[トップページ] [平成11年上期一覧][Common Sense][221 北朝鮮][393 安全保障法制]
_/ _/_/ _/_/_/ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ _/ _/ _/ _/ Japan On the Globe (87) _/ _/ _/ _/ _/_/ 国際派日本人養成講座 _/ _/ _/ _/ _/ _/ 平成11年5月15日 9,060部発行 _/_/ _/_/ _/_/_/ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ _/_/ _/_/ Common Sense: 北朝鮮工作船を逃がした理由 _/_/ _/_/ ■ 目 次 ■ _/_/ _/_/ 1.ピクニック気分の日本侵入 _/_/ 2.高価な打ち上げ花火 _/_/ 3.高度な装備、技量、志気 _/_/ 4.自衛隊を縛る国内法 _/_/ 5.体当たりで止めても _/_/ 6.領海警備の国際慣行 _/_/ 7.幻想と詭弁の世界 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/■1.ピクニック気分の日本侵入■日本侵入はきわめて簡単だとみられているほか、銃撃など武 力による阻止・衝突がないため、韓国侵入とは違って工作員た ちはほとんど緊張せず任務を遂行できる。[1]日本への浸透作戦はピクニックに行くようなものだ。[2]北朝鮮元工作員の証言である。彼らは「ピクニックに行く」気 軽さで、覚醒剤を持ち込み、諜報活動を行い、日本人を拉致し、 核ミサイル開発のためのハイテク機器を盗んでいく。まさに我が 国は「法治国家」ではなく、「放置国家」である。[3]なぜ、こんな事になるのか。自衛隊は不審船を見つけても、正 当防衛の場合を除いては、「人に危害を与えてはならない」と国 内法で決められているからである。つまり、北朝鮮側が攻撃しな ければ、自衛隊からは一切手が出せない。「そんなバカな」と思 われるだろう。しかし、北朝鮮側はこの事をよく知っているから、 ピクニック気分で侵入できるのである。■2.高価な打ち上げ花火■海上保安庁が平成2年までに確認した「不審船」は、18隻に のぼる。3年以降は不審船がないのではなく、領海侵犯が枚挙に いとまがないため、海上自衛隊にまかせてしまっているのだ。その自衛隊が発足以来、初めての「海上警備行動」をとった。 海上警備行動とは、たとえて言えば自分の敷地に侵入する不審者 を捕まえたり、撃退する事である。逆に言えば、今までの「不審 船」はすべて黙認されていたのである。不審者がピクニックのよ うに気楽に入り込んで、子供をさらったり、金目のものを盗んで いるのに、見て見ぬ振りをしていた。今回初めて、気がついたふ りをして、警告を発したという訳である。しかし、その結果はどうであったか。停船命令までは出したが、 相手は従わず、さらに警告射撃、警告爆撃も無視してゆうゆうと 立ち去った。それも、海上保安庁の巡視船がついてこれるように、10ノッ ト程度でのろのろ走ったり、しだいに速度を上げて引き離してし まうと、今度は約20分も停船して、海上自衛隊の護衛艦の接近 を待つような動きをした。相手が警告射撃を無視した場合、次に致命的な攻撃を受ける 可能性を相手に予測させ得ないのであれば、その警告射撃は打 ち上げ花火のようなものでしかない。[4]高価な打ち上げ花火に見送られて、工作船は悠々と北朝鮮に帰 投したというわけである。■3.高度な装備、技量、志気■今回の事件を、海上保安庁や自衛隊の装備や要員の問題にすり 替えてはならない。海上保安庁はヘリコプター搭載巡視船11隻、 大型巡視船37隻など、世界第2位の装備、能力を持つ沿岸警備 隊である。[4]海上自衛隊は護衛艦約55隻、P3−C哨戒機約100機など 世界第6位の装備を持ち、対潜水艦戦能力は世界2位と言われて いる。海上自衛隊の練度、志気も高い。荒れる海を35ノット(時速 65キロ)の高速で走る工作船に対し、目標の前後40m以内に、 しかも相手に当てないように爆弾を落とすという見事な技量を発 揮した。しかも、爆撃に際しては、高度60メートルの超々低空を飛行 したのであり、工作船からは小銃などで打たれても撃墜される危 険があったのだが、それをも省みなかった。工作船を撃沈する事など、自衛隊の高度な装備、技量、志気を もってすれば、いとも簡単な事だった。現在の我が国のような 「放置国家」では、もったいない程の実力である。その実力を縛 ったのが、冒頭に述べた「不審船と言えども、正当防衛でない限 り、人に危害を与えてはならない」という法の制約だった。■4.自衛隊を縛る国内法■自衛隊法(82条)では、総理大臣の承認を得て、海上警備行 動をとれるが、武器の使用は警察官職務執行法に準ずると定めら れている。この執行法には、犯人の逮捕などに必要な限りで武器 を使用できるが、正当防衛の場合を除いては、「人に危害を与え てはならない」と定められている。警察がこそ泥を捕まえる場合に、いきなり銃撃してはならない、 というのなら分かるが、武装した工作船に対しても、正当防衛の 場合以外、「危害を与えてはならない」と言うのである。この法 律から、自衛隊は、相手に危害を与えずに、いかに不審船を捕獲 できるか、という答えのない難問を突きつけられている。たとえば、逃走を阻止するために舵やエンジンを狙って、実弾 射撃をしたらどうなっていたか。「(護衛艦の)5インチ砲があ たると相当な被害を与えてしまう」(防衛庁幹部)。不審船側に 被害者がでると、正当な武器使用とは認められずに、自衛隊員が 刑法犯に問われる可能性がある。昭和62年にソ連機が沖縄で領空侵犯をした際、航空自衛隊は 創設以来初めての警告射撃を行った。この時、もし侵入機を撃墜 して乗員が死亡するような事があれば、航空自衛隊の関係者を殺 人罪で告訴すべしという論議が国会で起こった。[3]■5.体当たりで止めても■社民党の土井たか子党首にいたっては「相手が発砲もしていな いのに、威嚇射撃は尋常ではない。体当たりで止めるべきだ」と 言う。7250トンのイージス護衛艦が、100トンの工作船に 体当たりするのは、70キロの大人が、1キロの子犬に体当たり するほど難しいだろう。それも両手を使ってはならず、また子犬 に危害を与えてはならない、という制約付きである。かつて、お たかさんはカンボジアPKOに対して、「ダメなものはダメ」と たんかを切ったが、それをそのままお返ししたくなる。しかし、拿捕に奇跡的に成功していたも、その後が怖い。臨検 のために工作船に乗り込む自衛官は、相手が不審な挙動をしても、 こちらからは攻撃できない。敵の最初の一撃が機銃掃射だったら、 バタバタとなぎ倒される。その上で、負傷者を人質にして逃走さ れたら、手も足もでない。北朝鮮工作員の人権のためには、我が 国の自衛官の生命はどうなってもいいとおたかさんは言うのか?■6.領海警備の国際慣行■このような不審船に他国はどう対処しているのか。これに関す る国際法がある。それは、・ 不審船を見つけたら、停船命令を出し、立ち入り検査を行う。 ・ 停船命令に従わない場合は、警告射撃・爆撃を行う ・ それでも従わない場合は、撃沈しても良い。というものである。「撃沈されるかもしれない」という可能性 があるからこそ、警告射撃・爆撃が意味を持つ。我々の常識でも 理解できるルールである。世界各国は、このルールに基づいて、 不審船に対処している。韓国軍は、昨年12月17日深夜、南海岸の麗水沖で不審な潜 水艇を発見し、警備艇や対潜哨戒機を動員して追跡した。潜水艇 は日本領海方面に逃走しながら発砲してきたため、交戦状態とな り、翌18日早朝、九州沖で艦砲射撃によって撃沈している。ロシアは今回、工作船がロシア領海に侵入して、服従しない場 合は、撃沈する方針を決定していた。[5]米国の沿岸警備隊は、不審船が停船命令に応じない場合、沈没 しない程度に攻撃する−などの手順をマニュアル化している。■7.幻想と詭弁の世界■不審船を撃退し、国民の拉致、ハイテク技術の流出、覚醒剤の 流入を防ぐのは簡単である。数行の法律を制定すれば良い。たと えば、スウェーデン憲法には次のような一節がある。政府は、平和時に又は外国相互間の戦争中に、王国の領土に 対する侵害を阻止するために、国防軍に、国際法又は国際慣習 にしたがって実力を行使することを授権することができる。スウェーデンは1983年に、領海に侵入した国籍不明の潜水艦に 爆弾投下を行っている。ソ連の原子力潜水艦だといわれていた。 永世中立国でも、国際法に従った領海警備を行っているのである。自衛隊になぜこのような「国防軍」としての国際法、国際慣行 に従った役割を与えられないのか。それは自衛隊は「軍隊」では ない、という自民党政府の詭弁との辻褄合わせのためである。そ の詭弁は、旧社会党などの非武装平和主義の幻想におつきあいす るためのであった。政治家達が幻想と詭弁にふけっている間に、現実社会では世界 トップレベルの我が自衛隊が北朝鮮の工作船に愚弄され、無用な 生命の危険と、国内からの刑事訴訟との危険に曝されているので ある。そうした幻想と詭弁をうち破るのは、「それはおかしい」とい う国民の常識の声である。そして国際法、国際慣行は、我々の健 全な常識に立脚したものなのである。[参考] 1. 産経新聞、1999.04.03、東京朝刊、1頁 2. 産経新聞、1999.03.25、東京朝刊、2頁 3. 「日本は国を守る"勇気"と"実力"を失ったのか?」、佐藤守、 月刊日本、H11.5 4. 「跳梁する海賊、工作船をどうする」、川村純彦、正論、H11.6 5. 産経新聞、1999.03.28、東京朝刊、1頁
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