しむ
06. 11. 21
わが大回りのたび
はじめに
10月終り頃の夕刊に、あるコラムニストが書いた「大回りの旅」というのがあった。それによれば隣の駅までの切符で、出来るだけ遠回りして電車のたびを楽しむもので、鉄道マニアではごく当たり前のことだそうだ。
この一文を読んでもよく理解できなかった。我が家にある古い時刻表をめくってみる。余談になるが、最近は時刻表も買わなくなった。パソコンのソフト「乗換案内」を愛用し、随時最新時刻表がアップデートされるからである。しかしこの大回りについては記述がない。
起点のJR片倉駅
(11月14日  9時20分)
そこで古い時刻表の登場となるわけだが、運賃計算の特例という項目の中に「大都市近郊区間内の乗車券」 について東京、大阪、福岡の近郊区間内だけを通る場合、乗車経路を重複したり、2度同じ駅を通らない限り、乗車券の運賃は実際の乗車経路にかかわらず、最も安くなる経路を使って計算できます、と記されている。
近郊区間については
JR東日本のホームページを参照

ついでながらこの東京近郊区間というのは時々改定されるらしく例えば、手持ちの古い時刻表(2002年9月)と比較すると次の区間が増えている。熱海→伊東、大月→韮崎、宇都宮→黒磯、勝田→日立、茂原→大原

早速というか取りあえず11月14日、暖かい日を選んで試してみることにした。私は相模線に乗ったことがなかったので次のようなルートを設定した。横浜線・片倉駅→橋本駅→(相模線)→茅ヶ崎→(新宿・湘南ライン)→大宮→川越→高麗川→八王子。
高崎線・倉賀野駅まで行って八高線に乗り高麗川経由八王子へ帰るルートも考えてたが、八王子着が17時14分となる。11月のこの時期では真っ暗だし、帰ってからのことを考えてやめた。ついでだが、倉賀野で乗り換えず高崎まで行って八高線に乗るとルール違反となる。

起点はJR片倉駅
茅ヶ崎駅で11時19分発の新宿・湘南ライン高崎行き特別快速に乗るためには片倉駅9時36分発の電車に乗らねばならない。我が家からJR片倉駅に行くには京王片倉駅から歩くことになる。8時半に家を出てモノレール、京王線と乗り継いだ。
このため朝は、いつもより少し早めに6時起床。寒くなったこの時期は布団から離れるのに勇気がいる。

茅ヶ崎行きを待つ
(橋本駅・9時37分)
今までJR片倉駅では乗降したことがなかった、国道16号線の歩道を歩きながら前を歩くおばさんに尋ねる。 おばさんは少し後戻りをして「そこの牛乳屋さんの角を曲がって・・・」と親切に教えてくれた。
駅前にはロータリがあってタクシーなどがたむろしている。
国道からの入り道の表示が見当たらず初めての人には分らない。しかし考えてみるとこの駅は通勤客で毎日使っている人ばかり、そんな表示は必要ないみたいだ。
線路は高架になっていて、下に駅舎がある。 私の頭はどうも進歩していないようで、平屋建ての駅舎をイメージしてしまう、 田舎の駅はこうあってほしいという願望が強いのかもしれない。

(クリックすると拡大します。)

八王子までの料金を確認し130円の乗車券を購入する。さあこれから大回りのたびが始まるぞ!、少年のころのような気持ちになり古びた心臓が、それでも早打ちする。
ホームに上がってしばらくすると予定より一本早い桜木町行きの電車が入ってきた。予定の電車は八王子から茅ヶ崎に直行する電車であった。
”橋本駅で待ってみるのもいいかな”と思い乗ってみると、車内は学生たちばかりだ。この学生たちも次の八王子みなみ野駅でどっと降りた。やれやれ。このみなみ野はニュータウンで昔は緑が生い茂っていたところだ。
次の相原駅まで東京都町田市である、この駅のまわりも新しい住宅が目だつ。
やがて乗換駅橋本駅についた。この駅は横浜線から京王相模原線への乗換によく利用していた。向うに見える相模線に一度乗ってみたいと思っていたがようやく念願がかなったわけである。

相模線を行く
橋本行きを見送る
(茅ヶ崎駅・10時51分)
9時45分橋本駅を出発。 相模線は電車である、当たり前かもしれないがデーゼル車もいいなと思っていた、少し残念な気もする。
しかし単線であるから、電車交換といって上り、下りの電車が入れ違うまで駅で2分くらい待っているのはしょっちゅうだ。
ところで「上り」は東京へ向う電車、「下り」は東京を離れる電車。ここ相模線や横浜線は東京の八王子から神奈川県の茅ヶ崎や横浜へ向うのが「上り」である。これは中央線より東海道線の方が格が上だから。

余計なことはさておき乗った電車の車掌さんは女性だった。のどかな電車に女性の声は似合っている。
「お降りになるときはドアの所の緑のボタンを押してください」ドアを開けるのは乗客が行い、閉めるのは車掌さんが行う。
乗客が少ない路線では”開く必要のないドアは閉めたままで”という考えだろうかなんて思う。 そういえば今回の旅で乗った電車には全てこの開閉スイッチが付いていた。あの新宿湘南ラインの電車もである、但し全て車掌が開閉していたが。
熱海行きを見送る
(茅ヶ崎駅・10時56分)

南橋本、番田、原当麻、それぞれ1~2分程度停車して下溝駅に着く。駅舎は昔ながらの建物のようだ、ホームも片側のみ。こういう駅で降りてみたいのだが、この「大回り」途中下車が出来ない。
相武台下という駅を過ぎるとどうやら桜並木を走っているようだ、その時季の風景を想像する。並木の向うは刈り取ったあとの田んぼが続く、相模平野の穀倉地帯なんだろう、丹沢山系も見える。
やがて海老名駅に着き、ほとんどの乗客が降り客層が入れ替わる、海老名は都会なのだ。3分少々停車して10時20分再び動き出す。
次の厚木駅は海老名市にある、厚木市には小田急の本厚木駅がある。そういえば厚木基地も綾瀬市にある、ややこしいが厚木とい う名が呼びやすいからだろうか。

これから先はマンション、倉庫や工場ありの都市の形をしている。社家という駅の近くでは第二東名だろうか建設工事中であった。
やがて宮山、寒川と続き10時46分茅ヶ崎駅に着いた。

新宿湘南ライン(11時19分)
茅ヶ崎駅では30分の待ち時間がある。相模線ホームで橋本行きの電車を見送って、-いつもの私なら一目散に改札口か乗換のホームへ向うところだがーこの日はホームの端に見えた旧式の信号機を見つけて眺める。とにかく今日は”時間たっぷり”、”待つ”がキーワードである。
東海道線のホーム5、6番線に向う。何本かの東京行きと熱海行きなどを見送る。これらの電車は15両編成 である、相模線の4両と違って通り過ぎるまでかなりの時間がかかる。

地下の川越線ホーム
(大宮駅・12時53分)
風が吹いてきた、ここは海岸が近いはずだ潮の香りがするように思えたが・・・。
私が職についた昭和36年には新幹線はなく、九州に帰るときはここ東海道線にお世話になったものだ。最初の頃は急行を利用し21時間くらいかかっていた。そのうち特急寝台を利用し帰京のとき、ここ湘南を朝方通過して潮風が香ってくるようだった。などと感傷に耽っていると電車の案内放送が聞こえてきた。
このアナウンスにはちょっと驚かされた。スピーカーが背中合わせに取り付けられているのだが、 別々のこと、上り電車の案内と下り電車の案内を同時にアナウンスするのである。この線を利用する人たちは聖徳太子の子孫なのだろうか。上り電車の案内が終わって、下りの案内をすべきなのに。テープを流しているからとはいえ無神経過ぎないだろうか。

高崎行きの特別快速が来た、発車時刻になると乗客が結構並ぶものである。
数は少ないが4人掛けのボックス席もあるようだ、私はやむを得ず長いす式のシートに腰を下ろした。 車内は立っている人もかなりいる。特別快速のスピードと揺れが心地よい睡眠を誘ってくれていた。藤沢、大船、戸塚・・・。
右肩がやけに重たい、目が覚めると隣の若い男性が倒れかかってくる。「つぎは大崎・・・」もうそんな所か。
幾度となく右の方を突き起こしているうちに新宿についた。大半の客が入れ替わり右隣の若い男も降りていった。
12時41分大宮着。

川越線へ
高麗川行きに乗り替える
(川越駅・13時17分)
埼京線から来た電車の川越行きの出発が12時56分、15分の時間はたっぷりである。高崎行きの電車を見送り、ホームを少し歩いていると通過線に相模線の電車が回送として停車している、修理だろうか。
しかし、ここ大宮駅も乗換のターミナル駅である、機能的につくられていてじっくり腰を下ろし風情を愉しむという雰囲気はない。

階段を上り21、22番線に向う。ここは地下にあり22番線は埼京線の上りホームである。仙台に単身赴任している頃帰京するとき新幹線を大宮で下車し埼京線を利用して新宿に出ていた。その時よく利用した場所である。
上野駅の新幹線ホームが地下深くにありエスカレータで登ってくるのが億劫なのと山手線でグルッとまわるのが何となくソンをするような気になり、大宮で降り埼京線に乗り換えていた。もう15、6年も経ってしまった。

この川越線に乗るのは初めてである。日進、指扇、荒川を渡り広大な畑地が過ぎる、このあたりは田んぼではなく畑が多いようである。
終着駅川越に13時14分に着く、計画より20分早い13時17分の高麗川行きの電車に乗り換える。乗客はこの車両に数人しか乗っていない、向こうの方の座席に外国の婦人がひとり座っている、高麗川に着く頃には乗客はさらに減っていた。およそ25分の乗車で高麗川駅に着いた。八王子行きのホームに向うため地下道におりる。 1年半前に高麗神社を訪れたとき、狭い階段だと思った。

八高線
八王子行きを待つ
(高麗川駅・13時49分)
上りの八王子行き電車は下りの川越行きのあとに入って来る予定だ。ホームには女子高校生が縁石に直接座り込んでけだるそうににケータイを見ている。
八王子行きのあと高崎へ向うデーゼル車が少し離れたところで音を立てている。
いよいよ最終コーナーである、八王子行きの電車が到着した。シルバーシートに身を沈め時折目をつぶり、居眠りを始める。
目を開けると年配の外国人男性が二人の車内の路線図を見ながら話している。東京の方に行くのかと思っていると北八王子で下車した。
”ひと駅降りるのが早いんじゃないの”なんて思ったが、まあ人のことよりわが身だ。終着駅、たびのゴールに着き、自動改札に切符を入れる、終わった。

反省
こういう旅は、4人掛けのボックス席のあるローカル線でなくっちゃ、次は千葉か群馬か栃木か。


たび