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アルプスの少女ハイジ
原作 ヨハンナ・スピリ
昔、『アルプスの少女』という小説は幽霊の話だと思ってました。というのも、この小説の中では夢遊病というのが出て来て、大きな位置を占めてますよね。子供向けの番組でその夢遊病のシーンをクローズアップして『アルプスの少女』を描いたものがあって、そのハイジの様子がまるで幽霊のように見えてなんとなく不気味に感じてしまったのでした。で、うちにあった『少年少女世界の名作シリーズ』の中にこの小説も収録されていたのですが、ずっと読まずにいたのでした。
アニメ版も本放送では見ませんでした。大変話題になっていたのは知っていたのですが、たまたま裏番組を見ていたもので……。ハイジの裏番組としては宇宙戦艦ヤマトが放送されていたという話が有名ですよね。そしてもう一つ『猿の軍団』という猿の惑星をぱくったようなドラマが放送されてました。で、私が見ていたのはこの猿の軍団なのでした。しかしハイジやヤマトはその後何度も再放送されましたが、猿の軍団はあまり再放送されてないので、結果的にはこの選択は悪くなかったかも……、という気もしています。(^_^;)
で、初めて見たのは再放送、ということになります。実際に自分の目で見て、人気作品というのはやはり人気を得るに相応しいだけの内容を持っているだな、と再認識させられました。
アルプスの自然の雄大さ、美しさ、ハイジの元気さ、可愛らしさ、生き生きとした表情、そしてとそれらがとても丁寧に暖かく描かれていたこともあって、あっと言う間に夢中になってしまいました。
チーズを火であぶってパンに乗せて食べる、あのとろけたチーズのおいしそうだったこと!! 実際には粗末な食事なのでしょうが、それがアルプスの自然とあいまってとってもおいしそうに見えました。
藁のベッドというのも心地好さそうでしたし、ヤギの下に寝っ転がって乳を飲むペーターとか、山での素朴な、しかし生き生きとした生活ぶりはとても素敵に感じました。
アルプスの雄大な自然の中でハイジはのびのびと育っていきます。頑固者で偏屈という評判を得ていたアルムおんじも無邪気で明るい、そしてなによりもおんじを心から慕っているハイジと次第に心を通わせていきます。
しかしそのハイジにも転機が訪れます。御存じのフランクフルト行きですね。アルプスの自然の中での生活がとても素晴らしく美しく描かれていただけに、一転してフランクフルトという都会はひどく陰気で住みにくいところという印象を強く抱かされました。
しかもロッテンマイヤーさんという意地悪な家政婦がおり、また友達になったクララも車椅子で不便な生活をしている。いろいろな面に置いて穏やかで自然に包まれた、素朴ではあるが、明るくて健康的なアルムの山での生活とは対称的な描き方をされていました。
やがてハイジはホームシックのあまり夢遊病になってしまいます。このフランクフルトでの生活の部分はあまり好きではないという人も多いかと思いますが、やはりこういう比較の対象となるものがあって、余計にアルプスの山の素晴らしさが際立っていたというのも言えますよね。
アルプスの山に帰ったハイジはかつての元気を取り戻します。そしてクララもアルムの山にやってきて歩くことが出来るようになります。この過程で原作ではペーターがクララの車椅子を壊してしまうというエピソードがありました。ペーターはクララに対する嫉妬からクララがいなくなればハイジとまた元のように仲良く出来ると考えてこのような行動を取ってしまったのです。
しかしこのエピソードはアニメではカットされていました。この点については少々疑問に思わないでもありません。
こういう心の中の黒い部分というのは誰しも持っているものだと思います。しかしこのケースでは結果的にクララにとってプラスに働くことになります。悪心を持ってしてもそれが返って逆の効果を生むこともあるのだと
ペーターにこういう黒い部分を演じさせるのには抵抗があった、とする考えは十分に理解出来ます。テレビを見ている子供たちにとってもペーターがこういう行動をするとやはりショックを感じるでしょう。でも、それでもペーターの心に一時的に悪い心が宿ったとはいえ、それでペーターが根っからの悪人という訳ではない、ということを表現するのは十分に可能だったのではないかと思うのです。
悪人は悪人、善人は善人、と分けてしまうのは簡単ですが、人間ってそんなに画一的なものでもありませんよね。誰しも悪い心も持っているしよい心も持っている……。それを描いてみてもよかったんじゃないかという気もします。
しかしこの辺はなかなか難しいところかも知れませんね。このエピソードがなくともアニメのハイジが名作であることには変わりないですし……。でも個人的には入れて欲しかった気がしてます。
アルムの山の生活は大変魅力的に描かれていますが、実際に自分がそういう生活をするとなると、アニメで描かれていたような楽しいこと素晴らしいことばかり、、という訳にはいかないと思います。食事一つとってもハイジとおんじの食事は殆ど毎日、チーズとパンとヤギの乳だけなんですよね。たまに干し肉とかバターとか山で取ってきた野ぶどうがつくこともありますが、基本的にはチーズとパンとヤギの乳だけです。シンプルなだけにそれほど飽きの来ない食事なのかも知れませんし、アルプスのきれいな空気の中で食べるそれらは私の想像する以上に素晴らしい食事なのかも知れませんが、それでも現代の飽食の国、日本で生まれ育った我々にそんな食生活が耐えられるかどうか判りません。
また電化製品がなにもない、テレビもパソコンもない、娯楽もない、ハイジのような子であれば生活のそこここに楽しみを見出すことが出来ましたが、私がいざそういう生活に放り込まれて、そんな風に生活の中に楽しみを見つけることが出来るかどうか、いまいち自信がありません。
でもそのように思いつつもやっぱりハイジのような生活には憧れを感じてしまいます。美しい部分のみに囚われてしまっているのかも知れませんし、今の生活から逃げ出してのびのびと暮したいという願望が先走っているだけかも知れません。しかしそう思いつつもやっぱりいつかあんな生活が出来たらと憧れてしまいます。
そして『アルプスの少女ハイジ』は見るものにそういう思いを抱かせるだけの素晴らしい作品だったとも言えると思います。
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