ときめきメモリアルショートストーリー

緑の罠


〜プロローグ〜

「ふふっ、ついに完成したわ。」  彼女は目の前の培養液槽の中でうごめく、緑色をした植物のような、しかし 巨大な猛獣のようにも見える、謎の生物を前にして会心の笑みを浮かべた。 「おまえは私の最後の切り札、この計画の成否によって私の運命もそして世界 の運命も変わることになるのよ」  謎の生物を見つめる彼女のその目は、狂気に彩られた如く怪しく光輝いた。  彼女の名は紐緒結奈。弱冠19歳、まだ少女と呼んでもおかしくない年頃の 女である。しかしその胸の中では他の人間が決して想像もしないような巨大な 野望が渦巻いていた。  かつて天才的な科学者ドクターヘルが、悪の秘密結社ショッカーが、ギャラ クターを率いたベルクカッツェが、そしてその他のあまたの野心家や秘密結社、 マッドサイエンティストたちが夢に抱き、しかし果たすことが出来なかった壮 大な夢、世界征服。その究極の野望が彼女の胸の中でふつふつと燃え盛ってい たのだ。  彼女がこのような野望を抱くに至った経緯については、多くの研究者によっ てさまざまな説明がなされていることもあり、他の研究者の論に譲ることにし てここでは特に触れない。だが彼女の特筆すべき点は世界征服という常人から 見れば殆ど妄想としか思えない巨大な野望を実現するに足るだけの科学的な才 能を持っていたということであろう。  だがその巨大な野望を実現する前に、結奈にはまだやらなくてはならないこ とがあった。  この時期、彼女の心には迷いが生じていた。かつては世界征服という究極の 野望、それに比肩するものはこの世に存在せず、その実現の為なら他の何を捨 てても悔いはないと考えていたのだが、その考えに揺らぎが生じていたのであ る。  それは彼女の高校時代にまで遡る。高校時代、彼女の心に世界征服とは別の 全く毛色の違う、ある野望が芽生えたのである。そして一時はその野望が実現 するならば、彼女の究極の野望、子供の頃からの夢であった世界征服でさえ、 諦めてもよいとまで思い詰めていたのだ。  だがその野望は実現出来なかった。彼女の前に現れたピンク色の髪のボーッ とした少女……、その少女の出現により、結奈の夢は呆気なく打ち砕かれてし まったのだ。  あれから一年、しかし彼女の心の中では既に潰えたかと思われる野望がまだ しつこくくすぶっていた。彼女は世界征服実現の為の準備に心を砕くことによ って、心の中に残る過去の野望の幻影を振り払おうと努めてきたのだが、それ は決して消え去ることはなく、彼女の心の片隅にしっかりと根をおろしていた のだ。  このような不安定な精神状態のままでは、世界征服を成すにも支障が生じて しまう……、それが彼女にある行動を決意させた。 『今ならまだ野望を達成するチャンスが残っているかも知れない。あの邪魔者 さえ抹殺すれば……。』  その為に完成させたのが、今、結奈の目の前の培養槽の中にいる謎の生物だ った。“ヘッドイーター”と名付けられたその生物はバイオテクノロジーによ って作られた食虫植物の変異体だった。しかし普通の食虫植物とはサイズが違 う。体長は2メートル。細い茎の先には直径1メートルにもおよぶ巨大な球状 の捕食器官があり、口を開けば、小錦、曙のような異常に巨大なサイズの人間 ならいざ知らず、普通サイズの人間であれば、一人くらい楽に飲み込むことが 出来るだろう。獲物を捉えることだけに、特化した形態を持つ恐るべき生物兵 器、それが彼女の作り出した殺人植物“ヘッドイーター”なのだ。  そしてこのヘッドイーターは今回の作戦の切り札なのだ。結奈の今や仇敵と さえ言える、ピンクの髪の少女が食虫植物に対して異様な程の関心を見せると いうことは調査済みだった。あのボーッとしたとろい小娘さえ抹殺してしまえ ば、きっと自分の望みは成就出来る。 「古式ゆかり、あの女さえいなくなれば、私の野望もまだ達成可能なのよ。見 ていなさい、来週にはおまえをヘッドイーターの養分にしてくれるわ。ふふふ ふふふ、は〜っはっはっは、ほお〜っほっほっほっほ!」  結奈の高笑いが部屋いっぱいに響き渡った。

(1)

「申し訳ありません、急いだのですけど遅れてしまいました・・・。」  ゆかりはいつものようにゆったりとした口調で、いかにも申し訳なさそうに 俺に言った。 「いや、おれも今来たばかりだから……。」  高校時代から何度も繰り返された会話、今や恒例となっているやり取りだっ た。  ゆかりと初めて出会ったのは高校一年の時の時だった。俺はテニス部に所属 していたのだが、その日、混成ダブルスの練習があり、その時たまたま俺のパ ートナーになったのがゆかりだった。  彼女のゆっくりとした喋り方に最初は驚いた。 『なんだか変な女の子だな・・・』 というのが俺の彼女に対する第一印象だった。だがいつしか俺は彼女に惹かれ ていった。いつもボーッとしていて、何事もマイペースの彼女だったが、彼女 の純真無垢な笑顔には俺を惹きつけて離さない何かがあった。  そして高校生活の三年間、二人の時をいくつも重ねて、卒業式の日に伝説の 樹の下で彼女からの告白を受け、俺達は正式に付き合うようになったのだ。  高校時代、俺はインターハイで優勝を果たし、テニス協会の関係者からも将 来を嘱望されるテニスプレイヤーだった。そのこともあり、テニスでプロの道 に進むことを考えたこともあった。だがおれはテニスでプロになるよりもゆか りとともに過ごす人生を選んだ。ゆかりとともに歩いていけるならば、テニス に未練はなかった。  今はゆかりと同じ二流大学に通いながら、彼女の実家の不動産会社で社長見 習いを続けるという忙しい毎日を送っている。その忙しい合間を縫ってゆかり と過ごす時間もなんとか確保しようと努力している。しかしそれもままならず、 今日のデートも実に久しぶりであった。  これもゆかりとの将来の為とは言え、彼女と過ごす時間がなかなか取れずに いるのは、俺にとってはかなり苦痛なことであった。  今日、休暇を取れたのも、古式不動産の社長でもある、ゆかりの父が海外出 張に出かけた為だ。いつもは社長の厳しい監視下に置かれていて、自由な時間 もなかなか取れないのだが、彼が出張中ということもあり、ゆかりの母が、 「たまにはゆかりと一緒に息抜きをしてきたら?」 と、言ってくれて、ゆかりを彼女の大好きな植物園に誘ったのだ。 「今日は食虫植物展があるんだそうですね。私、とっても楽しみにしてたんで すよ。」  ゆかりはにこにこしながら言った。高校時代からのことなので今更驚かない が、彼女は食虫植物が大好きで、以前植物園でデートしたおりにも食虫植物に 異常な関心を示してボーッと見つめていたことがある。 「勿論、だから今日ゆかりを誘ったのさ。」 「まあ、それはそれは、ありがとうございます。」 「そろそろ入ろうか。」 「はい、ねむさん。ではゆっくりと参りましょう。」  食虫植物展の開かれている温室の中には様々な種類の食虫植物が並んでいた。 ゆかりは目を輝かせてそれらに見入っている。 「面白い形の植物がたくさんありますねぇ。素敵ですねぇ。」  ゆかりが嬉しそうに呟いた。普通の女の子なら花や草木に関心を示すことは あっても、食虫植物に興味を持つというようなことは少ないように思うのだが、 そこがゆかりのゆかりたるところ、、彼女は食虫植物だとかはにわだとか、変 な形の物をボーッと見つめているのが大好きなのだ。 「まあ・・・、ねむさん、ちょっと、来て下さい。」 「えっ?」  ゆかりの声に俺は振り向いた。 「ほら、これ見てください。大きいですねぇ・・・。こんな大きな食虫植物が あるなんて、私今まで知りませんでした。」  ゆかりが指さす方向を見ると、なるほどそこには信じられない程巨大で異様 な形をした植物が展示されてあった。その植物はなんと表現したらいいのか、 緑色のおたまじゃくしがしっぽで立っているような、或は芽を出したばかりで まだ双葉が開く前の若芽のような、そんな形状をしており、しかもゆかりの言 うとおりかなりの大きさである。背丈は俺よりも大きいくらいだし、先端の恐 らく捕食器官だと思われる丸い塊はこれが口を開けば人間でさえも飲み込んで しまうのではないか、と思われるような代物だ。 「う〜ん、これは凄いな。こんな食虫植物があるなんて俺も知らなかったよ。 こんなのでも虫を食べるのかな?」 「本当に・・・、沢山虫が入りそうですねぇ。」  ゆかりは目を丸くしてその植物に見入っている。  その時「キィァァァァァ」とその植物が鳴き声を上げた。見るとその植物が 捕食器官を大きく開いている。そしてあろうことか根と思われる部分を動かし てゆっくりと前進しているではないか! しかもその足取りは明らかにゆかり に向かっている。ゆかりは驚いた様子で目をぱちくりとさせてその植物に見入 っている。自分が襲われようとしているという自覚は持っていないようだ。だ が植物の狙いは明らかである。 「ゆかり! 危ない!!」

(2)

 俺は慌ててゆかりに向かって突進した。植物は再度、無気味な鳴き声を上げ ると一瞬前までゆかりがいた空間で口を閉じた。  間一髪だった。俺はゆかりを抱きかかえるようにして通路に倒れ込んでいた。 植物は狙いが外れたのを知るとゆっくりとこちらに向き直った。 「あ、あの・・・、一体何がおこったんでしょう・・・。」  ゆかりは呆然としたような口調で言った。どうやら事態を把握しきれていな いようである。しかしぼやぼやしている場合ではない。あの植物はどうやら俺 達を養分にしようとしているらしい。 「ゆかり、立って!! 逃げるんだ! ぼやぼやしてるとあの植物に食われて しまうぞ!」  俺はゆかりを急き立てた。 「あ、はい・・・、うっ、痛っ・・・。」 「どうした、ゆかり?」 「はい、足が痛くて・・・、どうやら今倒れ込んだ時に挫いてしまったようです ……。ちょっと立てそうもありません。」 「えっ・・・。」  俺は、舌打ちをした。巨大な食虫植物は目前まで迫っている。だがゆかりは 歩けないという……。そうだ、ゆかりは高校時代バレーボールの授業で怪我を したという経験があることでも判る通り、途方もなくどんくさいのだ……。う っかり失念していたのはうかつだった。  ゆかりを抱きかかえて逃げようにももう間に合いそうにもない。こうなった ら戦ってなんとかあの怪物を倒すしかないだろう。 「あれを使うか。」  俺はゆかりを背に庇うようにしてして怪物の前に立ちはだかった。高校時代 俺はずっとテニス部に所属していた。そのきらめき高校のテニス部には代々伝 わる奥義というものがあった。その技は、部でもっとも優れたものに毎年受け 継がれるもので、俺はインターハイで優勝するなど数々の実績を残していたこ ともあり、その奥義を受け継いでいたのだ。そしてその奥義はいつぞや不良に からまれ、番長と対決した時にも大いに力を発揮した。  だが高校を卒業して既に一年、俺は全くラケットを握っていない。学業と社 長見習いで忙しかったこともあり、テニスとは完全に縁のない生活を送ってい る。テニスの腕が落ちているのは明らかだ。今の俺に、あの奥義が使えるか… …??  だが躊躇している暇はなかった。怪物は目前に迫っている。ゆかりは足を挫 いて動けない。この怪物を倒すことが出来なければ、俺はこの世でもっとも大 切なものを失ってしまうことになるのだ。  俺は意を決して身構えた。呼吸を整え気を全身に充実させて叫んだ。 「火の鳥サーーーーブッ!!!」  俺の右手がしなやかにしなり、真っ赤な火の鳥が怪物に向かって突進してい った。だがその火の鳥は明らかにかつて番長戦で繰り出したものよりもサイズ が小さく、勢いも鈍かった。  怪物は一声吠えると火の鳥を跳ね飛ばした。殆どダメージを与えた様子はな い。俺は呆然とその様を見ていた。駄目だ、倒せない……。俺の心に落胆の思 いが広がった。その瞬間俺は怪物の体当たりを食らって跳ね飛ばされた。 「うわぁ〜〜っ」  俺は中空で一回転してしたたかに地面に叩きつけられた。 「ううっ・・・。」  うめき声を上げることしか出来なかった。全身に手酷いダメージを受けたよ うで、体が動かない・・・。  怪物は俺が動けなくなったのを見定めるとゆっくりとまたゆかりに狙いをつ けるように向きを変えた。  ゆかりはそろそろとあとずさりしたが、痛めてしまったあの足では怪物から 逃れるのはもはや不可能だろう……。  怪物がくわっとゆかりに向かって大きな口を開けた。 「きゃあああ〜っ!! お父さま〜〜っっ!!」  ゆかりの悲鳴が俺の耳に届いた。・・・お父様・・・。ゆかりは確かにそう 言った。ゆかりと出会ってから四年。正式に付き合い始めてからも既に一年の 月日が流れている。それでもゆかりは本当の窮地に立たされた時に頼りに思う のは俺ではなく、父親なのか……。俺の心に苦い思いが広がっていく。だが今 の状況を考えればそれもやむを得ないことかも知れない。俺は力が足りず、ゆ かりを守ってやることが出来なかった。ゆかりの命はもはや風前の灯なのだ。 そしてゆかりが頼りに思う父親は海外出張中で今は日本にはいない。もはや・ ・・これまでか……。

(3)

 ふと俺の頭の中に伝説の樹の姿が浮かんだ。そう、きらめき高校の校庭に立 つあの伝説の樹。その樹の下で卒業の日に女の子からの告白で結ばれたカップ ルは永遠に幸せな関係になれるという……。俺達はその伝説通りに結ばれた筈 だ。だが今の状況は……。所詮、あの伝説も単なる迷信に過ぎなかったという ことか……。 「お願い立ち上がって! そして彼女を守ってあげて!」  その時声が聞こえた。薄れゆく意識の中で、しかしその声ははっきりと俺の 耳に聞こえてきた。この声には聞き覚えがある。そう、かつて番長と戦い、超 眼力によって俺が倒れた時、不思議な力を与えてくれた何者かの声だ。 「その声は……、あの時の……。」 「そうよ、もう一度あなたに力をあげる。」 「何故・・・、それよりあんたは一体何者なんだ。」 「私はずっとあなたたちを見守ってきました。そしてあなたたちを選んだので す。永遠に幸せな関係になって貰う為に……。」 「俺達を選んだ?」 「そう、一年に一組だけ、永遠に幸せになって欲しいと思うカップルを私は選 ぶのです。」 「すると、あなたは……。」 「さあ、ぐずぐずしている暇はありません。早く! 彼女を守って上げて下さ い。」  まばゆい光が俺の目の前に光り輝いた。そしてその光が俺の体に注ぎ込まれ、 徐々に体に力が漲ってゆくのを感じる。俺は立ち上がった。体の中に今まで感 じたこともないような大きなパワーが蓄積されているのが実感出来る。このパ ワーを全て力に変えて火の鳥サーブを打てば、或はあの怪物を倒すことが出来 るかも知れない。  俺は怪物に向き直ると火の鳥サーブの構えを取った。怪物は今にもゆかりに 襲いかかろうとしている。ぐずぐずしている暇はない。俺は全身のパワーを全 て右手に集中し、そして叫んだ。 「火の鳥サーーーーブ!! スペシャル限定版だぁぁぁ!!」  叫ぶとともに右手が振りおろされ、ゆかりに向かって口を開いた怪物に向か って、華麗な火の鳥が舞った。気配を感じたのか怪物が僅かにこちらに向き直 ろうとするような動きを見せた。その瞬間、スペシャル限定版火の鳥サーブが 怪物に炸裂した。怪物の体が炎に包まれる。 「キアァァァァァァ−−−−ッッ!!」  怪物は断末魔の悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。 「や、やった・・・。」  俺は確かに怪物の最期を見届けた。そして全身全霊の力を使い果たした俺も 安堵感とともに倒れ込み、意識を失った。 「ねむさん、ねむさん。」  遠くでゆかりの呼ぶ声が聞こえる・・・。そんな気がしたと同時に意識が戻 ってきて俺は目を見開いた。ゆかりが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。 「気がついたのですね。ずっと気を失ったままだったので心配しました。」  気がつくと俺はゆかりの膝枕の上で寝かされていた。一体どのくらいの時間 こうしていたのだろう……。 「本当に一時はどうなるかと思いましたけど、ねむさんが助けて下さったので すね。ありがとうございます。」  ゆかりは穏やかな笑みを浮かべて、俺の顔を覗き込んでいる。その顔からは 安堵感が見て取れる。余程心配していたのだろう。そうだ、俺は彼女のこの純 真な笑顔に惹かれたんだ。ぼんやりと頭の中でそんなことを考える。 「今日のねむさんは本当に頼もしかったです。」 「そう? ありがとう。でもまだまだゆかりのお父さんには適わないね。」 「いいえ、そんなことはないですよ。お父様がいなくてもねむさんがいれば… …、勿論、お父様も大切な人ですけど……。」  ゆかりは顔を赤らめながら戸惑うような口調で言う。そんなゆかりがとても いとおしかった。 「ゆかり・・・。」 「はい?」 「膝枕なんかして、足、痛くない? 確か足を挫いていただろ?」 「それが、どこからか声が聞こえまして、光が足を包み込んだかと思うと痛く なくなってしまったんです。不思議ですねぇ。」 「そう・・・。」  どうやらあの声の主はゆかりの足も治していってくれたらしい。彼女は俺達 を選んだと言った。そしてずっと見守ってきたとも……。だがそんな助けを借 りなくてもゆかりを守ってやれるようになりたい、ならなくては……、そんな 思いが俺の心の中を駆け巡っていた。 「ゆかり・・・。」  俺は身を起こすとゆかりの体を抱きしめた。ゆかりは安心しきったような優 しい表情をして俺の胸に顔をうずめている。小さな肩、頼りなげな、だが俺の 心に何物にも変え難い安らぎを与えてくれる存在・・・。この少女を一生俺の 力で守ってやりたい・・・、俺はそんな思いを新たにしていた。

〜エピローグ〜

 偵察用ロボットから送られてくる映像をずっと見続けていた結奈の胸には苦 い敗北感にも似た感情が渦巻いていた。  古式ゆかりを抹殺してかつての野望を達成する・・・。その計画は完全に挫 折したのだ。そしてあろうことかその計画を実行したことで二人の絆を更に深 める結果になってしまった……。 「ふっ、どうやら神は私に世界征服をさせたいと望んでいるようね。」  彼女は自分の心に生じた苦い思いを振り払おうとするかのように言った。 「もはやこれまで。完全に私の負けね。私の進むべき道は決まったわ。もう回 り道はしない・・・。」  僅かに彼女の瞳に影が射したが、それも一時、やがて新たなる野望の炎が彼 女の瞳をランランと輝かせ始めたのだった。  これは後年、第四次世界大戦において世界を震撼させた、ドクター・ユイー ナの若き日の一エピソードである。だがこの事件が彼女に世界征服の決意を固 めさせたという点において、世界史的に見て極めて重要な事件であったと言え るだろう。そして世界征服をほぼ手中にしかけた時に、彼女の前にたちはだか ったのが古式財閥の若き総帥であったという事実に、筆者はなにか運命的なも のを感じざるを得ないのである。                          <Fin>
  初出 1996年8月8日   PC−VAN アーケードゲームワールド   #3−6ときめきメモリアル #1104〜#1108   このSSは上記のボードに掲載されたものに、一部加筆修正を加えたもの   です。

あとがき


 このSSは私が初めて書いた、ときめきメモリアルのSSです。ときメモボ ードでは私は一応、古式ゆかり親衛隊の一員ということになっているのですが、 そのこともあり、まず第一作目は古式さんを主役にすえたものにしようと思い まして、こういうストーリーになりました。唯、もしかすると紐緒さんの方が 目立ってるかも……、という気もしますけど……。(^_^;)  ヘッドイーターというのはPSのキングスフィールドシリーズでお馴染みの モンスターですが、なんだかヘンテコな描写になってしまったような気がしま す。キングスフィールドシリーズを全くプレイしていない人がどんな代物を想 像しておられるか少々不安です。  あと、SSでは“主人公の名前は出さない”というのをポリシーにしておられ る方もおられるようですが、このSSを書いた際には主人公に名前がないとなか なかうまくいかなかったので、“ねむさん”と自分のニックネームを主人公の名 前にしてしまいました。  拙い文章ではありますが、最後まで読んで下さった皆様、どうもありがとうご ざいました。                         1997/06/29 眠夢

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