小説
2004.12/ 8




話すの。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん!!」
「あのな、ノックぐらいしろよ!!」
「あ、うん。ごめんなさい…」
「…で、なんだよ」
「唯とおしゃべりしようよう」
「はぁ?」
「いいでしょ、お兄ちゃん」
「…よくない」
「なんで? お兄ちゃんだってひまでしょ?」
「お前をかまってるひまなんて、どこにもないぞ」
「あります!!」
「ないっ!! ないったらないぞ!!」
「じゃあ、今、なにをしていたの?」
「なにって…ないしょ」
「唯もまぜてよ」
「ふざけるなっ!!」
「いいのっ!!」
「こら待てっ!! 誰が部屋に入っていいって言ったんだよ」
「細かいことは気にしないでおこうよ」
「しゃべりたいなら、友達にでも電話しろよな」
「長電話しちゃダメって、お母さんに怒られたばかりだから…」
「じゃあ、さっさと寝ちまえ」
「うん、わかった。おやすみなさい、お兄ちゃん」
「…おい、唯」
「なぁに、お兄ちゃん」
「どうして俺のベッドで寝るんだ?」
「大丈夫だよ。お兄ちゃんのベッド大きいから、ふたりで寝られるよ」
「ほぉ。俺の隣で寝るつもりなのか?」
「うん」
「ざけろっ!! 出ていかないと、真面目に怒るぞ」
「どうして?」
「どうしてじゃないだろうが。時間を考えろ、時間を」
「時間がどうかしたの?」
「み、美佐子さんが心配するだろ」
「心配しないよ。お兄ちゃんの部屋にいるんだもん」
「だから…こんな時間にだな、俺の部屋でふたりでいたら…」
「お母さん、喜ぶよ」
「よ、喜ばないっ!!」
「喜ぶもん!! 唯とお兄ちゃんが仲良くしていると、にこにこしてるもん!!」
「そ、それは昼間だろ?」
「朝だって夜だって喜ぶもん。それに…」
「なんだよ」
「お兄ちゃんが家にいるの、夜だけなんだもん」
「だ、だからなんだよ」
「唯、お兄ちゃんとお話したいのに…いつもいないから」
「俺は、唯と話したい事なんてないぞ」
「唯にはあるのっ!!」
「だから、俺にはないって言ってるだろ!!」
「おやすみ、お兄ちゃんっ!!」
「唯っ!!」
「すーすー」
「…いい加減にしないと本気で怒るぞ」
「すーすーすー」
「よぉーくわかった。後悔してもしらないからな」
「すーすーすーすー」
「…本気だぞ。本気の本気で後悔しちゃうぞ」
「すーすーすーすーすー」
「こら、唯っ。人の話を聞けよっ」
「後悔なんて…しないよ」
「い、言ったなぁ!!」
「あっ…や、やだっ、やめて、お兄ちゃんっ!!」
「へ、変な声を出すなっ」
「へへっ。色っぽかった?」
「な、なにがだよ…」
「唯だって、女の子なんだよ」
「ざ、ざけろっ!! こらっ、目をつむるなっ!!」
「…いいよ、お兄ちゃん」
「なにが…いいんだよ」
「それとも、唯じゃダメなの?」
「ダメって…」
「おにい、ちゃん…」
「唯…」
「…後悔なんて、しないもん」
「…どうなってもいいんだな」
「うん…」
「覚悟しろ」
「えっ?」
「いいんだろ?」
「えっ、えっ、えっ?」
「どうなってもいいって言ったな!!」
「…あっ、お、お兄ちゃんっ!! ちょっと待って!!」
「こら、逃げるなよっ!!」
「や、やだっ!! やっぱりダメっ!! やめて、お兄ちゃんっ!!」
「やめるかよっ!!」
「そんなとこ…だ、ダメだよぉ!! 首すじはダメっ!! お兄ちゃんっ!!」
「だったら、とっととベッドから降りろっ!!」
「や、やだっ…お兄ちゃんっ、やだっ…だ、ダメっ、お腹はやめてっ!!」
「おらおらおらおらおらおらっ!!」
「だ、ダメだよっ!! くすぐったいよぉ!! きゃっ!!」
「ほーらほらほら」
「お、お兄ちゃんっ!! もぉっ…く、苦しいっ!! 足の裏…だ、だめっ!!」
「降りるか? ベッドから降りるか?」
「許して、よぉ…し、死んじゃうよぉ…きゃん!!」
「うん言え、うん」
「や、やだっ!!」
「これで…うららあぁっ!!」
「やんっ!! そこ、ダメっ!! やだっ!! お願い許してお兄ちゃん!!」
「じゃあ、うんと言えっ!!」
「う、うんっ!! 降りる…降りるからっ…くすぐらないでっ!!」
「本当の本当に降りるな?」
「降りる降りる降りるよう!!」
「ったく…」
「も、もぉ…ゆ、唯、し、死んじゃうかと…思ったよぉ…」
「駄々こねるからだっ!!」
「だ、だってぇ…」
「ほら、降りろよ」
「ちょっと…待ってよ」
「待たない」
「意地悪なんだから…はい、降りました」
「…おい」
「なんですか?」
「なにくつろいでんだよ!! とっとと部屋に戻れよ!!」
「どうして?」
「どうしてって、約束しただろ!!」
「違うよ」
「な、なにがだよ」
「ベッドから降りるって約束しただけだもん」
「…ざ、ざけろっ!!」
「ふざけてないもん。お兄ちゃん、うそつくつもりだったんだ」
「い、いいから戻れ。今度という今度は、冗談じゃすまさないぞ」
「本気だと、どうなるの?」
「…じょ、冗談じゃなくなるんだぞ」
「冗談じゃなくなると、どうなるの?」
「それは、その…」
「もっともっとくすぐられるの?」
「そ、そうじゃなくて…」
「どうなるの?」
「だから…その…」
「お兄ちゃん?」
「だーっ!! わかったわかった、特別におしゃべりしてやるっ!!」
「えっ? 本当に?」
「その代わり、ちゃんと部屋に戻れよな」
「うんっ!!」
「今度、破ったら…本当に許さないからな」
「それでもいいよ、お兄ちゃん」
「だから…」
「てへへっ」
「…ったく」
「じゃあ、お兄ちゃん。なんのお話しようか?」

(了)


(2002.12/29 ホクトフィル)

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