建設経済常任委員会では令和4年度所管事務調査として
「持続可能な農業の在り方」について調査をしました。
袋井市では平成17年度118.9億円あった農産物産出
額が令和2年度66.0億円までに減少してきていたこと
からこのテーマを定めて議論をしたものです。

政策提言書

持続可能な農業の在り方について 

 

 

 

 

 

 

                              令和4年12

袋井市議会

建設経済委員会

 


 

 

 

 

目   次

      1 はじめに          1ページ

 2 現状分析と課題       1ページ

 3 調査研究の方法       2ページ

 4 政策提言          2〜6ページ

 5 おわりに          7ページ

 

 

 

 はじめに

 

今日の日本社会は、少子高齢化、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展、脱炭素社会、SDGs等への対応に迫られている。さらには、新型コロナウイルス感染症の収束が見えないなか、ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響による燃料を含む物価高など、政策や支援の在り方が大きな転換期を迎えており、農業も例に漏れず、将来にわたって持続可能なものとするための検討が急がれている。

こうしたなか、本市では、農業を巡る世界及び国内情勢、国や県の政策を踏まえたなかで、本市農業の現状と課題を整理した「袋井市農業振興ビジョン(令和3〜7年度)」を昨年10月に策定し、農業者や農業団体等と連携を図り、本市の農業振興を総合的かつ計画的に推進する指針として位置づけ、その歩みを進めている途上である。

本委員会では、「袋井市農業振興ビジョン」を再確認し、これまでの農業政策を振り返り各種事業を評価するとともに、社会情勢や本市農業の置かれている環境の変化を踏まえ、「持続可能な農業の在り方について」を所管事務調査のテーマに据えて、取り組むこととした。

 

 

 現状分析と課題

 

平成17年度には118.9億円あった本市農産物産出額は、令和2年度には66.0億円まで落ち込み、15年間で52.9億円(44.5%)の減となっている。この要因には、農業者人口の減少、低価格化の進行等が挙げられるが、その背景には、消費者の食に対する嗜好の多様化、輸入農産物の増加などがある。

こうした現状のなか、本年2月に開催した将来を担う農業者との意見交換会では、本市農業が抱える課題に対し、@担い手の育成・確保のための「農業者に対する支援」、AICTなど新しい技術の積極的な活用による「スマート農業による生産性の向上」、B消費者ニーズに対応した食の提供による「稼ぐ農業」、C農業生産基盤の整備・長寿命化のための「先行的設備投資」の主に4点について提案をいただいた。

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 調査研究の方法

 

 まずは、昨年10月に策定された「袋井市農業振興ビジョン」と本年2月に開催した「若手農業者との意見交換会」でいただいた作物ごとに抱える課題や意見を再確認し、本委員会において課題認識の共有化を図った。

次に、課題解決のヒントを得るため、スマート農業の推進に取り組む兵庫県三田市への先進地視察を行うとともに、市内のトマト温室及び選果場、水田水管理システム、荒廃茶園の様子などの視察も実施し、参考にした。

提言をまとめるにあたっては、委員間討議により本市農業が抱える作物ごとの課題への解決案を作成し、改めて若手を中心とした農業者に解決案に対する意見を聞き、提言内容のブラッシュアップを図った。

 

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 建設経済委員会からの政策提言

 

⑴ 本市の持続可能な農業に求められる施策

本委員会においては、3で記したとおり調査研究を進めてきた結果、本市の持続  可能な農業に求められる施策として、大きくは次の3点が重要と結論づけ、以下それぞれ政策提言をする。

ア 経営力強化のための「担い手支援・スマート農業」

() 次世代の農業経営を支える新規・若手就農者の育成

() ICTの導入による農業経営の効率化・省力化

() 栽培データ、AIなどを活用した栽培技術の継承

 

イ 稼ぐ農業のための「販路拡大・ブランド化」

() 国内外における多様な流通・販売チャンネルの開拓、観光分野との連携

() ブランドイメージの向上と発信力の強化、ブランド化の支援

() 環境に配慮した農業の推進

 

ウ 効率的かつ安定的な農業生産のための「農業基盤整備」

() 人・農地プランによる農地の集積・集約の促進

() 荒廃農地の実態把握、農地としての再生利用

() 生産基盤の強化と用排水路など農業用施設の長寿命化

 

 

⑵ 作物別に求められる施策

提言の大きなポイントとしては、⑴のとおりであるが、作物別に今後求められる施策については、メロン、茶、米、施設野菜等の4作物に分け、それぞれ次のとおり具体的に記すこととした。

また、提言は、その内容により短期、中長期とあるが、それぞれの施策に適宜適切に取り組まれたい。特に短期については、スピード感を持って取り組むことが重要であることから、令和5年度当初予算等での計上による事業の実現の可能性についても検討されたい。

 

【メロン】

販路拡大

    ()海外マーケットの開拓、観光との連携【短期】

a.アメリカ合衆国など東南アジア以外のマーケットの開拓

b.観光に訪れた人へのプロモーション、観光施設等とタイアップした販売戦略

イ 持続可能な生産

     ()ブランド力(認知度)の強化・施設の充実・更新【短期】

a.発信力の強化、先端技術の導入の推進、施設等の修繕への対応

b.ICTによる品質管理の数値化・見える化、ふるさと納税によるプロモーション

    ()原油・資機材等の高騰、環境対策【短期】

a.農業資材・燃料価格への対応、肥料価格高騰対策

b.SDGsを踏まえた環境に配慮した農業の展開、ヒートポンプ等の導入への

支援

c.周年安定供給への支援

 

   ウ 担い手育成等

()新規就農者等への支援【短期】

         a.初期投資など新規就農のハードルに対して、離農による遊休施設(空き温室)の利用促進

    ()技術の継承【中長期】

      a.AI導入により栽培技術を科学的にデータとして共有し、新たな担い手の育成や確保を図るための生産体制の確立、栽培マニュアル作成の支援、経営を含めた戦略

     

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【茶】

   ア マーケット(消費者)の求めるお茶の生産

    ()高品質茶・ドリンク原料【短期】

a.市場の求める高付加価値かつ良質な茶(有機栽培茶、被覆茶、ほうじ茶、

和紅茶など)の生産及びドリンクメーカーとの連携、海外輸出に向けた生産

体制

        b.袋井茶の特徴「バラエティ豊かな茶」を活かし、茶工場ごと独自の生産・販

売を支援、魅力発信(PRの必要性)

   イ 荒廃農地対策

    ()AIの導入による茶園調査【短期】

    a.乗用機械が入らない等の荒廃茶園を再生するため、農業法人等とのマッチ

ングに向けて、衛星画像及びAI等を活用した荒廃農地の調査システムを

    ()荒廃茶園活用の研究等【中長期】

a.荒廃茶園活用のための転作作物等の研究及び普及の支援(研修会等)

   ウ 持続可能な生産

    ()原油・資機材等の高騰、環境対策【短期】

a.農業資材・燃料価格への対応、肥料価格高騰対策

 

 

    ()基盤整備、複合経営【中長期】

a.茶園の集積・集約化、生産の効率を高める機械化に適した茶園整備の推   

  進

     b.荒茶工場の再編整備、地域茶業の核となる茶工場の育成

c.補完作物の導入による経営の安定化

 

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【米】

ア 経営所得安定対策

    ()制度を活用した経営の安定化【短期】

     a.国の経営所得安定対策による小麦など戦略作物の計画的な生産と検討、

農業経営の安定化

イ 水田フル活用及び持続可能な生産

    ()先進技術の導入【短期】

     a.GPS直進アシスト付き田植機など、高性能機械の導入による 「スマート農

業」の促進、農業経営における作業省力化、低コスト、高品質・安定生産の

推進

    ()原油・資機材等の高騰、環境対策【短期】

     a.農業資材・燃料価格の対応、肥料価格高騰対策

     b.有機肥料、減農薬などによる環境負荷の少ない水田耕作への取組を支援

()基盤整備【中長期】

     a.農地の集積・集約化とともに、生産管理を効率的に行う「水田水管理シス

テム」などICTを取り入れた農業基盤整備の推進

b.人・農地プランの推進により、認定農業者のみならず、中小農家など多様な

担い手が地域農業に携わる取組を支援

 

c.高収益作物への転作など高度水田活用への支援、土壌に適した高収益作

物の研究

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【施設野菜等】

ア 効率的な生産

    ()施設内の環境制御等の先進技術(スマート農業)の導入【短期】

     a.規模拡大を可能とする低コストハウスや、高度な環境制御システムなどの革

新技術、省エネルギー技術の普及を推進、先進的な農家との連携

   イ 持続可能な生産

     ()施設の充実・更新【短期】

    a.集出荷施設の整備や高性能機械の導入、作業の機械化、分業化、受委託

を進め、産地として継承できる生産体制の構築を促進

     ()原油・資機材等の高騰、環境対策 【短期】

        a.農業資材、燃料価格の対応、肥料価格高騰対策

    ウ 担い手育成等

     ()新規就農者等への支援【短期】

     a.行政による「人のマッチング」「既存施設のマッチング」「農地のマッチング」への支援

b.離農者への相談体制の強化、新規就農者・規模拡大希望者とのマッチン

グ支援

c.新規就農者の育成研修「がんばる新農業人」など、国、県及び農業振興公

社等のプログラムとのマッチング、普及員の充実、就農後支援の充実

d.初期投資など新規就農のハードルに対して、離農による遊休施設(空き温

室)の利用促進

    エ 消費者ニーズを捉えた商品開発への支援

     ()意欲ある生産者への支援【短期】

a.消費者の嗜好を捉えた施設野菜等の研究・開発への支援

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4 おわりに

 

  昨年10月に策定した「袋井市農業振興ビジョン」において、基本理念である“健全な食料と豊かな生活環境を創るふくろい農業”の実現に向けて、3つの基本目標@【農業】生産性が高く活力あふれる農業の推進、A【食料】消費者に選ばれ、市民の健康に資する豊かな食料産地づくり、B【農村】健全で魅力あふれる農村地域環境の形成が掲げられている。さらには、6つの基本方針、17の基本施策に体系的に整理されているところである。

 

それらを踏まえ、本年度、建設経済委員会では、実質5か月と短期間のなか、「持続可能な農業の在り方について」をテーマに調査研究を行い、とりまとめた結果が本政策提言書である。

本市の持続可能な農業に求められる施策は、1.経営力強化のための「担い手支援・スマート農業」、2.稼ぐ農業のための「販路拡大・ブランド化」、3.効率的かつ安定的な農業生産のための「農業基盤整備」の3点が重要と結論づけた。また、特に作物別に求められる施策の【短期】については、早急な取組を求めたい。そして、本政策提言書の内容を「袋井市農業振興ビジョン」に基づく様々な取組に加えることで、“健全な食料と豊かな生活環境を創るふくろい農業”の実現が一層加速、推進されることを期待したい。

 

また、本市農業が将来にわたって持続可能であり続けるためには、実態を踏まえて、量的な現状を維持し、質的な高みを目指しつつ、市と市議会が両輪となって議論を尽くし、時代とともに様相を変える農業を取り巻く環境とそこに生じる課題に向き合い続ける必要がある。そのことが、第2次袋井市総合計画で掲げる本市のまちの将来像「活力と創造で 未来を先取る 日本一健康文化都市」の実現に必ずや寄与するものと考える。

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