絶版と限定再販

プラモデルの製品寿命は他の製品と比較するとかなり長いように思います。たぶん田宮のパンサーやタイガー1は20年ぐらい続いていると思われます。新金型でパンサーGやタイガー1後期生産型、初期型などが出てきた今でも販売されています。これは、模型ファンにとっては非常にありがたいことです。なぜなら、新製品が出たその時点であまり欲しいと感じなかった模型を、ある日気が変わって買いたくなったとき、模型屋に出向けば必ず手にいれることができるからです。私の模型歴の中で私がプラモデルから遠ざかっていたブランクの期間があることを述べましたが、古い時代にはプラモデルが売れないからと言って製造をやめてしまうなどということは無かったように思います。絶版とか限定再販などという、響きの悪い言葉すら少なくとも模型の世界では使用されなかったように思います。まるで出版物のようです。

「機会損失」とは

さて、みなさんは「機会損失」という言葉をご存じでしょうか。私は、勤務先の社内研修で教えられるまで、知りませんでした。あるいは、世の中一般に通用する言葉で蛇足かもしれませんが、会社言葉かもしれませんので、説明しておきます。商売は、需要と供給をうまくバランスさせることで、うまく行きます。つまり、値崩れを防止し、また不要在庫を抱えることも少なくなります。そのため、一般的にメーカーでは、需要予測をして製造数を計画し出荷します。ところが、これはあくまでも予測であり、物の売れ行きは思い通りではありません。したがって、売れ行きがよければ、追加の注文が入ることがあります。そのとき、需要に応える生産力がないと、注文があるのに応じることができません。消費者の購買意欲がある時にすぐにそれに応じられないと、何とか生産を増やして出荷しても、手遅れになることもあります。この、需要があるのに手持ちの商品がなく売れる物も売れないことを、「機会損失」と呼んでいます。つまり、売るチャンスを逃すことです。

「機会損失」の例

現在のプラモデルの流通状況は全くの「機会損失」だと思います。例を示しましょう。(あくまでも例なので事実とは多少異なります。悪しからず。)

 Aさんは、フジミの1/76の3号後期型戦車がほしくなり、模型屋に出向きました。実は、田宮の1/35の3号L型が発売されたのとほぼ時期を同じくして発売され、その模型屋にはどっさり売られていました。たぶん、もう少し後でも売り切れることはないだろうと考え、その日は別の掘り出し物を大枚をはたいて購入しました。さて、後日お金に余裕ができたので、同じ模型屋に出かけました。しかし、もう一つも残っていませんでしたし、次の入荷もよくわかりません。別の模型屋も探しましたがどこも同じでした。特に、この製品はすべての模型屋に並ぶ製品ではないようで、戦車ファンがよく来る模型屋でなければ扱っていないようです。

 Bさんは、レベル−モノグラムから新発売された、1/25バットモービルと1/12ロビンのレッドバードサイクルを見に模型屋に出かけました。製品の性格上輸入品を得意としている店をターゲットに行きました。しかし、ちょっとしたタイミングのずれか、ロビンのレッドバードサイクルは売っていましたが、お目当てのバットモービルは売っていませんでした。その後、いろいろな模型屋で探してみましたが、手に入れることができませんでした。

 Cさんは、田宮の1/16レオパルドが絶版になってしまい、長いこと再販になるのを楽しみにしていました。ある日、友人から再販の情報を得たCさんは、さっそくなじみの模型屋に連絡して、予約をしました。ところが、1週間後に電話がかかってきて「残念だがもう問屋も予約でいっぱいで入手できない。他を当たってみて欲しい。」とのことでした。

私の願い

 このような落胆は最近の模型ファンならだれしも一度や二度は味わったことがあるでしょう。ほとんどの人がいくら模型が好きだからと言っても、やはり趣味である以上すべてに優先して模型ばかりやっていられないものです。新製品が出たからと言ってすぐに買えるわけではありません。買うつもりはあっても、財布の都合である時期まで買えないことだってあります。特別なときにしか買ってもらえない人だっているのです。久しぶりに模型屋をのぞいたら、昔なつかしい模型に出会い、つい買ってしまうなどどいうことだってあるのです。そんな消費者の都合を全く無視したような商品供給でよいのでしょうか。少なくとも、カタログに載せているような主力製品は常に店頭に並んでいてほしいものです。並んでいないまでも、取り寄せてもらえるようなしくみにしてほしいものです。安定した商品供給が、ゆとりを持って趣味の模型を楽しめる一つの条件なのではないでしょうか。それでこそ、模型ファンも増えてくるのではないのでしょうか。メーカーの人たちはぜひ、「機会損失」にならないよう努力してほしいと思います。

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