ときめきメモリアルショートストーリー

魔女っ子メグの贈り物





「あ、流れ星よ。ほら、メグ、見てごらんなさい。」
 遊園地からの帰り道、詩織が夜空を指差して言った。ナイトパレードを見て
きたこともあって、既に空はすっかり暮れてしまっている。
「え、どこ」
 愛は慌てて空を見上げた。
「ほら、あそこ! あ、あ、見えなくなっちゃった。流れ星が消える前に三回
願い事を唱えると願いが叶うっていうけど、残念だったわね。」
 詩織ががっかりしたように言った。愛の目に入ったのは流れ星が消える寸前、
ほんの一瞬のきらめきだけだった。
「ねえメグ、もう一度、流れ星が流れるまで待ってましょうか?」
「でももう暗いし……、あんまり遅くなるとお母さんが心配するから……。」
「それもそうね・・・。あ、メグ、また流れ星よ。」
「えっ?」
 詩織の指差す方に目を向けると、今度は愛にもはっきりと流れ星の姿が見て
取れた。愛は慌てて心の中で願い事を唱えた。
『あの人ともっと仲良くなれますように、あの人ともっと仲良くなれますよう
に、あの人と・・・・。』
「あれ? あれれ? どうなってるの??」
 愛は漸く三回目の願い事を唱え終えようとした時、意外そうな声をあげた。
今まで確かに空から地上に向かって流れていた筈の流れ星。それが空中でいき
なり動きを止めたのだ。詩織も目を丸くして空を見つめている。
「メグも見た? 今の流れ星なんだか変だったわね。」
「う、うん、流れ星が流れる途中で止まっちゃうなんて……。」
「他の星に紛れてもうどの星だったか判らなくなっちゃったわね。それにして
も見間違えたにしては二人一緒にってのは変じゃない?」
 詩織は首を傾げている。
「も、もしかしたら流れ星じゃなくて幽霊か人魂だったのかも……。」
「ちょっとやめてよメグ。メグが怖い話が好きなのは知ってるけど、私は苦手
なのよ。」
「あ、ごめんなさい、詩織ちゃん。」
「きっと遊園地で散々遊んだから疲れてるのよ。それで二人一緒に見間違えた
んだわ。きっとそうよ。」
「そ、そうね。」
「今日は早く帰って休んだ方がよさそうね。流れ星は今度にして帰りましょメ
グ。」
「うん。」


「この街ね、あの子がいるのは。」
 そう呟いた少女はほうきにまたがって宙に浮かんでいた。黒い三角の帽子を
被り、黒いマントをはおっていて、まるでおとぎ話に出てくる魔法使いような
いでたちである。詩織と愛が流れ星と見違えたのはどうやらこの少女だったよ
うだ。
「それにしてもこの街はなんだか凄く強いオーラを感じるわ。とても力の強い
精霊だか神様だかがこの街には棲んでいるみたいね。それに、人間の中にも強
いオーラを持ってるのが何人かいる……。なんだかここって面白い街だわ。」
 少女は街を見下ろして、暫く街の様子に注意を向けていたが、
「ま、そんなことはどうでもいいか。さっさとあの子を見つけて課題をすませ
てしまおっと。」
 そういうとほうきを滑らせて夜の街に降りて行った。


『どうして私ってこうなんだろう・・・。』  愛はベッドの上に身を投げ出して、小さく寂しげなため息をついた。好きな 人の前に出るとあがってしまってまともに口も利くことが出来ない……、そん な自分が情けなかった。  今日もそうだった。今日の遊園地行きは実は詩織の計らいだったのだ。夏休 みも終わり近くになって、詩織は愛が密かに思っているあの人を彼の友人の早 乙女好雄を通じて誘い出し、それとなく愛が彼と一緒にいられるように計らっ てくれたのだ。  だが一緒に乗った観覧車では彼が色々話し掛けてくれたにも拘わらず、愛は “はい”とか“いいえ”とか“さあ”とか言うだけで殆どまともな受け答えが 出来なかった。彼も呆れてしまったのかその後はジェットコースターにもお化 け屋敷にも詩織を誘ってさっさと行ってしまった。 『私も詩織ちゃんみたいに生まれていたら……。』  詩織は成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗で、その上明るくて思いやりがあ り、誰からも好かれる、愛から見たら殆どスーパーウーマンと言ってもいいよ うな少女だった。引っ込み思案で友達も殆どいなかった愛にも気さくに接して くれて、友達でいてくれる……。しかも愛の憧れのあの人とは幼馴染の間柄だ った。  愛は詩織に憧れつつも心の中では嫉妬の気持ちを持たずにはいられなかった。 そしてそれがまた愛にとって自己嫌悪の種にもなっていた。  その詩織に頼み込んで彼に紹介して貰ったのはバレンタイデーのことだった。 でも紹介して貰ってチョコレートを渡したまではよかったのだが、急に恥ずか しくなってしまって、愛は彼の前から逃げ出してしまったのだ。きっと彼は呆 れていただろう。 『こんな……、私みたいな女の子をあの人が好きになってくれる筈がないんだ わ……。でも……、でももし、私が詩織ちゃんみたいな女の子だったら……、 きっともっと自分に自信が持てて、あの人とも仲良くできるだろうに……。』  愛は目を瞑って頭の中にあの人のことを思い浮かべた。妄想の中で美化され た彼と愛が互いに見つめあっている。 『美樹原さん、実をいうと僕はずっと君のことが好きだったんだ。』 『えっ、そうだったんですか? 実は私もあなたが……。』 『本当かい? 美樹原さん、いや、愛・・・、嬉しいよ。』  そう言って愛を抱きよせる彼……。彼の顔がドアップになって愛の顔に近づ いてくる。 「きゃあ、は、恥ずかしいーーーっ!!!」  ドスン、バタン、ドテッ・・・。  思わず自分の妄想に赤面して叫んだ拍子に愛はベッドから転落してしまった。 「イ、イタタタ、くすん、私ってドジ・・・。」  愛は涙目になって、したたかに床に打ち付けたおしりをさすった。 「きゃはははは、あんた何やってんのよ。」  その時どこからともなく笑い声が聞こえてきた。どうやら愛のドジの一部始 終を見ていたらしく、なんだかとっても愉快そうな声である。 「だ、誰?」  愛は驚いてキョロキョロと周りを見回したが、部屋の中にいるのは愛一人だ った。 「ここよ、ここよ。」  声のした方に目を向けるとそこは窓の外だった。どうやら声の主は窓の外か ら部屋の中を覗き込んでいたようだ。 「何考えてたのか知らないけど、ベッドから落っこちるなんてよっぽど恥ずか しいこと考えてたのねー。」  そこにいたのは赤っぽい色の髪をショートカットにして黒いとんがり帽子を 被った愛と同じくらいの年頃の女の子だった。星型に傘の柄がくっついたよう な形の飾りがついたペンダントを首から下げている。  少女はまだおかしさが収まらないのかくっくっと笑っている。だが愛の部屋 は二階である。ベランダがある訳でもない。あの子はどうやって窓から部屋を 覗き込んでいるのだろう。 「あ、あなたは……。」 「きっと“えっち”なこと考えてたんでしょう? おとなしそうな顔して、人 は見掛けによらないわねー。」 「ち、違います!!」  愛は真っ赤になって叫んだ。本当は違わないのだけれど……。 「大体、あなた誰なんですか? 窓から勝手に人の部屋を覗き込むなんて… …。」 「あ、ごめんなさい。私はメグ。魔法使いなの。」 「ま、魔法使い??」  いきなり突拍子もないことを言われて愛は面食らってしまった。こういう場 合どのように反応すればいいんだろう……。 「あ、いきなり魔法使いなんて言っても信じられないか。なんせフェナリナー サが地上を離れて以来、地上の人間は魔法を信じなくなったって話だもんね。 じゃ、今、証拠を見せるわね。」  そういうとメグの体がゆっくりと上昇し始めた。それまでは肩の辺りまでし か見えてなかった少女の全身が次第にあらわになっていく。 「そ、そんな……、こんなことって……。」  愛は口元を両手で覆って硬直してしまった。窓の外で全身を現したメグはほ うきにまたがって宙に浮かんでいたのだ。 「どう、信じてくれた?」 「え、ええ……。」 「じゃ、部屋に入れて下さらない? 今日はあなたにとっても大切な話があっ てきたの。」  メグはいたずらっぽく笑って言った。 「単刀直入にいうわね。私はあなたの願いを一つだけ叶えて上げる為に地上に やってきたのよ。」 「願いを??」 「そう、これは魔法の国の検定試験なの。二級レベルの魔法技能の検定試験の 課題の一つなんだけど、魔法のコンピューターが選び出した人の願いを叶えて あげなくてはいけないって課題があるのよ。」 「魔法のコンピューター? 魔法の国にもコンピューターなんてあるんです か?」 「ん、まあ、魔法の力で作り出されたものだから、あなたたちの世界でのコン ピューターとは原理的には随分違うと思うけど……。そのコンピューターが私 の課題としてあなたを選んだ訳。なんであなたが選ばれたのかはよく判らない けど、私が“メグ”、あなたは“めぐみ”だから名前が似てるからかも知れな いわね。」 「ふうん」 「人間の願いを叶えてあげるということはその人に夢と希望を取り戻させてあ げることに繋がるし、そうすればその分だけフェナリナーサが地上に戻る日も 近くなる・・、なんて話だけど、フェナリナーサ自体魔法の国でも唯の伝説だ し、本当にそんなのがあるのかどうかは判らないんだけどね。」 「フェナリナーサってなんですか?」 「昔、地上にそういう国があったっていう言い伝えがあるのよ。なんでも人間 たちが夢と希望を無くしていった為に地上から離れていったんだって。そこは 魔法の総本山みたいな国だったらしいの。私達の住んでる魔法の国も元々はフ ェナリナーサの出張所みたいな場所だったらしいわ。これはあくまで伝説なん だけどね。」 「そうなんですか……。」 「ま、そんなことはどうでもいいのよ。あなた何か願い事はない? 私に出来 ることならなんでも一つだけ叶えてあげるわよ。」 「なんでも?」 「そうよ、なんでも。」  愛は考え込んだ。なんだか眉唾ものの話ではあるが、メグと名乗る少女がほ うきに乗って空を飛んでいたところを見ると魔法使いというのもまんざら嘘で はないらしい。もし本当に願いが叶うんだったらこんなにおいしい話は他にな い。いや、もしかするとこれは神様が愛に与えてくれた一生に一度のチャンス なのかも知れない。そう思うと胸の中に希望が膨らんできた。  そもそも愛はお化けや怖い話が好きというだけあって、魔法のような非日常 的な物に対しても受け入れやすい素地があったのかも知れない。その分、メグ の言うこともすんなりと受け入れられたのだろう。  今の愛の願い事と言えば、一つしかない。あの人ともっと仲良くなりたい。 出来れば両思いになって恋人同士になりたい。 「ほら、さっさと願い事を言いなさいよ。私、グズな子は嫌いなんだから。」  メグが急かすように言った。 「本当になんでも願いが叶うんですか?」 「そうよ、そう言ってるじゃない。」 「じゃ、じゃあ、私の恋、叶えて……、もらえますか……。」 「恋?」 「ええ、私、今好きな人がいるんです。それでその人と両思いになりたくて… …。」 「ふうん、両思いねぇ・・・。そりゃ、駄目だわ。」 「え? どうして? 今、なんでも願い事を叶えてくれるって言ったじゃない ですか?」 「そりゃ、そうだけど……。それはあくまで私の力がおよぶ範囲内でってこと よ。いくら魔法の力でも人の心を変えることは出来ないのよ。」 「そんな……。」  愛の期待は急速にしぼんでいった。魔法使いのくせに、早く願いを言えと急 かしたくせに、いざ願い事をいうとそれは駄目だという……。所詮、この世の 中そんなおいしい話は転がっていないということか……。 「あ、でも可能性が全くない訳じゃないわ。あなたが本当に心からその人のこ とを想っていて、その人もあなたに好意を持っていたとしたら、その気持ちを 強めることは出来るわよ。」 「ほ、本当ですか?」 「ええ、本当よ。でもその為にはまず、その人があなたに好意を持ってるかど うか、それを確かめないといけないわね。ほんの小さな蕾でもその人の心にあ なたに対する気持ちが芽生え始めていれば、脈はあるわ。」 「で、でも確かめるって言ったってどうすれば……。」 「そうねぇ・・・、、そうだ、その人に電話してデートにでも誘ってみれば?  今日はもう遅いから明日にでも。」 「え? わ、私が電話をするんですか?」 「そうよ。デートの誘いにOKしてくれれば、可能性はあるってことになるじ ゃない。」 「そんな・・・、男の人に電話を掛けるなんて……。私、は、恥ずかしくてそ んなこと、出来ません……。」 「馬鹿ねぇ、何言ってるのよ。電話くらい掛けられないで恋が叶う筈ないでし ょう?」 「そ、そりゃ、そうだけど……。」 「じゃ、今夜はそろそろ帰ることにするわ。明日はきっとその人に電話を掛け るのよ、判ったわね?」 「は、はい。」  メグは愛にウインクをするとほうきに飛び乗って夜の空に消えて行った。
 次の日。愛はベッドの上で正座をしていた。目の前にはコードレス電話が置 かれている。既に一時間近くも愛はずっと電話とにらめっこを続けていた。  何度かボタンを押し掛けたことはあった。だが番号が進む内に胸がドキドキ と高鳴ってしまい、なんだか胸の中が押し潰されそうな気分になって慌てて電 話を切ってしまうのだった……。 「だめだわ……。やっぱり電話なんてとても……。番号を押すだけなのに……。 詩織ちゃんに掛けるなら簡単なのに……。あの人のところに掛けるんだと思うと 緊張しちゃってとても掛けられない……。」  コンコン、窓を叩く音が聞こえた。振り向くとメグの顔が覗いていた。 「は〜い、愛、どう? 彼はデートの誘いにOKしてくれた?」  愛が電話を前にしているのを見て、メグはてっきり既に愛が電話を掛けたも のと勘違いしたらしい。 「そ、それが……。」 「どうしたの? 断られたの? なんか元気がないみたいだけど。」  メグはそう言いながら窓から部屋に入ってきた。 「ううん、そうじゃないの。まだなの。」 「まだって?」 「まだ電話してないの。」 「あ、そうだったの? じゃあさっさと電話しちゃいなさいよ。」 「そ、それが……、駄目なの。電話を掛けようとはするんだけど、番号を押し てる内に胸がどきどきしてきて指が震えて……、思わず切ってしまうの……。」 「何、言ってるのよ。電話するくらい簡単なことじゃないの。どうしてそのく らいのことが出来ないのよ。」 「ご、ごめんなさい。」 「いい? 私はあなたの手助けをすることしか出来ないのよ。あなたが本気に ならないと恋なんて絶対に叶わないんだから。」 「それはわかってるんだけど……。」 「仕方ないわね。電話を貸しなさい。私が掛けてあげるわ。」  そういうとメグは電話を取り上げた。 「彼の電話番号は?」 「あの、○×△−□□□□、です。」 「そう、電話は掛けられなくても彼の電話番号はちゃんと覚えているのね。え っと・・・○×△の・・・。」  言いながら、メグの指はピッポッパッと軽快にボタンをプッシュしていく。 ぷるるるるる 「あ、掛かったわ。はい、愛。」 「えっ、ちょっと、そんな」  いきなりメグから電話を渡されて愛は狼狽した。 「ちょ、ちょっと待って、まだ心の準備が……。」  ガチャッ 『もしもし?』  受話器から聞こえてきたのは女の人の声だった。どうやら彼のお母さんらし い。お母さんが出るというのは愛にとって予想外のことだった。一体どんな風 に話せばいいのだろう。頭の中が真っ白になって何も思い浮かばない。 『もしもし? ちょっと、どちらさんなんですか?』  愛が何も話さない為に受話器から聞こえてくる声はややいらだっているよう に聞こえる。 「す、すみません!! 間違いでした!!」  愛は慌ててそう叫ぶとガチャンと電話を切ってしまった。  部屋の中に気まずい空気が流れる。メグは暫く呆気にとられていたが、我に 返ると思い切り愛を睨みつけて言った。 「ちょっとどうしたのよ! 折角、電話を掛けてあげたのにどうしていきなり 切っちゃうのよ!?」 「ご、ごめんなさい。だ、だっていきなりおばさんが出るなんて思わなくって ……、何を話せばいいか判らなくなってしまって……。」 「何を話せばって、彼を呼び出して貰うだけのことじゃない!!」 「ご、ごめんなさい。」 「仕方ないわね。じゃあ、もう一度掛けてあげるから電話を貸しなさい。」 「で、でも……。一度おばさんには私の声聞かれてるし……。また掛けたりな んかしたら変に思われるわ。」 「あんた、何言ってんのよ? やる気あんの!?」  メグに怒鳴りつけられて愛は思わず涙ぐんでしまった。 「だ、だって・・・だって・・・。」 「泣いてもしょうがないでしょうが!! あんたがしっかりしてくれないと私 だって困るのよ。こんなんじゃとても課題をクリア出来ないわ。私の検定試験 はどうしてくれるのよ!!」 「そ、そんなこと言われたって……。」 「あ〜あ、こ〜んなうじうじしたどうしようもない子を割り当てられるなんて ……、私、運がなかったわ……。」  メグは天を仰いで嘆息するように言った。 「本当にこれ二級の課題かしら……。こんな間抜けな子ありゃしない。一級の 課題にしたってこんな子を割り当てられたら厳しいくらいよ。」  そこまで言わなくても……、と、愛は少々腹が立った。そんなの私に関係な いじゃない。自分が勝手にやってきたくせに……。  メグは苛立たしげに部屋の中を行ったり来たりしている。 「あ、あの・・・。」 「な〜に?」  メグは思いっきり声にトゲを含ませて、愛の方を振り向いた。 「あの、じゃ、願い事を変更するってのはどうかしら?」 「変更?」 「た、例えば、夏休みも今日を入れてもう四日しかないし、私、まだ宿題出来 てないし、宿題を片付けて欲しいって言ったら……。」 「駄目よ、そんなの。」 「だ、だめですか?」 「そうよ。人間の世界の問題なんて私には解けないわ。いくら魔法の力を持っ ていても自分が解けない問題を解くことなんて出来ないのよ。」 「そ、そうですか……。」 「それにあなたの一番の願い事を叶えるんでないと、課題の評価が下がってし まうわ。」 「・・・・。」 「仕方ないわね。じゃあ、私がお母さんと話すから、彼が電話に出たら代わる ってことでどう? それならいいでしょ?」 「も、もういいです・・・。」 「それでも駄目なの?」 「だって……、だって……。私なんて駄目よ。彼が電話に出たら余計にあがっ ちゃって何も話せなくなるに決まってるもの……。もしデートに誘えたとして も、まともに口を利くことも出来なくて、彼を退屈させちゃって・・・、嫌わ れるに決まってるわ……。」 「なによ、それ。それってつまりあなたの気持ちって本気じゃないってことじ ゃないの?」 「そ、そんなこと……。」 「あなたは自分の夢想の中だけで“自分が恋してる”って気分に浸っていたい だけなのよ。そんなの本当の恋じゃないわ。」 「そんな……、ひどいわ。」 「何がひどいのよ。行動も何もしないで“自分なんか嫌われるに決まってる” なんて思ってる人に恋をする資格なんてないのよ。」 「もう、やめて!」  愛は耳を塞いで叫んだ。 「ま、聞きたくない気持ちは判らないでもないけどね。今日は帰るわ。これ以 上あなたに何を言っても無駄でしょうから……。宿題でもやりながらゆっくり 考えなさい。」
 それから二日間、メグは姿を見せなかった。その間、愛は残っていた宿題を やりながら過ごした。  しかし宿題はなかなかはかどらなかった。メグに言われた言葉が、愛の心に まるで小さなトゲのように突き刺さっており、いかに宿題に没頭しようとして も、愛の心にさざなみをたてるのだ。  詩織も内気過ぎる愛を心配して今まで何度かか、もっと積極的になるように 言ってくれたことがあった。が、詩織は元来優しい性格をしている為、愛にき つい言葉を言ったことは殆どなかった。  メグのように言いたいことをはっきりと言う友人は愛の周りにはいなかった。  自分が引っ込み思案でいつもうじうじしてて……、そんなことは判ってる。 愛自身、そんな自分が好きではなかった。しかしそれをはっきりと面と向かっ て他人から言われたのはやはりショックだった。  自分を変えたい、もっと明るい女の子になりたい、そのように夢想したこと はいままで数知れなかった。あの人とも妄想の中でだけでなく、現実の世界で 一緒の時間を楽しく過ごせるようになりたい……。  でもどうしようもないのだ。心の中ではそのように思っていても、明るく振 る舞いたいと思っても気持ちがついていかない。夢想の中では自由に羽ばたく ことが出来ても、現実に戻ってくると体中ががんじがらめに縛り付けられたよ うに自由に振る舞うことが出来なくなる。 『生まれつきの性格なんだから仕方ないじゃないの。そう簡単に性格が変えら れるなら苦労はしないわ。』  心の中でメグの言葉に反論してみる。だがメグの言葉に反発しながらも、そ れを肯定しそうになる自分がいた。それがさらに愛をイライラさせるのだ。  メグが再び愛の前に姿を現したのは、9月1日の日曜日。夏休み最後の日だ った。 「愛、久しぶり。宿題はかどってる?」  宿題の手を止めて目を上げると窓の外にほうきにまたがって宙に浮かんでい るメグの姿が見えた。 「メグ・・・」  愛はそれだけ言って思わず顔を伏せた。 「なーに? この間、私が言ったことまだ怒ってるの? 私の顔なんてもう見 たくない、なんて思ってた?」  愛の様子を見てメグは少し声に皮肉な調子を滲ませて言った。 「だ、だって、だって……。あなたには判らないわ。内気な女の子の気持ちな んて……。あなたみたいな人に……。」 「ふうん、言ってくれるじゃないの。」 「あなたの言ったことは確かに当たってる……。私だって、今の自分が好きな 訳じゃないわ。でも……。」 「そう思ってるなら、どうして自分を変えようと思わない訳?」 「思ったわよ! で、でもどうしようもないの。生まれつきの性格なんてそう 簡単に変えられやしないのよ!」 「なるほど。怠け者の言い訳としては都合のいい言い分よね。」 「なっ・・・。」 「それじゃ、あなたは一生そのままで生きて行く訳? 自分の気持ちもはっき り言えないままで、あなたの友達の詩織さん・・・だっけ? 詩織さんみたい に自分の甘えを許してくれる優しい人のスカートの陰に隠れて……。情けない とは思わないの?」 「それは・・・・。」 「あなたに必要なのはほんの少しのきっかけとほんの少しの勇気なのよ。一歩 先に進むことが出来ればきっと二歩目は簡単に踏み出すことが出来る。私は魔 法であなたの願いを叶えてあげなくちゃいけない立場だけど、あなたが勇気を 持とうとしないで今のまま逃げることだけ考えてるなら、魔法なんてなんの力 にもなれないのよ。」 「・・・・・。」 「本当に自分を変えたいと思うなら、あなた自身が自分で足を踏み出そうとい う気にならないとどうにもならないの。」  メグの言葉は愛の心にズキンと突き刺さった。メグが突きつけた言葉は今ま で愛がいつも目をそむけようとしてきた事だった。 「変わりたい……。強くなりたい……。私、私……。でもどうすれば……。」 「あなたに本当にその気持ちがあるのなら……、まだ見込みはあるわ。ねえ、 まだ部屋の中に入れてくれる気にはならない?」 「あ、ごめんなさい。」  そう言って愛は窓を開けた。 「電話が駄目だとすると、彼に直接アプローチするしか方法はないと思うけど、 何かいい方法はないかしら?」  部屋に入ってきたメグはベッドに腰掛けて思案を始めた。 「とにかく彼に接近出来なくちゃ話にならないんだけど……。」 「あ、明日から二学期が始まるから……。」 「二学期って?」 「あの、学校です。学校が始まるんです。夏休みは今日までで……。」 「そっか。学校に行けば彼と顔を合わせるチャンスもあるかも知れないわね。」 「ええ・・・。」 「じゃ、こういうのはどう? 明日学校が終ったら一緒に帰ろうって彼を誘っ てみるの。どう?」 「で、でも……。」 「何もいきなり告白しろって言うんじゃないわよ。一緒に帰ろうって誘うだけ。 それも出来ないの?」  愛は暫くじっと考え込むように目を伏せていた。そして目を上げると言った。 「や、やります……、私、やります!!」 「そう来なくっちゃ、じゃ明日、頑張るのよ。」
 9月2日、始業式の日の放課後。愛は大急ぎで教室を出るとダッシュで校門 のところに駆けつけた。校門の脇ではメグが待っていた。ここで彼を待ち伏せ て“一緒に帰ろう”と声をかけるという計画を立てていた。 「愛、心の準備はどう?」 「う、うん・・。」  彼より先に校門に着かなくてはと思って、急いで走ってきたためまだ息を切 らしている。 「ほら、愛、落ち着いて。まだ余裕はあるわよ。言う言葉は覚えてるわね。」 「う、うん。」  そういうと愛は一つ深呼吸をした。 「“あのう、一緒に、帰りませんか?”」  愛は暗唱するような口ぶりで言った。たったこれだけの言葉を昨日から何度 も何度も復唱していたのだ。 「そう、それでいいのよ。あなたはそれだけ言えばいいの。あとは私が魔法で フォローしてあげるから安心して。」 「う、うん。」  やがて校舎から一人、二人と家路に着く生徒が姿を見せはじめた 「どう、あの中に彼はいる?」 「う、ううん、まだ・・・・あ、来た!!」  愛が指差したその男の子はさほど見栄えがいい訳でもなく、特に女の子が惹 きつけられるような男の子には見えなかった。  だが魔法の力を持つメグにはその少年が持つ隠れた資質が見えていた。それ はまだ表に出てはいないが、いずれ花開けば誰もが彼を無視出来なくなるだろ う。 『ふうん、あの男の子が愛の片思いの相手か……。なるほどね。この街に初め てきた時、強いオーラを持ってる人間の気配をいくつか感じたけど、あの男の 子もその一人だわ。愛ったら、なかなか男の子を見る目は持ってるみたいね。』  校舎を出て彼が校門に向かって歩いてくる。校門の陰に隠れている愛の心臓 は早鐘のように高鳴っていた。 『ど、どうしよう、どうしよう……。彼が近づいてくる。』  愛の緊張は最高潮に達している。メグはそんな愛の肩に手を置いた。 「さあ、今よ。肩の力を抜いて。彼に声をかけるのよ。」 「で、でも・・・。」  愛の肩がガタガタと震えているのがメグの掌に伝わってくる。彼の方に足を 踏み出そうとするのだが、足がすくんでしまって動けない。あんなに固く決意 したというのに……、いざとなると愛の体はいうことを聞かなくなった。 「本当にしようのない子ね。さあ行きなさい。」  そういうとメグはドンと愛の背中をついた。 「あ、あっ。」  足がもつれて転びそうになったが、なんとか踏みとどまった。 「美樹原さん、どうしたの?」  すぐ近くで声を掛けられて顔をあげるとそこには彼が立っていた。よろけて いる愛を不思議そうに見つめている。 「あ、あ、あの……。」  愛の体に緊張感が走った。やっとのことで愛は声を振り絞ったが、その後の 台詞が言葉にならない。なんだかのどがカラカラに乾いて、身体中が熱くなり、 思わず彼の前から逃げ出したい衝動にかられた。  でも今、言わなければ……、言えなければ……、一生後悔することになるか も知れない。このまま引っ込み思案で臆病な女の子で終わってしまうのか、そ れともその殻を破るきっかけを掴めるか、今がその瀬戸際なのだ。  愛はともすれば挫けそうになる自分を叱咤しながら、やっとの思いでその言 葉を口にした。 「あの……、一緒に……、あの……、帰りませんか……?」 『言えた!!』  消え入りそうな声でどもりながらだったが、確かに自分がその言葉を口にし たことを愛は自覚した。メグに背中を押して貰いはしたが、生まれて初めて自 分から彼に誘いの言葉を掛けることに成功したのだ。愛の体から急速に緊張感 が抜けて行った。それに変わって大仕事を成し遂げた後のような充足感が体の 中に広がってゆく……。 「よし、一緒に帰ろう。」 「えっ、い、今なんて……。」 「一緒に帰ろうって言ったんだよ。どうしたんだい? 美樹原さんの方から誘 ってくれたんだろ?」 「は、はい。ありがとうございます。」  愛は顔を赤らめながら、そう答えた。  木陰でメグはその様子を見守っていた。そして彼が愛と一緒に歩いていくの を安堵したような表情で見送った。 「本当に世話の焼ける子なんだから……。でも、愛、よく頑張ったわね。それ に彼は愛の誘いを断らなかった。愛、あなたにはまだ可能性があるってことよ。 さてと、いよいよ私の出番のようね。」  そういうとメグは胸のペンダントを握り締めた。目を瞑り精神を統一するよ うに大きく一つ息を吐く。すると次第にメグの全身を包みこむように白い光が 立ち上り始めた。 「ピピルマピピルマ、シャランラ〜〜〜ッ!!」  メグが呪文を唱えると胸のペンダントが光を放ち、先端に星型の飾りがつい たステッキに変化した。メグはそのステッキを高々と空に向けてさし上げた。 メグの体から発せられた光がステッキの先端の星型の飾りに凝集されていく。 それはやがて星屑のような無数の小さな光の粒に変化してステッキの周囲を回 り始めた。メグはもう一度深呼吸をすると再び呪文を唱えた。 「マハリクマハリタ! 大いなる魔法の力よ! どうか愛の願いを叶えてあげ て!!」  呪文に呼応するように星屑は一瞬はじけたかと思うと、再び集まって一つの 光の塊となった。メグが魔法のステッキを振ると、光の塊は愛と彼が歩み去っ た方向へ、まるで彗星のように長く尾を引いて空を駆けて行った。  その光の行方を見届けると、メグはふっと息をついてその場に座り込んだ。 魔法を使ったことによる疲労感が全身を満たしている。メグは光の飛び去った 方向に目を向けると呟いた。 「さあ、愛、後はあなた次第よ。頑張って・・・。」  愛は彼と二人、肩を並べて歩いていた。 「そのキーホルダー、子猫? 詩織が美樹原さんは動物好きだって言ってたけ ど。」  暫く二人とも黙って歩いていたのだが、彼は愛がカバンにぶら下げていたキ ーホルダーを見つけたらしくそう言って愛に声を掛けてきた。 「え、ええ。犬とか猫とか動物って好きなんです。なんだか可愛くって……。」 「ふうん、そうなんだ。」  笑顔で答える彼。その笑顔を見ていると愛は自分の心になんだか勇気が湧い てくるのを感じた。 「はい、家ではムクっていう犬も飼ってて、凄くいい子なんですよ。それとぬ いぐるみも色んな動物のが沢山あります。動物園で動物を見るのも好きです。 コアラもいいけど、お猿さんとか……、仕草がかわいいんですよね。あ、こん な話、つまらないですか?」 「いや、そんなことないさ。動物の好きな人に悪い人はいないよね。」 「そ、そんな……。」  愛は自分で自分が信じられなかった。彼に声を掛けたのはよいものの、一緒 に歩いていても何を話していいか判らなくなって気まずい雰囲気になるのを恐 れていたのだ。それなのに……、最初の内はややぎこちなかったものの、今は こんなに彼との間で会話が弾んでる……。まるで自分が自分でないような高揚 感に愛は包まれていた。 『これがメグの魔法の力なのかしら……。』  でもそんなことはどうでもよかった。愛にとって今のこの時間、彼と並んで 歩くこの瞬間、それは生まれて初めて経験するとても大切で幸福な時間だった。
 愛は近所の公園で彼と分かれた。 「また……、学校帰りに誘ってもいいですか?」 「うん、いつでもいいよ。じゃ。」  そう言って彼は帰っていった。愛は彼の背中が見えなくなるまで、いつまで も彼の後ろ姿を見送っていた。  そんな愛の肩に手が置かれた。振り向くとそこにはメグが立っていた。 「メグ・・・。」 「愛、やれば出来るじゃない。私の言った通りだったでしょう。」 「メグ・・・ありがとう。メグが魔法で私を助けてくれたのね。私・・・私・ ・・。」  愛は思わずメグに抱きついた。涙の雫が一粒ニ粒、頬を伝って行く。メグは 愛の髪を優しく撫でながら言った。 「私の力じゃないわ。あなたの力よ。女の子はみんな心の中に魔法を持ってい るのよ。私はあなたをほんの少し手助けしただけ……。魔法の力はね、夢と希 望を信じる心を持った人にしか力が及ばないの。あなたが魔法の力を感じたの だとしたら、それはあなたにその資格があったからよ。」 「メグ……。」 「ほら、もう涙を拭いて。」 「う、うん。」  愛はメグから体を放して両手で涙を拭った。 「さてと。課題もなんとかなったみたいだし、そろそろ私は帰ることにする わ。」 「えっ? 帰るって……、魔法の国へ?」 「そうよ。課題が終ればもう地上にいる意味はないもの。さっさと帰って教官 に採点して貰わなくっちゃ。誕生日までになんとかなってほっとしたわ。」 「誕生日って?」 「愛と同じ、9月5日よ。その日が課題の期限なの。課題はこれだけじゃない から、さっさと帰って片付けないと……。」 「そうだったの……。でも、もう会えなくなっちゃうの?」 「ん、まあそういうことになるかな。」 「私……、メグと別れたくない……。」 「かわいいこと言ってくれちゃって……。ま、私も最初は愛のことどうしよう もない女の子だと思ったけど、今のあなたは好きよ。何故、魔法のコンピュー ターがあなたを選んだのか、今になって判った気がするわ。あなたはきっかけ が必要な女の子だったのよ。愛、あなたはとても素敵な女の子よ。今日の気持 ちを忘れないで。頑張ってね。」 「うん……。メグも検定に合格するように祈ってるわ。」 「ありがと。じゃ、私はそろそろ行くわ。・・・えいっ!」  メグの声とともにメグの手に魔法のほうきが現れた。 「あ、ちょ、ちょっと待って!」  愛は今にも飛び立とうとするメグにそう言うとカバンにぶら下げてあった、 子猫のキーホルダーを取り外してメグの手に握らせた。 「これ……。三日早いけど誕生日のプレゼント。このキーホルダーが彼との会 話のきっかけになってくれたの。だから……お礼もこめて……。」 「でも……、それじゃ、あなたにとっても記念になる物なんじゃないの?」 「ううん、いいの。メグに持ってて欲しいの。」 「ありがとう。じゃ、私も。愛、手を出して。」  愛が両手を出すと手の上に白い煙が立ち上ってその中から何かが現れた。見 るとメグが付けているペンダントと同じ飾りのついたキーホルダーだった。 「今日の記念に。」 「ありがとう、メグ、大切にするわ。」 「それじゃ、私は行くわ。」  そう言うとメグはほうきに飛び乗った。 「さよなら、愛。苦労はしたけど、楽しかったわ。」  メグは愛にウインクをすると、そのまま空に舞いあがって行った。 「さよなら、メグ! 私、あなたのこと一生忘れないわ。」  メグは空の上からいつまでも手を振っている愛を見ていた。 『ごめんね、愛。でもそういう訳にはいかないの。あなたには言わなかったけ ど、私に関する記憶は課題が終れば消されてしまうのよ・・・。』 『でも私のことは忘れてしまってもあなたの心の中に生まれた夢と希望は決し て忘れないでね。今のあなたなら心配ないとは思うけど。』  メグはなんだか立ち去り難い気持ちにかられて暫く上空でうろうろしていた が、やがてそんな気持ちを振り払うように魔法の国を目指して空を駆けて行っ た。
エピローグ  三日後・・・。 「メグ、メグ!」  廊下で呼び止められて、愛は一瞬、キョロキョロと周りを見回した。 「メグったら、どうしたの?」 「あ、詩織ちゃん・・・。」  漸く愛は自分が呼ばれていたのだと気がついた。なんだか誰か他の人のこと のように思えたのは何故だろう。詩織ちゃんはずっと前から私のことをメグっ て呼んでるのに……。 「ううん、なんでもないの。」 「そう? ならいいけど……。はい、これプレゼント。今日誕生日だったでし ょ?」 「あ、ありがとう、詩織ちゃん。」 「最近、メグ、少し変わったわね。」 「え? そ、そう?」 「うん、なんだか少し明るくなったというか……。」 「あっ、美樹原さん!」  その時、誰かが愛に声を掛けた。 「あら、メグ、呼ばれてるわよ。はは〜ん、もしかして明るくなったのは彼に 関係があるのかな?」  詩織はそう言ってポンと愛の肩を軽く叩くと教室の中に消えて行った。  愛に声を掛けたのは愛の憧れのあの人だった。 「は、はい、な、なんでしょう?」 「今日、誕生日だよね? はい、プレゼント。」 「・・・! あ、ありがとうございます。あ、開けてもいいですか?」 「いいよ、開けても。……どう?」  彼に渡された包みを開けると中から出てきたのは子猫のぬいぐるみだった。 「この間の子猫のキーホルダーを思い出してこれを選んだんだけど……。」  彼は少し照れたような顔をして、そして少し不安そうに愛の反応を伺ってい る。 「欲しかったの、これ……。ずっと大切にします。ありがとうございました。」  愛は教室に入って窓際の自分の席に座ると、今、彼から渡された子猫のぬい ぐるみをそっと抱きしめた。なんだか心の中がとても暖かいもので満たされて いくような気がする・・・。  窓からは柔らかな秋の陽射しが愛を包み込むように降り注いでいる。その陽 光に照らされて愛のカバンに下げられているキーホルダーが、まるで愛を祝福 するかのように一瞬キラリと輝いた。                            <Fin>
  初出 1996年9月5日   PC−VAN アーケードゲームワールド   #3−6ときめきメモリアル #1829〜#1833   このSSは上記のボードに掲載されたものに、一部加筆修正を加えたもの   です。

あとがき


 このSSは昨年の九月五日、美樹原さんの誕生日用SSとして書いたもので す。 で、何故か魔女っ子物……。美樹原さんは詩織から“メグ”と呼ばれてますし、 “メグ”=“魔女っ子メグちゃん”という極めて単純な連想からこういうお話 を作ってしまいました。  唯、タイトルは『魔女っ子メグ・・・』となってますが、設定の方は『姫ちゃ んのリボン』をイメージしてました。(登場人物の性格は全然違いますけど。) で、最初は魔法の国からやってきたメグは、美樹原さんに何か魔法のアイテムを 渡す・・・、というようなパターンを考えていたんですよね。でもうまくストー リーを作れなかったので“願いを叶える”“しかしメグの魔法には制約がある” という形に変更しました。  それから御存じの方は御存じだと思いますが、フェナリナーサというのはアニ メ『魔法のプリンセスミンキーモモ』から借用してます。魔法の呪文等もいろい ろ借用してます。  ムクも登場させて魔法の力で美樹原さんと喋れるようになったりとか、そうい う設定も最初は考えていたのですが、うまく入れられなくて諦めました。  それにしても美樹原さんってさほどの思い入れも持ってなくて、ゲーム中では どっちかというとお邪魔虫キャラみたいに思っていたのですが、このSSを書い てみて、なんだか少し見方が変わったように思います。SSの主人公に取り上げ るということはそれだけそのキャラについて、色々考察しますし、その分感情移 入してしまうという面もあるのかも知れません。  SSの出来の方は、舌足らずな部分とか強引な部分な部分も多くて、やっぱり イマイチかなぁ、という気がしています。頭の中で思い描いていることをなかな かうまく表現出来ないのはとってももどかしい気分ですね。もう少し文才があれ ば……、と、SSを書く度に思います。  今回HPに転載するに当たって少し手を入れてみたのですが、やはりうまく書 けない部分が多くて、本当に文章を書くのは難しいです。  でも例え下手でも自分の書いたSSはみんな私の宝物です。(^_^)  ではでは、最後まで読んで下さったみなさん、どうもありがとうございまし た。                       1997/07/12 眠夢
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