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        _/  _/    _/  _/           Japan On the Globe (94)
       _/  _/    _/  _/  _/_/      国際派日本人養成講座
 _/   _/   _/   _/  _/    _/    平成11年7月3日10,586部発行
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_/_/   地球史探訪:「おじいちゃん 戦争のことを教えて」
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_/_/           ■ 目 次 ■
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_/_/     1.孫娘からの戦争体験に関する質問
_/_/     2.くやしかった真珠湾攻撃の体験談
_/_/     3.アメリカの誇りと身勝手さと
_/_/     4.高校卒業論文での反論
_/_/     5.時代を生きた人々の思いを偲ぶ
_/_/     6.穴沢少尉の肉声
_/_/     7.若々しい心に届く歴史教育を
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   駐在員の父親とともに、ニューヨークで暮らす女子高生が、陸
  軍士官学校生徒として敗戦を迎えたおじいちゃんに聞く。「なぜ
  軍人の学校にすすんだのか」、「アメリカとの戦いは正しかった
  のか」、「東京裁判や天皇の事をどう考えるのか」?
  
   10万部を超えるベストセラーとなった「おじいちゃん 戦争
  のことを教えて」[1]を読みながら、同様にアメリカで中学・高
  校生活を送った山口花子さんが、自分の体験を語ってくれた。
  [2]

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        自国の歴史を学ぶということ
   〜「おじいちゃん戦争のことを教えて」を読んで〜
                          山口花子

■1.孫娘からの戦争体験に関する質問■

  「おじいちゃん戦争のことを教えて」はアサヒビール名誉顧問の
  中條高徳氏がアメリカで生活している孫娘からの戦争体験に関し
  ての質問に答えるという形で書かれた本である。
  
   孫娘の景子さんはお父さんのアメリカ駐在に同行し、ニューヨ
  ークの国際色豊かな学校で勉強しているが、十二年生(日本の高
  校三年生)の時に受けたアメリカ史の授業において、家族や知人
  で戦争を体験した人の話を聞くという課題が出される。そこで、
  戦争中陸軍士官学校で学んだ祖父の中條さんに手紙を書くのであ
  る。
  
   景子さんの質問は戦前から現在までの中條さんの個人的な体験
  から東京裁判、戦後の社会、天皇に至るまで広い範囲にわたって
  いる。そして著者の答えは高校生のために書かれたものであるた
  め大変分かり易い。日本が大東亜戦争に至った背景なども書かれ
  ており、近現代史にくわしくない日本の若者が読むのにも最適で
  ある。また、日本とアメリカとの関係についても述べられており、
  読んでいく内に私は自分の学生時代の経験を思い出した。

■2.くやしかった真珠湾攻撃の体験談■

   私は中学高校時代を六年間アメリカで過ごした。この本の中の
  景子さんと同じように、父の駐在に同行したのである。景子さん
  は日本の高校教育と全く異なるアメリカでの学生生活について驚
  きを持って書いている。
   
   ただ先生の講義を聞くだけではなく、生徒同士が活発に意見交
  換をする授業。演劇、スポーツ、国際交流など、生徒が自主的に
  企画する様々なイベント。私もアメリカの学校に通うことで日本
  では考えられない経験をし、楽しく充実した学生生活を送った。
  同時に、自国をはなれ、異文化の中でくらす大変さも味わった。

   私が中学二年生のある日、全校生徒が講堂に集められた。12
  月7日(日本時間では8日)―それはアメリカが日本軍に真珠湾
  の攻撃を受けた日であった。学校に招待されていたのは真珠湾攻
  撃を体験した退役軍人で、彼は中学生に向かってJAPの卑劣な
  攻撃に立ち向かった勇敢なアメリカ軍のことを力強く語った。
  
   私はその一、二時間の間くやしくてたまらなかった。同じ日本
  人が悪く言われている事に対する怒りと、「それは違う」と言い
  返せるだけの歴史の知識がない自分に対する怒りで胸がいっばい
  で、その日は毎日教室で行なう「アメリカ国旗に対する忠誠」に
  参加する気にもなれなかった。ところが回りのアメリカ人の友人
  達はいつもより一段と大きい声で忠誠を誓っている。
  
■3.アメリカの誇りと身勝手さと■

   今考えると、自国の生きた歴史を子供に伝え、国に対する誇り
  を育てていくアメリカの教育は素晴しいものである。実際私が出
  会ったどのアメリカ人も自分の立場から歴史を正しく認識し、愛
  国心を持っていた。
  
   自国を悪人にしたてあげ、子供達から誇りを奪い取る日本の歴
  史教育とは大きな違いである。国民が自国をどれだけ愛している
  かがその国の力の源であると私は思う。その意味ではアメリカは
  本当に強い国であり、これからも世界の中心でいつづけるだろう。
  
   しかし同時に私の体験はアメリカの自己中心的なところや身勝
  手さを浮きぼりにしている。中学校には私の他に二人の日本人が
  いた。先生達は退役軍人の話を聞いて私達がどれほど傷つくか全
  く考えなかったのだろうか。
  
   そこには、東京裁判の時のような、弱者に対する残酷さが見ら
  れる。日常生活においても、アメリカは権利主張の国であり、そ
  れが度をこえてしまうと思いやりや優しい心は存在しなくなる。

■4.高校卒業論文での反論■

   それでも私は中学の時の体験に感謝している。あの時のくやし
  さは高校に入学してからも心に残っており、高校の卒業論文のた
  めに真珠湾攻撃の資料を集める中で、日本経済を苦しめたABC
  D包囲網や理不尽な対日要求をしたハル・ノートなどについて勉
  強した。
  
   そのようにして書き上げた論文を「真珠湾攻撃は日本に非がな
  い」と題し、そこそこの評価をもらったことで私の日本に対する
  愛国心が深まった。アメリカでの体験がなければ、私の日本の歴
  史に対する関心はそれほど高くなかったかもしれない。
  
   中條さんは著書の中で、これからの国際化の時代には自分を自
  分たらしめるものの基盤である国民性や民族性を大切にし、日本
  人の心を養うことが必要だと書かれている。私は幸い海外生活の
  中でその必要性を身を以って感じることができた。そして、私と
  同年代の方にももっともっと自国の歴史について関心を持ち、日
  本を誇りに思う気持ちを養ってもらいたい。「おじいちゃん戦争
  のことを教えて」は日本を知るためにぜひ最初に読んでいただき
  たい本である。
  
   私の二人の祖父も戦争を経験している。いつも私を励まし、見
  守ってくれる祖父たちが元気でいる間にそれぞれの戦争、そして
  歴史についてもっと話を聞きたいと思っている。

------------------------引用終わり--------------------------

■5.時代を生きた人々の思いを偲ぶ■

   アメリカの歴史教育で、家族や知人で戦争を体験した人から直
  接話を聞く、という課題を出されたり、また退役軍人の体験を聞
  くという事が行われているのは興味深い。これをきっかけに景子
  さんはおじいちゃんから戦争の事を教わり、花子さんは愛国心を
  深めた。
  
   これはその時代を生きた人々の肉声に耳を傾け、その思いを偲
  ぶという事である。たとえば、「おじいちゃん」、中條氏は次の
  ように語る。[1]
  
     景子も知っているように、おじいちゃんの住まいは九段にあ
    る。すぐ近くにある靖国神社は朝の散歩コースだ。そこには戦
    争で死んだたくさんの人々が祭られている。私は社殿に向かい、
    毎日参拝する。すると、必ず込み上げてくるものがある。それ
    は、すまない、申し訳ないという気持ちだ。
    
     戦争と向かい合い、国の安泰を願って命を投げ出し、死んで
    いった人々がいる。だが、自分は生き残り、ここにいる。その
    ことが申し訳なく思えて仕方がないのだ。・・・・
    
     あの戦争をくぐり抜けた人たちは、だれでもがこんな気持ち
    を抱いて生きていることを、景子の世代にぜひ知ってほしいと
    思う。

■6.穴沢少尉の肉声■

  「国の安泰を願って命を投げ出し、死んでいった人々」の肉声を
  聞いてみよう。たとえば、中央大学から学徒出陣し、昭和20年
  4月12日、特別攻撃隊隊員として知覧基地から出撃し、沖縄周
  辺にて戦死された穴沢利夫少尉(23歳)。[3,p67]
  
   見送った女学生の日記によれば、穴沢少尉は「につこり笑つて
  出撃した」という。白い飛行マフラーの下に婚約者の智恵子さん
  から贈られたマフラーを締めていた。
  
  「神聖な帽子や剣にはなりたくないが、替はれるものならあの白
  いマフラーのやうに、いつも離れない存在になりたい」という智
  恵子さんの思いに、穴吹さんは贈られたマフラーを肌身につけて
  出撃する。
  
   智恵子さんへの遺書には、「今更何を言ふか、と自分でも考へ
  るが、ちよつぴり慾を言つて見たい」として、3つを挙げている。
  
   第一に「読みたい本」として「万葉」その他、第二に「観たい
  画」として、ラファエルの「聖母子像」など、そして「三、智恵
  子」とあり、「会ひ度ひ、話したい。無性に」とあった。
  
   遺書は最後に「今後は明るく朗らかに。自分も負けずに朗らか
  に笑って往く」と締めくくられていた。
  
   戦後の長き年月、残された婚約者智恵子さんの生きる支えにな
  ったのは、穴沢さんの日記に残された次の言葉である。
  
     智恵子よ、幸福であれ。真に他人を愛し得た人間ほど幸福な
    ものはない。

■7.若々しい心に届く歴史教育を■

   文芸評論家の小林秀雄は、戦前に大学で歴史を教えてみて、
  「学生諸君が、歴史といふものに対して、まことに冷たい心を持
  っている」と痛感する。小学校、中学校から暗記物として、「で
  きるだけ正確に暗記せよ」とつまらなさをさんざん教え込まれて
  くれば、これも無理もない話だ、と言う。歴史教育のつまらなさ
  は、戦前も戦後も、まったく同じようだ。
  
     例へば明治維新の歴史は、普通の人間なら涙なくしては読む
    事は決して出来ないていのものだ、これを無味乾燥なものとし
    て教へてきたからには、そこによつぽど余計な工夫が凝らされ
    て来たと見るべきではないか。[4,p201]
    
     歴史は人間の興味ある性格や尊敬すべき生活の事実談に満ち
    満ちている。さういうものを歴史教育から締出して了つて、何
    故、相も変わらず、年代とか事件の因果とかを中心に歴史を教
    えてゐるのか。[4,p202]
    
     人生の機微に触れて感動しようと待ち構へてゐる学生の若々
    しい心をできるだけ尊重しようと努める事だ。[4,p202]
    
  「学生の若々しい心」で、「人間の興味ある性格や尊敬すべき事
  実談」に迫っていく、アメリカの歴史教育はこの原則をしっかり
  踏まえているようだ。そこから自国の歴史に対する愛着も誇りも
  自然に芽生えてくるのである。戦後の自虐史観教育も戦前の皇国
  史観教育も、青年の若々しい心を錆び付かせるだけの「よつぽど
  余計な工夫」なのではないか。
  
■ 参考 ■
1. 「おじいちゃん 戦争の事を教えて」、中條高徳、致知出版社
2. 「国民同胞」、国民文化研究会、H11.5
3. 「いざさらば 我はみくにの山桜」、靖国神社編、展転社、H6.8
4. 「歴史と文学」、小林秀雄、小林秀雄全集第7巻、新潮社、S53.11
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/★★読者の声★★_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
                   Midori Kuriyamaさんより
    
   アメリカの歴史教育の話、興味深く読みました。

   日本を離れてイギリス人のクラスメートと学び、まず感じたの
  は「なぜ私はこの人たちのように、自分の国を好きだと素直に言
  えないのか」ということでした。

   ここイギリスの大学院でHeritage Theory and Practice とい
  う授業を履修した時にまず、クラスメートと私の間にある、絶望
  的とも思えるほどの自分の国に対する認知の差に愕然とし、どこ
  からこの違いがくるのか、何が違うのかさえ、全く見当がつかな
  い状態に陥ったことがあります。

   そんな中で本にでてきた一つの文章がやけに頭に残りました。
  それは「歴史を残さない国は記憶を失った人のようなものであ
  る」というものでした。考えてみると、中学校、高校とも莫大な
  時間をさいて日本史、世界史の勉強をしてきたものの、現代史と
  いわれる大戦前後からは、最後の2,3時間でさっと習って終わ
  り、というのがいつものパターンだったような気がします。子供
  心に「歴史って戦争前までのことを言うんだ」と思っていたこと
  を最近になって思い出し、我ながら恐ろしいと思いました。

   今の日本の状態を考えれば、戦争前後から現在にかけてこそ、
  今の自分達を創っている礎になっている時期であり、様々な出来
  事に対して充分な論議をして、その場その場の日本という国の決
  断に「自分はそれをどう考えるか」について若者がはっきりした
  意見をもてるような教育をしなければいけないところのはずです。
  
   ところが自分のイギリスでの経験で感じたのは、「私は武士の
  時代のことは歴史で習ったけど、おじいちゃんが若かった戦争の
  頃、日本がどんなことしたのか、全く知らない」ということでし
  た。まさしく記憶喪失という言葉が自分にはぴったりした気がし
  たのです。イギリス人に旧日本軍捕虜の賠償問題などの意見を聞
  かれた時、「全て日本人のしたことが悪いのか、それともイギリ
  スでの報道が偏っているのか」など、知識がないために何も自分
  で判断できない情けない状態の自分に気付き、呆然としてしまっ
  たのが現状です。

   思うに、アメリカの存在やその民主主義の導入の課程で、日本
  は終戦直後に「自分達で自分達のやったことを徹底的に議論する
  場」をつかみそこねてしまったのではないでしょうか。議論しな
  いままに、なんとなく自分達の国のしたことは「悪い事だった」
  とアメリカ主導で教わり、細部についてはうやむやにして議論そ
  のものがタブー視されてきた。その後に育って来た若い世代にと
  って自分の国に対する認知は「漠然とだけど悪い事やった国」と
  いう程度ではないでしょうか。少なくとも私にとってはそうでし
  た。知らないモノに対してどうして忠誠心や健全な愛国心などが
  わくでしょうか。
  
   今必要なのは、日本が昔、悪い事をした、いやそうではない、
  という教科書の記述うんぬんではなく、できるだけたくさんの事
  実を白日のもとに公開し、それを若者達が「議論する場」ではな
  いでしょうか。議論することによって、「自分の国の歴史を自分
  はどう考えるか」というスタンスを築いていくことができるよう
  な気がします。「教科書で教わった」ではなく「自分は自分の国
  のしたことをこう思う」といえるような。

   外国に出て、初めて自分という存在が、好むと好まざるとにか
  かわらず日本人というアイデンティティから切っても切り離せな
  いものだと強く感じるようになりました。

   もちろん私は個人なんだけど、私は知らなくても、過去の日本
  人像を私に重ねあわせてみている人はいるかもしれず、自分がど
  う考えようと私は日本人であることは変わりようがなく、私の知
  らない世代の、自分ではどうすることもできない歴史の一本の線
  の上に存在しているような気がします。そういう意味で、自国の
  歴史を知らないのはまさに自分の一部を知らないことに他ならな
  いような気持ちになってしまうのです。

   話が最初に戻りますが、イギリス人クラスメートたちの愛国心
  というのは、購読紙にあったアメリカでの歴史教育と同じような、
  自分達の祖先のおこなって来た輝かしい業績をたたえる学校での
  授業や数々のイベント、博物館の展示などによって子供の頃から
  培われて来たもののように思われます。自分の国のおこなって来
  た事が100%Justiceである、と教わったらどれほど自分の国
  に誇りが持てるでしょうか。いち外国人としては、時に自国のし
  て来た事を真摯に顧みることをしないでいいものか、と疑問を持
  たざるを得ないこともかなりありますが。

   そういう意味では日本はアメリカやイギリスより随分厳しい立
  場にいると思います。誰だって自分の誇らしい歴史は語り継ぐの
  に苦労はしなくても、過去の暗い部分を自省し議論を続けて行く
  のは楽しいことではないからです。ましてそれを国としてやって
  いかなければいけないとなれば、それには莫大なエネルギーが必
  要であると思います。ただそれができなければ、いつまでたって
  も「自分の国が好き」と胸をはっていえる若い日本人を育てるこ
  とは難しいような気がします。そしてそれができたあかつきには、
  日本は真に客観的な意味での歴史解釈にも一歩近づけるのではな
  いでしょうか。イギリスで「Just War(正当な戦争)」というよ
  うなイケイケの報道でイラクやコソボでの空爆のニュースが報道
  されるたびに、「最終的に客観的に歴史をとらえられるのは敗者
  ではないか」というような気にさせられるのです。

  編集長・伊勢雅臣: 長文のお便りありがとうございました。こ
  のように御自身の体験をベースに、主体的に物事を考えられてい
  る姿勢はまことに貴重ですし、そのような青年が一人でも多く輩
  出する事を願っています。

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