10月14日(水)

 ふーむ、次はこれかあ。さて、どうしよっかなー。

8/8 渋谷毅ソロ・ピアノ atアケタの店

 まあ、2ヶ月たってるし、時効ってことで書いちゃおうっか、な。
 この晩はすごく特別な夜という気が致しまして、ちょっと書くの気がひけるんだけど。

 アケタはアケタでも深夜のアケタ。スタートは12時。

 渋谷さんはCD渋やん のライナーノーツに自ら 「気が小さい」と書いてみたり、この間も「ソロは疲れるから」と笑ってみたり、 とにかくおよそソロ・コンサートなんてやってくれそうにない訳で。 そのせいか、深夜12時というのに大盛況。小さなアケタの店の椅子という椅子が 全部埋まって、30人近く入っていたんじゃないでしょうか。 (ほんの時々こういう深夜のコンサートを続けてきたようですが。)
 そうそう、渋やんについては「あのCD好きです」と言っても、 「そう?何しろ15年前の演奏だからね」とニコリともしてくれません。(録音は1982年。)

 アケタの店のグランドピアノはお尻をこっちに振って置いてあるので、ピアノを 弾く人はもろに客席の方に顔を向けることになります。向こうからもこちらの反応が よく見えるでしょうし、こっちからもあちらの表情や挙動が良く分かります。 何やら対峙している、という気分にさせられて聞いてる方が緊張しちゃう。
 当の渋谷さんはいたってのんびりしたもので、1曲弾いては煙草をふかし、 1曲弾いてはお酒をすすり、でこちらの視線に気付いて 「いいんですよ、そんなに注目しなくて(笑)」。その実内心はどうだったんだろう?

 そんな調子で最初に弾いたのがMisterioso 。続いてMonk's Mood 。 セロニアス・モンクを弾かせたら渋谷毅の右に出る者はいない、というような言葉を 読んだことがあって、でも今まで渋やん とか、林栄一さんの Monk's Mood (渋谷さんがゲスト参加)などを聞いていても、ふーん? と今一ぴんと来なかったんですね。
 でも、これは。いやこれは。何て言ったら良いのか分からないけどこれは!
 ああ、モンクだ!と。
 渋谷さんのピアノは、確信に満ちて力強く、とはおおよそかけ離れた 何気ないやさしいタッチで、計算なんてこれっぽっちもしてないように聞こえますが、 それでいて確実に聞く者の胸に届き、ざわざわざわっと手足の先まで感動の波が 伝わってきて、そして、ミミズの脳味噌のよく分からない場所が、 モンクだ!と叫んでいるんですが、これどうにも説明のしようがないです。

 ほかにもJust A Gigolo とか、名前はわからないけどよく耳にする スタンダードが続き、あーもう、どうしてこう優しいピアノが弾けるんだろうなー! My One And Only Love でひとまず休憩。 時計はそろそろ1時。
 いったんピアノを離れてお酒のお代わりに行く渋谷さん、「いっぱい入ってるねー」 と店内を見回して、お客さんの数を数えたりしてます。「僕、明日の朝は早いんだよね。 上々颱風の××さんと大阪で(って言ったっけか?)一緒にやるんで...、でも、 今日のコンサートはもうお終いっ、て言っても、許してもらえないよねえ(笑)」
 それから誰に言うともなしに「違うジャンルの人とやったって、何にも変わらないね。 そりゃ、その人が凄く好きになっちゃえば別ですよ...。でも、変わらないね。」

 あー、渋谷さんそろそろ、まわってきたかなあ?

 どんどん飲みながら、2部。確かBody And Soul とかあったような気がします。 弾くほどに飲むほどに指のろれつがまわらなくなって、演奏がふっ、と途切れることも しばしば。そんな自分に苦笑しつつ、それでも5曲目のRound Midnight を弾ききって、「はい、今日はこれでお終い」と切り上げた時は、 居合わせたお客さん全員、十分納得していたと思います。

 でもね、ふふふ。素敵だったのはこの後。

 そろそろ2時、帰る当ても行く当てもなく何となく居残っていたんです。そしたら、 トイレから戻ってきた渋谷さんが「お客さんも減ったし、3部、やろうか!」 ええっ???「僕、次は歌を歌いますから、マイクを」!!!
 いや、もう渋谷さんベロベロなんですけどね(笑)。大サービスです。 残っていた7〜8人?凄いラッキー。

 「男と女の間には/越すに越されぬ川がある/それを知らずに追いかけて/溺れても僕は知らないよ」
な〜んていう愉快な曲とか、
 「あしたのあしたのまたあした/僕は何になるんだろ」
という優しい調子の童謡とか、みんな渋谷さんの曲なんですが、何曲くらい歌ったでしょうか。

 「昔は、こうやってピアノを弾いたり歌を歌ったりして、朝の5時まで おもしろおかしく過ごしたものだけど...でも今日は3時まで頑張ったね。」 とっても楽しかったです。渋谷さんも楽しんでくれてたんなら良いんですが。

 「さあ、もう良いでしょ」という感じで今度こそ本当にお終い。と、 足元も危なくなってきた渋谷さんのつぶやきが。 「僕のピアノはねえ、本当はもっと良いんですよ。 いや僕はいつだって、そう思ってるんですよ...」
 いやいや渋谷さん、あなたは人間まるごと凄いですって。今の世の中、他人に これだけ人間をさらけ出してくれる人がどれだけいるものですか!
 だからね、あなたは変わらなくて良いんですよ。そのかわり、あなたの周りにいる人が きっとどんどん変わっていくはずだから。それで良いじゃないですか。

 これ以上店に残っていると、ますます渋谷さんが気を使いそうなので、 皆、早々にその場を辞しました(笑)。

 どうか、この文章が渋谷さんの目に触れませんように...。


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