田宮模型の仕事を読んで

「田宮模型の仕事」という本を読みました。田宮模型の成り立ちから現在までが、田宮俊作さん(社長)の幼い時代からのエピソードも交えて書かれており、2時間ほどで一気に読んでしまいました。現在成功しておられる方が書かれたものに共通して言えるのは、何度となく挫折や失敗があり、それをバネとして、チャンスを勝ち取ってきたことでしょう。最近はPLAY STATIONにその座を奪われた任天堂のファミコンの成功談を読んだ時もそう感じました。ただし、私が、これらの本に書かれた成功に至った一面だけとらえてまねをしても、同じ成功をあげられるかどうかはわかりません。たぶん、同じ時代を生きてきた人の中には、やはり同じように努力をしたにも関わらず、成功できなかった人もいたに違いありません。つまり、筆者の足跡は他の人の参考にはなっても、お手本にはなり得ないのではないかと思います。その意味で、なぜこの時期に田宮社長はこの本を出版されたのか、今の所、真意は測れません。気が付いてみたら先頭に立っていたので、少し振り返ってみたのでしょうか。追い越そうとするライバルがほしくなったのでしょうか。任天堂も本を出版した時点では、揺るぎない地位を築いていましたが、今では、上記に示したとおりです。模型界では、世界一となっている田宮模型に、一抹の不安を感じます。

 ところで、この本の中に登場するいろいろなプラモデルは、わたしの育ってきた時代の中に登場したものばかりです。特に田宮の戦車が実物の取材によって精密なスケールを実現したあたりは、興味深く読み進められました。実物取材に関しては、実際に模型を購入して組み立て説明図に載っていた写真などで、知っていましたが、現在は社長である人自らが、情熱を持って取材しておられたとは知りませんでした。そればかりか、あらゆる製品の企画に社長が関わってこられたようで、模型を購入して作った私と、田宮社長の距離がぐっと縮められた気がしました。世の中の他の製品でこれほど作り手と買い手の関係が近いものはないのではないでしょうか。一つ一つの模型に込められた思い入れがあらためて伝わってくる思いでした。

 さて、この本の終わりの方に、ただ製品を作って売るだけではなく、売った後のことも考えてフォローしていく必要がある点を強調しています。田宮はスケールモデルにしてもラジコンにしてもミニ4駆にしても、いろいろなイベントを企画して、ユーザーに楽しんでもらうように心がけています。その広告宣伝費もばかにならないと思いますが、この戦略が他の模型会社と異なる点でしょう。模型(だけではないのでしょうが)を商売にしていくためには、遊びあるいは楽しみ方そのものを創造あるいは演出していかなければいけない時代になったのだなと感じます。たぶん、私のように固定観念に捕らわれて、”模型の楽しみ方はこうでなければならない”などと考えている人間では、模型を商売にしていくことはできないのでしょう。模型を商売にしている人、それで生計を立てている人の取り組み方と、趣味で楽しんでいるだけの私とでは、所詮真剣さが異なります。ただ、逆に趣味である模型が持つ多様性の中から多くの人に共感を得られるものを見つけられれば、ヒット作を生み出す可能性もあるのだと教えてくれているようにも思います。いずれにしてもこんなにすばらしい楽しみを送り続けてくれている田宮模型あるいはその他のメーカーに感謝の気持ちでいっぱいです。

 

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