マルチを止めている余裕があるなら、オレがレミィ
とぶつかってやる!
 とっさに浮かんだ方法は、これしかなかった。
 …考えてみれば、むちゃくちゃな方法だ。
 それでもオレは、マルチとレミィの間に割って入っ
た。

 ばい〜んと跳ね返って、床に転がるオレ。
 ぶつかった瞬間の、あの柔らかくてフニフニしたクッ
ションのような感覚は、やっぱアレだよな…。
「危ないですよ〜っ、注意してくださ〜い」
 マルチはその横を、危なっかしく通りすぎていく…。
 ったく、注意すんのは自分だろ。

「痛いデス…」
 レミィは尻餅をついている。
 オレは素早く立ち上がり、
「大丈夫か、レミィ」
 レミィに手を差し伸べた。
「あ…、ヒロユキ?」
 オレだと判ると、レミィは両手でオレの手を握り締
めた。
「おりゃああっ…!」
 両手でつかまれたので、オレはレミィのほとんど全
体重を引っ張り上げることになってしまった。

「ヒロユキ…。アタシ、ヒロユキとぶつかって、すご
く嬉しいネ」
 なんだか知らないが、バックに花でも咲き乱れそう
な雰囲気でレミィが言う。
「は? なんで?」
「……」
 うっとりとオレを見つめるレミィ…。
「おい、頭でも打ったか?」
 …胸は打ったと思うけど。

「こうやって見つめ合うだけで、ドラマチックな気分
ネ…」
 よく解らないことを言うレミィ。
 目の前で手を振っても、彼女は何も見ていない。
 もしかしなくても、自分の世界に浸ってるよ…。
「お〜いレミィ、帰ってきてくれ〜っ」


 結局、レミィが正気に戻るまで、休み時間をフルに
使ってしまった…。


 放課後

エアホッケー対戦