絶版模型について

絶版になった過去の模型キットそのものを何とか入手したいという願望は模型ファンならだれにもあることだと思います。(ない人もいるとは思いますが)しかし、昨今の状況では競争が激しくて、だれにも実現できることではありません。だから、そのことにだけに、あまりエネルギーを費やさず、チャンスがあればといった運命に身をまかせるような気持ちで過ごすことにしませんか。

コレクション対象

 模型、それもプラモデルには、収集する対象としての一面があります。それは、プラモデルの多くがシリーズ化されているからです。シリーズ化できないと、お客にバリエーションを提供できないので、受けが悪いのです。これが、絶版模型となると、収集するのが非常に困難です。ターゲットがひとつならば、それを入手することに全力投入できるのですが、シリーズすべてを集めるとなると、そうはいきません。

 私もご多分にもれず、いろいろな思い出のあるキットがあり、チャンスがあればほしいものがいくつかあります。それらは、ことある度にいろいろなところで言いふらしているので、ひょっとしたら、ご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。また、いろいろな人のご好意でその願いがかなったこともあります。そのことについては、ご好意という表現をしているとおり、模型を通じて知り合った方々との交流の中で実現したことで、損得関係から成り立つことではありません。とても感謝しています。

 最近では、絶版模型専門の店が存在し、そこで入手することができる場合もあります。しかし、経済的な理由ですべて入手できるわけでもなく、それは仕方のないことだと思います。私は感情的になって、その価格について不満を述べたり、そういう「商い」をする相手を批判したりもしています。ただ、冷静に考えれば、これは模型だけに言えることではなく、例えば、住宅を入手したくても、なかなか実現できないのと類似なことです。(金額のレベルは異なりますが)1億円の家があって、私には買えなくても、簡単に買える人だっているのです。その値段が妥当かどうかは、売り手と買い手の利害バランスから決まることで、私個人が正当な価格というものを勝手に決めることなどできません。たとえ、金額がエスカレートしても、だれにも止められず、そのあげく、最近では、有名な銀行がつぶれるなどの、当然の報いが来ています。みなさん、あまり熱くならずに、まず、冷静になりましょうよ。(自分にも言い聞かせています。)

絶版模型の価値

 ところで、私にとっては、模型は教材です。したがって、購入してストックするだけではなく、必ず組み立てます。なぜなら、模型を組み立てて完成させるというプロセスからいろいろなことを学んでいるからです。極端なことを言えば、組み立ててしまったら、本当はだれか欲しい人があれば、お譲りしてもいいくらいです。(苦労して組み立てることが多いので、愛着がわいて、手放せないものも現実には多いのですが。)私は戦車の模型をたくさん持っていますが、その多くに自作のラジコン装置が搭載されています。このラジコン装置を自作し、それを実際に模型に組み込んで完成させるということが本来の私の趣味だからです。大げさなことを言えば、私が保存している模型は自作のラジコン装置がちゃんと機能していることを証明するために存在しています。

したがって、私が保存している多くの模型はほとんど、ある時期に普通に購入したものを組立て、ラジコン化して時が経過しているだけです。例えば、ニチモのビッグパットンがその一例です。これは、小学校のころ、買ってもらったものに、その後、自作のシングルボタン打ちのラジコンを組み込んだものです。ラジコン装置の方はたびたび改造して、子供のころ作ったままではありませんが、戦車模型としては、現在でもちゃんと動きます。この模型ひとつ取り上げても、実に多くのことを学ぶことができました。やはり、教材と呼ぶにふさわしい存在です。また、私にとってはその価値は絶大なものですが、品質、性能など客観的に判断するとあまり高くありません。

 私も絶版模型を入手する機会があることは、前に書いた通りですが、その場合でも私はまちがいなく組み立てます。それが欲しい理由が、子供の頃上手く完成させられず、現在なら、技能も向上しているから、たぶん完成させられると思うからです。子供の頃、上手く完成させられなかった理由は何となく記憶の片隅に残っていますし、もう一度挑戦してみたいという願望があります。ひょっとしたら、キットそのものに欠陥があり、実は組立説明書通りに組立てても、うまくいかないかもしれません。昔の模型はそのように、品質が悪かったことも事実です。これは、子供の頃作った人でなければ味わえない、時間をずらした2度目の体験のようなものです。端から見れば実にたわいのないことです。単に古い模型キットを買ってきて組み立てているだけなんですから。それを実現するために、現在のプラモデルと比べると、まったく品質の落ちるものに、なぜ、あのような高額を支払わなければならないのか、冷静に考えればその無意味さがわかると思います。絶版模型を入手するのに、あまりエネルギーを費やさず、チャンスがあれば、という位のゆとりも持ちたいものです。

模型作りの楽しさを求めて

 私はもう絶版模型を入手する機会をほとんどあきらめています。それよりも、自分の力でもっと楽しい模型の世界を作ることにエネルギーを費やす方が、価値のあることだと気づいたからです。絶版模型を入手するのは、ごく一部の人におまかせして、もし可能ならば、その模型が持っていた楽しさがどのようなものだったのか、持っている方から教えていただき、自分で再現してみようと考えています。もちろん、自分の過去の記憶をたどって再現することもあるでしょう。さらには、それ以上の楽しさを作り出そうとも思っています。

 

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