[トップページ][平成15年一覧][Common Sense][221.0131 拉致問題][311 共同体]
■■ Japan On the Globe(284) ■ 国際派日本人養成講座 ■■■ Common Sense: かくも長き忘却 20年以上も拉致問題を放置してきたのは、我々が何か 大切なものを忘れていたからではないか? ■■■■ H15.03.16 ■■ 38,524 Copies ■■ 754,620 Views ■ ■1.日本政府の助けをひたすら待った■ 北朝鮮に拉致されて24年、ようやく帰国できた蓮池薫さん は、その兄・透さんによれば、拉致された当初の3年間は日本 の政府が助けてくれるのではないかと、ひたすら待ったという。 しかし、何も起こらず、諦めて北で生きる決意を固めるしかな かった。 薫さんは帰国当初、「日本人であると同時に、共和国の公民 としての葛藤がある」(透さん)ようだった。二人は激しく言 い争い、赤坂プリンスホテルでは母親のハツイさんが、せっか く巡り会った兄弟がそんなに喧嘩するなら「自分はこのホテル から飛び降りて死ぬ」と言った。この言葉と、政府が帰国した 5人を北へは戻さないと決断したことが、心を大きく開くきっ かけになったという。 薫さんとしてみれば、24年間も自分たちを忘れていた日本 はもはや祖国というに値しない国だったであろう。まして「こ のまま日本に留まりたい」などと言った後に、日本政府が自分 たちを北朝鮮に送り返したりしたら、どのような運命が待って いるか明らかだ。一家もろとも事故死とされて消されてしまっ ても何の不思議もない国なのである。 ■2.「何故私たち皆が」■ ところが、その日本には必死に自分たちを捜し、ひたすらに 生還を待っていてくれた両親がいたのである。 拉致されて24年間は、両親にとっては悲しみ、苦しみ の一日一日の積み重ね、私たちを探し出す苦労の24年間 だと感じることが出来ました。 そしてようやく日本政府は5人を返さないと決断した。薫さ んは「拉致事件が、単なる一個人ではない国と国との大きな問 題であると感じました」と言ったが、この時、はじめて薫さん は自分たちを護ろうとしてくれている日本国の国家意思を感じ たのではないだろうか。 同じ頃、皇后陛下のお言葉が新聞各紙に報道された。 小泉総理の北朝鮮訪問により、一連の拉致事件に関し、 初めて真相の一部が報道され、驚きと悲しみと共に、無念 さを覚えます。何故私たち皆が、自分たち共同社会の出来 事として、この人びとの不在をもっと強く意識しつづける ことが出来なかったのかとの思いを消すことができません。 今回の帰国者と家族との再会の喜びを思うにつけ、今回帰 ることのできなかった人々の家族の気持ちは察するにあま りあり、その一入(ひとしお)の淋しさを思います。 「何故私たち皆が自分たち共同社会の出来事として、この人び との不在をもっと強く意識しつづけることが出来なかったの か」との痛切な自省の御心を偲ぶべきである。本誌でも、拉致 問題に否定的な言動を放って、問題解決を遅らせてきたマスコ ミや政治家、官僚を取り上げてきたが、彼らの過ちを見過ごし てきたのは、我々日本国民全体の「不作為の罪」と言える。そ れは我々が何か大切なものを忘れていたからではないか。 ■3.「朝鮮による拉致の疑いが十分濃厚」■ 拉致被害者の家族が「国」を頼る時、まず訪れたのは警察か、 外務省であった。姉・るみ子さんを拉致された日本人被害者の 家族連絡会事務局次長・増元照明氏はこう語る。 私たち家族は政府に対して根強い不信感を持っています。 法務省に人権侵害といってもとりあげてくれない。警察庁 に行っても外務省の管轄といわれ、その外務省や首相官邸 に頼んでも何もしてくれなかったのです。[1] まず警察はどうだったのか? 警察の管理と運営を行うのは 国家公安委員会であるが、その委員長だった梶山静六氏は昭和 63(1988)年3月26日の参院予算委員会でこう答弁している。 昭和53年以来の一連のアベック行方不明事犯、恐らく は北朝鮮による拉致の疑いが十分濃厚でございます。解明 が大変困難ではございますけれども、事態の重大性にかん がみ、今後とも真相究明のために全力を尽くしていかなけ ればならないと考えておりますし、本人はもちろんでござ いますが、ご家族の皆さん方に深い同情を申し上げる次第 であります。 梶山氏の答弁には家族の悲しみ苦しみを思いやる同情ととも に、なんとしても拉致された人々を取り返したいという心情が にじみ出ている。国会で「北朝鮮による拉致の疑いが濃厚」と 国名まで明言して言うからには、相当の証拠を掴んでいたので あろう。 ■4.外交交渉をしたくない?外務省■ 国家公安委員長がここまで「濃厚な疑い」を明言した以上、 それを外交の中で追求していくのは外務省の役割である。その 外務省はどう対応したか。 拉致疑惑には亡命者の証言以外に証拠がないわけなんで すから慎重に考えないといけないんですね。韓国の裁判で 証言があるといったって、韓国に捕まった工作員だから、 彼らは何を言うか分からない。(阿南惟茂アジア局長、平 成9年10月) 「韓国に捕まった工作員」とは辛光洙である。原勅晃さんを宮 崎の海岸から拉致し、原さんになりすまし、原さん名義のパス ポート、免許証を使って、日本や韓国に潜入して工作員活動を 行っていた拉致実行犯である。証言以外にもパスポートや免許 証という物証がある。 物証と証言と、これ以上にどんな「証拠」をあげれば、外務 省は北朝鮮に拉致疑惑をつきつけて「原さんを返せ」と言って くれるのか? 阿南氏の発言からは、被害者やその家族にたい する同情のかけらも感じられない。これでは拉致疑惑に関する 交渉はしたくない、と言っているのと同じだろう。 ■5.拉致にこだわるのは国益に反する?!■ 交渉をしたくない、どころか、すべきでないと明言している のはその後任のアジア局長・槙田邦彦氏である。 たった10人のことで日朝国交正常化交渉がとまっても いいのか。拉致にこだわり国交正常化がうまくいかないの は国益に反する。(平成11年12月、自民党外交部会) 「たった10人」という言葉使いに、槙田氏の酷薄な人権感覚 が窺われる。同時に問うべきは「たった10人」くらい拉致さ れても構わずに追求すべき「国益」とは何なのか、という事で ある。 国益とは国民の幸福を実現することであり、またその大前提 として国民の生命や安全を守ることである。国交を我々の友人 つきあい、国益を我々自身の幸福と置き換えてみればよい。自 分の子どもを拉致するような誘拐犯と仲良くして、どんな幸福 がもたらされると言うのか。 さらに国交正常化後に北朝鮮に経済協力をしたりすれば、国 民を数百万人も餓死させて平気な金正日・独裁政権を長続きさ せることになる。それは北朝鮮人民の「国益」のためにも有害 であろう。 こういう事を理解せずに、槙田氏が「国交正常化=国益」と 短絡的に考えていたとしたら、外務省官僚としては不見識の極 みである。またこの点を知りつつも、北朝鮮との国交正常化を 成し遂げた人物として名を残すことを求めていたならば、それ は「国益」ではなく「私益」の追求である。いずれにしろ、真 の「国益」を理解し追求しえない人物が外務省を牛耳っていた のであり、それを見過ごしていた我々国民の「不作為の罪」も 重大である。 ■6.家族、国民、政府、外務省の思いがようやく一つに■ もっとも、外務官僚の中にも見識と真心のある人は少なくな いことは、拉致被害者帰国後の北朝鮮との交渉を見てもよく分 かる。鈴木勝也担当大使や斎木昭隆アジア大洋州局参事官のク アラルンプールでの交渉ぶりを被害者家族は次のように一様に 高く評価した。[2] いままでにない迫力で交渉していただいたことを大使の 口から直接聞き、今度はだいぶ違うと納得した。北朝鮮は 少しは骨身に感じたのではないか。 交渉の模様を聞いて、筋を通し、家族の立場に立って交 渉してくれたとの感を一層深くした。五人の家族が帰国で きなかったことは残念だが、交渉自体は高く評価しており ます。 私たち家族、国民、政府、外務省の思いがようやく一つ になってきたなと感じた。 安部晋三・内閣官房副長官が拉致問題に関して前面に出るよ うになって、政府の動きも急に変わってきたという印象を受け る。心ある政治家がいれば、心ある官僚が引き立てられて、 「家族の立場に立っ」た外交が実現できるのである。阿南氏や 槙田氏のような外務官僚がエリートコースに乗っていたのは、 そうさせている政治家の問題であろう。 ■7.自国民への無関心と北朝鮮支援への執念■ その政治家たちは拉致問題にどう対応したか。与党の代表と して、小渕内閣では官房長官、森内閣では自民党幹事長として、 要職を歴任した野中広務氏を取り上げてみよう。野中氏は平成 9年6月24日、自民党本部での講演で次のような発言をして いる。 声高に「拉致事件を解決しよう」といったところで、 「証拠がない」といわれたら終わりだ。・・・ 先に述べたように、工作者の証言も物証もあるのであり、ま たたとえ証拠不十分でもとにかく拉致された国民をなんとか救 い出そうという気迫がまるで感じられない言いようである。そ の一方では、野中氏は北朝鮮への米支援には異常な熱意を燃や した。産経新聞(平成10年4月7日)では次のような発言が 報じられている。 拉致疑惑があるから食料を送るなとの意見は強いが、 (北朝鮮とは)従軍慰安婦や植民地、強制連行があった。 近くて近い国にしたい。日本はコメが余っているのに隣人 を助けることが出来ないのは恥ずかしい。壁を破ってでも 食料援助をすべきだと思っている。 ■8.「9人、10人返せ!」ばかり言ってもフェアじゃない■ 日本側に「従軍慰安婦や植民地、強制連行」という「前科」 があるのだから、拉致問題に関して大きな事を言えない、とい う論理をもっと露骨な形で表明したのが、秘書給与の流用問題 で辞職した社民党の辻元清美である。辻元はネット上でこう公 言してはばからなかった。 国交正常化の中では、戦後補償が出てくるでしょう。日 本は、かつて朝鮮半島を植民地にして言葉まで奪ったこと に対して、北朝鮮には補償も何もしないのだから、あたり まえの話です。そのこととセットにせずに、「9人、10 人返せ!」ばかり言ってもフェアじゃないと思います。 こういう「前科者」史観がいかに史実と矛盾するかは、本誌 でも論じてきた。朝鮮半島では日本統治の間にコメ生産量が倍 増、人口も2.4倍と高度成長をしていた事[a]、民間による慰 安婦はいたが、軍が強制連行した「従軍慰安婦」などはいなか った事[b,c]、等々。 「強制連行」を「拉致」と同次元に見るのも単純な誤りだ。当 時、「強制連行」などという言葉はなく「徴用」と言った。国 民に労働義務を課すことを「徴用」、兵役義務を課すことを 「徴兵」という。徴兵制度は現在でも多くの国が採用している。 日本では終戦の前年には国民徴用令が施行されて学生も工場 や農村で働くことになった。当時の朝鮮の人々も日本国民だっ たから、この徴用令が適用された。これを「強制連行」と言い 換えて朝鮮人だけ「拉致」されたかのように言うのは、史実の ねじ曲げである。 このような「前科者」史観によって、多くの国民が自国を罪 悪視する思想を植え付けられた。それが「証拠がないから」 「お互い様だ」などと言う言い訳によって、「この人びとの不 在をもっと強く意識しつづけることが出来なかった」一因であ ろう。 ■9.「真の自由な民主主義社会」となるために■ 1987(昭和62)年11月、大韓航空機をミャンマー付近海上 上空で爆破したテロリストの一人、金賢姫は拉致された日本 人・田口八重子さんと見られる李恩恵から日本語を教わった。 金賢姫は、「忘れられない女(ひと) 李恩恵先生との二十ヶ 月」(文藝春秋)の中で、田口八重子さんが日本海の果てを見 つめて涙ぐんでいたことなどを回想しつつ、こう述べている。 一日一日を一生懸命生きていく平凡な人間を、一人一人 大事に扱ってくれる社会こそ、真の自由な民主主義社会だ と私は考えます。田口八重子の召還のために日本のみなさ ますべてが気持ちを一つにすれば、たとえ李恩恵(田口八 重子)の存在自体を否定している北朝鮮であっても、彼女 を日本に送り返さざるを得ないでしょう。いまも北朝鮮の 奥深い山の中で故郷と家族を懐かしみ、涙を流している田 口八重子を放っておいて「良心」とか「正義」という言葉 を口に出すことは出来ない・・・ 「一日一日を一生懸命生きていく平凡な人間を、一人一人大事 に扱ってくれる社会」とは、皇后陛下の「何故私たち皆が、自 分たち共同社会の出来事として、この人びとの不在をもっと強 く意識しつづけることが出来なかったのか」との問いかけに通 じている。国家の原初の姿とは、国民がお互い一人一人を大事 に扱って生きていく「共同社会」である。 この事を、我々は戦後植え付けられた「前科者」史観によっ て長らく忘れてしまっていた。これが拉致問題がかくも長き間、 放置されてきた理由であろう。20数年ぶり生還した拉致犠牲 者の方々によって、我々は国家とは「共同社会」であることを 思い出しつつある。それは「真の自由な民主主義社会」への道 である。 (文責:伊勢雅臣) ■リンク■ a. JOG(254) 「親日派のための弁明」を読む 私たちは国を奪われたのではなく、日本というましな統治者 を受け入れたのである。 b. JOG(106) 「従軍慰安婦」問題(上) 日韓友好に打ち込まれた楔。 c. JOG(107 「従軍慰安婦」問題(下) 仕掛けられた情報戦争。 ■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け) 1. 山際澄夫、「拉致の海流」★★、恒文社、H15 2. 産経新聞、「【家族よ】混迷する拉致問題」、H14.11.01、 東京朝刊、31頁 3. 三浦朱門、「戦時中の労働徴用を「強制連行」と言うな」 産経新聞、H14.10.17朝刊 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ■「かくも長き忘却」について 能面通さんより そんな以前でない日に買った週刊誌のクラビアに金賢姫がい た。やはり、うつむいて、表情は暗い。何故だろう、と思案を 巡らせた。結婚したのは知っている。その前に、助命されたの も。たとえそれが、政治家の権力外交のシナリオどおりだとし ても生命はある。こうやって取材も、本人の真意はともかく、 かっての自分の日本語の先生への恩返しだとしても。... やはり故郷なんだな。家族のことなんだな。自分だけがひと 安心でも、愛する人たちのことを想って、明るくできないんだ な。まだ、続いてるんだ。まだわたしは闘いを継続しています。 その答えが、あのうつむいた、押し黙った表情なんだな。... 浅はかなのは、こちらでした。つい日本のTVの家庭ドラマ 感覚で、一刻も早く勝手にハッピーエンドにもっていきたがる。 これは旧体制を打破して、真の民衆の自由と平和を意欲する、 厳格で真っ当な闘いなのだ。目覚める者よ、こころして聞け。 不当に虐げられる人々のおもいを共感せよ。彼らとともにあれ。 ■ハマダさんより 被害者の方たちがどんなに辛かったか、私たちがどれほど薄 情だったか、今更ながらに思い知らされ、涙が止まりません。 新しい歴史教科書の登場やテロ事件の頻発など、最近の流れ を見ていると、なにか大きな力が日本を本来の日本に戻そうと、 人々を揺さぶっているようにすら思えます。先人を見直せと。 「国」とは何かを見直せと。 そして、拉致事件です。被害者の方々は、壊れてしまった日 本を建て直すための、歴史上の人柱ででもあるのでしょうか。 なんともやりきれません。人柱を出さなければ国を建て直すこ ともできない、私たちはそんな情けない国民であったのかと。 帰国した方々は、テレビなどで拝見するたびに表情が柔らか くなっています。まだ間に合うのではないか、これまでの薄情 ぶりの償いをするには。あの人達を、人柱にしたままで終わっ てなるものか。とらわれた人達をご家族共々取り戻し、あの人 達の壊された人生の埋め合わせをしなくては「国の建て直し」 は成らない。そう思います。 ■ 編集長・伊勢雅臣より 拉致被害者の家族の方々の戦いは、我々を目覚めさせつつあ ります。 ■なみおさんより わたくしは戦後に今話題のピョンヤンから引き揚げて来た引 揚者です。実体験の人間です。この拉致問題については非常に 関心があり、政府をはじめここに出て来る政治家達の見識には 蓮池透氏が外務省は「敵」だと言った思いがよくわかります。 38度線を越え米国の管理下に逃亡出来た時は、子供心(当時5 歳)にこれで助かったのだ、本当にアメリカは私達にとって味 方なのだという実感を味わいました。それにしても戦後の日本 では何と言う政治家や官僚を輩出して来たのでしょう。 戦後教育の問題がいま議論されていますが、確かに戦前の教 育にも問題ある部分はあったと思いますが「戦前の事は全て否 定する」この事が日本を駄目にしている大きな原因である事に 気付いて欲しいものです。辻元氏は北朝鮮に対する日本の戦後 補償に触れ、多くの政治家が当たり前みたいにこれを主張しま すが、われわれが現地に置いてきた全ての財産、同時に日本が 築いてきた財産はどうなるのですか? 自虐的になるのもいい 加減にして欲しいと言いたい。戦後生まれのあなたに、大きな 顔してその様な事を言って貰いたくないという心境である。世 界から見ても「悪いものは悪いという」常識を持つべきである。 ■ 編集長・伊勢雅臣より 自らの歴史の否定が、政治の混迷を招いています。© 平成15年 [伊勢雅臣]. All rights reserved.