−True Colors 〜真実の創造物〜−
あたしは一通の手紙を手にしていた・・・ 「リナさん・・・あとでよんでくださいね。」 ゼロスがそう言って渡してくれた手紙・・・ 彼がいうには、大切なことが書いてあるらしい。 ふと、頭の中にその時の情景がよみがえる。 久しく会えなかった愛しい人のその顔はいつもと同じく優しく、輝いていた。 「・・・最近忙しかったから」 自分に言い聞かせていた言い訳。 誰が聞いてもわかるほどの言い訳。 しかし、さっきまで隣りにいた人はやさしい顔ですべてを許してくれた。 「結局・・・甘えてるのよね・・・」 許してくれたその人の感触、気配はすでに感じ取ることができない。 正直・・・寂しかった。 ふと、自分の腕に目を落とす。 淡いピンクのアミュレットが部屋の明かりに映し出されていた。 そして、その中にはあたしが映し出されていた。 「・・・やっぱり・・・一人は嫌・・・一緒にいてほしい。」 自分でも気がつかないうちにあたしはつぶやいていた。 自分の意志だけではすべてを片付けられない現実・・・ 自分が決してたどり着けない場所にいる彼・・・ あたしは自分の前にそびえたつ抵抗のしようのない壁に呪文をぶちかましたい気分だった。 ゼロスの顔が唯一の安心 現実に疲れるほどその顔ははっきりとあたしの中にひろがっていく。 もっと他に安心できる物はあるのかもしれない。 けど、少なくとも今のあたしにはそれを否定することは出来なかった。 あたしは、再びゼロスからの手紙を手にすると封を切ることを決意した。 中には便箋が数枚・・・ 素晴らしく几帳面な字でつづられていた・・・ −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 我、親愛なる リナさんへ ここしばらく、忙しく会えない日々が続いてしまい申し訳ありませんでした。 僕のほうはようやく落ち着き、少々の休暇をいただくことが出来ました。 もし、リナさんが都合がつくようでしたら僕のわがままを一つ聞いてください。 この手紙をお渡しした4日後にこの街の公園へこの手紙を持ってきてください。 リナさんへのプレゼントをお渡ししたいと思っております。 プレゼント自体はあまり期待しないで欲しいのですが二人にとって大切な意味を 持った物になると思います。                 ・・・あなたの心の支えでいたい ゼロスより −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 涙が人知れずこぼれていた・・・ 「あたしが忙しかったの・・・知ってたくせに・・・」 あたしはゼロスの優しさに包まれているような感覚をおぼえた。 「・・・優しすぎるのよ・・・ゼロス・・・」 昼間に見た夢がふと思い出された・・・ これから先、あたしはゼロスにああやって優しく振舞えるのだろうか? そんなことを考えると、正直不安になった。 あたしは、ゼロスの想いに応えることが出来ているのだろうか? あたしは、ゼロスの重荷になっていないだろうか。 不安は時と共に大きくなっていってしまった。 そんなとき、目の中にピンクのアミュレットが入ってきた。 「・・・ゼロス・・・ありがとう。・・・少し、落ち着いたわ。」 アミュレットを渡した時のゼロスの言葉が頭をよぎっていった。 こうして短いはずの長い一日が幕を閉じていった。 ・・・・四日後 昨日まで少しながら仕事をして、ようやく買えたスーツを着てあたしはゼロスの手紙に あった通り公園で一人待っていた。 ・・・この服ならば正装といっても十分に通じるはず。 そう確信をしていた。 「この服装を見たら、ゼロスどんな顔するかしら・・・」 正直なところ、あたしはこういった堅苦しいのは苦手だった。 魔道師協会のローブ(思い出すのも嫌だけど)も着ないのは色だけが理由じゃないのだ。 でも・・・今日は、ゼロスにあたしの精一杯を見て欲しい・・・ その気持ちが苦手なこの格好が我慢できる理由なのかもしれない。 「ゼロス・・・まだかしらね・・・」 あたしは一人でいるのがあまり好きではなかった。 ナーガやガウリィ達と一緒に旅を続けているうちにいつも隣りに誰かがいるのが当たり前 になっていた・・・それが理由かもしれない。 一人でいる今は・・・早く会いたいと素直に思っているのである。 会いたい気持ち・・・それが時を早く進めたのか、 「リナさん」 声があたしの背中のほうから聞こえてきた。 「リナさん・・・どうやら待たせてしまったようですね。しかし、今日はまた素晴らしい 格好ですね。」 ゼロスはいつもと変わらない様子で笑顔をたたえてあたしに言った。 「ありがと・・・でも、少しは戸惑って欲しかったかな。」 あたしは普段と変わらないゼロスに照れ隠しに悪戯っぽく答えた。 「そうですよね・・・普段見なれていないリナさんですものね。僕も正直少し戸惑ったの ですが、リナさんの顔を見たらやっぱりいつものリナさんだって・・・それで、普通に 受け答えが出来たんですよ。」 ゼロスは自分の思った事を何一つ曲げずに答えてくれたのだろう。 まぁ、めちゃくちゃあいまいで判断に誤りを出すような物の言い方はするけど、嘘は言わない 性格だから。 「そう・・・じゃ、今日はおとなしくしてようかな。この格好でいつものままだと不釣合い だもんね。」 あたしは微笑みながらゼロスに言った。 「リナさん、あまり無理しないでいいですよ。いつものリナさんが一番ですからね。さて、 そろそろいきましょうか。」 ゼロスはそういうとあたしの手を握って歩き始める。 「いくって・・・何処へ・・・?」 「それは・・・秘密です。」 あたしの前の愛しい人は何一つ普段と違うところは無かった。 「あたしだけ・・・か。」 あたしはゼロスにも聞こえないほどの声でつぶやいた。 そのままゼロスに引っ張られたどり着いたのは、小さな神殿だった。 「・・・ここって・・・神殿?」 当たり前の事を問いかけたあたしにゼロスは、 「・・・そうですよ。それ以外に何に見えるんですか?」 ゼロスの答えはあまりにも間の抜けたものになっていた。 ・・・あたしの質問がそうさせたんだけどね。 「そうですって・・・あんたがここにくるなんてどういうことよ・・・。どうみても、 この神殿「スィーフィード」を祭っているものでしょうが・・・。」 そう・・・あたしの間の抜けた質問もここに理由があったのだ。 魔族であるゼロスがなぜ神殿にきているのか・・・ 「いいじゃないですか。僕だって色々と事情があるんですよ。」 ゼロスは相変わらずの表情で答える。 「まぁ、いいわ。で?ここにきた意味は?」 あたしは、さも当然の様に答えるゼロスに当然の様に質問した。 「このあいだもらったアミュレット・・・あれにちょっと手を加えようと思いましてね。」 いうだけいってゼロスは神殿の扉を開けて中に入っていった。 「あっ・・・ちょっ・・・ゼロス・・・」 服装のこともあって、あたしは静かに走ってゼロスに続いて神殿の中に入っていった。 神殿に入ると・・・誰もいない空間が広がっていた・・・ あまりにも静かな空間が・・・ 「ゼロス・・・?・・・どこにいるの?」 答えも無く、ただあたしの声が響くだけだった・・・ 「ゼロス?・・・隠れてないで出てきなさいよっ!」 自然と声が大きくなっていく・・・。 しかし、そこにはあたしの声が響くだけだった。 「・・・・・・ゼロス?」 自分ではっきり分かるほど弱気な自分の声がまわりに響いた・・・。 あたしは、神殿の内部を歩き回っていた。 会いたい人を探して・・・ただ、ひたすらに・・・。 しかし・・・まわりは誰もいない・・・ もちろん、返事も返ってこない・・・ 「・・・・・・・・ゼロス・・・どこなの?」 いよいよ、涙がこぼれ落ちそうになった瞬間・・・ 「リナさん・・・こちらですよ。」 さっき、あれだけ懸命に探した広間の柱の裏からゼロスが出てきた。 「おまたせしました。準備ができましたよ。」 「準備・・・?」 あたしは、少し不愉快そうな声を出したのだろうか? 「ええ、準備ですよ。さて、こちらへどうぞ。」 そういうとゼロスはあたしの手をとって歩き始めた。 「ちょ・・・ちょっと・・・ゼロス。どういうことよ・・・?」 意味もわからず引っ張られてあたしはたたらを踏みながらゼロスについていった。 「さて・・・リナさん。アミュレットを貸してください。」 いつもとなんら変わらない顔でゼロスはあたしに切り出した。 「・・・・なくしたり、壊したりしないでよ・・・」 あたしは、少し起怒り気味にいうと腕からアミュレットを外してゼロスへと手渡した。 「大丈夫ですよ・・・あとは、僕のアミュレットを・・・。」 ゼロスは自分の腕につけていたアミュレットを外すと二つのアミュレットを祭壇に掲げた。 そして・・・ 「はいっ!」 ゼロスは錫杖を振り下ろすとアミュレットは今まで見せたことの無い程の光を放った。 そして・・・ 「リナさん。これで、おしまいですよ。」 ゼロスはあたしにアミュレットをさしだした。 「一体、何をしたの・・・?」 あたしは何が起こったのかわからなかった。 すべては一瞬の出来事だったし、わかったこともアミュレットが輝いたことだけだった。 「後でわかりますよ・・・それまで楽しみにしててくださいね。」 ゼロスは、微笑を絶やさずあたしを見つめていた。 「・・・・・・そう、わかったわ。あなたのことだから聞き出しても答えてはくれないでしょうしね。」 あたしは、そういうとアミュレットを腕につけた。 ゼロスもあたしと同じように腕にアミュレットをつけていた。 「さて・・・行きましょうか。」 再びあたしの手を引いてゼロスは歩き始めた。 それからは、普通にデートをしていた・・・ 食事して、買い物をして、公園でゆっくりして・・・ そうなれば、当然別れのタイミングがやってきてしまう・・・ 切なさがあたしを一気に襲ってきた。 ゼロスの姿が隣りからなくなるのが正直嫌だった・・・。 そんなとき・・・ 「そろそろですね。」 ゼロスはつぶやくとあたしの腕のアミュレットに手をかざした。 すると・・・ アミュレットの中央部分からゼロスの姿が投写された。 「・・・えっ?」 あたしはその現象に声をあげてびっくりしていた。 「そういうことですよ。・・・これで、アミュレットを見るときに僕を思い出せますよね。」 優しい笑顔は涙で見ることが出来なかった。 でも、その優しさが嬉しかった。 「泣かないでくださいよ。・・・僕のアミュレットにも同じようにしてありますしね。」 そういうと、あたしの肩を軽く抱きしめてくれた。 その腕が・・・なぜだか暖かく感じた。 離れたくなかった・・・想いがつのっていった。 「リナさん・・・本当はずっと一緒にいたいんですよ・・・僕も・・・」 どこか、寂しげな声が聞こえた・・・ その瞬間・・・肩にあった暖かさが消えていた。 「ゼロス・・・次は・・・」 言葉にならなかった・・・。 アミュレットから映し出されるゼロスがやさしげにこちらを見ている。 頬をつたった涙が止まらなかった。 「次は・・・いつでもあえますよ。それに、いつもみたいに元気なリナさんが一番にあってますよ。」 アミュレットからそう聞こえた気がした・・・ 「・・・そうよね、いつものあたしに戻らないと。」 服装のせいかおとなしい気持ちになっていたが、いつもの自分を取り戻したような気がした。 「あしたも、おたからめざしてがんばらないとねっ!」 そうつぶやくと、あたしは彼の暖かさを思い出しながら宿へと帰っていった。

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