ときめきメモリアル2ショートストーリー
メイ様VSほむら会長
スーパーロボットひびきの決戦GX

目次

1、『生徒会長赤井ほむら見参!!』
2、『電脳わがまま娘伊集院メイ登場』
3、『巨大ロボット出現!!』
4、『ゴッドリラー、発進!!』
5、『対決!! メイロボVSゴッドリラー』
6、『金色の女神様』
エピローグ
あとがき


1、『生徒会長赤井ほむら見参!!』


 朝、爽やかな風と柔らかい日差しが心地よい時間。笑いさざめき和やかに談笑しなが
ら生徒たちが校門を通り抜けていく。
 今日、珍しく早起きしたあたしは校門の門柱の上に座って校門の中に吸い込まれてい
く生徒たちの様子を見下ろしていた。
 やがて始業の時間が近づいてきて校門をくぐっていく生徒たちも心なしか足早になり
始める。遅刻するまいとして急いでいるのだ。
 あたしはその様子を見てすっくと立ち上がった。そろそろあたしの出番が近づいて来
たようだ。

 キーンコーンカーンコーン。
 
 朝の爽やかな空気の中をチャイムの音が響き渡る。そしてその音が鳴り終わった瞬
間、あたしは大急ぎで校門を駆け抜けようとしている生徒たちに向かって叫んだ。
「待て待て待て待て〜いっ!!」
「な、何者だ!!」
 あたしの声を聞いた生徒たちはあたしの声に驚いたように立ち止まってきょろきょろ
と周りを見回している。
「この世に悪がはびこる時、正義もまた現れる。」
「な、なんだ……?」
「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!! 悪を倒せと俺を呼ぶ!! とう〜っ!!」
 決め台詞を口にすると、あたしは門柱の上からジャンプして、すたっと校門の前に降
り立った。
「ひびきの高校生徒会長赤井ほむら、只今見参!!」
「あ、せ、生徒会長!!」
「おーよ。てめーら、遅刻はご法度だぜ。正義の生徒会長さまが成敗してやるから覚悟
しな。」
「そ、そんな……、ほんの少し始業のチャイムより遅れただけなのに……。」
「問答無用。遅刻する奴にろくな奴はいないに決まってる。正義の会長キックを受けて
みろ!! とう〜〜っっ!!」
 そういうとあたしは空中高く飛び上がり、遅刻生徒たちに次々と正義のキックを見舞
った。
「ぐええええぇぇぇぇっっ!!」
 遅刻生徒たちは悲鳴をあげてその場にうずくまった。
「おいっ。」
 あたしが合図すると何人かの生徒会役員たちが現れた。
「保健室に三名さまご招待だ。」
「はい、会長。」
 役員たちは手際よくあたしの正義の制裁に倒れた生徒たちを運んでいった。
「ふっふっふ。これに懲りたらもう遅刻なんかしないように気をつけるんだぞ。」
 あたしはぽんぽんと両手を払いながら、生徒会役員たちに担がれていく遅刻生徒たち
に向かって言ってやった。

 あたしの名前は赤井ほむら。ひびきの高校の正義を守る生徒会長だぜ。今日も朝から
遅刻した生徒に正義の鉄槌を加えてやってるところだ。
 全く遅刻してくるなんざぁ、ふざけた連中は徹底的にその性根をたたき直してやらな
きゃいけないからな。
 なんであたしが生徒会長なんてやる羽目になったかっていうと、なんか知らないけど
和美ちゃんに気に入られちまったせいだよな、きっと。
 あ、和美ちゃんってのはひびきの高校の校長のことだ。爆裂山なんていうたいそうな
名字をつけてて見た目は怖そうなおっさんだけど、姿形とは全然イメージの違う“和美
”なんてかわいい名前で、しかも性格もとってもお茶目だったりするんだ。なんたって
あたしを生徒会長にしちまうんだから、それだけで只者じゃないことは判るだろう。
 でも今やあたしと和美ちゃんはマブダチだったりするんだな、これが。

 生徒会長にならないかって和美ちゃんに言われた時は正直言って驚いたね。あたしは
別に成績がいいわけじゃないしさ、そんなに面倒くさそうな仕事は向いてないと自分で
も思ったからな。
 でもよ、生徒会長というと生徒のリーダーで、しかも学園の正義を守るヒーローだ、
そんな役目が勤まるのは君しかいない、、な〜んておだてられたもんでその気になっち
まったんだ。なんせあたしは子供の頃から正義の味方、ヒーローって奴が大好きだった
から……。
 小学生の頃にもいじめっ子にいじめられてる子を見つけちゃあ、いじめっ子をやっつ
けて助けてやったり、毎日のようにそんなことをやってたくらいだぜ。
 えっ? 女だったらヒーローじゃなくてヒロインじゃないかって? んー、そりゃそ
ういうことになるのかも知れないが、でもヒロインなんていうとなんかいかにもどっち
かっていうと“お姫さま”って感じであんまり強そうでもかっこよくもないじゃない
か。あたしは断然ヒーローって呼び方の方が好きだぜ。
 そんな訳で和美ちゃんの話に二つ返事で飛びついたって訳だ。

 しかしあたしは正義のヒーローになったつもりで生徒会長になってやったってのに、
実際の会長の仕事っていえば下らない雑用が多くてよ、あたしゃ一日で嫌になっちまっ
て逃げ出しちまった。
 和美ちゃんに説得されて会長の職には留まってるんだけど、今では面倒な仕事は全部
副会長以下の生徒会役員にやらせている。
 そんな下らない仕事は正義のヒーローのやる仕事じゃねーもんな。そういう雑用みた
いな仕事は下っ端の生徒会役員に任せて、もっとヒーローに相応しい仕事をするのが生
徒会長ってもんだ。あたしにゃ雑用なんざやってる暇はないのだ。
 下らない仕事の多い生徒会長だけど、この遅刻の取り締まり。この仕事はなかなか気
に入ってる仕事の一つなんだ。なんたって遅刻するなんて悪いことに決まってるし、悪
を退けて教育的指導を加えるってのは正義のヒーローの仕事として申し分ないだろ?
とは言ってもこの仕事がやれるのは、あたしが早起きして学校に来た日だけなんだけど
な。そうでない日はあたし自身が寝坊して遅刻してしまう日も結構多かったりするんだ
が……。
 えっ? そんな奴に遅刻を取り締まる資格なんてないって?? あ、あたしはいいん
だ。生徒会長だからな。他の生徒とは待遇も違ってて当然だろ?

 そんなこんなでひびきの高校は今日も平和な朝を迎えた。天気も上々、まさに青天の
霹靂って感じだったし、この時にはまだあんなとんでもないことが起こるなんてあたし
だって夢にも思わなかったぜ。



2、『電脳わがまま娘伊集院メイ登場』  そうこうしているうちに始業のチャイムが鳴ってから20分が過ぎ、遅刻してくる奴 ももういないだろうという時間になった。今日の獲物は7人。こんなに遅刻してくる奴 がいるとは、まだまだ学園のヒーローにゃ忙しい日々が続きそうだ。でもあいつらもこ れに懲りて二度と遅刻しようなんて思わなくなるだろう。  あたしは今日も朝から学園の正義の為に働けたことに満足していた。で、そろそろ自 分も教室に行こうと思って、校舎の方へ向かおうとした。その時、  キキキキーーッ  背後から車の止まる音が聞こえてきた。振り返ってみると校門の前に高級そうなでか い外車が止まっている。  なんだなんだ。和美ちゃんに客でも来たのか?  と、思って見ていると降りてきたのは20代半ばくらいかと思われるすました顔した 若い男。昼間っからタキシードなんか着込んでいる変な奴だ。おまけになんだか嫌な目 付きをしている。更にその後から数人の黒服に黒眼鏡をかけた連中がぞろぞろと降りて くる。いかにも悪役っぽい連中だ。あたしの正義の血がざわざわと騒ぎたてる。こいつ ら何者だ!?  最初に降りてきた男は車の扉を開けて慇懃に礼をしながら言った。 「メイ様、どうぞ。」 「うむ。」  すると車からひびきのの制服・・・と言っても普通の物とは少しアレンジしてある制 服・・・を着た女生徒が降りてきた。  随分チビな奴だ。たぶん一年生だろう。しかしチビであるにも関わらず随分横柄な態 度を取っている。  保護者(というより召し使いっぽいかな?)同伴で来るってことは転校生だろうか?  にしてももう始業のチャイムが鳴ってから20分も過ぎてんだぜ。転校早々遅刻する なんざぁ、いい度胸してるじゃねーか。今後の為にもちと説教してやらねばなるまいと 思ったあたしは彼らの前に立ちはだかった。 「待て待て待て〜い!!」 「ん? なんだ貴様は。」  女生徒はあたしの出現にも特にうろたえた様子もなくなんだか偉そうな口調で問いか けてきた。 「あたしはひびきの高校の生徒会長だ。」 「ふん。生徒会長だと? それがどうした。わたしに何か用でもあるのか?」 「用があるから呼び止めたんだ。お前、今何時だと思ってる!」 「なんだ時間が聞きたいのか。咲之進、時間を教えてやれ。」 「はい、メイ様。」  そういってその女生徒はあたしの傍らを通り抜けてゆこうとした。 「こら、待て、誰が時間なんか聞いてるか!」  あたしは慌ててその女生徒を引き止めた。 「なんだ違うのか? それなら何の用なのだ。」  女生徒は面倒くさそうにあたしを見ながら言う。 「あたしは遅刻してくる生徒がいないかどうか校門で見張ってたんだ。 「それで?」 「お前は始業時間を随分遅れてきたようだから、一言注意しとかなきゃいけねー、と思 って呼び止めたんだ。」 「ふん、遅刻だと? 馬鹿め。私を誰だと思ってるんだ。」 「誰だか知らねぇが、ひびきのの生徒だろう。遅刻してくる奴は許さないぜ!」 「私は特別なのだ。そんじょそこらの一般生徒と同じに考えて貰っては困る。」  女生徒は声に明らかな不快感をにじませながら答えた。 「特別だと? 馬鹿言うな。見たところ随分、金持ちなようだが、ひびきのの生徒に変 わりなかろう。ひびきのの生徒である限り、この生徒会長赤井ほむらが遅刻は断じて許 さないぞ。」 「なに? 赤井ほむらだと? それがお前の名前なのか?」  女生徒はあたしの名前を聞いて、怪訝な顔つきをして問い返してきた。 「そうだ。ひびきの高校の正義を守る生徒会長赤井ほむらとはあたしのことだ。ようく 覚えておけ。」 「馬鹿をいうな。お前は女ではないか。」 「なんだと、あたしが女で悪いか?」 「当たり前だ。赤井ほむらならよく知ってるが、あいつは男だ。間違ってもお前のよう な山猿みたいな女ではない。」 「なにぃっ!! 山猿だと? このチビ、言わせておけばいい気になりやがって!!」 「ふん、チビはどっちだ。」 「うるさい。こうなったら勘弁ならねぇ、徹底的におしおきしてやる!!」  あたしはすっかり頭に来ちまった。全くこ〜んな生意気で小憎らしい奴には会ったこ とがないぜ。 「メイにおしおきだと? 出来るものならやってみろ。」 「おうよ、やってやるぜ・・・。ん? メイだと?」  女生徒の名前を聞いてあたしはまじまじと女生徒を見つめた。メイというのはもしか して・・・。 「伊集院メイ。それがわたしの名前だがなにか文句があるのか?」 「伊集院メイ? そっか、言われてみれば・・・。おまえ、あの生意気で泣き虫だった メイか?」 「なんか不愉快なことを言う奴なのだ。」 「だって子供の頃は泣き虫だったじゃねーか。いじめっ子に泣かされてるところをあた しが何度も助けてやったのを覚えてないか?」 「馬鹿を言え。お前なんかに助けて貰った覚えはないのだ。メイを助けてくれたのは赤 井ほむらっていう男の子・・・ん?」 「だからあたしがその赤井ほむらだよ。」 「な・・・、するとお前は本当に赤井ほむらなのか?」 「だからさっきからそう言ってるじゃねーか。ほらみろ、ここにちゃんとそう書いてあ るだろ。」  あたしは生徒手帳を取り出して見せてやった。 「うっ、た、確かに赤井ほむら、女、と書いてある……。」  メイは明らかにショックを受けた様子だった。 「き、貴様、一体、いつ性転換したのだ?」 「あたしゃ生まれた時からずっと女だよ。もっとも子供の頃はずっと男の子の恰好して たし、お前が男の子と間違えてたとしても無理ねーけどよ。」 「そ、そんな馬鹿な、、赤井ほむらが女だなんて……。咲之進!!」 「はい、メイ様。」 「すぐにあの山猿を捕らえるのだ。連れて帰って本当に女かどうか調べるのだ。そして もし本当に女だったら、性転換手術をして元の男に戻してやるのだ。」 「畏まりました。メイ様。」 「お、おい、ちょっと待て。」  あたしは思わず慌ててしまった。このガキ、無茶苦茶言ってやがる。大体“元の男” ってのはなんなんだ!? あたしは生まれた時から女だっつうの。  しかしなんだってこんな話になるんだ?? そりゃ、メイはあたしを男だと勘違いし てたのかも知れないが、だからと言って性転換させろだなんて話がちょっと飛躍し過ぎ てねーか?  メイに指示された召し使いの男は懐から何かを取り出した。見ると……、 「け、拳銃??」  男の手に握られていたのは紛れもなく拳銃だった。お、おい、ちょっと待て、こいつ なんだってこんなものを持ってるんだ? 日本じゃ拳銃の所持は認められてない筈だ ろ? 「ふふふ、安心するのだ。お前を殺すつもりはない。この銃に込められているのは麻酔 弾だ。貴様には暫くの間眠って貰う。その間に性転換手術をしてやるのだ。」  こ、こいつどうやらマジみたいだ。でもあたしだって大人しくこいつの言う通りにな るつもりなんてさらさらない。こうなったらあたしの実力を見せてやるぜ。 「トゥーッ!!」  咲之進、と呼ばれた男が拳銃の引き金に指をかけたのを見て、あたしは空中高くジャ ンプした。 「会長キィィッック!!」  あたしのキックが男の拳銃を持った腕に炸裂した。 「うぐっ・・。」  拳銃を取り落とした男は腕を押さえてうずくまった。 「おのれ、山猿っ!! お前たち何をしている! あいつを捕まえるのだ!」 「はい、メイ様。」  黒眼鏡に黒服の男たちがあたしを取り巻いた。へへ〜ん、面白くなってきやがった ぜ。  あたしは向かってくる黒服の男たちを相手に縦横無尽に暴れ回り、必殺のキックやパ ンチを浴びせてやり、あっというまにやっつけてやった。ふん、こんな連中ちょろいも んだぜ。 「やい、メイ。あたしを甘く見ないことだな。」  あたしはメイの方を振り返って言ってやった。 「ううっ。こうなったら。」  メイは慌てて車に乗り込んだ。 「やい、待て!! 逃げるとは卑怯だぞ!!」 「馬鹿め、逃げるのではないこれを見ろ。」  メイが言うと車がにわかに変形を始めた。  げげっ、なんだこの車は? どうやら唯の車じゃなさそうだ。  と、同時にどこからかゴオオォォッという音が聞こえてきた。まるで飛行機が飛んで いる時のような爆音……。あたしが空を見上げてみると、何かがこちらに向かって飛ん でくるのが見えた。  その物体は近づいてくるにつれその全容が明らかになってきた。 「ロ、ロボット??」  そう、それは全長30メートルを越える巨大ロボットだったのだ。
3、『巨大ロボット出現!!』  ずずず〜〜ん。  巨大なロボットが地響きを立てて校門の前に降り立った。と、同時に変形したメイの 車は空中高く飛び上がりロボットの胸の部分に収納された。 「な、な、ななななななっ!!」 「ははは、見たか山猿! 私が設計して伊集院重工で作らせたメイ式世界征服ロボ試作 零號機なのだ。お前なんか踏みつぶしてやるのだ。」  ロボットの操縦席の中からメイが叫ぶ。  げげっ、じょ、冗談だろ。巨大ロボットだなんて……。流石のあたしもたじたじとし てしまった……。  あたしゃ喧嘩にゃ負けたことがねーのが自慢なんだけど、それは人間だとか野良犬だ とかが相手の時の話だ。いくらあたしでもこんな巨大ロボットと喧嘩となっちゃあ、相 手が悪いぜ。  人間相手なら小学校の4年の時には既に中学生にも負けたことがなかったんだけど… …、巨大ロボットを相手に素手で喧嘩しようってのはいくらなんでも無理があるよな… …。 「行くぞ! 山猿!! 覚悟するのだ!!」  メイが叫ぶと巨大ロボットはあたしに向かって突き進んできた。どうやら本気であた しを踏みつぶす気だ。  あたしは横っ飛びでロボットの足を避けた。ずず〜ん、とさっきまであたしがいた場 所にロボットの足が着地する。 「ふん、ちょこざいな。だがメイ様から逃げられると思ったら甘いのだ。」  ロボットは更にあたしを踏みつぶそうと向かってくる。  あたしはロボットの足を避け校庭に駆け込み必死になって逃げ回った。でもロボット はでかいだけあって歩幅も大きい。まっすぐ逃げてたって追いつかれるに決まってるの で、右へ左へ、前へ後ろへ、走り回らなきゃならなかった。小回りは利かないようなの で、この逃げ方は結構有効だったんだけど、こんなに必死になって走ったのは生まれて 初めてだったぜ。 「おのれ、山猿だけあって素早さだけは一人前だな。しかしこれは避けられるかな。」  メイがそういうとロボットは立ち止まり今度は少し前かがみになって身構えた。あた しを踏みつぶすのが難しいと見て作戦を変更したみたいだけど、今度は何を・・?  と、思って見ていたら、  ドドーン!  轟音とともにロボットから白煙があがり何かがこっちに飛んでくる。  げげっ? あれってミサイルじゃねーのか? おいおいまじかよ。冗談じゃないぜ。  ミサイルはキューンと音を立ててあたしに向かって飛んできた。ひええ〜〜っっ!!  あたしは間一髪ミサイルを避けて飛びすさった。  ちゅどーん  ちゅどーん  ちゅどーん  数発のミサイルが校庭に炸裂し、大きな穴をいくつも開けた。あたしは間一髪、直撃 は逃れたものの爆風で吹き飛ばされちまった。 「うわわわわわ〜っ!」  一回転して地面に転がる。くっそう、全くメイの野郎、滅茶苦茶しやがるぜ。 「ははははは、ぼろぼろだな、いいざまだ。しかしいつまで逃げ切れるかな。」  ロボットからメイの高笑いが聞こえてくる。と、同時にミサイルの第二撃が発射され た。  またもあたしに向かって飛んでくるミサイルの一団。あたしはまたも必死になって逃 げ回る。  ちゅどーん  ちゅどーん  ちゅどーん  今回もあたしはなんとかミサイルを避けることが出来たけど、校庭はミサイルのあげ た爆煙と砂煙がもうもうとたちこめている。こうなったら、三十六計逃げるにしかず、 この煙に紛れてなんとか逃げられないだろうか……。  そう思ってあたしは走り出した。正義の味方としては逃げるのは癪に障るがあんなの 相手にやってられねーぜ。メイの奴には今度、たっぷりおしおきしてやることにし て、、今日のところは退散だ。  あたしは懸命になって走ってたんだけど、そしたらいきなりあたしの足元から地面が 消失した……。ていうか早くいえばあたしは何かの穴に落っこちちまったんだな。一 瞬、メイのミサイルが開けた穴に落っこちたのかとも思ったんだけど、どうもそういう 落ち方じゃなかった。足元の地面が急に穴を開いたようなそんな感じ……。まるで落と し穴に落っことされた時のような・・・。  誰だ〜、こんなところに落とし穴なんて作った奴は!!  あたしは悪態をつきながら穴の中にまっ逆さまに転落していった。
4、『ゴッドリラー、発進!!』 「いてててて。」  穴の中に落っこちたあたしは四つん這いになってしたたかに打ちつけたお尻をさすっ ていた。全くひどいめに遭う日だぜ・・・。正義のヒーローである生徒会長もあんな無 茶苦茶な生徒にかかっちゃ、苦労させられちまう・・・。  少し落ち着いてきてあたりを見回すとあたしが落ちてきた場所は、どうやら四角い… …、そう教室くらいの広さの部屋のような薄暗い空間だった。  なんだここは?  校庭に開いた穴からここに落ちてきた・・ってことはあの落とし穴は始めからここに 繋がってたってことだよな。  あたしは上を見上げてみたんだけど、あたしが落っこちてきた筈の穴は見当たらな い。あの穴はあたしを呑み込んだ後また閉じてしまったらしい。  段々、目が慣れてきて薄ぼんやりと周りの様子が判るようになってきた。なんだかが らんとしたコンクリートで被われた空間だ。しかしなんだって校庭の下にこんな地下室 があるんだ?  その時、部屋の中がパッと明るくなった。誰かが照明をつけたようだ。 「ふふふ、ほむらくん、随分苦戦してるようだね。ぼろぼろじゃないか。」  誰かがあたしに話しかけてくる。この声は……、 「レイ!?」  あたしは声の聞こえてきた方向に振り向きながら叫んだ。そこにいたのはまさしく伊 集院メイの兄、伊集院レイその人だった。  実はメイの兄貴の伊集院レイって奴とは昔からの知り合いなんだ。なんていうか腐れ 縁ってのかちょっとした縁があってな。レイとあたしの腐れ縁についちゃあ、ちぃとや やこしくてうっとうしい事情があったりするんだけど、それについてはまた今度機会が あったら説明するってことにしとくぜ。今はそれどころじゃねーもんな。 「流石のほむらくんも巨大ロボットが相手では少々苦労してるようだね。」  レイはなんだか楽しそうな顔つきで言いながら、腕組みをしてあたしを見ている。 「な、何言ってやがる!! メイはお前の妹だろうが!? 大体なんでお前がこんなと ころにいるんだ? それともお前もメイとグルなのか?」 「いや、僕はメイとは関係ないよ。それどころか僕は君に少し手を貸してやろうと思っ てここに招待したんだ。」 「人を落とし穴に落っことしといて招待だとぅ? ふざけてるのか、てめぇ!」 「まあ、そう言わずにこれを見たまえ。」  そういうとレイは壁のスイッチを押した。するとゴゴゴゴゴという音とともに壁が開 いていき、その先には更に広い空間が広がっていた。そしてそこには……、 「ゴッドリラー!?」  あたしは思わず叫んでいた。  その広い部屋にはアニメに出てくる巨大ロボット、ゴッドリラーの横顔が見えてい た。近づいてみるとそこは更に深い広い部屋になっており、見下ろしてみるとアニメと 寸分変わらぬゴッドリラーの全体像が見渡せた。 「な、なんだってこんなところにゴッドリラーが……。」 「伊集院グループがゴッドリラーのスポンサーをやってることは知っているだろう。ス ポンサーをやっていることもあって伊集院グループ企業の技術班がゴッドリラーと全く 同じロボットの試作品を作ったんだ。それがこのロボットって訳だ。」 「なるほどな。しかしそれがなんだってこんなところにあるんだ?」 「ふふふ、ここは伊集院家の秘密研究所なのだよ。伊集院家はひびきの高校に多額の献 金をするかわりに地下に秘密研究所を作る許可を得ているんだ。」 「はん、なるほど。」  全く伊集院家のやることには驚かされるぜ。アニメのスポンサーになってる会社がア ニメに出てくるロボットの人形を作るってのはよくある話だけど、アニメに登場するの と寸分違わぬ原寸大のロボットそのものを作っちまうなんて話は聞いたことがねーもん な。 「で、こいつ動くのか?」 「勿論だ。伊集院家の技術力を持ってすればアニメと同じように動くロボットを作るこ となど造作もないことだ。それはメイのロボットを見た君なら判るだろう。」 「確かにそれはそうだけど……。」 「こいつに乗ってメイのロボットと戦うがいい。このロボットの仕様はアニメのゴッド リラーと全く同じだ。こいつならメイが操縦している、巨大ロボットと互角に戦うこと が出来るだろう。」 「おい、ちょっと待て。そう言われてもあたしはロボットの操縦なんてやったことねー ぞ。」 「心配御無用。大のアニメファンの君ならゴッドリラーの設定資料集は読んでいるだろ う。あれに書いてあるのと操縦法は全く同じだ。」 「確かに設定資料集は読んだけど……。本当にあの通りで動くのか?」 「疑問に思うなら試してみるといい。」  試してみろと言われたって……。流石にあたしも本物のゴッドリラーを前にして少々 圧倒されていた。 「どうした? 流石のほむらくんも気後れしてしまったのかな?」 「うるせぇ、乗ってやるよ。でも間違って壊しちまっても責任持たねーからな。」  そういうとあたしは意を決してゴッドリラーの操縦席に乗り込んだ。  操縦席の中は確かに設定資料集で見覚えのある操作パネルや操縦桿が並んでいる。あ たしもゴッドリラーを操縦してみてぇな〜、とか思って憧れてたもんで、設定資料集は 何度も何度も繰り返し読んでいた。どのスイッチがなんの役割をしているのかも大体判 る。  これなら本当にあたしにも動かせるかも知れないって気がしてきた。 「どうだ? よく出来ているだろう。」 「確かに設定資料集のそのまんまだな。けど本当に動くんだろうな?」 「さっきも言ったようにその点は大丈夫だ。伊集院グループの技術力を信じたまえ。」  レイがそこまでいうならたぶん大丈夫なんだろう。あたしもなんだかわくわくしてき た。ゴッドリラーを操縦出来る機会が来るなんて夢にも思ってなかったもんな。  あたしは操縦桿を握って叫んだ。 「よおし、ゴッドリラー、発進!!」  ゴゴゴゴゴゴという轟音とともに校庭が二つに割れて、ゴッドリラーが上昇してい く。と、同時にどこからかアニメでゴッドリラー登場の時に流されるBGMが大音響で 流れてきた。 「げげっ、なんじゃこりゃ。」  あたしはびっくりして思わず叫んじまった。 「気にするな。ヒーローロボットが登場するんだから、このくらいの演出は当然だろ う。」  通信機からレイのなんだか楽しそうな声が聞こえてくる。そりゃ、テレビはそうだろ うさ。しかし普通実戦でこんな音楽流すか? 「ドリラーナックル、ドリラービーム、ゴッドドリル、そしてブラックホールディメン ション、アニメで使われている必殺技は全て使用可能だ。ひとつ注文だが必殺技を使う 時は是非大声で必殺技の名前を叫んでくれたまえ。」  何、言ってやがるこいつ、完全に遊んでやがるな。ま、でもあたしもその方が気分が 盛り上がるだろうし、望むところって感じだったけどな。  それにしてもレイの奴、普段はすました顔をしてやがるけど、実はアニメおたくだっ たんだろうか?  あたしの頭にちらっと疑惑が浮かぶ。でもまあそんなことは今はどうでもいいか。今 はメイのロボットを取り押さえるのが先決だ。  レイの流すBGMとともにゴッドリラーは敢然とその巨大な勇姿を校庭に現した
5、『対決!! メイロボVSゴッドリラー』 「やいっ、メイっ!! さっきはよくもやってくれたな。さっきの礼は思う存分してや るから覚悟しやがれ!!」  ゴッドリラーに乗ったあたしは校庭にたたずんでいたメイのロボットに向かって大声 で叫んだ。操縦席には拡声器が積んであるようで、校庭にあたしの声ががんがんと響い た。 「その声は・・・、山猿か?」  メイが驚いたような声で問いかけてくる。流石のメイの奴もゴッドリラーの登場には 驚いているようだ。 「おい、てめぇ、その山猿ってのはやめろ。あたしには赤井ほむらっていう立派な名前 があるんだ!!」 「き、貴様〜。いきなり姿が見えなくなったと思ったら、どこからそんなロボットを盗 んできたのだ!?」 「別に盗んできた訳じゃねーさ。ちと訳ありでな。それはともかくこれで五分と五分だ な。さっきの対決の続きをおっぱじめようぜ。」 「ふ、望むところよ。しかしお前みたいな山猿にロボットの操縦なんて高級なことが出 来るのか?」 「うるせぇ〜っ! 行くぜ!!」  そう言ってあたしはメイのロボットに向かって突進していった・・・、つもりだった んだけど……。  と、と、と、どてっ。ゴッドリラーはいきなりつんのめってこけてしまった。 「わははははははは、流石山猿。面白い操縦をしてくれるものだ。わはははははは は。」  メイの高笑いが聞こえてくる。こん畜生!! 一応、設定資料集は見ていたし、その 通りに動くことは動くんだけど、やっぱロボットを思い通りに動かすってのは難しい ぜ。  あたしは操縦桿を操って、なんとかゴッドリラーを立ち上がらせた。ロボットって奴 は二本の足で立ってるもんでバランスを取るのが結構難しいみたいなんだよな。立って るだけならいいんだけど、歩くとなるとやっぱコツが必要みたいだ。  で、さっきはいきなり突進しようとして失敗したんだけど今度は慎重に歩いてみるこ とにした。  ずず〜ん、ずず〜ん、と地響きを立てて、一歩二歩と歩いてみる。うん、これなら大 丈夫そうだ。 と、思った瞬間、またもぐらついてしまった。 「おっとっとっとっと・・・。」  あたしは必死になって体制を立て直しそうとして辛うじて今度は転倒することは免れ たんだけど・・・。 グシャッ。  ゴッドリラーの足元で何かを踏みつぶしたような音が聞こえてきた。見るとゴッドリ ラーの片足が学校の塀を踏み越えて学校のそばに建っていた民家に突っ込んでしまって いた。 「やっべぇ〜。家、潰しちゃったぜ。」  流石のあたしもこれには慌ててしまった。家の中にもし住人がいたとしたら……、あ たしゃ人殺しになっちまうじゃねーか! 「心配するな、ほむらくん。」  家を潰してしまって慌てふためいていたあたしの耳に通信機からレイの声が聞こえて きた。 「付近の住民は前もって避難させておいたから、家くらい壊れても気にするな。思う存 分戦ってくれたまえ。」 「て、お前、住民を避難させたからってそれで済む問題じゃないだろ? あたしゃ家な んて弁償できねーぞ!!」 「その点も大丈夫。家の一件や二件、いや百件や千件、立て直したとしても伊集院家に とっては取るに足らないことだ。」  ああ、ああ、そうですか。そりゃ、おめえんとこの金持ちぶりは尋常じゃないけど な。  ま、そういうことなら気にせずに思う存分戦ってやるとするか。  あたしはゴッドリラーの足を壊した民家から引き抜いて、校庭に戻り、再びメイのロ ボットと対峙した。  今度はよろけないように一歩一歩確実に歩きながらじりじりとメイのロボットに近づ いてゆく。 「わはははははは、そんなよちよち歩きでこのメイ様と戦おうなんて100年早いの だ。」  メイはそういうといきなりロボットを突進させてきた。 「お、おい、ちょちょっと待て!!」  あたしは慌ててよけようとしたんだけど、いかんせんゆっくり歩くのが精一杯な状態 じゃよけきれる筈もなく、まともにメイのロボットの体当たりを食らってしまった。  ずず〜ん。  大きくよろけてすっとばされたゴッドリラーは校舎に激突した。校舎にもたれかかっ て辛うじて倒れるのは避けられたようだ。しかし校舎にはあちこちひびが入り、窓ガラ スが飛び散り、ゴッドリラーのもたれ掛かった部分はへこんでしまっている。  あちゃ〜、今度は校舎を壊しちまったぜ。 「心配するな、学校の生徒たちも既に避難させてある。学校の校舎の弁償 も・・・・、」  またしても通信機からレイの声。 「判ったよ、伊集院家にとっては取るに足らないって言いたいんだろ。」 「その通りだ。判っているならいい。それでは頑張ってくれ。」  と、いう言葉を残して通信は切れた。いつの間に生徒を避難させたのかよく判らんけ ど、しかし用意のいい奴だぜ。  あたしはメイのロボットの方に目を戻した。するとメイのロボットは今度は空中高く ジャンプしている。ゴッドリラーにキックを食らわせる気だ。  あたしは慌てて前のめりにメイロボのキックを避けた。  なんとか四つん這いになってキックは避けることが出来たんだけど、メイのロボット はまとも校舎に突っ込んでいった。  ぐわらがらがっしゃ〜〜ん!!  さっきゴッドリラーがよりかかって壊れかけていた校舎は、今度はメイロボのキック の直撃を受けてひとたまりもなく崩壊し、瓦礫の山と変わり果ててしまった。 「うぬ〜、メイのキックを避けるとは!!」  な〜んていいながらメイロボは瓦礫の中から立ち上がった。まあ今のはよけたという よりはよろけたらたまたまキックが空振りしたといった方がいいかもしれないが……。  メイの方は最初から校舎が壊れようがどうしようが全く気にしていないらしい。流石 は伊集院家の娘だよな。  でも和美ちゃんはこんなになった学校を見たら嘆き悲しむだろうな。なにしろこの学 校は和美ちゃんの生きがいみたいなものなんだから……。  あたしはちらっと和美ちゃんの顔を思い浮かべたんだけど、校長に同情してる暇はな かった。キックをかわされたメイロボは今度はミサイルを撃ってきたのだ。 「おっとっとっと。」  あたしは四つん這いのままなんとかそのミサイルを避けようとした。が、しかし流石 にこれはよけきれず何発かは命中してしまった。  すっごい振動が操縦席まで伝わってくる。げげ〜っ、こんなに揺れちゃ酔っちまいそ うだぜ。なんか気持ち悪くなってきた。それに今のところさほどの損傷はないけど、ミ サイルなんか何発も食らってちゃさしものゴッドリラーだってガタがきてしまいそう だ。メイの奴は更にミサイルを撃とうと身構えている。  あたしはなんとかかんとかゴッドリラーを立ち上がらせた。とにかくミサイルをよけ きるのはあたしにはまだ難しそうだ。となると……、そうだ!!  あたしは操作パネルを見渡してドリラービームの発射ボタンを探した。あ、これだこ れだ。設定資料集の通りだったら、この赤いボタンをおせばビームが発射される筈。  メイが再びミサイルを撃ってくる。あたしはタイミングを見はからって、 「ドリラービ〜〜〜ムッッ!!」  と、レイの注文通りに叫びながらボタンを押した。  シュビビビビビ、と音を発しながら光線が放たれる。あたしが放った光線は適確にメ イの放ったミサイルを捉えていた。  おっ、こりゃいけるぜ。これならシューティングゲームの要領で撃てるもんな。あた しはゲームの腕にかけちゃあ自信があるんだ。ゲーセンにはしょっちゅう通ってるし、 家には各メーカーの出してるゲーム機がずらっと並んでテレビに接続されていて日夜腕 を磨いている。  隣のきらめき市には朝日奈なんとかっていう伝説的なゲーマーがいて、流石にこいつ には一目置いてるんだけど、ひびきの市じゃゲームの腕であたしの右に出る奴はいない のだ。  あたしにとっちゃあメイの放つへなちょこミサイルをビームで撃ち落とすくらい造作 のないことだぜ。てな訳であたしは次々とミサイルを撃ち落としていった。 「くっ、なかなかやるな。」  ミサイルを撃ち落とされたメイが悔しそうに言ってるのが聞こえてくる。  へへん、ざまあみろ。  メイはミサイルが効かないとみてまたまた突進してきた。腕を振りかざしてパンチを 繰り出してくる。  おっと。あたしは避けようとしたけど避けきれず思いっきりぶん殴られてしまった。  更に続いてパンチが来る。そんなに続けて殴られてばかりいてはたまらないので、あ たしは無我夢中で繰り出されてきたメイロボの腕にしがみついた。そしてそのままゴッ ドリラーの全体重をその腕にかける。すると一本背負いの要領でメイのロボットを投げ 飛ばすことに成功した。  ずず〜ん、と背中からメイのロボットが地面にたたきつけられる。よおし、今までは やられっぱなしだったけど、これでやっと一本返すことが出来たぜ。  しかしゴッドリラーの方もメイロボを投げ飛ばした勢いでバランスを崩して、メイロ ボと折り重なるように倒れてしまった。 「きゃっ!」  ゴッドリラーの下敷きになったメイロボからメイの悲鳴のような声が聞こえてきた。  あの生意気娘が悲鳴を上げるなんてどういう風の吹きまわしだ? と、思って見ると どうやら倒れた拍子にゴッドリラーの肘の部分がメイロボの胸、つまり操縦席の真上の 部分にまともにぶつかるような体制になったようだ。それでメイは驚いて悲鳴を上げた らしい。  メイロボの操縦席はかなり頑丈に作られているみたいで、ゴッドリラーの全体重のか かった肘にどつかれてもひびが入ったり、そういうことはなかったようで、あたしとし ては少しほっとした。校舎や民家を壊しても平然としていたレイだって、実の妹を壊さ れちゃあ、あんな平気な顔はしてられないだろうしな。  しかしメイの方は今ので流石に少々びびったみたいだ。悲鳴を上げてしまったのもの も無理ないだろう。たぶん、衝撃も相当なものだったろうし、ゴッドリラーのエルボー ドロップが自分自身にまともに向かってきたりしたらメイでなくともかなり怖いと思 う。  メイの奴は暫く放心したように倒れたままだったんだけど、漸く、ふらふらと立ち上 がった。 「くっ、メイを投げ飛ばすとは、、唯ではおかんぞ!!」  と、なんかまだ威勢のいいことを言っている。でも声にはさっきまで程の覇気はなく なっているようだ。  あたしの方もゴッドリラーを立ち上がらせて身構える。メイの方は投げ飛ばされて警 戒してるのか少し慎重にこっちの出方を見守っているようだ。  ふうん、そっちから来ないなら今度はこっちから攻撃してみることにするか。  そう思ってゴッドリラーをメイロボに向かって前進させた。お、さっきよりバランス よく歩けるような気がするぞ。あたしも少しは操縦に慣れてきたせいだな。そう思って 少し早足で歩かせる。うん、大丈夫だ。これならさっきみたいな無様なことにはならん だろう。  メイロボはそれを見て少し後ずさるような様子を見せた。ありゃりゃ、メイの奴もあ たしが操縦に少し慣れてきたのを感づいて警戒してるのか? と、思いきや、すう〜っ と後退してミサイルを撃ってきた。あたしはすかさずビームで撃ち落とす。馬鹿め、あ たしにゃミサイルは利かないのを忘れたか!  ミサイルを撃ち落としつつ前進するとメイはまた後退する。なんか接近戦を怖がって るような雰囲気……。  さっきの操縦席直撃でやっぱり少しびびっちまってるんだろうか?   もしさっきのでびびってるんだとすると……、あたしの狙いは一つだ。 「ドリラーナックルッ!!」  あたしは前進しながらいきなりドリラーナックルを発射した。ドリラーナックルとい うのはゴッドリラーのパンチを高速回転させながらロケットで飛ばす技だ。マジンガー Zのロケットパンチみたいなもんだな。飛んでいく腕は高速回転してるんだから、どっ ちかというとグレートマジンガーのアトミックパンチに近いか。  パンチを飛ばすと同時にゴッドリラーをメイロボに向けてダッシュさせる。メイロボ はドリラーナックルはなんとかよけたんだけど、ゴッドリラーの突進はよけきれなかっ た。  あたしはナックルを飛ばしたのとは反対の腕で思いっきりメイロボを殴りつけた。勿 論、狙いはメイの乗ってる操縦席……、では本当にメイを怪我させかねないから、その すぐ至近距離にある胸板のあたり。メイをもっとびびらせてやるのが目的だ。  ガキッという音とともにパンチがメイロボの操縦席のすぐ横にヒットして火花が飛び 散る。 「ひえっ!」  と、いうメイの脅えたような声。はは〜ん、案の定だ。メイの奴、やっぱりびびって やがる。  あたしは心の中でほくそ笑んだ。そうとわかりゃこっちのもんだ。喧嘩ってのは要は 気合いだ。気合いが勝ってる方が勝つんだ。逆にいうと一度浮き足立っちまうと実力の 半分も出せなくなる。  メイの奴はロボットの操縦はうまいけど喧嘩にゃ慣れていない筈・・・。子供の頃も いじめっ子に会うとすぐに、「咲之進〜〜っ!」とか言って付け人に頼ろうとしたり、 あたしの背中に隠れたり……、口では生意気なことばかり言ってるけど、結構意気地が ない奴だったからな。そこがまあ子供の頃はかわいく思ったこともあったけれど……。  ロボット同士の格闘戦なんてのもたぶん初めてだろう。よおし、あたしが本当の喧嘩 の怖さを教えてやるぜ!!  そっからは俄然あたしが優勢になった。メイの方もあたしがはっきりと操縦席を狙っ て攻撃をしていることを悟ったんだろう。なんだか腰が引け気味になってきてた。  時々またミサイルを発射したりもするんだが、動揺してるせいか狙いがちっとも定ま らない。あたしは余裕を持ってそれをよけてまた攻撃を再開する。  操縦の方もかなり自由に動けるようになってきた。あたしゃ勉強の方は駄目だけど、 運動神経とか反射神経には自信あるんだよな。アクションゲームの操作とかも覚えるの が早い。ロボットの操縦でもそれが役に立ったみたいで慣れるのも結構早かったみたい だ。  あたしは思う存分、メイロボを痛めつけてやった。メイの方はもはや戦意喪失って感 じでやられっぱなしになってる。 「やいっ、メイ、降参したら許してやるぜっ!!」  あたしはそろそろメイも参った頃だと思って言ったんだが、 「うるさいっ! 誰がおまえなんかに降参なんかするか!!」  メイは相変わらず虚勢を張っている。こいつって意気地なしのくせに負けん気だけは 強かったりもするんだ。やっぱりここは徹底的にやっつけてやらなきゃ駄目なようだ な。 「よおし、それなら容赦はしないぜ!!」  そう言ってあたしはゴッドリラーをジャンプさせる。 「ゴッドリラーキッッックッ!!」  ゴッドリラーのキックがメイロボに炸裂した。ずず〜ん、と地響きを上げてメイロボ は校庭に倒れ込んだ。 「よおし、とどめだ!! ブラックホールディメンション!!」  あたしはゴッドリラーの最強の必殺技名を叫びながらブラックホールディメンション のスイッチを押した。  ゴッドドリルとD鉱線エネルギーの力で敵を時空の彼方に吹き飛ばすというゴッドリ ラーの最強の必殺技ブラックホールディメンション。そんなもん使ったらメイロボに乗 ってるメイもどうなるか判ったもんじゃなかったんだが……、つい夢中になっちまって たんだよな〜。  だってよ、折角ゴッドリラーを操縦してるんだし、やっぱり敵に留めをさすなら最強 の必殺技を使ってみたいじゃんか。  で、あたしはブラックホールディメンションのボタンを押したんだけど……。 ・・・・・・・・。  が、しかしゴッドリラーはうんともすんとも言わなかった。ありゃりゃ、どうなって んだ?  D鉱線エネルギーなんてのはアニメの中のフィクションだから、流石の伊集院グルー プでもこの技は開発出来なかったんだろうか? でも確かレイの奴はブラックホールデ ィメンションも使えるって言ってた筈なんだがな。 「ブラックホールディメンション!! て、言ってんだろ、この!」  もう一度、やってみる。しかしやはり駄目だ。うんともすんとも言わない。最強の決 め技が使えないなんてこのゴッドリラーは欠陥品じゃないか! あとでレイに文句を言 ってやらにゃあ、、なんて思いつつ、仕方がないから別の攻撃をしようと思って操縦桿 を引いてみたら……、あり、ありりり?  動かない……。  ブラックホールディメンションだけじゃなくゴッドリラー自体が全く動かなくなっち まってた。  なんだなんだ? エネルギー切れか? それとも散々メイロボとやりあったせいでガ タが来ちまったんだろうか?  それでも諦め切れずにがちゃがちゃやってたんだけど、ゴッドリラーはなんの反応も 示さなかった。  くっそう、どうなってんだよっ! 折角いいとこなのに!!  と、その時、突然あたしは体が宙に浮くような感覚を感じた。 「わわわわわっ!」  あたしが慌てふためいているとウィ〜〜〜ンと、いう音とともにハッチが開き、あた しの体は操縦席の外へ投げ出されてしまった。
6、『金色の女神様』 「いてててて、どうなってやがんだ。」  ゴッドリラーから投げ出されたあたしの体は当然のことながら校庭に転落し……、ま たしてもお尻を地面に打ちつけてしまったのだった。 「全く……、レイの野郎、どうせならもちっとましにロボットよこせよな。」  あたしはレイに対してぶつぶつと不平を言いつつお尻をさすりながら立ち上がった。 ふと見るとメイの奴も地上にいる。メイロボの操縦ポットごと地上に降りてきてメイも 外に投げ出されてしまったようだ。  ありゃま、あっちもこっちと同じ状況かよ。メイの方もなにが起こったのか把握出来 ずに唖然としてるみたいだけど・・・、しかし両方いっぺんにこんなことになるっての は納得いかねぇなぁ。一体これはどういうことだ?? 「二人とも、争いはやめなさい。」  と、その時、どこからか声が聞こえてきた。凛と通るメゾソプラノの美しい女性の声 だ。どうも上の方から聞こえてきた気がしたので、空を見上げてみた。するとそこには 球状の光に包まれた何かがあった。さっきの声はどうやらその光の中から聞こえてきた ようだ。  光は徐々に降りてきてやがてその中に何かがいるのが見えてきた。どうやら人間みた いだ。あれはもしかして……、  レイ!?  光に包まれて宙に浮かんでいたのは紛れもなく伊集院レイだった。しかし普段と違っ て女装してる。しかもなんていうか、天使だか女神だかみたいなふざけた恰好……。あ れは女装というよりコスプレに近いんじゃなかろか? 御丁寧に背中に羽根まで背負っ てやがる。  レイの奴はそんな訳の判らない恰好をして空中に浮かんでいた。たぶん、ヘリかなん かでつり下げて貰ってるんだろうけど。  そう思いつつも……、あたしは思わずそのレイの姿に見とれちまった。レイの奴は普 段は男の恰好してるけど、本気で女装したら実はかなりの美人なんだよな。それが天使 みたいな恰好で出てくるもんだから、ホント、なんか神々しささえ感じるような姿だっ た。 「き、金色の女神様!!」  同じようにレイの姿を見つけたメイはいきなり空を見上げて突拍子もないことを叫ん だ。  なんだぁ?? 金色の女神様だぁ?? なんじゃそりゃ? あれは紛れもなくお前の 兄貴の伊集院レイじゃねーか。なんで兄貴のことをそんな呼び方をするんだ? それと もまさか自分の兄貴だってことに気付いてないんだろうか?  レイは徐々に天から降りてきてふわっと地上に降り立ち、穏やかな顔つきであたしと メイを交互に見比べるようにゆっくりと頭を巡らせた。 「わ〜ん、め、女神様〜〜っ!」  レイが降りてくるとメイは堪え切れなくなった子供のように泣きながら抱きついてい った。 「まあ、どうしてそんなに泣いているのですか?」 「だって、だって……。ひっく。」 「さあ、訳を話してご覧なさい。わたしが聞いてあげますよ。」  レイは優しくなだめるような声音でメイに言う。 「メイは・・メイは・・、ほむらにいちゃんが女だったなんて知らなかったのだぁぁぁ っっ!! 男の子だと信じてたのに……、許せないのだぁぁっ!!」  メイはまたそんなことを言い出した。今、メイが言った“ほむらにいちゃん”っての はたぶんあたしのことだよな。そういえばメイは子供の頃、あたしのことをそんな風に 呼んでたような気もするが……。  そりゃさ、子供の頃のあたしは自分でも自分は男だと信じてたもんで、メイに何度か 会った時も男の恰好してたさ。メイがあたしのことを男の子だと思ってたとしても無理 ないかも知れない。でもだからってなんだってあたしが女だったったことが許せない、 なんてことになるんだ? あたしが男でも女でもそんなことメイにとっちゃあ、別に関 係ないことじゃねーか。  そういえば最初に校門で会った時もあたしが女だと知って随分ショックを受けてたみ たいだったけど、ちと訳がわかんね〜よな〜。 「そうだったの。それは確かにメイにはショックだったろうけど……。でもほむらさん にはほむらさんなりの事情があるのですよ。メイももう高校生なんだから判ってあげな くては。」  レイの奴はなんだか事情が判ってるような様子でそんなことを言ってる。 「だってだって……。」  メイの奴はまだ泣きやまず、レイの胸に顔を埋めていた。 「ほら、もう泣かないで。かわいい顔が台無しですよ。」  レイはまるで子供をあやすように優しくメイの涙を拭ってやってる。メイの方も少し 落ち着いてきたようだ。そうやってるとまるで……、甘えんぼの妹を優しい姉がなだめ てやってる図、そのものだった。 「おい、レイ、一体どういうことなんだ?」  あたしが問いただそうとすると、 「何を言っているのだ。この方は金色の女神様だぞ。」  メイがあたしの方を睨みながら言う。やはりメイはあれがレイだとは気づいてないら しい。あたしはどういうことか判らずレイの方を見るとレイはなにやら目配せをしてい るようだ。どうやらレイだと言うことをメイには言うな、ということらしい。  しかしなんだってまた……。て、いうかもしかしてメイの奴、妹のくせにレイの正体 も伊集院家の家訓のことも全然知らないってのか? 「そんな風に睨んだりするのはおよしなさい。あなたがそんな顔をしていると私も悲し いわ。ほら、笑って。ほむらさんと仲直りしなさい。」  レイは再びメイに顔を向けて諭すように言っている。 「う、うん。女神様がそういうなら……。」  そういうとメイはあたしの方を振り返った。普段はわがままで生意気なメイだけど、 あの金色の女神様とやらに化けてるレイに対してはやたら素直で従順になるようだ。  レイに諭されたメイはあたしの方を振り返って言った。 「おい、山猿っ。今日のところは金色の女神様に免じて許してやるが、この次は容赦し ないのだ!」  て、あのなぁ・・・、お前、仲直りしろって言われたんじゃないのか? それじゃ憎 まれ口を叩いてるようにしか聞こえねーぞっ!  で、あたしはメイの奴に言い返してやろうと思ったんだけど、レイがきつい目をして あたしを見ている。どうやら黙ってろってことらしい。  あたしはしぶしぶレイの意向に従うことにした。  するとレイは再びメイに向かって微笑みかけて、 「まあ、よく仲直りする気になりましたね。それでこそメイだわ。」  な〜んて言ってる。阿呆かこいつら。なんであれが仲直りの言葉に聞こえるんだよ っ!? 「仲直りもすんだことだし、そろそろ家に帰りなさい。ほら、お迎えの車が来ました よ。」  レイが言うのと同時に実にタイミングよく、校門の外に車がやってきて止まった。見 ると確かに伊集院家のものと思われるでかい外車だ。もしかするとレイに言われて待機 していたのかもしれない。さっきあたしがやっつけたメイの付け人たちも立ち上がって こっちを見ている。 「金色の女神様、また会ってくれるよね?」 「あなたがいい子にしていたら、きっとね。」 「うん、メイ、いい子にするのだ。」  そう言うとメイ迎えに来た伊集院家の召し使いたちに伴われて車に乗りこみ走り去っ て行った。 「おい、レイ、どういうことだ? それに金色の女神様ってのは一体なんだ??」  メイが立ち去った後、あたしは今度はレイに向き直って問いただした。どうも釈然と しないんだよな。 「ふふ、ごめんなさい、ほむら。メイにはメイの事情があるのよ。」 「だから、それって一体どういうことなんだ?」 「メイは子供の頃、ほむらにいちゃんが大好きだったのよ。」  レイは話しだした。 「ほら、メイは子供の頃、屋敷を抜け出して町に遊びにでかけたことが何度かあったの だけど、あの性格なもんでいじめっ子にいじめられることが多かったの。その時に助け てくれた男の子がいたのよ。」 「それがあたしだったって訳か。」 「そうよ。自分を助けてくれた男の子のことを私もよく聞かされたものよ。メイにとっ てその男の子はヒーローだったのね。」 「ふうん。でもそれが実は女だったからってあんなに怒ることはないじゃないか。連れ て帰って性転換させようなんざ無茶苦茶だぜ?」 「馬鹿ね。好きな男の子が実は女だったなんて知ったらショックを受けるに決まってる じゃないの。」 「す、好きな男の子って・・、あのなぁ、メイはまだガキだったんだぜ!」 「あら、年なんて関係ないわ。幼くても女の子にとっては恋は大切なものなのよ。あな たも女の子だったら判るでしょう?」 「おまえ、嫌み言ってるのか?」 「ほほほほ、そういえばあなたは子供の頃、自分が男の子だと思いこんでたんだったわ ね。」 「ああ、そうだよ。」 「でも女の子だと判ってからは女の子らしくしようとして随分苦労したみたいだったけ ど……、でもあんまり成功してないみたいね。一人称が“俺”から“あたし”に変わっ たのと髪を伸ばした以外は昔のまんまのほむらだもの。」 「ほっとけ。」  あたしは吐き捨てるように言った。それまで男だと思ってたのが急に女の子になれと 言われてもそんなうまくいく訳ないじゃねーか。  なにしろいきなり実は女の子だって知らされた時は、天地が引っ繰り返ったような気 分だったもんな。  取り合えず女の子らしくしなくちゃいけないってんで髪を伸ばして、それまで“俺” って言ってたのを“あたし”って言うようにして……。それで一応は女の子に見えるよ うになったと思うんだけど、性格までは変えられなかった。  でもあたしはそれでもいいと思ってんだ。あたしはそのままの自分の性格がすっごく 気にいってたし、あたしはあたしでいたかったから……。今更女の子らしくしようと思 っても不自然なだけだし、女だからって女らしくなんかしなくたって、、一人くらいあ たしみたいな奴がいたって別に構わないと思ったんだ。  そこへいくとレイの奴は器用だよな。男の時と女の時と性格から雰囲気から180度 変わっちまうんだから……。あいつの場合はあたしと違って子供の頃から自分の本当の 性別を知ってたらしいってのもあるけどな。  レイは言葉を続けた。 「メイは本当は淋しいのよ。子供の頃から屋敷の外にはあまり出して貰えずにいたし、 大勢の召し使いに取り囲まれてはいたけど、心を開いて話せる相手はいなかった。私も 伊集院家の跡取りということであまり構ってやれなかったし、メイにとっては決してと っつきやすいお兄さんでもなかった。  だから私は時々暇を見てこの姿になってメイの話し相手になってあげていたの。お兄 さんのレイはメイにとって近寄りがたい存在みたいだったけど、でもこの姿の私には心 を開いて甘えることが出来たのよ。  “ほむらにいちゃん”のことは何度も聞かされたわ。いつもいじめっ子をやっつけて くれてメイを守ってくれる・・ほむらにいちゃんがどんなに強かったか、どんなにかっ こよかったか・・・、メイはいつも目を輝かせてあたしに話してくれたのよ。」 「ふ、ふ〜ん。」  そんなにまで言われるとあたしとしてもちと照れちまうぜ。それにそんな話を聞くと なんだかメイの奴が気の毒な気にもなってきた。  さっきまではメイの奴、どうしようもない無茶苦茶なわがまま娘だと思ってたけど、 あいつにはあいつなりの気持ちがあって……。その気持ちが先にあってあいつを動かし てる……。やることが無茶苦茶なのに違いはないんだけど、あいつも結構苦労してるん だよな。 「で? メイはいまだにお前がレイだとは気付いてないのか?」 「さあ、それは・・・。もしかすると薄々感づいているのかも知れないわ。でもわたし が兄に戻ってしまうとメイには甘えられる存在がいなくなってしまうから……。」 「なるほどね。」 「じゃ、そろそろわたしも帰ることにするわ。メイはあんなだからまたいろいろあるか も知れないけど、少しくらいは大目に見てやってね。」  そういうとレイはふわっと空中に浮き上がった。登場した時と同様に空から帰るらし い。 「おい、ちょっと待て。」 「あら、まだなにか用があるのかしら?」 「このロボットたちはどうすんだ? 急に動かなくなっちまったけど。」 「ああ、それなら大丈夫。」  そういってレイは懐から何かを取り出した。 「このリモコンでこの二体のロボットは制御出来るのよ。」  そう言ってリモコンのボタンを操作する。すると今までじっと動きを静止していた二 体のロボットたちが動きだした。そしてメイロボは空へ、ゴッドリラーは地中へと姿を 消した。 「さっきもこのリモコンで二人のロボットの動きを止めたのよ。あのまま戦いが続くと メイが怪我をしてしまうんじゃないかって心配だったから……。」 「するってーと、さっきあたしを操縦席からおっぽり出したのはてめーの仕業だったの か?」 「ほほほ、そういうことになるかしら。」 「大体、そんな便利なものがあるんだったら、わざわざあたしをゴッドリラーに乗せて 戦わせなくても、最初からメイのロボットの動きを止めちまったらよかったんじゃねー のか?」 「それはそうなんだけど、、それじゃ新型ロボットのテストができないじゃない。」 「て、テストだとぅ!!」 「まあまあ、そう怒らないで。あなただって憧れのゴッドリラーを操縦することが出来 たんだから楽しかったでしょ? それでいいじゃない。それじゃ、ほむら、また会いま しょう。ごきげんよう。」  そういうとレイはすう〜っと空に向かって舞い上がって行った。  全く・・・、 喋り方とか物腰とかは男の恰好をしてる時と180度変身してるんだ けど、やっぱりこいつはレイだ、とその時私は思ったね。  兄(姉?)といい妹といい、本当にふざけた兄弟だぜ!!
エピローグ エピローグ  次の朝、起きて学校にやってきたあたしは思わず唖然としちまった。昨日のロボット 同士の決闘で壊れた筈の家や学校、たった一晩しかたってないのに全部、元通りになっ てたんだ。  思わず目をごしごしとこすってもう一度確かめてみる。確かに家も校舎も全部元通り だ。一体全体どうなってんだ? まさか昨日のあのロボット同士の戦闘が全部夢だった ……、なんてことはないよな。  なんかきつねにつままれたような心境で呆然と校門の前に立ち尽くしていると、後ろ から誰かが声をかけてきた。 「やあ、おはよう、ほむらくん。ごきげんは如何かな?」 「その声は・・・、レイか。」  あたしは振り向きながら答えた。見ると昨日メイが乗ってたようなでかい外車が止ま っていて、その車の傍らにレイが立っていた。今日はいつもの男装だ。 「驚いているようだね、ほむらくん。」  レイは楽しそうな声音で言った。 「お、驚くもなにもどうなってんだ、これは? 昨日のあれで校舎は完全に壊れてしま ってた筈だぜ。」 「ふふふふ、あ〜はっはっは。」  あたしの言葉を聞いてレイは笑いだした。 「おい、レイ、あたしの質問に答えろ!」 「これは失礼した。ほむらくん、君は伊集院家の力を侮っているようだね。伊集院グ ループの全力を上げて突貫作業で町も校舎も昨夜のうちに修復したのさ。ま、伊集院家 にとっては一晩で校舎を建て直すくらいのことは造作もないことなんだよ。」 「んな、馬鹿な……。」 「君たち庶民に信じられないのも無理はないと思うがね。ま、そんなに疑うのなら校舎 に入ってみるがいい。決して手抜き工事などはしていないから。昨日、壊れる前のその まんまの校舎になっている筈だ。一夜で建て直したと言っても決して秀吉の墨俣城みた いなことはないよ。」  まったく・・・。開いた口が塞がらないってのはこのことだぜ。でも確かに学校は昨 日と朝と同じようにちゃんと建っているし、昨日壊した筈の家も元通りになっている。 いやはや、伊集院家って奴は確かに想像を絶してるよな。 「では僕は用があるので失礼するよ。ほむらくん、ごきげんよう。外井、車を出してく れ。」  レイはそう言って車に乗り込むと去って行った。  あたしは暫くぼんやりとレイの車を見送ってたんだけど、車が見えなくなるとまた校 舎の方を振り返った。  ま、学校が元通りになって、和美ちゃんは喜ぶだろう。今日は和美ちゃんを慰めてや らなきゃいけないかと思ってたんだけど、その手間も省けたって訳だ。  とかなんとか考えてたら、  キーンコーンカーンコーン  チャイムの音が響き渡った。朝の始業の時間を告げるチャイムだ。今日も昨日と同じ ように天気は上々、青天の霹靂だ。あたしもいつもと同じように正義の生徒会長の仕事 を始めるとするか。  ちょうどその時、慌てふためいて校門に飛び込もうとする生徒がやってきた。 「待て待て待て待てえ〜い! ひびきの高校生徒会長、赤井ほむら只今見参!!!」  こうしてまたいつもと同じさわやかな一日が始まった。                               <FIN>
あとがき

 あとがきで〜す。この作品は初めてのときメモ2のSSということになります。  ときメモではいくつかSSを書いてましたが、最後に書いてから既に二年半近く経っ てます。本当に久々のSSで、結構、苦労した部分もあったのですが、やっぱり書くの は楽しいですね。(^_^)  さて、今回の主人公は赤井ほむらなのですが、赤井ほむらに関しては実はいろいろと 考えてたことがありました。子供の頃、なんで男の子の恰好をしてたのか、とか、茜は 子供の時と変わらず“ボク”と言っているのに、ほむらは何故“俺”から“あたし”に 変わったのかとか、あとメイはなんであれほどほむらに敵対意識を持っているのか?  とか……。  この辺のことに関して私なりに辻褄合わせを考えていたのですが、今回、ほむらSS を書くにあたって、それを流用してSSに仕立て上げてみました。  何故、ほむらがレイとあんなに親しいのか? と、いう点に関しては本文中では詳し くは書きませんでしたが、これにも一応裏設定を考えてあります。ここでは書きません が、ヒントだけ言っておくと二人とも子供の頃は男の子として育てられていた、という あたりがポイントです。(ほむらが子供の頃、男の子として育てられていた、というの も私が勝手に作った設定なのですけども……。(^_^;) ほむらの出生の秘密、みたいな ことも考えてたのですが、これも本文中では触れませんでした。)  あと……、これも私が勝手に思ってるんですけど、赤井ほむらって両親いなくて果樹 園を経営してる祖父母と一緒に暮してる……、みたいな気がしません?  なんで? と言われても困るのですが、なんとなく……、です。(^_^;)  これに関しては今回のSSではあんまり関係ないんですけど、裏設定の部分でそうい うことだと都合がよいのでした。(^_^;)  例えばほむらは子供の頃は男の子として育てられていたが、小学生の時に母が亡くな り、それをきっかけに孫娘を不憫に思った祖父が実は女の子だということを打ち明けた、 な〜んてね。 (実はほむらは仮性半陰陽だった、という手もあるのですが、これは今回はやめときま した。それでは何気に都合が悪かったので……。でもいずれこのパターンも機会があっ たらSSで使うかも……、判りませんけどね。)  因みにタイトルの後ろについてる“GX”というのは“G”というのはゴッドリラー の“G”、“X”はメイの“メ”です。(^_^;) なんかDXとかEXとかついてるゲー ムとかありますし、なんかつけたらかっこいいかな〜、と思ってつけただけで実はあん まり意味はないのでした。(^_^;)  と、いうことで久々のSSでした。またSSを書く機会がありましたらよろしくで す。(^_^)                           2000/03/13 眠夢
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