Transportation 新快速日記

「VVVF車北大阪急行8000系との出逢い」

98/05/04 (月)


 私が中学生の時、一時期ではあるが陸上競技部に所属していた。大阪の学校だったので、試合も大阪の長居陸上競技場や万博記念競技場で行われ、このふたつの競技場にはよく行った。因みに、長居陸上競技場は後に建て替えられ、現在はセレッソ大阪の本拠地になっている。万博記念競技場の方はガンバ大阪の本拠地だ。

 1987年夏の終わり、試合のため長居陸上競技場に向かった。淀屋橋駅で京阪から地下鉄御堂筋線に乗り換えた。当時、大阪の地下鉄は関西でもレベルの低い車両が走っていたが、かっこいい電車が入ってきた。(下の写真の電車、1990年8月2日撮影)

 大阪の地下鉄にかっこいい電車が走っていたのかと思ったが、よく見たら「北大阪急行電鉄」と書いてあった。御堂筋線と相互乗り入れしている鉄道の新型車両だったのだ。乗り込んで電車が発車すると、モーターの音が全然違うことに気がついた。その理由を家に帰ってから調べると、当時まだ珍しかったVVVF車だったことが判明した。


VVVF車の話

 今までの電車は、直流電動機を用いていた。電車の場合モーターの回転数を連続的に変化させることが必要である。直流モーターならモーターにかかる電圧を調節すればよい。その方法として、必要に応じ数個のモーターの配列(直列・並列)を変え、さらに細かい電圧の調節には抵抗器を用いていた。電車が発車するときはモーターを直列にして全ての抵抗器を入れ、スピードが上がるにつれ順に抵抗を抜き、モーターを直列から並列にして電圧を上げていってモーターの回転数を増やしていくのである。この制御方式は、直列・並列の切り替え部分を「直並列制御」または「組み合わせ制御」と言い、抵抗器を用いる部分を「抵抗制御」と言うのだが、単に「抵抗制御」と呼ばれ、広く普及している。

 この方式は、電気エネルギーを熱にかえるので、エネルギーの無駄がある。また、発熱があるので、地下鉄で運行するとトンネル内に熱がこもるという欠陥があった。これを解消するため、「抵抗制御」に代わり、サイリスタを用いた「チョッパ制御」(営団地下鉄6000系が世界初)が開発された。チョッパは「切り刻む」という意味で、サイリスタにより電気を切り刻めば、電圧が調節できるという考え方である。この方法は、粘着力が大きくなるので高加速が可能になり、発熱がゼロで回生ブレーキもできるので、省エネ車として地下鉄に普及した。但し、装置の価格が高いのと、高速時の回生ブレーキの効率が悪いので、郊外の私鉄には「界磁チョッパ制御」が普及した。
 「界磁チョッパ制御」というのは、基本的には「抵抗制御」だが、直流複巻電動機を用い(今までの方式では直流直巻電動機が用いられている。)、モーターの「分巻界磁」をチョッパ制御することである。界磁の電圧をゆるめるとさらなる加速ができ、強めるとブレーキが掛かるのであるが、これをチョッパ制御することによって、ブレーキにより発電した電気の電圧を上げられ、回生ブレーキが可能になる。この方式は、チョッパで制御する電流が小さいことから低コストである点が特徴である。先の「チョッパ制御」は、「界磁チョッパ制御」と区別するため、「電機子チョッパ制御」と呼ばれる。

 今まで挙げた直流電動機には、整流子の整備と磨耗するブラシの交換が必要であり、メンテナンスコストが高いという欠点があった。そのため、磨耗部品がなく、産業界で広く普及している交流誘導電動機を、鉄道車両にも用いたいという考えがあった。しかし、鉄道車両では、モーターの回転数を連続的に変化させなくてはならない。交流誘導電動機の場合、電流・電圧・周波数を調節すればいいことが解っていたのだが、そのための道具が発明できなかったのである。同時に、交流誘導電動機は起動時の回転力にも難があった(直流電動機は、この点でも優れていた。)。
 この道具として、GTO(Gate Turn Off)サイリスタを用いた「VVVFインバータ」が開発された。「VVVF」は「Variablie Voltage Variable Frequency(可変電圧可変周波数)」の頭文字で、「インバータ」は直流を交流に変換する装置のことである。この制御により、回転力の問題も解決できた。この方式は、「VVVF制御」と呼ばれ、この方式の電車は「VVVF車」や、「インバータ車」と呼ばれる。モーターは、三相籠型誘導電動機が用いられる。
 開発の過程では、交流電動機とその制御システムが信号システムに影響を与えないかという問題があり、まず、信号システムのない路面電車(熊本市交通局8200系)に採用された。次いで、架線電圧が750Vの大阪市営地下鉄で採用され、後に架線電圧1500Vの東急、近鉄で採用された。
 この方式は、価格が高い点に難があるが、メンテナンスコストが低いだけでなく、省エネルギー(消費電力、回生ブレーキの効率)、走行性能(加減速性能、高速性能)の点でも優れている。そのため、近年の増備車はVVVF車がほとんどである。

初期のVVVF制御車両(いずれも1990年8月2日撮影)
大阪市交通局20系
1984年3月車両完成 同年末営業運転開始
写真は中央線本町駅
東大阪生駒電鉄(開業前に親会社の近鉄と合併し、近鉄東大阪線となった)7000系 
1984年秋車両完成 開業は1986年10月
写真は乗り入れ先の大阪市交通局中央線本町駅
北大阪急行電鉄8000系「POLESTAR」
1986年7月1日営業運転開始
写真は乗り入れ先の大阪市交通局御堂筋線淀屋橋駅
近鉄(奈良・京都・橿原線)3200系
1986年3月1日営業運転開始
写真は乗り入れ先の京都市交通局烏丸線京都駅

参考資料:
鉄道ジャーナル1987年3〜7月号連載「技術解説シリーズ 電気車の駆動システム」(東洋電機製造(株) 辻村功)
鉄道ジャーナル1984年6月号114-117頁「新型車両プロフィールガイド 大阪市高速鉄道20系電車」
鉄道ジャーナル1984年11月号114-117頁「新型車両プロフィールガイド 東大阪生駒電鉄7000系」
鉄道ジャーナル1986年5月号39-42頁「新型車両プロフィールガイド 近畿日本鉄道3200系」
鉄道ジャーナル1986年7月号100-103頁「新型車両プロフィールガイド 北大阪急行8000形POLESTAR」


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