1999.9.16 更新
「座判 (ざばん)」に関する情報を集めています。
何かご存じの方は mochi@k-kentan.ac.jp までお知らせください。
辞書にない言葉「ざばん」望月正道 鹿児島に来てから覚えた言葉，「ざばん」について調べてみた。ゴム印の一種らしいが，とにかくよく耳にする。何年か前には「スタンプラリー」のポスターに「ざばんを集めよう」といった表現（残念ながら書き留めていないので正確な引用ではないが）まであり，鹿児島の子供はこれでわかるんだ，と感心したのを覚えている。もっとも，日本語日本文学専攻の学生にアンケートをしてみたところでは，１年生は35人全員が「知らない」と答えているから，件のポスターが期待どおりの効果をあげたかは疑問である。一方，２年生では15人中２人が「よく使う」，３人が「知っている」（残り10人は「知らない」）と答えている。「よく使う・知っている」学生は，アルバイト先で覚えたという。会社関係・役所関係では，日常語として盛んに使われているのがわかる。 語感からすると漢語（字音語）のような気がするが，ではどう書くのかと辞書を引くと，『日本国語大辞典』にも平凡社『大辞典』にも見あたらない。かといって，鹿児島方言辞典の類にも採られていない。このような場合，「気づかない方言」である可能性がある。 そこで，九州各県の県庁（大分県庁を除く）と県庁所在地の市役所に，「ざばん」の意味・表記を尋ねる電子メールを出してみた（あて先はわかる範囲で商工・観光関係の部署・外郭団体にした）。返ってきた答えは，福岡県，福岡市，佐賀市，大分市，熊本県，熊本市が「知らない」，宮崎県，鹿児島県，鹿児島市が「知っている，日常使っている」，と南北に分かれている。さらに，いくつかの市町村にも聞いてみた結果，「知らない」地域に熊本県人吉市を，「知っている，日常使っている」地域に宮崎県都城市，西米良村，鹿児島県出水市，宮之城町を，それぞれ追加できた。表記については，「座判，座版」が疑問符付きで寄せられた。 鹿児島県中小企業振興公社からの追加回答には，「銀行口座用の会社の印判」が語源だと思われる，という知り合いの印鑑屋さん（あとで，後述の印章堂さんと判明）からの情報もあった。そこで，ＮＴＴのタウンページを見ると，鹿児島市版には「座判」と書いた広告が２件ある（他県版も何冊か見てみたが，「座判」は見えない）。そのうちの印章堂（真砂店）さんでは，わざわざ大阪の問屋や福岡の同業者に問い合わせていただき，業界用語として大阪・福岡でも通用することを確認できた（もう１店は土曜で閉まっていた）。 仮にもともと業界用語であったにしても鹿児島・宮崎では一般社会の日常語として広く使われており，また「知っている」に加えて「方言ではない」と注記している回答も見られるから，「ざばん」を「気づかない方言」に加えてよいと思う。（アンケートの詳細等は文学科ホームページに掲載予定。） (鹿児島県立短期大学 人文学会『人文学会報』No.44 (1999.9.30) に掲載) |
アンケート調査の結果概要は以下のとおりです。
| 福岡県 | 知らない | |
|---|---|---|
| 福岡市 | 知らない | |
| 佐賀市 | 知らない | |
| 長崎県 | 知らない | |
| 長崎市 | 知らない | |
| 大分県 | 知らない | |
| 大分市 | 知らない | |
| 熊本県 | 知らない | |
| 熊本市 | 知らない | |
| 人吉市 | 知らない | |
| 宮崎県 | 会社等の住所・会社名・代表者氏名を一つにしたゴム製の判 | 「座判」または「座版」では？ |
| 宮崎市 | ゴム印 | |
| 都城市 | 意味は知っている | |
| 西米良村 | 住所、法人名、代表者、電話番号等が入ったゴム印 | おそらく「座判」 |
| 鹿児島県 | 会社名・会社住所・代表者などを表示するゴム印 | 表記は？ |
| 出水市 | 意味は知っている | |
| 宮之城町 | 意味は知っている | 「座版」？ |
| 鹿児島市 | 「ゴム印」のこと | 「座判」では？ |
| 名瀬市 | 会社名・会社住所・代表者などを表示するゴム印 | 表記は？ |
| 宮崎県 | 思わない |
|---|---|
| 宮崎市 | 思わない |
| 都城市 | 思わない |
| 西米良村 | 思わない |
| 鹿児島県 | 思わない |
| 出水市 | 思わない |
| 名瀬市 | 思わない |
なお，アンケートメールは，各県・市町村のホームページ（ただし，商工・観光関係等の部署・外郭団体を含む）に記載されていたメールアドレスに送付しました。
メール担当者のみなさまには，業務外の迷惑メールだったにもかかわらず，丁寧に対応していただきました。ありがとうございました。