その日の、5時間めの休み時間。

「ま〜〜〜る〜〜〜ちっ!」
「あっ、浩之さん」
「ちょっといいか?」
「はい?」
「ちょっと質問があるんだけど」
「質問ですか?」
「ああ」
 オレはうなずいた。

「…さっきの時間、ふと、思いついたことがあるんだ
けど、どうしてもそれが気になっちまって…」
「なんですか?」
「マルチの体のことなんだ」
「わたしのからだ…ですか?」
「うん。…マルチってさ、たしか、可能な限り人間に
似せて造られてるんだろ?」
「はい」
「ということは、普段は目に見えないところもリアル
に再現されてると思うんだ」
「ええ、まあ…」

「でな、質問なんだけど…」
「はい?」
「マルチのさぁ…」
「?」
 ひそひそ…。
「――アソコって、どうなってるんだ?」
「…………」
「…………」
「ええっ!?」

「どうしても知りたいんだ。マルチがどこまでホント
の人間っぽいかってさ」
「…えっ…でも」
「なあ、なあ、どうなってんだ?」
「…それは」
「教えろよぉ〜」
「…………」
「な、頼むよ」
「…わ、わかりました。ホントはみだりに口にしちゃ
いけないことなんですけど、他ならぬ浩之さんの頼み
ですし…」
「話せるぜ、マルチ! …で、どうなってるんだ?」

「…に、人間の方と同じようになってます」
「ホ、ホントか?」
 …こくん。
 マルチは小さくうなずいた。
「…マ、マ、マルチ」
「?」
「…オ、オレ、見たい」
「えっ?」
「マルチの…見たいっ!」
「えっ、えっ、えっ!?」

「いいだろ? 見せてくれよ!」
「…で、でも」
「でも?」
「…開発者の方に、あそこは人には見せちゃいけない
ところだって…」
「いいじゃないか〜、オレとマルチの仲だろ〜?」
「…そうですけど」
「ちらっと見るだけ! 絶対触ったりしないから!」
「…………」

「…マルチぃ〜」
 オレはちょっと甘えた顔でマルチを見つめてみた。
 俯いたまま、しばらく悩んでいたマルチだったが、
やがて囁くような声で言った。
「…わかりました。…ほ、ほんの、ちょっぴりだけ…
ですよ?」
「やった、ラッキー! じゃ、じゃあ、早速、どこか
人気のないところへ――」
 と、そのとき。

「ちょっと待ったああぁぁーーーーーーーーーっ!」
 耳を突き抜けるような声を上げて現れたのは、志保
だった。
「ヒロ、アンタ、汚れのない純真なメイドロボットに、
いったいなにを強要してんのよ!」
「うるせーのが来たよ。…いいとこなのに。マルチ、
あっち行こうぜ?」
「はい…」
 すたすた…。
「ちょっと、待ちなさいよおぉぉぉーーーーーっ!」


「…よ、…よしっ、…は、早く、見せてくれっ」
「はい…」(ぽっ)
「…つ、つ、ついに、マルチの秘密の部分が、人目に
触れるときが…」

「なにが秘密の部分か〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
 襲い来る、志保チョップ!
 ぱしっ!
 だが、オレはそれをやすやすと受け止めた。
「あっ、あれっ!?」

「じゃ、マルチ、他行こうか?」
「…えっ、あっ、は、はい」


「さあ、誰もいない教室だ。ここならいいだろ?」
「は、はい…」
 マルチは小さくうなずいた。
「…な、なんだか、ドキドキします」
「さ、ささ、は、早よ、見せ」
 そのとき!

「――ひとーつ、ヒーロー数あるなかで…」

「なっ、何者だ!?」

「――ふたーつ、富士山ひとっ飛び」

「ま、まさか!?」

「――みーっつ、みんなのアイドル長岡志保たぁ〜、
このあたしのことだーーーっ!」
「な、なにぃ!」
「――とおぉぉぅッ!」
 びゅーんっ!
「と、飛んだぁ!?」
「じゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜んっ! 学園の超アイドル
志保ちゃんよっ▽ さあっ、大人しく、おなわにつき
なさいっ! ――って、あれ!?」

 し〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん………。
「――い、いない…?」
 ガラガラッ!
「ちょ、ちょっと、アンタ、ひとのクラスでいったい
何やってんのよっ!」
「ぐ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜………」


「い、い、いよいよ、マルチの秘密の部分が、赤裸々
に姿を現すときがきたっっっ!」
「ちょ、ちょっと、見るだけですよ…」
「お、おうっ!」
「じゃ、じゃあ…」
 ごくっ…。






「待ちなさ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!」
 ばあんっ!
「あっ!」

「おお〜〜〜〜っ! …に、人間とそっくりの可愛い
モノがついてるじゃね〜〜〜〜〜かぁ」
「…あ、あんまり、見ないでください。…は、恥ずか
しいです」

「ちくしょ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
間に合わなかった〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

「――なーんだ、飾りの下には、ちゃんと可愛い耳が
付いてるんじゃねーか。隠すことないのにさ」
「いちおう、人前では外しちゃいけないことになって
いるんです」
「コレで疑問も晴れたぜ。サンキュー!」

「……………………『耳』?」
 どたっ!


 放課後

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