[トップページ] [平成11年上期一覧][Common Sense][253.079 アメリカ:現代][311 現代と共同体][333.6 国際経済] [360 社会]


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        _/  _/    _/  _/           Japan On the Globe (71)
       _/  _/    _/  _/  _/_/      国際派日本人養成講座
 _/   _/   _/   _/  _/    _/    平成11年1月23日 5,647部発行
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_/_/     Common Sense: ビル・トッテン氏の警鐘
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_/_/           ■ 目 次 ■
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_/_/    1.ビル・トッテン氏の警鐘
_/_/    2.階級分裂するアメリカ社会
_/_/    3.日本では親から教わった考え方でうまくいく
_/_/    4.トッテン氏の日本的経営
_/_/    5.大金持ちになろうという野心がなくなった
_/_/    6.生活の幸福感とは
_/_/    7.どういう社会が望ましいのか?
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■1.ビル・トッテン氏の警鐘■ 

 昭和47年に、日本で株式会社アシストを設立し、業界第一位の
ソフトウェア商社に育て上げたビル・トッテン氏は、最近の講演会
で次のように語っている。

     1945年には米国は最も豊かで力のある国でした。その50年後
    の今、米国は貧困にうちひしがれ、負債を負い、麻薬に汚染さ
    れ、犯罪、文盲にあふれ、汚れた不健全な国になってしまいま
    した。私にとってこれは大変悲しく、恥ずかしいことです。し
    かし、今度は日本人が、日本をここまで繁栄させ、安全で、健
    全で幸福な国にした価値観や慣行を捨てて、その代わりに米国
    を惨めにした価値観や慣行を取り入れています。[1,p2]
    
■2.階級分裂するアメリカ社会■ 

 最近では、米国は経済も好調で、すべてうまく行っているように
報道されている。しかしトッテン氏は次のような定量的データで、
その実態を示す。

    CEO(社長等)と従業員の年収比較(円建て)

  米国 1960  19.1百万円 0.5百万円  41倍
  米国 1992 384.2    2.4    157倍
  日本 1992  48.4    4.6     11倍

     米国のトップ1%が所有する富の割合は、1979年の22%か
    ら1996年の42%へと急増した。(1%の金持ちが、全国民の
    富の42%を占有する:JOG注)

   米国労働人口の半分がパート(米国労働省発表の統計、1997年
  9月)で、その実質賃金(時給)は、73年の11.20ドルから、97
  年の10.20ドルまで過去25年間下降の一途を辿った。(ニュー
  スウィーク、97.9.1)

 米国は、少数の富裕階級が富を独占し、大半の労働者階級を搾取
する階級社会になってしまったようだ。資本主義下での階級闘争を
予言したカール・マルクスが、墓の中で、それ見たことか、とした
り顔をしているかもしれない。

■3.日本では親から教わった考え方でうまくいく■

 トッテン氏が、「日本をここまで繁栄させ、安全で、健全で幸福
な国にした価値観や慣行」というのは何か。トッテン氏は69年に日
本に来て、次のように感じたという。

     日本人の考えていることは、私が小さいときから両親に教え
    られたことについてよく似ていたのである。

 氏の父親はカリフォルニアで小さなエンジンの修理会社を経営し
ていた。氏が父親から教わったのは、

     父の考え方は、お客さんはたいせつだ、会社の目的はお客の
    役に立つことだ、役に立てばその会社は利潤をあげることがで
    きる、というしごくまともなものだった。(中略)

     1969年に日本に来たときには、私が日本で、アメリカの会社
    で覚えた(利益中心で顧客の事を考えない、JOG注)ビジネス
    のやり方をしようとすればするほど取引はうまくいかず、自分
    流でやるとかえってうまくいくようなことが多かった。

     そんな試行錯誤の中で、ああ、この国でのやり方は、自分が
    親から教わったやり方と同じでいいのだとわかってから、だん
    だんこの国が好きになってきたのである。

 トッテン氏の会社が大きく伸びたのも、この親から教わった考え
に忠実に従ったからであると言う。

■4.トッテン氏の日本的経営■

     アシスト社の商品でお客さんの仕事をアシスト(手助け)で
    きる。そして、お客さんの仕事がうまくうけば、新しい取引先
    を紹介してもらえるようになる。[2,p35]

     日本ではいったん信用を得られれば、アメリカなどより、は
    るかに仕事がやりやすくなる。[2,p31]

     アシスト社のバッチは、漢字で「人」の字を型どったデザイ
    ンにしてある。商売は人だと考えているからだ。国ごとに商習
    慣やいろいろな経済システムの違いはあるが、人といい関係を
    持てたら、商売の上でのたいていの問題は解決できるものだ。
    そして日本人ほどいい関係をつくりやすい国民はほかにないの
    である。[2,p36]

 まさに日本的経営の本道である。そして、信用を大切にする商売
をやるためには、社員一人一人の人格を磨かねばならない。

 トッテン氏の会社は、600人以上もの社員を、「使い捨て社
員」でなく、本人が望む限り終身雇用のつもりで教育するという。
そして社員一人一人が、コンピュータ業界で最高の人間となるため
に、次のような努力目標を掲げる。

    一.いちばんあたたかくて、気のきく人間
    一.いちばん役に立つ人間
    一.いちばん正直な人間
    一.いちばん有能で知識のある人間
    一.いちばんよく働く人間

 まさに松下幸之助の世界である。

■5.大金持ちになろうという野心がなくなった■

 「日本に来てこういう社会を知るようになってから、私はアメリ
カでの若い時代のように、うんと働いて大金持ちになろうという野
心がなくなった」という発言はきわめて興味深い。「こういう社
会」とは:

     いま、私の住んでいる町は、隣近所に大きな会社の役員が二
    人いて、この家にはときどき黒い車が迎えにきている。すぐ近
    くには、独身の学生さんとお巡りさんが住んでいる。日本の町
    には、会社の社長でも、サラリーマンでもお巡りさんでも、商
    店主でも学生でもみんな一緒に住んでいて、生活ぶりもそれほ
    ど極端にはかわらない。(中略)

     これが、もしアメリカだったら、私の住んでいるような町に
    は貧乏人しか住まないだろう。そして、たとえば、ビバリーヒ
    ルズのようなところには金持ちしか住んでいない。それが金持
    ちと貧乏人が画然と分かれた階層社会の特徴なのである。そし
    て、金持ち=経営者・株主が、貧乏人=社員・労働者を使い捨
    てにしている。こういう社会では、企業や経済を支える人的資
    源が育たないのが当然というものではないか。[2,p97]

■6.生活の幸福感とは■

 アメリカの都市は、安全で美しい高級住宅地、犯罪の多発するス
ラム街など、階級ごとに棲み分けされており、どこに住んでいるか
で、その人の社会的地位も推察できる。こういう社会であれば、若
者はとにかく金を貯めて、より高級な場所に住みたいと熱烈に願う。

 しかし、そうした富への欲求のあまりに、生活や仕事での真に大
切なものを見失ってしまう恐れがある。

     近所の小さな薬局は、大型スーパーなどにくらべるとたしか
    に値段は少々高いかもしれないけれど、家族の一員が夜中に熱
    を出したときなどに、トントンと戸を叩いてお願いすれば解熱
    剤を売ってくれる。小さな魚屋さんも、日ごろから顔なじみに
    していれば、こちらの好みの魚や注文品を市場で見つけてくれ
    る。電器屋さんにしても、テレビのアンテナがこわれたといえ
    ば、すぐに来て修理してくれる。(中略)
    
     多くのアメリカ人が日本に来て、町の小さな商店がたくさん
    あることにホッとするというのも、そういう町にこそ、本来の
    意味でのコミュニティーを見る思いがするからなのである。
    (中略)
    
     そういう人間関係の中にこそ、生活の幸福感のようなものが
    あるのだと信じている。[2,p124]

■7.どういう社会が望ましいのか?■

 アメリカの経済好調と、日本の低迷を比較して、とにかく規制を
撤廃し、英米流の徹底した自由競争を取り入れよ、という議論が根
強い。確かに教育、農業、金融など、戦時中の統制経済を引きずっ
ている分野にはメスを入れなければならない。

 しかし、健全な自由競争と、ジャングルの弱肉強食とは違うはず
である。1%の富裕層が、国全体の42%の富を握り、国民の半分
がいつ首にされるか分からないアルバイトだという社会を我々は本
当に望んでいるのだろうか。それによって、国民の間での同胞感、
信頼感を無くしては、「生活の幸福感」も得られない。

     それにしても、最近の日本では、道路を歩いていて平気でタ
    バコを捨てる人の数が、にわかに増えてきたように思えてなら
    ない。駐車違反の車が平然ととめてある光景も、やたらと目立
    つようになってきた。タバコが麻薬になり、駐車違反が路上の
    ホールドアップになるまでの時間は、アメリカの例から言えば、
    またたく間の変化だった。
    
     いま日本は、前者の轍を踏まない最初の経済大国になるかど
    うか、瀬戸際の歴史的実験の段階に入りかけたと言える。
    [2,p177]
    
 経済とは、我々が「良く生きる」ための手段である。そして「良
く生きる」ためには、どういう社会が望ましいのか、という所から
考えなければならない。アメリカに盲従するのではなく、我々自身
の価値観を踏まえて、知恵を絞らねばならない。

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
1. ビル・トッテン、日本は日本のやり方で行け!、
  H11.1.11、大阪工業会での講演資料。
2. ビル・トッテン、「日本は悪くない」★★★、ごま書房、H2.6
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
中里さん   
 いつも楽しく読ませていただいております。
私もテレビ、新聞等で「グローバルスタンダード」という言葉が出
てくるたびに、「グローバルスタンダード=アメリカンスタンダー
ドじゃないか。みんなそんなに貧乏人になりたいかね」と、思って
いました。

 確かに、成功しただけ収入が増えるシステムも魅力的ではありま
すが、現在のアメリカの暗の部分を考えると、リスクが大きすぎる
と思います。ただ、既得権を握って離さない人たちに、日本のしく
みをアメリカ型に変えることは無理だと思いますが・・・

 1つだけ言えることは、アメリカにビル・ゲイツが1人しかいな
いように、日本がアメリカ型の社会になっても、みんながビル・ゲ
イツになれるわけではないことです。

■おたより 一学生さん   

 ビル・トッテン氏の項目を読んで とても世の中が明るく見えて
きました。生きる意欲と言っては大袈裟ですが、とても心がうきう
きします。アメリカで起こることは反射的に模倣するクセがついて
いるように思える今日、日本の形式が見直され、評価される以上に
嬉しいことはありません。批判が粗探しになっている今日、誉める
ことの重要性を同時に痛感しました。

 相手の国を慎重に批判し、評価できる日本人も国際派日本人では
ないか、と飛躍過ぎですが思ってしまいました。

■ 編集長・伊勢雅臣より

  日本経済が絶好調で日本的経営がもてはやされていた頃と、現在
のジャパン・バッシングを比べてみると、我々自身がそれほど変わ
ったわけではないのに、この評価の変わり様を見れば、あまり国際
社会の評価などに一喜一憂せずに、愚直に自分自身で良い点は守り、
悪い点は改めていけば良い、という気がします。勿論、ビル・トッ
テン氏のように親身になって、批判してくれる人の声に耳を傾ける
ことは大切ですが。

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