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________Japan On the Globe(268)  国際派日本人養成講座_______
          _/_/   
          _/     The Globe Now: 不況脱出の方法
       _/_/      
_/ _/_/_/         もう成長の余地はない、という思いこみが
_/ _/_/          成長の余地を失わせる。
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■1.「失われた10年」はなぜ?■

  孫娘 「お祖父ちゃん、今年も就職戦線は大変ね。私の大学の
     クラブでも4年生でまだ就職先が決まっていない人がた
     くさんいるわ。」
  
  祖父 「そうか。失業率で見ても、10年前はわずか2%くら
     いだったのが、この9月は5.4%、有効求人倍率は0.
     55。ざっと20人に一人は職がなく、仕事を求めても
     2人に一人は見つからない状態だ。駅の地下道や、公園
     に住みついているホームレスの人たちもずいぶん、増え
     たような気がする。十分働ける健康な人たちが、何もせ
     ずにぶらぶらしているのは、本人たちも不幸だし、社会
     的にも大きな損失だと思うね。」

  孫娘 「倒産や、失業を苦にしての自殺も多いそうね。」
  
  祖父 「昨年の倒産件数は、17年ぶりに2万件を超えた。お
     祖父ちゃんの知り合いでも何人か、中小企業の経営者が
     いるが、戦後の復興や、高度成長時代を支えてきた中小
     企業が、バタバタと倒れていくのを見るのは、辛いこと
     だ。」

  孫娘 「一体、何でこんなひどい不況がずっと続いているのか
     しら。バブル以降、『失われた10年』と言う言葉があ
     るそうだけど、いくらバブル崩壊がひどくても、正しい
     政策をとっていれば、10年もあれば、脱却できたはず
     でしょ。」
    
■2.不況はなぜ起こる?■

  祖父 「お祖父ちゃんも経済学は生かじりだから、あまり自信
     はないが、この間、ポール・クルーグマンというアメリ
     カの経済学者の『恐慌の罠』という本を読んでいたら、
     なるほどと思うことが書いてあった[1]。新聞では、政
     府が銀行に不良債権の処理を早くやらせないから、不況
     がいつまでも続くんだ、とか、もっと大幅な公共投資を
     する必要がある、とか、政策レベルの話が多いが、この
     クルーグマンは、経済学の原理原則から、経済学の問題
     を一般の人に分かりやすく解き明かしていく、というス
     タイルをとっているから、お前も読んでみるといい。」

  孫娘 「日本の今の不況を、原理原則からどう解き明かしてい
     るの?」

  祖父 「まず、うちで年収が500万だとするね。それをたと
     えば、400万円消費して、100万円貯金をするとす
     る。それを銀行から企業が借りて、投資をする。あるい
     は、我々が直接、企業の株を買うというのでもいい。企
     業が100万円投資して、我々の400万円分の生産が
     できれば、ちょうど、貯蓄と投資、消費と生産がバラン
     スすることになる。」

     「この貯蓄と投資のバランスが問題なんだ。貯蓄がたと
     えば200万円に増えたとすると、消費は逆に300万
     円に減って、企業の売り上げが少なくなり、生産能力過
     剰の状態になる。そうなると、失業も増える。」

  孫娘 「それが今の状況なのね。企業は赤字で失業が増える。」

■3.不況はなぜ起こる?■

  祖父 「でも、市場には不思議な調整機能があるんだ。我々が
     200万円貯金しようとしても、借り手が100万しか
     要らない、というなら、利子率が下がるだろう。」

     「利子率が下がれば、うちも貯金は150万円くらいに
     しておいて、やはり消費を350万円くらいに増やそう
     とする。」

     「企業の方も、利子率が下がれば、売り上げが伸びるだ
     ろうと期待できるし、借金の負担も楽になるから、投資
     を増やそうという気になる。それで、また貯蓄と投資、
     生産と消費のバランスが回復するわけだ。」

  孫娘 「へえー。そんなにすごい調整機能があるの。でも、そ
     んなふうに巧みにバランスがとれていたら、どうしてこ
     んなに不景気になるの?」

■4.高齢化による構造的な貯蓄過剰■

  祖父 「そこが問題だ。クルーグマンが言うには、日本はもと
     もと貯蓄率が高い所に、高齢化で皆が消費よりも、老後
     の蓄えをするようになった。だから構造的に貯蓄が投資
     を上回っている、と言うんだ。」

  孫娘 「確かにお父さんもあと何年かしたら定年だというんで、
     貯蓄に励んでいるわ。昔は家を買ったり、車を買ったり
     していたんだけど、そういうものは皆揃っちゃったしね。」

  祖父 「それにあと何年かして、お前たちが学校を卒業して、
     自分で稼ぐようになったら、もっと老後の貯えに回せる
     ようになる。そんなこんなで、貯蓄は多いけど、消費が
     少ないんで、投資が減り、生産も落ち込んでしまう。」

  孫娘 「でも、貯蓄が投資よりも多いなら、さっきの話で、利
     子率が下がって、貯蓄が減り、投資が増えるんじゃない
     の?」

■5.倒産と失業の悪循環■

  祖父 「利子率は下がっりきって、もうほとんどゼロだ。百万
     円を定期貯金に入れても、一年で電車賃ほどしか利子が
     つかないだろう。」

  孫娘 「私はそんなに貯金がないから、実感が湧かないけど、
     確かお祖母ちゃんも、そんな事をこぼしてたわ。これじ
     ゃあ、蓄えを使っていくだけで、利子で増えることがな
     いから、いつまで持つか、不安だって。」

  祖父 「老後の不安があるから、いくら利子率がほとんどゼロ
     でも、貯金をやめるわけにはいかないんだ。だから、利
     子率がゼロでも、貯蓄と投資、消費と生産がバランスで
     きない。利子率はゼロ以下にはならないからね。これが
     クルーグマンの考えだ。」

  孫娘 「それじゃあ、市場の調整機能で、自然に不況が回復す
     る事ができないのね。だったら、この不景気が永遠に続
     くって事?」

  祖父 「いや、もっと怖い状態に陥る恐れもある。大勢の人が
     失業すれば、消費がさらに減って、企業の売り上げがも
     っと落ちる。倒産も増える。それでさらに失業が増える、
     という悪循環に陥る恐れがある。これがデフレ・スパイ
     ラルだ。」

     「企業の倒産が増えれば、それに貸し付けを行ってきた
     銀行も危なくなる。すると我々も大事な貯蓄を守ろうと、
     貯金をおろそうとするだろう。皆が貯金を下ろそうとし
     たら、銀行も潰れてしまう。その銀行からお金を借りて
     いる企業も、資金がストップして、これまた倒産だ。1
     930年代の大恐慌は、アメリカでこれが起きて、世界
     に波及したものだ。」

■6.政府が消費を肩代わり?■

  祖父 「そうならないよう政策でなんとかする必要がある。日
     本が今までとってきたのは、国が国民から借金をして、
     道路を造ったりして、消費を増やす、という財政政策だ
     った。」

     「たとえば、200万円の貯蓄から、50万円を国債と
     いう形で借りて、道路を作る。それで消費が50万円増
     える。言わば、国民が貯蓄をしすぎるんで、国が貯蓄を
     減らし、消費の肩代わりをしているんだ。」

  孫娘 「ああ、それで国の借金が約700兆円、国民一人当た
     り600万円近くにも膨れあがったわけね。この間読ん
     だJOGにも書いてあったわ[a]。でもその借金は、私
     たちや、私たちの子供の世代がいずれ返さなければなら
     ないんでしょう。無限に借金を積み上げるわけにはいか
     ないわ。この手ももう限界じゃないの?」

  祖父 「先進国の中で、国の借金がこれだけ膨れあがったのは、
     日本だけだ。これ以上やったら、政府が倒産してしまう
     かもしれない。」

■7.政策的なインフレ!?■

  祖父 「そこでクルーグマンが主張しているのは、3%程度の
     緩やかな物価上昇、すなわちインフレを起こして、金利
     がほぼ0%であれば、その差である実質金利がマイナス
     3%となる。借金をしても、その借金自体が物価上昇で
     実質的には目減りをしていく。そうなれば、家や車を欲
     しい人は、すぐにローンをして買った方がいいとなるだ
     ろう。こうして実質金利をマイナスにすれば、消費と投
     資をバランスさせる事ができる、というんだ。」

  孫娘 「えー! 政府が意識的にインフレを起こすの? そん
     な事が許されるの? お祖父ちゃんたちのように今まで
     の貯蓄で食べている人たちは、貯蓄が目減りしちゃうじ
     ゃない。なんか、悪いことのような気がするけど。」

  祖父 「そりゃ、そうだよ。だけど、国債を600兆円も積み
     上げるというのは、逆にこれから生まれる世代に負債を
     追わせて、今生きている我々が良い生活をしようという
     んだから、どっちが不公平だか、分からないよ。」

     「それに年数十%の狂乱物価では、国民生活もめちゃく
     ちゃになってしまうが、数%台の緩やかなインフレなら、
     高度成長時代よりも、だいぶ低い。」

  孫娘 「インフレ=悪、という先入観があったけど、国債とど
     っちが悪いか、と聞かれたら、もう一度、考え直す必要
     はあるわね。少なくとも、今生まれたばかりの赤ちゃん
     にも600万円の借金を背負わせるというのも、とんで
     もない不公正だと思うわ。」

■8.先入観を打破する姿勢■

  祖父 「クルーグマンは、イギリスの中央銀行であるイングラ
     ンド銀行が、2.5%のインフレ目標を掲げていること
     を紹介している。アメリカは公言はしていないが、3%
     程度の暗黙の目標を設定しているとクルーグマンは推定
     している。」

  孫娘 「なんだ。実際にやってる国もあるのね。だったら、私
     たちも先入観だけで毛嫌いせずに、アメリカやイギリス
     での経験を、もっと研究したらいいわけね。」

  祖父 「お祖父ちゃんもそう思う。クルーグマンの言ってるこ
     とが、正しいかどうか、まだ分からないけど、インフレ
     =悪と思いこんで、それから先を考えないのは、一種の
     思考停止じゃないか、と思った。クルーグマンがそうい
     う先入観に囚われずに、経済学の原理からどうあるべき
     か、考えている姿勢は見習うべきだと思ったよ。」

■9.日本にはもう成長余地がないか?■

  祖父 「もう一つ、クルーグマンが私たちの先入観を打ち砕こ
     うとしている点がある。それは現在の不況が、日本がも
     う十分豊かになって、成長の余地がなくなってしまった
     から、すなわち、潜在成長率が低下してしまったからと
     安直に思いこんでいるのではないか、と問いかけている
     所だ。」

  孫娘 「私なんかも、もう日本は物質的には十分豊かになって、
     これ以上、モノを作っても環境を破壊するだけじゃない
     か、と思っているけど、そうじゃないの? 今の世の中
     はモノがあふれていて、どこに消費を拡大する余地があ
     るの?」

  祖父 「モノを買うことだけが豊かさだというのが、そもそも
     誤った先入観だ。まず、住宅とか、公園とか、住環境は
     もっと良くすべきだろう。江戸時代の日本は、その豊か
     さと風景の美しさでアメリカの旅行家を感嘆させたほど
     だった[b]。今の日本の貧弱な都市環境や乱雑な景観で
     は、とても本当の経済大国とは言えないよ。」

     「それに教育も、日教組が幅を効かせている公立校なん
     かは、旧ソ連の国営企業の製品と同じで、安かろう悪か
     ろうそのものだ。立派な先生には高い給料を払って、も
     っともっと良い教育をしてもらいたいものだ。また安全、
     安心な国民生活を実現するためにも、警察や自衛隊には
     もっとお金を使う必要がある。」

  孫娘 「そういう事まで考えると、確かに日本の生活は決して
     豊かとは言えないわね。」

■10.自らビジョンを描く活力■

  祖父 「私たちの周辺に工業製品があふれかえっているから、
     もう豊かさは十分だと思いこんで、それで未来の展望も
     なくして、それがもとで経済も落ち込んでいってしまう。
     それでますます悲観的になる。まさに経済と心理のデフ
     レスパイラルだ。」

  孫娘 「結局、私たちがどういう生活を理想と考えるか、とい
     うビジョンを自分で描き、それを実現していく活力を発
     揮していく事が大事なわけね。」

  祖父 「お祖父ちゃんもそう思う。もう成長の余地はない、と
     いうような先入観で自分自身を縛り、経済学は分からな
     いと人任せにして、新しいビジョンを描く気力すらない、
     というのは、軍備を放棄さえすれば、平和は保てる、と
     いうような思考停止と同じだ。それでは自ら平和を作り
     出そうとする活力も出てきやしない。」

  孫娘 「そういう意味では、私たち一人ひとりが不況と戦う事
     ができるのね。私なら、将来超一流のファッション・デ
     ザイナーになって、世界中の人が憧れるようなファッシ
     ョンを作り出すわ。それを世界中に輸出するの。」

  祖父 「そうそう。その意気。モノの世界でも、もっともっと
     立派なものを作って、豊かな社会を作る余地がある。お
     祖父ちゃんたちも負けずにがんばらなくちゃな。高齢化
     社会=停滞社会なんていう先入観はぶっとばしてやろう。」
                     (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(266) 日本国債 〜 日本政府の信用が問われている
   生まれたばかりの赤ちゃんも、6百万円の借金を背負わされている。 
b. JOG(091) 平和の海の江戸システム
   日本人は平和的に「自力で栄えるこの肥沃 な大地」を築き上げた。

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
1. ポール・クルーグマン、「恐慌の罠」★★、中央公論社、H14
   
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「不況脱出の方法」について

     国会議員の方々は、国民全体の生活水準を考慮した国つくり
    を本来の使命とし、個々の出身母体、出身地を中心とした政策
    は地方議員に任せるべきである。一部の利益団体のごり押しは
    全部が国民に跳ね返って来る。その原因をつくっているのは、
    我々国民である。
    
     かの米国の故ケネディ大統領の言葉、国が何をしてくれるか
    ではなく、我々が国に何をしていくか、をもう一度、噛みしめ
    たい。
                                              なおみさんより
    
     私は経済の事はよく分からないので、素人考えを書いてみます。

    1.相続税の廃止: 中小企業の1代目が息子に家業を継がせた
      いと思っていても、相続税が払えなくてやめてしまう所が多
      いです。一度税金を払った残りの所得に課税するのはおかし
      いです。税金の二重取りです。

    2.高齢者も働けるようにする: 高齢化社会で年金の破綻は目
      に見えています。高齢者でも働ける人、働く意欲のある人は
      年齢制限せずに雇うようにしていくべきです。

    3.所得税はフラットに: 今の極端な累進課税をやめて、一律
      10%程度のフラットな税制にすべきです。今の日本は税金を
      払っていない人が多すぎます。そうすれば税収も増えます。
      昔、サッチャー首相が言いました。「金持ちを貧乏にしたか
      らと言って、貧乏人が金持ちになるわけではない。」

    4.銀行業の自由化: トヨタやソニーといった優良企業が銀行
      業に参入しやすいようにすると駄目な銀行は自然淘汰されて、
      外資など怖くありません。
                                              sinsinさんより

■ 編集長・伊勢雅臣より

    「素人の常識」を大事にする、これが大英帝国を築いた繁栄の
    ノウハウの一つでした。逆に言えば、国民が素人ながらも自分
    の主張をする、という事の大切さですね。

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