「ご主人様、この本でいいんですか?」 ミランジャは、一冊の本を持って神代の所に戻ってきた。 「ん?あぁ、そう。助かったよ。」 神代の言葉を聞くとミランジャの顔がパァッと素晴らしい笑顔に変わった。 ミランジャは、とある事情があって神代の元に身を寄せている。 事情については長くなるのでここでは話さないが・・・ ただ、神代の手伝いをかってでたミランジャを神代は止めることは出来なかったのである。 神代にしても、下手に一人にするより安全と思い、少々荒い仕事もあるが手伝わせている。 「ところで、ご主人様。なんで今更『時空操作理論』なんて読むんですか?」 そう。ミランジャが持ってきたのは理論上は時空をも操れるなどと書かれた本である。 すでに、人間が地球という一つの枠から離れて50年にもなる。 宇宙・・・人間にとって無限の夢は技術の進歩によって現実のものになった。 そんななか、人間の技術は時空間をも操るようになっていた。 時空位相変換装置・・・簡単に言えば、疑似タイムマシン・・・ そう。過去へのタイムトリップが可能になったのである。 しかし、それを可能にするマシンがとてつもなく大きい為なかなか実用化の目処が立たない。 ところが、それをいいことに宇宙犯罪者が一方通行になることを覚悟の上で過去へ逃げ込むケースが ここ数年で飛躍的に増えている。 頭を悩ましていたギャラクシーセイバーズは、一つの案を出した。 「犯罪者が移動した時空を追いかけて、逮捕し戻ってこれる装置の研究を開始する。」 そんな都合のいいものを勝手に作れると判断して、一人の技術屋に仕事を依頼した。 それが、他でもない神代友希であった。 神代はミランジャの質問に対して口にくわえていたペンライトを放し、一通り説明をした。 「ふ〜ん。結局、ぎゃらくしーせーばーずのわがままにつきあってるんだ。」 ミランジャは、真実を思わず口にしていた。 「まぁな。けど、一応ギャラクシーセイバーズの仕事をいくつか受けてる都合断れないんでな・・・。」 そう。神代はギャラクシーセイバーズを得意先にしていた。 事実、今現役で使われているスパークプレートなんかは神代の研究成果なのだから・・・ 「で、できそうなんですかぁ?」 「ああ。一応あるレベルまでは出来てる。あとは・・・位相追尾装置だけなんだがな・・・」 「いそーついびそーち・・・?なんですか??」 「ああ、ギャラクシーセイバーズが欲しがってる機能に『犯罪者の行った位相の特定』っていうのがあっただろ。あれのことだよ。」 「へぇ。で、あの本なんですか?」 ミランジャは、さっき自分が持ってきた『時空操作法』を指差しながらいった。 「ああ。そうさ。」 「むぅ・・・・。ボクよくわかんないや。でも、ご主人様、頑張ってくださいね。」 ミランジャは、励ますように元気な自分を見せた。 「ああ。これが終わったら、おまえの記憶を戻すような機械を作ってやるよ。」 「え?・・・ありがとうございます。でも、それはいいです。ボク今の自分が一番楽しいから・・・。」 「そうか・・・。じゃ、ミランジャをどこか楽しい場所にでも連れて行ってやるか。」 「うん。じゃ、何かあったらまた呼んでくださいね。」 言うと、ミランジャは早足で神代の研究室を出て行った。 「ふぅ。なかなか元気になったな。」 神代は、ふとミランジャが自分の元に来た時のことを思い出していた。 「もう、あの頃のおびえたミランジャはいなくなったんだな。」 神代の手はいつのまにか完全に止まっていた・・・。 ・・・・・・1週間後 ドアが静かに開く・・・ 「ご主人さまぁ・・・」 ミランジャは心配そうに入ってきた。 無理も無い話である。結局1週間研究室にこもり続けていたのだから・・・ 「ん?どうした?」 疲れは見えるものの芯はしっかりした声で神代は返事した。 「どうした?じゃないよぅ。ボク、ご主人様のことが心配だったんだよぉ。」 「そうか、ありがとな。」 「ところで、進みはどうです?」 「ああ。だいぶいい感じにはなったよ。」 「そうですか。良かった。」 ミランジャは、まるで自分が作ったかのように喜んでいた。」 ぴんぽ〜〜〜〜〜〜〜〜ん。 「ん、誰か来たみたいだな。」 神代が立ち上がろうとすると・・・ 「あっ、ボクが出るからいいよ。」 といって、ミランジャが走って出て行ってしまった。 「あいつ・・・自分がねらわれてるの忘れてんじゃないか・・・?」 おもわず、口から出ていた。 「はぁい。どちら様ですかぁ?」 ミランジャが聞くとやや間があって・・・ 「ギャラクシーセイバーズ、ミーナ=ランドロバーズです。」 「ぎゃらくしーせーばーずのみーならんどろばーずさんですか?」 思いっきり慣れない口調で受け答えしている。 「実は、個人的にDr.神代にお願いしたものがあったのですが・・・」 「あ。はい。少々お待ちください。」 ミランジャは、とてとてと神代のところへと走って行った。 「ああ、ミーナ君か。ここまで通してくれてかまわないよ。」 神代は、ミランジャに告げた。 「いえ、もうお邪魔してますよ。」 声はミランジャの後ろのほうから聞こえた。 「ミーナ君・・・久しぶりなのはいいが、かってに人のうちに上がらないでくれないか。」 神代は、少々うんざりしながらミーナに言った。 「そうでしたね。でも、あの子に言っても分からなかったみたいだし・・・。」 ミーナは、ミランジャを指差しながらいった。 「それと、人を指差すな・・・。」 神代は、注意を追加していた。 「ご主人様、お茶が入りました。どうぞです。」 いいながら、ミーナにお茶を出す。 「ありがと。」 お礼を言われて、嬉しそうな顔をしながらミランジャは神代の横に座った。 「えぇと・・・確か、依頼の品は小型のスタンガンだよね。」 神代は、何気ないそぶりでミーナに聞いた。 ミランジャは、神代に「仕事の話の途中では絶対に口を挟むな。」ときつく言われてるので、 「なんで、そんなものを?」という疑問を聞けずにいた。 その後も、なにやら訓練だの犯罪状況だのと話をしていたが、ミランジャには良く分からないことばかりだった。 そんな中、ミーナというその女性は今神代が研究している時空位相変換装置に興味を示したようで、話がそちらにそれていた。 神代も、いくら依頼内部者とは言え第三者に話すのは気が進まない様子で困りながらものらりくらりとかわしていた。 時空位相変換装置自体の存在はすでに一般的なこともあり無理な説明はしてなかった。 「時空位相変換装置の小型化」 神代がミーナに出した答えだった。 ところが、ミーナは興味本位で装置に手をふれていた。 神代は、その事実に気がつくことはなかった。 気がついたミランジャは、ミーナに近づき注意をしようとした。 「ちょっと、いいですか?その手はどけてくださ・・・・・・」 その言葉に神代はミーナの手のありかを見た。 「えっ・・・?」 神代には、ミーナの声が聞こえた気がした。 しかし・・・その場に、ミランジャとミーナは存在しなかった。