Prologue  闇の中に静かに波紋が広がり、微かな光を受けて輝く無数の同心円を形作る。  その中心から一人の少女の裸体がゆっくりと浮かび上がる。  少女は死んでいるかのように身じろぎ一つしない。だが微かに上下する胸は彼女がただ深い眠りに就いているだけである事を示している。  闇の中、少女の白い肌はくっきりと、しかし弱々しい白い光を放つかのように闇の中で光る。 (起きよ。)  声ならざる声、闇それ自身がその内側に発する声が響きわたり、闇の中に新たな小波を作る。  小波が広がる波紋を乱すと少女の指先が反射的に動き、微かに眉根が寄せられる。  あたかも、彼女の意識が波紋となって外へと広がり、そしてそれが小波によって均衡を破られたかのように。 (起きよ。)  声が繰り返す。  閉じられていた少女の目がごく細く開けられる。  硬い物の上に寝ているかのように手を付いて上半身を起こすと、身体が闇の中へと浮かび上がって直立させる。 (汝は我が力を操る術を手に入れた。その力の一端なりとここで試すがよい。)  少女は小さく頷くと、目をまた閉じる。  足元の闇が波立ち渦を巻くと、少女の裸体を覆い隠すかのようにまとわりつく。  首もとまで闇に包まれた所で少女が再度目を開くと、渦を巻く闇が弾け、崩れ落ちた。  少女の身体に取り残された粘りのある闇が少しづつ、彼女が本来着ていた服−子供服のサイズにスケールダウンされたセーラー服−と同じ形になる。 (行け。そして我に力を与えよ。)  少女は頷き、闇の中を光の方向めがけて上昇していった。 「ただいまーっ!」 「あらお帰りちびうさちゃん。おやつがあるから、手を洗ってらっしゃい。」 「はーい!」  少女は靴を脱ぐと、ランドセルを背負ったまま洗面台へと走っていった。