんも構ってあげなきゃー」と愛想笑いをし、 客と一緒に拍手を3つ4つ打ってから、ゆっくり退場。
 ただ2部の終わりプーさんがニコニコしてたので、「あ、喜んでるんだな」 というのは分かったし、アンコールのあと初めて軽く会釈した顔は、 満面の笑顔で、何かこっちが妙に嬉しくなってしまったです。

 表に出て、六本木通りの喧噪の中を歩いている自分が不思議でした。 ついさっきまでのあれは、夢だったのかなあ、幸せな夢だったなあ。 そんなふわふわした気分で、電車に乗って帰ってきました。


人に見せる日記 目次
ホームページ
製作者=水のなおみ
All Right Reserved by Naomi Mizuno.