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牧場の少女カトリ

原作 アウニ・ヌオリワーラ

 『牧場の少女カトリ』は昭和58年に日曜日の夜7時半からフジテレビ系の世界名作劇場の枠で放送された作品です。
 原作はあまり知られていませんし、アニメ自体もある意味でとっても地味な作品なので、名作劇場の中でもあまり目立たない作品のようにも思いますが、地味な中にも独特の魅力を秘めた作品で、はまっている人はまた思いっきりはまってたりするようです。
 私自身も某友人から面白いという話を聞かされていて、たまたまKBS京都テレビで再放送された時に初めて見たのですが、しっかりカトリの虜になってしまいました。

 カトリの特徴と言えば、まず働く少女の姿を描いていたという点、それにカトリが強い向上心を持っていたというところではないかと思います。
 カトリが放送される五年前に同じ斉藤博演出、宮崎晃脚本のコンビで作られた『ペリーヌ物語』という作品があり、ペリーヌの働く姿や自分の力で自分の生活を向上させていく姿が描かれてましたが、そのペリーヌのサクセスストーリー風の部分を抜き出して、フィンランドの美しい自然の中に置き換えて、膨らませたようなそんな作品であるかのような印象もあります。

 カトリは一緒に住んでいた祖父母の家の牛が熊に殺されてしまった為、家計を助ける為に働きに出なくてはならなくなります。最初はライッコラ屋敷で牛追いをし、その後クーセラ屋敷に移り、奥様に気に入られて、奥様のロッタやその子供のクラウスの身の周りの世話のような仕事をすることになります。
 しかしカトリはたった9歳の女の子なんですよね。9歳というと今の日本で言えば小学校の三年生くらいです。ちょうどちびまる子ちゃんが小学三年生なのでカトリとほぼ同じ年齢なのですが、ちびまる子ちゃんやそのクラスメイトたちが家計を助ける為に働きに出るなんて考えられませんよね? 親の庇護の下でわがままにちゃらんぽらんにその日その日を生きていて、今の日本には子供たちがそういうように気楽にのんびり過ごせるだけの豊かさがあります。
 時代や生活環境が全然違いますので、年齢だけ取り上げて比較するのは無理があるとは思いますが、そういう比べ方をするとこの年齢にしてはカトリはかなりしっかりした少女だというのがよく判るかと思います。環境が人を作るということもありますので、ちびまる子ちゃんだってカトリか同じような環境に置かれたらもう少ししっかりする可能性はないとは言えませんが、とてもカトリのようにはなれないでしょう。

 働くということは決して楽なことではありません。どちらかというと辛いことや苦しいこともも多いと思います。しっかり者の少女という印象のカトリでしたが、それでも気まぐれな牛たちに振り回されて、苦労させられたり、主人に叱られることもしばしばでした。しかしカトリという作品の中では働くことの厳しさを描きながらもその反面、唯、辛いだけではなく生き生きと働くカトリの姿が描かれています。
 働くことはしんどいですし、基本的に嫌なことですけど、その中にやはり充実感のようなものもちゃんとある訳で、その辺をカトリという少女の働く姿を通してきっちり描いていた点は好感が持てるところだと思います。

 カトリはまた強い向上心を持っている少女でもあります。アッキさんやロッタ、医者のニーラネン先生や看護婦のエミリアなど、様々な人と出会い、その生き方に触れたことによって、自分を高めていきたいという気持ちを強く持つようになります。
 ある意味で優等生過ぎるという感じもなきにしもあらずなのですが、カトリは持ち前の素直な性格からそれがちっとも嫌みじゃないんですよね。その辺はカトリの人徳でしょうか……。

 フィンランドの自然の美しさを丁寧に描いていた点もカトリという作品の特徴としてあげてもよいでしょう。自然の美しさが主題の一つになっていた作品に『アルプスの少女ハイジ』などもありますが、カトリの場合はハイジに比べると地味な印象もあるものの、静かな中に悠然と広がる美しい自然と農村の暮らしを見事に描き出していたと思います。

 しかしペッカの言った「カトリは都会の子になってしまうんだな。」という淋しげな呟きは少々考えさせられるものがありました。
『アルプスの少女ハイジ』では都会と田舎の対比に於いて、ハイジはアルムの山を選んだ訳ですが、カトリはどうなのでしょう? どちらかというと都会指向、都会に対する憧れのようなものが強いような気もします。
 勿論、ハイジとカトリでは年齢も違いますし、置かれている状況も違います。カトリが将来的に都会に住むことになっていっても田舎での暮らしに対する強い愛着はきっと持ち続けるでしょう。しかし実際にずっと田舎で暮していくであろうペッカが抱いた一抹の淋しさというのもまたよく理解出来る気がするんですよね。

 ペッカが思うと同じように私も出来ればカトリには都会の子になって欲しくない、という気持ちが強いのですが、カトリのような上昇指向を持った少女は田舎に愛着を持ちながらもやはり都会での暮らしを選んでしまうのではないかという気もやはりしてしまいます。
 ま、カトリ自身の人生ですから、私がとやかく言うことでもないんですが、最終回のラストのナレーションのように作家になるなら、田舎にいても小説は書けますよね。牧場の奥様になって自然を相手にしながらの半農半筆みたいな生活がカトリには似合うんじゃないかという気がします。 で、更に年を取ったらグニンラおばあさんみたいなお話のうまい素敵なおばあさんになって欲しいと思います。


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