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■■ Japan On the Globe(316)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

           The Globe Now: ハイテク中国、袖の下

         有人宇宙船にも優るとも劣らないハイテク・システムで、
        日本の経済援助は宙に消えていく。
■■■■■ H15.10.26 ■■ 38,771 Copies ■■ 972,859 Views■

■1.「中国よ、おめでとう」■

      "Congratulations, China(中国よ、おめでとう)"。中国
     の有人宇宙船「神舟5号」の打ち上げ成功を報じた英国エコ
     ノミスト誌記事のタイトルである。もちろん、ひねりの効い
     た文章の多いエコノミスト誌のこと、素直なお祝いで終わる
     はずはない。このタイトルのあとには、すぐこういうヘッダ
     ーが続く。[1]
     
          しかし、有人宇宙飛行の出来る国に、外国の経済援助
         は不要(拙訳)。
         
     記事では、中国が今回の有人宇宙船打上げにかけた20億ド
    ル以上と推定される費用を中国が海外から受け取っている援助
    総額18億ドル(そのほとんどは日本から)と対比している。
    米露の宇宙開発でも莫大な費用が浪費されているが、「両国は
    少なくとも自らの資金を使っている。しかし、中国は他国の寛
    大さに頼っているだけだ」と批判。「AIDSやSARSの対
    策など、他にやるべきことがあるはずだ」という中国の科学者
    の意見を紹介している。
    
     中国は自国民の生活水準向上には日本などからの援助を使い、
    浮いた費用で宇宙開発をしている。そんな事を許している日本
    は「寛容」どころか、「間抜け」な国だと思う読者も少なくな
    いだろう。
    
     しかし、もうひとひねりして言わせて貰えば、日本の援助の
    相当部分は中国の貧しい民には届かず、途中で宙に消えてしま
    うのである。どこにどう消えてしまうのか、いくつかの実例を
    見てみよう。
    
■2.「すごい空港だねぇ。」■

     日本人のお年寄りのツアー一行が北京空港に降り立った。お
    ばあちゃんたちは空港の豪華さに驚いた。「すごい空港だねぇ。
    成田空港よりも上かもしれない」「これからはやっぱり中国だ
    ねぇ。日本の若い人たちは大変だね。かわいそうだね。」[2]
    
     おばあちゃんたちは、この豪華な北京空港に、日本の「大変
    な、かわいそうな」若い人たちの血税が使われているのを知ら
    ないだろう。北京空港の建設費用として、日本の円借款300
    億円が供与されている。これは建設資金の40%にあたる。こ
    の援助は中国では感謝されるどころか、ほとんど知られていな
    いという問題は、[a]で述べた通りである。
    
     北京は2008年のオリンピック誘致に成功したが、その都市イ
    ンフラの多くは日本の援助によって作られた。過去20年の間
    に日本が注ぎ込んだ援助総額は、北京だけで約4千億円。たと
    えば、航空管制システム210億円、北京首都圏に乗り入れる
    鉄道の拡充870億円、市内地下鉄網200億円、市北部の揚
    水発電所130億円、長距離電話網72億円、国家経済情報シ
    ステム240億円、上水道整備155億円等々。[3,p46]。
    
     ODA(政府開発援助)とは、そもそも「開発途上国の離陸
    へ向けての自助努力を支援することを基本とし、広範な人造り、
    国内の諸制度を含むインフラストラクチャー(経済社会基盤)
    及び基礎生活分野の整備等」を趣旨としていた[4]。
    
     北京の豪華な空港や光ファイバーによる電話網や国家経済情
    報システムなどに金をつぎこむよりも、アフリカでのAIDS
    対策や農業支援に使った方が、よほど人類全体のためになるし、
    ODAの本来の趣旨に添うはずだ。

■3.風俗営業に使われたODA施設■

     しかし問題はさらに根が深い。たとえば、こんな事例がある。
    
        「日中交流施設で風俗営業 無償援助、北京に建設 日本
        大使館が抗議」(産経新聞、H12.10.11)
    
         日本の中国向けの政府開発援助(ODA)のあり方が論
        議を呼んでいるが、日本の無償援助約百億円で北京市内に
        建設された「日中青年交流センター」の構内に女性がサー
        ビスにあたる風俗営業ふうのカラオケクラブが開かれ、北
        京の日本大使館が援助の趣旨に逸脱しているとして抗議し
        たことが十日、明らかになった。
        
         日中青年交流センターは「日中両国の二十一世紀の青年
        の友好を深めるための施設」として八四年、当時の中曽根
        康弘首相と胡耀邦共産党総書記との間で日本の無償援助百
        一億円を主体に建設が決まった。(中略)
        
         しかし日中関係筋が十日、明らかにしたところによると、
        同青年交流センター構内にことし春から「S」というカラ
        オケクラブがオープンし、女性ホステスたちが個室で客の
        横に座ってサービスするという風俗営業を開始した。同時
        にホステス用の臨時宿舎までが構内に新設された。同店は
        北京の日本人や韓国人の間でセックスがらみのサービスを
        する店として評判が広がり、日本大使館では九月中旬、同
        センターを管理する中華全国青年連合会(全青連)に口頭
        申し入れの形で善処を求める抗議をしたという。

     とんだ「交流センター」だが、こんな事が行われるには、そ
    れなりの背景がある。[2]の著者、青木直人氏はこの日中青年
    交流センターを'89年の建設当時から5回訪れて、その実態を
    報告している。

■4.それでは高くなりますよと何度もアドバイスしたのですが■

     '89年10月、青木氏は建設中の交流センターの工事現場を
    訪ねた。設計と外装は日本側が、内装は中国側で中華全国青年
    連合会(全青連)が受け持った。青木氏がインタビューした日
    本人技術者はこう語った。
    
         ここではモノがなくなるんです。建設資材が、です。日
        本の感覚で外に置いておくと、翌日にはまずなくなってい
        る。ええ、中国側の現場作業員が持ち出すんです。盗んだ
        資材は自宅用に自分で使うか、売り飛ばすか。そのどちら
        かです。
        
     後進国ではよくある事だが、問題はその先である。
    
         日本でこうした盗難や紛失がある場合、常識的には当然
        その製造メーカーに再注文を出します。でも、センターは
        そうではないのです。中国側の中華全国青年連合会のほう
        が、付き合いのある日本商社を通して発注してほしいと強
        硬なんです。それでは高くなりますよと何度もアドバイス
        したのですが、、、[2,p40]
        
     すったもんだの末に中青連の言うとおり、商社を通じて購入
    せざるをえなかったという。当然、工事費用は膨れ上がる。中
    青連が特定の商社にこだわるのは、キックバック(賄賂)が目
    的なのだろう。

■5.「見事にとられましたね。中国に」■

     '91年5月、センターは正式にオープンした。日本の青少年
    が中国で安く宿泊できるホテル「二十一世紀飯店」、イベント
    ホール「世紀劇院」、さらにプールなどからなる大規模施設で
    ある。青木氏が3年半後の'94年秋に再訪すると、、、
    
         驚いた。建物の外壁にはもう亀裂が走っていた。センタ
        ーの入口にある会館案内用のプレート、バス停留所のポー
        ルにも赤錆が浮かんでいる。敷地の奥に作られた建物の外
        壁は剥離が始まっている。
        
     いくつかの日本の大手旅行代理店で聞いてみると、日本人客
    用にこの「二十一世紀飯店」を勧めている所は、一社もなかっ
    た。「はっきり言って内部の造りは雑です。お客のクレームを
    予想すると、ちょっと使おうという気になれない。」
    
     青木氏が泊まった部屋でも、湯船の栓を抜いたら、お湯がい
    きなりトイレの方に吹き出したという。調べてみると配水管が
    外れていて、そこからお湯が漏れて出る。あとでホテル内のテ
    ナントで働く日本人に話すと、「そんなんで驚いていたんじゃ、
    このホテルには泊まれないわよ。」
    
     結局、日本人は「夏休みの修学旅行生以外は来ていない」
    (ホテルのフロントの言)。利用するのは「会議などで地方か
    ら北京に来る共産主義団体のおのぼりさんや韓国人が中心」だ
    そうだ。工事もメンテナンスも手抜きした分の利益は運営主体
    の中青連の懐に入る仕組みで、日本側は運営にはノータッチ。
    さらに売上げ拡大を目指して、風俗営業店まで入れたという訳
    なのである。
    
    「見事にとられましたね。中国に」 ある日本人が吐き捨てる
    ように言ったセリフである。

■6.「中曽根の胡耀邦への政治献金」■

     そもそも何故にこのようなセンターが生まれたのか。構想が
    生まれたのは'84年。日本では中曽根政権が誕生し、中国では
    最高実力者・トウ小平の後継者としてプリンス胡耀邦が中国共
    産党の総書記に就任した2年後のことである。
    
     中曽根と胡耀邦は、従来の田中(角栄)派−周恩来派閥に替
    わる新しい日中間のパイプづくりを狙い、それぞれの腹心を送
    り込んだ「二十一世紀委員会」を両国外務省内に作った。この
    委員会が提言したのが「次代を担う両国の青年の交流スペー
    ス」で、これがセンターの構想となった。
    
     センターの運営主体は中華全国青年連合会であり、その中核
    が胡耀邦の出身組織である共産主義青年団であった。すなわち、
    日本のカネで施設を作ってやり、その運営利益は胡耀邦の母体
    団体に落ちるという仕組みになっていた。田中派のある代議士
    の言葉を借りれば、このセンターは「中曽根の胡耀邦への政治
    献金」なのである。
    
     '87年に胡耀邦は共産党内の政争に敗れて失脚したが、セン
    ター建設はそのまま続けられて、出身団体・共産主義青年団へ
    の遺産となった。ちなみに現在の共産党主席・胡錦濤も中青連
    出身である。103億円ものジャパン・マネーで作られた「日
    中青年交流センター」の「青年交流」という理想はとっくに忘
    れ去られたが、「集金マシン」としては今も健在なのだろう。

■7.日本からの援助を餌に、日本企業から収賄■

     日本からの援助が中国政府要人の利権に絡むという事例は、
    枚挙にいとまがない。たとえば総合商社・伊藤忠は、2002年1
    月、泰山原子力発電所建設の設備受注をめぐって、中国側要人
    に4億円ものワイロを渡した、として大阪国税庁から追徴課税
    された。この建設はODAとは別枠の、旧輸出入銀行(現・国
    際協力銀行)からの低利子ローン対象案件だった。
    
     ワイロの相手は、内外の関係者から、電力会社「中国華能国
    際電力集団」のトップ・李小鵬だったと噂されている。李小鵬
    は、首相を務めた李鵬の長男である。李鵬は周恩来の養子であ
    り、その威光を背に電力工業部部長など電力畑を歩んできた。
    その息子が電力会社のトップというのであるから、縁故主義の
    見事なお手本だ。
    
     日本からの援助はいわゆる「ひもつき」でない、アンタイド
    ローンがほとんどである。これは設備や工事をどの企業に発注
    するかは借りた方の自由になるものである。勢い、受注を目指
    す企業からの賄賂は李親子に流れ込む。日本からの低利子ロー
    ンを餌に、日本企業から莫大な賄賂を巻き上げる、というまさ
    に天才的な「ファミリー・ビジネス」なのである。
    
■8.トウ小平一族の「ファミリー・ビジネス」■

    「ファミリー・ビジネス」と言えば、トウ小平一族も負けては
    いない。長女トウ林の夫・呉健常の「非鉄金属鉱業試験センタ
    ー」、長男・トウ樸方は「中国肢体障害者リハビリテーション
    研究センター」、次女・トウ楠は「日中友好環境保全センタ
    ー」とそれぞれODA案件にからんでいる。三女・トウ榕は個
    別の案件ではなく、中国で最大の対日発言権を持つ「国際友好
    連絡会」の副会長であった。トウ小平の5人の子供のうち、4
    人がODAに関わっているのである。
    
     それにしても、「環境」やら「障害者リハビリ」から「国際
    友好」まで、よくもまあ耳障りのよい、日本のお役人を喜ばせ
    るような名前ばかり並べたものである。
    
     長男・トウ樸方は、文化大革命時のテロで身体障害者となり、
    中国での身体障害者団体の総元締めである「中国身体障害者連
    合会」のトップとなった。この団体は'85、'86年に日本から約
    34億円の援助を受けて「中国肢体障害者リハビリテーション
    研究センター」を建設。以後、20年近くの間、日本からの無
    償援助を受け続けている。
    
     障害者連合会は資金集めと称して、傘下に総合商社「康華実
    業発展公司」を作り、樸方はこちらのトップも勤めていた。そ
    してこちらでも山東省の石臼所港の建設で約430億円のOD
    Aを手に入れ、この巨額のプロジェクトを餌に日本企業から障
    害者連合会への寄付を求めた。
    
     康華実業発展公司は、特権を利用して無法なブローカー行為
    に手を染め、市民の怨嗟の的となって、'88年には解散に追い
    込まれた。障害者連合会は'95年まで、内部の会計報告を一切
    してこなかったので、それまで康華実業発展公司からの上納金
    や、日本からのODA、日本企業からの寄付金がどれだけあっ
    たのか、どのように使われたのかは、闇に包まれている。

■9.「中国人民は中国共産党と日本企業に搾取されている」■

     中国のハイテク技術は有人飛行船だけでなく、こうした天才
    的な収奪システムにもいかんなく発揮されている。税金を吸い
    上げられている我々日本国民はその犠牲者であるが、実は中国
    の人民もある意味で犠牲者と言えるのである。
    
     日本からのODAの四分の三は円借款である。つまり利子や
    返済期間こそ有利に設定されているが、いずれ返さねばならな
    い借金だ。それを中国政府の要人が上前をはねた後で日本企業
    に発注がなされ、その結果、本当に必要かどうか分からない施
    設が作られる。「そんな事なら自前の資金で、本当に必要とす
    る施設だけを、中国企業に作らせた方が、中国のためだ」、
    「中国人民は中国政府要人と日本企業に搾取されている」とい
    う論法も成り立つのである。
    
     かつての中国は「たとえズボンをはかなくとも」という覚悟
    で核兵器開発をしてきた[b]。その続きが今度の有人宇宙飛行
    である。これは何百万人餓死しようが核ミサイルを開発する、
    という北朝鮮と本質的には同じで、選挙のない国の軍事独裁政
    権は民意を押さえつけて何でもやりたい事ができるのである。
    そういう国への援助は独裁政権を太らせるだけで、その国の人
    民の真の福祉にはつながらず、かえって怨嗟を招く恐れもある。
    そういう視点からも、対中ODAを見直すべきである。
                                          (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(146) 対中ODAの7不思議
   軍事力増強に使われ、民間ビジネスに転用され、それでいて
   まったく感謝されない不思議なODA 
b. JOG(186) The Globe Now: 貧者の一燈、核兵器
   9回の対外戦争と数次の国内動乱を乗り越えて、核大国を目指 
   してきた中国の国家的執念。 

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
1.  "China's space programme Congratulations, China"  
    The Economist, Oct 16th 2003 
2. 青木直人、「中国ODA6兆円の闇」★★、祥伝社黄金文庫、H15
3. 古森義久、「日中再考」★★★、扶桑社、H13
4. 政府開発援助大綱(旧)

   
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「 ハイテク中国、袖の下」について 
                                                和久さんより
     実は私、学生時代に中国に留学したことがあり、その経験と
    語学力を買われ、5年ほど前に中国現地でのあるプラント建設
    に深く関わったことがあります。実はその時に、数億円に及ぶ
    特殊材が中国某港内の倉庫に置かれたまま、数ヶ月出荷できな
    いということがありました。その時は、手続き上の不備がある
    とのことでしたが、各機関により見解が違い、その対処に皆で
    四苦八苦したことを今でも覚えています。最終的には、発送で
    き、無事プラント現場まで送ることができましたが、この件に
    よる時間・金銭両面の打撃は大きいものでした。
    
     どう解決したかというと、もちろん彼らの建前である手続き
    上の不備という切り口からも、粘り強く解決の道を探りました
    が、その他にもいわゆる「袖の下」というのも当然使わざるを
    得ませんでした。この件以外にも、基本的に法治国家ではなく
    人治国家であるが故に発生した数々のトラブルに大変な思いを
    しました。
    
■伊勢雅臣より

   中国と比較すると、法治国家というものが、いかに大切なも
  のか、そしてそれを築きあげてきた我が祖先の有り難さに気が
  つきます。

© 平成15年 [伊勢雅臣]. All rights reserved.