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        _/  _/    _/  _/           Japan On the Globe (66)
       _/  _/    _/  _/  _/_/    国際派日本人養成講座
 _/   _/   _/   _/  _/    _/   平成10年12月12日 4,460部発行
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_/_/        The Globe Now: 江沢民の憂鬱
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_/_/           ■ 目 次 ■
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_/_/     1.「半世紀も前の出来事をめぐる論争」
_/_/     2.執拗な歴史認識発言
_/_/     3.江沢民の憂鬱
_/_/     4.色あせた歴史認識カード
_/_/     5.魯迅と藤野先生
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■1.「半世紀も前の出来事をめぐる論争」■

     二十七日付の米ニューヨーク・タイムズ紙も、この日中首脳
    会談の模様を「両首脳の会談は、逆に反目に火を付ける形にな
    った。アジア経済危機や朝鮮半島で戦争がぼっ発する可能性で
    はなく、半世紀も前の出来事をめぐる論争が中心議題になっ
    た」と冷ややかに伝えている。[1]

 中国・江沢民主席の対日を総括するとこれが妥当な所であろう。 
現在のアジアは世界の激動の中心である。アジアの経済破綻は、世
界恐慌に火をつける恐れがあるし、北朝鮮は世界でももっとも危険
なテロ国家である。日中両国はアジアの大国として、平和と繁栄を
築いていくための協力をしていく必要に迫られている。

 その二国が「半世紀も前の出来事をめぐる論争」に没頭している
のは、同じアパートに住む隣人同士が、屋根に火がついているのに、
50年前の祖父の代の喧嘩の事で、「謝れ」、「いやだ」と言い合
っているのと同じである。近所の人々は、なんと愚かしい者どもか、
とあきれているだろう。

■2.執拗な歴史認識発言■

 こんな事になった理由を考える前に、まず江沢民主席の歴史認識
に関する発言を中心に事実を整理しておこう。

    ★26日、日中首脳会談:「率直に言って、列強の中で日本は
      中国に対して最も重大な被害を与えた国だった」、「日本で
      はしばしば歴史の事実を否定、わい曲するような動きがあり、
      中日関係の発展を阻害してきた。軍国主義は両国人民の共通
      の敵だ。」[2]
 
    ★26日、宮中晩餐会、江沢民の答辞(要旨):不幸なことに、
      近代史上、日本軍国主義は対外侵略拡張の誤った道を進み、
      中国人民とアジアの他の国々の人民に大きな災難をもたらし、
      日本人民も深くその害を受けました。[3]

    ★27日、首相主催の晩餐会:前世紀末から日本軍国主義がい
      く度も中国を侵略する戦争を起こし中国人民に巨大な損害を
      もたらした。歴史を教訓とし悲劇の再発を防止してこそ、友
      好を発展させることができる。[4]

    ★28日、記者会見:「日本では一部の人たち、それも高い地
      位にいる人が常に歴史をわい曲し侵略を美化している。」と
      し、「日本が歴史に対し責任を取る態度で、間違った言論と
      行動を抑制」し、「正しい歴史観で若い世代を教育」するよ
      う求めた。[5]

    ★28日、早稲田での講演:江主席は戦争を体験した生き証人
      と自らを位置づけたうえで、「日本軍国主義は対中侵略戦争
      を起こし、中国の軍民三千五百万人が死傷し、六千億ドル以
      上の経済的損失を受けた」と、日本の「侵略の歴史」を厳し
      く指摘した。[6]

 「これだけ言われては、未来志向という気もなくなる」「うんざ
りだ」という政府や自民党議員の感想も、多くの国民の共有する所
であろう。[7]

■3.江沢民の憂鬱■

 なぜ、江沢民はこんなに歴史認識にこだわり続けたのか? 帰国
後、中国共産党機関紙・人民日報は今回の訪日が「重要な成果をあ
げた」とする社説を掲載した。[8] これは江沢民の国内向けのアピ
ールであると考えて良い。すなわち、歴史問題で徹底的に日本を叩
き、謝罪のしるしとして経済援助を3900億円もとってきました
よ、と自らの実績をアピールしたいのである。

 中国国内の権力闘争は、時には生死をもかけた凄絶なものだ。中
国の外交は、国内の権力闘争の延長に過ぎない、と言われる。抗日
戦や国共内戦での軍歴もなく、またトウ小平のように政治家として
の目立った業績のない江沢民は、党の長老や軍の強硬派に対して、
常に得点をアピールし続けなければならないようだ。自由選挙で国
民から選ばれ、その民意をバックにしている韓国の金大中大統領や、
台湾の李登輝総統とは、基盤からして違うのである。

 現在の中国は前任者トウ小平路線の行き詰まりによる危機を迎え
ている。膨大な国営企業の赤字垂れ流し、香港経済の失速、経済発
展から取り残された内陸部の不満、環境破壊と食糧危機、チベッ
ト・新疆での独立闘争等々、まさに内憂外患である。なんとしても
日本の経済援助は続けてもらわねばならない。

 しかし、憂鬱なことに、江沢民は何も日本にプラスをもたらすよ
うなカードをもっていない。本来なら、北朝鮮の核・ミサイル開発
に対して圧力をかける、尖閣列島での日本の領海侵犯をやめる、東
南アジア諸国との南シナ海での領海紛争を平和的に終結して、日本
へのエネルギー輸送の安全を保障する、対台湾の軍事攻撃を否定し
て、経済交流を促進する、などというようなプラス・カードを切っ
ていたら、日本としても大歓迎だったであろう。しかし、これらは
いずれも、江沢民の基盤の弱さでは不可能な事である。

 目前の危機を打開するには、何としても日本の経済援助は必要で
ある、しかし、プラス・カードは何もない、という江沢民が唯一持
っていたのが、「歴史認識」というマイナス・カードだったのであ
る。

■4.色あせた歴史認識カード■

 しかし、このカードも、今回使いすぎで効力を失ったようだ。さ
すがの朝日新聞も、

     日本政府内には、「共産党の存立基盤である『抗日』を強調
    せざるを得なかったのではないか」という分析もある。[9] 

 などと、江沢民の異常な態度から距離を置き始めた。あいかわら
ず一部に:

     二十一世紀を目前に、日中両国は一致点の極大化に努める一
    方、歴史認識を含めた食い違う点の極小化に努めるべきだろう。 
    [10]

 などという主張も残っているが、あいまいな官僚的言い回しに後
退して、一時の「誠意ある謝罪を」というような甲高いトーンは姿
を消した。今回の江沢民来日は、多くの日本国民を従来の「謝罪朝
貢外交」のマインド・コントロールから目覚めさせたという点で、
高く評価すべきものである。

 確かに朝日の言うように「歴史認識」の共有化はできる範囲で進
めるべきだ。ただし、それはあくまでも、事実の正確な把握に基づ
かねばならない。たとえば、江沢民が指摘した日中戦争での被害者
3500万人という数字をとりあげてみよう。中国がどういう数字
を使ってきたのか、という点を検証してみると:

 ・1951〜60年頃、「中国軍民の蒙った生命の損失は1千万以上」
 ・60年代〜70年代始め 「人民の死傷者1800万(軍人を含め
   ず)」
 ・1985年 これに「中国軍380万余の死傷者」が加わり、
  あわせて「死傷者2100万人あまり」

 中国人民抗日戦争記念館での掲示も、最近2100万から350
0万に嵩上げされているそうである。中国政府にとって「歴史認
識」とは、厳密な歴史学研究とは何の関係のない「政治的主張」だ
ということはこの点だけで明らかである。[11]

 中国の「歴史認識」に同調する事が「正しく」、それに異を唱え
ることは、「歴史の歪曲」であり、「軍国主義の復活だ」というの
は、学問的な議論を封殺する政治的主張に他ならない。江沢民が唯
一持つ「歴史認識カード」すら、この程度のものなのである。

■5.魯迅と藤野先生■

 江沢民の無理な強圧外交は長続きしえない。いずれ「50年前の
出来事」でいがみ合っている愚かしさに気がつくであろう。その時
こそ、両国は、宮中晩餐会で陛下の述べられた両国国交の基本に立
ち返らなければならない。

     貴国(中国)と我が国が今後とも互いに手を携えて、直面す
    る課題の解決に力を尽くし、地球環境の改善、人類の福祉、世
    界の平和のため、貢献できる存在であり続けていくことを切に
    希望しています。[12]

 さらに陛下はそのための道として、さりげなく魯迅の「藤野先
生」に言及された。「近代中国の父」と言われる魯迅は留学した仙
台医学専門学校(現在の東北大医学部)での藤野先生との友情を描
いている。この作品は中国の高校の教科書にも取り上げられ、仙台
は中国ではよく知られた土地だという。

 国交とは、政府の外交ばかりではない、人と人との心の通いあう
友情こそが、まず基盤になければならない、そう陛下は言われてい
るのかもしれない。それなら、我々国民にもできる事だ。日本で学
んだり、働いたりしている中国の人々に心配りをする、あるいは、
中国に進出した日系企業が、現地の人々の育成と経済発展に貢献す
る、そういう中から、第二、第三の魯迅と藤野先生の友情が生まれ
てこよう。

 江沢民は、陛下のお言葉に呼応するかのように、訪日の最後に仙
台市内にある魯迅の記念碑や東北大学を視察した。実は江沢民も、
内心では、この事を分かっていたのではないか。

[参考]
1. 読売新聞、H10.11.29 東京朝刊 5頁
2. 読売新聞、H10.11.28 東京朝刊 2頁
3. 読売新聞、H10.11.27 東京朝刊 5頁
4. 読売新聞、H10.11.28 東京朝刊 2頁
5. 産経新聞、H10.11.29 東京朝刊 5頁
6. 産経新聞、H10.11.28 東京夕刊 1頁
7. 産経新聞、H10.12.04 東京朝刊 3頁
8. 産経新聞、H10.12.02 東京朝刊 4頁
9. 朝日新聞、H10.11.29
10. 朝日新聞、H10.11.27
11. 中国流「歴史認識」のいい加減さ、明日への選択、H10.9
12. 読売新聞社、1998.11.27 東京朝刊 1頁

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