「…マルチ、お前と出会ってからの数日間、オレも楽
しかったぜ」
オレは靴を履くマルチの背中に言った。
なにも答えないマルチ。
ただ、その小さな肩が、小刻みに震えていた。
「お前のこと、ずっと忘れないからな」
オレがそう言うと、立ち上がったマルチが、振り向
かず、背中を向けたまま言った。
「…はい、…わたしも、…忘れません」
嗚咽を含んだ熱い涙声だった。
「じゃあな、マルチ」
「はい。…さようなら、浩之さん」
そう言い残すと、マルチは、重たそうに玄関の戸を
開けて去っていった。
遠ざかる足音。
バタンと閉じる車のドアの音。
走り去っていく車の音。
そして、家の中に、突然、静けさが訪れた。
…この家って、こんなに静かだったっけ?
マルチの去った後の空間を、オレはいつまでもぼん
やりと眺め続けた。
明日は日曜だな…。
今夜はなにもする気が起きないし、取りあえず寝る
か。
終わり(バッドエンド) |