先日イラクでまた日本人が犠牲になりました。しかし、この人 の場合は前の犠牲者とはだいぶ事情が異なっている。彼はフラン スの外人部隊にながく在籍したのちイギリスの警備会社に雇われ てイラクへ行ったと報ぜられています。フランス外人部隊といえ ばアルジェリアを植民地としたフランスがアルジェリアの抵抗運 動に手を焼いて正規の軍隊ではなく傭兵部隊を作ってアルジェリ アに送り込んだ部隊です。戦前のフランス映画に外人部隊を描い た映画があって戦後の日本でも上映されて評判になりましたが、 その外人部隊が今日でもまだ存在していることが今回明らかにな って驚きました。 それ以上に注目されるのは彼が所属したイギリスの警備会社で す。警備会社というとガードマンを想像するのですが、実体はま ったく違います。そもそも原語は、private military companyで すから警備会社という日本語訳は問題です。このような会社の実 体を研究した本がNHK出版から出されていますが、その本は戦 争請負会社という表題になっています。かなり意訳ではあります がこの訳の方が実体に近いでしょう。この原書はアメリカのイラ ク侵略戦争以前に書かれたもの(訳書は昨年12月出版)もので すが、ここで分析されたことがイラク戦争で明らかになったとい う点で注目されます。イラク戦争にはアメリカ、イギリスの戦争 請負会社からすでに2万人もの軍事要員が送り込まれてさまざま な仕事に携わっています。そして、多くの死者を出しています。 民間人の死者と報ぜられているなかですくなからずの人がこれら の軍事要員なのです。 × × × 占領したイラクの人々の抵抗運動に苦しんでいるブッシュ政権 にとってこんなに都合のいい軍事要員はありません。米兵から犠 牲者が出ればアメリカの世論がイラク戦争反対になっていくので すが、戦争請負会社の軍事要員の戦死はアメリカの世論に影響を 及ぼすことはないからです。また、フランス外人部隊をはじめと して今までの傭兵部隊の雇い主は皆国家でしたし、傭兵といって も軍隊の一部でした。しかし、アメリカは戦争請負会社と契約し ているので、軍事要員を直接雇っているわけではありません。だ から彼らの身になにがあってもブッシュ政権には関わりがないの です。そればかりではありません。彼らは軍人ではないので何を してもブッシュ政権は関係がないのです。悪名高いアグレイブ刑 務所での拷問にも戦争請負会社の軍事要員が関わったことが米軍 の調査によっても明らかにされましたが、ブッシュ政権は放置し てしまいました。拷問なども全部任せてしまえばブッシュ政権は 手を汚さずにいられるわけです。 このような都合のいい戦争請負会社が本格化したのはソ連が崩 壊して冷戦が終結してからです。そして、当時のブッシュ(父) 政権の国防長官だったチェイニー副大統領がこの創設の深く関わ っています。彼のもとで1992年に作成された「兵站民間補強 計画」ではじめて米軍の兵站活動が民営化されました。そして、 それを請け負ったのがハリバートン社の子会社のKBRでした。 ブッシュが選挙で敗北したのち、チェイニーはハリバートン社の 最高経営責任者(CEO)となってこれがさらに本格化していき ました。そして、ブッシュ(子)政権の発足とともに副大統領に なったチェイニーは戦争請負会社の事業を拡大していきました。 そして、イラク戦争では軍隊と変わりのない活動をするようにな ったのです。戦争までも民営化が始まっているのです。日本でも そのうちにこんな会社が出てくるのでしょうか?そうなれば自衛 隊の海外派兵どころの話ではなくなってしまうでしょう。 × × × ところで、韓国や中国で、日本の歴史認識が問題になっていま す。政府もようやく歴史教科書の共同編集を言い出していますが 今の姿勢から見るとどこまで本気で取り組もうとしているかはは なはだ疑問です。同じ敗戦国のドイツはすでに侵略で大きな被害 を与えたポーランドとの間で歴史教科書を共同で作成しましたし ほかの国々とも話を進めています。日本政府の対応はきわめて遅 れています。しかし、日本と韓国、中国の民間の歴史研究者の間 では、すでに3年前から共同研究を行っていてこのほど共同で編 集したはじめての近現代史の教科書「未来をひらく歴史」(高文 研)が発行されました。ゼミ出身の若いOBがこれに関わっていて 執筆と中国側原稿全部の翻訳をしています。機会があれば読んで みてください。 At 01:07am 2005/06/07, nhabu@mwa.biglobe.ne.jp wrote: