【土生長穂、6月の一言】

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(2004年11月6日 土生ゼミOB会記念講演)


日本に「戦争請負会社」が出現する日


 先日イラクでまた日本人が犠牲になりました。しかし、この人
の場合は前の犠牲者とはだいぶ事情が異なっている。彼はフラン
スの外人部隊にながく在籍したのちイギリスの警備会社に雇われ
てイラクへ行ったと報ぜられています。フランス外人部隊といえ
ばアルジェリアを植民地としたフランスがアルジェリアの抵抗運
動に手を焼いて正規の軍隊ではなく傭兵部隊を作ってアルジェリ
アに送り込んだ部隊です。戦前のフランス映画に外人部隊を描い
た映画があって戦後の日本でも上映されて評判になりましたが、
その外人部隊が今日でもまだ存在していることが今回明らかにな
って驚きました。                     
 それ以上に注目されるのは彼が所属したイギリスの警備会社で
す。警備会社というとガードマンを想像するのですが、実体はま
ったく違います。そもそも原語は、private military companyで
すから警備会社という日本語訳は問題です。このような会社の実
体を研究した本がNHK出版から出されていますが、その本は戦
争請負会社という表題になっています。かなり意訳ではあります
がこの訳の方が実体に近いでしょう。この原書はアメリカのイラ
ク侵略戦争以前に書かれたもの(訳書は昨年12月出版)もので
すが、ここで分析されたことがイラク戦争で明らかになったとい
う点で注目されます。イラク戦争にはアメリカ、イギリスの戦争
請負会社からすでに2万人もの軍事要員が送り込まれてさまざま
な仕事に携わっています。そして、多くの死者を出しています。
民間人の死者と報ぜられているなかですくなからずの人がこれら
の軍事要員なのです。                   
         ×    ×    ×         
 占領したイラクの人々の抵抗運動に苦しんでいるブッシュ政権
にとってこんなに都合のいい軍事要員はありません。米兵から犠
牲者が出ればアメリカの世論がイラク戦争反対になっていくので
すが、戦争請負会社の軍事要員の戦死はアメリカの世論に影響を
及ぼすことはないからです。また、フランス外人部隊をはじめと
して今までの傭兵部隊の雇い主は皆国家でしたし、傭兵といって
も軍隊の一部でした。しかし、アメリカは戦争請負会社と契約し
ているので、軍事要員を直接雇っているわけではありません。だ
から彼らの身になにがあってもブッシュ政権には関わりがないの
です。そればかりではありません。彼らは軍人ではないので何を
してもブッシュ政権は関係がないのです。悪名高いアグレイブ刑
務所での拷問にも戦争請負会社の軍事要員が関わったことが米軍
の調査によっても明らかにされましたが、ブッシュ政権は放置し
てしまいました。拷問なども全部任せてしまえばブッシュ政権は
手を汚さずにいられるわけです。              
 このような都合のいい戦争請負会社が本格化したのはソ連が崩
壊して冷戦が終結してからです。そして、当時のブッシュ(父)
政権の国防長官だったチェイニー副大統領がこの創設の深く関わ
っています。彼のもとで1992年に作成された「兵站民間補強
計画」ではじめて米軍の兵站活動が民営化されました。そして、
それを請け負ったのがハリバートン社の子会社のKBRでした。
ブッシュが選挙で敗北したのち、チェイニーはハリバートン社の
最高経営責任者(CEO)となってこれがさらに本格化していき
ました。そして、ブッシュ(子)政権の発足とともに副大統領に
なったチェイニーは戦争請負会社の事業を拡大していきました。
そして、イラク戦争では軍隊と変わりのない活動をするようにな
ったのです。戦争までも民営化が始まっているのです。日本でも
そのうちにこんな会社が出てくるのでしょうか?そうなれば自衛
隊の海外派兵どころの話ではなくなってしまうでしょう。   
         ×    ×    ×         
 ところで、韓国や中国で、日本の歴史認識が問題になっていま
す。政府もようやく歴史教科書の共同編集を言い出していますが
今の姿勢から見るとどこまで本気で取り組もうとしているかはは
なはだ疑問です。同じ敗戦国のドイツはすでに侵略で大きな被害
を与えたポーランドとの間で歴史教科書を共同で作成しましたし
ほかの国々とも話を進めています。日本政府の対応はきわめて遅
れています。しかし、日本と韓国、中国の民間の歴史研究者の間
では、すでに3年前から共同研究を行っていてこのほど共同で編
集したはじめての近現代史の教科書「未来をひらく歴史」(高文
研)が発行されました。ゼミ出身の若いOBがこれに関わっていて
執筆と中国側原稿全部の翻訳をしています。機会があれば読んで
みてください。                      

At 01:07am 2005/06/07, nhabu@mwa.biglobe.ne.jp wrote: