自分を中心にして撮ってみました…ご容赦下さい。
小さい頃からずっと空が好きである。パイロットになりたいという少年の夢は実現しな かったが、それでも空への憧れは捨てきれず、学生時代に始めたグライダーは途中何年か のブランクはあったが、今でも続けている。遊ぶことが苦手な、いや遊ぶことにお金をか けることが苦手な日本人の中にあっては、道楽と評されることが多いが、空を自由に飛び たいという人間の本能が僕の心を掻き立てるのである。 そもそも、"グライダー"と聞いて,その姿を想像できる人は少ないのではないだろうか? ハングやパラグライダーほどポピュラーではないためか、『グライダーをやっている。』 と言うと、たいていの人からは『風がなくなったらどうするの?』に始まり、『着陸する 時はどうするの?』とか『どうして飛ぶの?』という質問を受けることになる。 我々が普段、生活していて感じる風はいつも横向きである。しかし、空では風はあらゆ る方向から吹いている。この中でも、グライダーが利用する風は上向きの風である。この 風は"上昇気流"と呼ばれており、条件によっては1万m以上の高さまで吹き上げている。 グライダーはこの上昇気流の中で高度を稼ぎ、獲得した位置エネルギーを速度に変換して 目的地に向かって滑空するのである。下降気流に出会えば高速で突っ切り、高度が下がれ ば、また上昇気流を捜して高度を稼ぐ。これを繰り返すことにより、長い距離を飛行する ことが可能となる。広大なアメリカやオーストラリアのトップ・パイロット達は、日常的 に1000kmや500kmという長距離飛行を楽しんでいるのである。 しかし、目に見えない上昇気流を捜し、その中で機体を上昇させるテクニックはそう簡 単ではない。上昇気流が見つからなかったり、うまく見つけてもヘタな操縦のために、機 体を上昇させられない時は、滑走路の上空から離れることはできない。少しずつ下がって いく高度を気にしながら、上昇気流を捜しまわるのである。そして、ある一定の高度を切 ると、高度調整をして滑走路に滑り込むのである。グライダーには着陸のやり直しはない。 この辺が、飛行機にない難しさである。 グライダーのエンジンは、大気の脈動である。 だから、気象を読むことが他の航空機 以上に重要となってくる。休日が近づいてくると天気が気になり、気圧配置から大気の脈 動を予測する。休日の朝一番の日課は、窓から空を見上げることになってしまった。 だが、今だに読みの精度は一向に向上しない。かくして、読みが外れ、大気の対流が発達 しなかった時のフライトは20分で終わることになる。 "West Japan…"のロゴ入りの機体 で世界選手権に出場する夢への道のりは遠い。 飛ぶ素晴らしさに比べて、それを継続させる努力は莫大である。決して快適とは言い難 い自然の中で、炎天下や寒風と共に河川敷で1日を過ごすことは決して楽ではない。10時 間拘束されて、飛べたのは1回だけという日はザラである。いっそのこと、1人でいつで もできるもっと簡単な趣味に転向してしまおうかと思うこともある。 しかし、安易な国民的娯楽に走ることもできずに、逆に、僕の飛び道具には飛行機まで 加わることになった。アメリカで飛行機の免許を取り、カリフォルニアの空を何回か飛ん だ。サンタモニカの上空から、ロスのヨットハーバー、カタリナ島と風景の綺麗な所を飛 んでいると、飛行機を追いかけて空を見上げていた少年のことが思い出されてしまう。 憧れが実現し、ささやかではあるが、この歳になっても自分の趣味を続けられるという ことは、本当に幸運だったと言うしかない。この幸運を感謝するとともに、この幸運がい つまでも続くことを願ってやまない。