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■■ Japan On the Globe(330)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

        国柄探訪: ハイテクを生み出す産霊(ムスヒ)の力

         多くの日本企業がいまだに守り神を祀っている理由は?
        
■■■■ H16.02.08 ■■ 34,495 Copies ■■ 1,078,499 Views■

■1.グローバル・ビッグ・ビジネスの守り神■

     トヨタ自動車は2003年の世界の自動車販売台数で、ついにア
    メリカのフォード・モーターを抜いて、世界第2位に躍進した。
    今や、日本経済復活の旗手となった感があるが、このグローバ
    ル・ビッグ・ビジネスに守り神がいるのをご存じだろうか。

    「トヨタ神社」と呼ばれる愛知県豊田市の豊興(ほうこう)
    神社で、鉄の神様である金山比売(かなやまひめ)、金山比古
    (かなやまひこ)を祀っている。トヨタ創業の大正14(1925)
    年に建立された。

     毎年、年頭にトヨタ自動車や関連グループの首脳、幹部役員
    が勢揃いして参列する前で、神主が祝詞を奏上し、参拝者全員
    がトヨタの繁栄と安全を祈る。この年頭神事は神社建立以来、
    毎年行われている。

     日本には、トヨタ同様に守り神を祀る企業が少なくない。三
    菱グループの守り神・土佐稲荷は一般に「三菱稲荷」と呼ばれ、
    東京三菱銀行・大阪西支店の屋上に社殿が建立されている。三
    井グループは東京の台東区牛島の隅田川畔に祀られた三囲(み
    めぐり)神社。そのほか日立製作所の熊野神社、東芝の出雲神
    社、出光興産の宗像神社、資生堂の成功稲荷、キッコーマンの
    琴平神社などなど、枚挙にいとまがない。

■2.企業が守り神を持つ意味■

     これら日本を代表する国際的な大企業が、揃いも揃って、そ
    れぞれの神様を祀っているというのは、どうした訳か? 一社
    だけならアナクロニズム(時代錯誤)と一笑に付すこともでき
    ようが、これだけ揃うと、そこには何か合理的な理由があると
    考えざるを得ない。

     その理由は、各企業で年頭や創立記念日などに行われる神事
    に立ち会って見ると実感できるだろう。社長以下、幹部が打ち
    揃い、なかには従業員や家族、取引先や地域の人々も参加して、
    企業の繁栄を祈る。

     日頃は利益競争や出世レースにしのぎを削っている人々も、
    この日ばかりは、その企業が歩んできた歴史を振り返り、自分
    たちはリレー走者の一人として、先輩から企業を受け継ぎ、さ
    らに発展させて、次世代に渡す使命があることに思いを致す。
    同時に一同に会した人々が力を合わせて、その使命に向かわね
    ばならない、という決意を新たにする。それによって自らの姿
    勢を正し、明日への行動のエネルギーが生まれる。

     こうして年に一度は、自分が企業という共同体の一員である
    ことに思いをいたし、全体に対する責任と使命感を再確認する
    所に、各企業で守護神を戴き、神事を執り行う意味がある。
    それは深い意味での社員教育なのである。

■3.現代のハイテク社会を支える「祈り」■

     守り神を持つのは企業ばかりではない。福井県敦賀市の日本
    原子力発電・敦賀発電所には、神棚が設けられ、地元の常宮
    (つねのみや)神社の神札が祀られている。毎年6月末には神
    社で「安全祈願祭」を行い、幹部関係者が参列して、安全と繁
    栄を祈る。

     同県美浜町の関西電力・美浜原子力発電所には丹生(にう)
    稲荷神社が祀られている。新潟県柏崎市と刈羽村をまたぐ東京
    電力の柏崎刈羽原子力発電所では、7基の各発電機に神棚が設
    置され、伊勢神宮の天照大神が祀られている。

     海上自衛隊の艦船には、任務の円滑な遂行と航海安全を祈っ
    て、神社の神札を奉安した神棚が祭られている。たとえば精鋭
    の主力艦である護衛艦「ひえい」には艦名にちなんで、東京・
    千代田区の日枝(ひえ)神社からいただいた神札が、神棚の白
    木の小さな宮に祭られている。参拝は乗組員の自由意志で行わ
    れる。

     航空会社では、新鋭ジェット旅客機の導入にあたって、神官
    に来て貰って、機体を祓い清め、安全を祈る。パイロットたち
    は、航空安全を祈って神社に参拝し、操縦席に神札を貼る。

     そう言えば、我々も車を買ったときに神社でお祓いを受けた
    り、安全運転のお守りを運転席に吊したりする。それと同じ事
    が、原子力発電所からジェット機まで行われているのである。

     その意味合いは、我々が車にお守りを吊すのと同じである。
    神様にお祈りしただけで、安全が保証されると信ずる人はいな
    い。神様に安全を祈る事を通じて、自分自身でも努力すること
    を誓う、お守りが目に入るたびに、自分自身も安全運転をしな
    ければと気を引き締める、そこにお守りの効用があると言えよ
    う。

     どんなにハイテクの設備を使っていても、それを使うのは人
    間である。その人間がときおりの祈りを通じて心を新たにして、
    安全運転に取り組む。原子力発電所から、空や海の安全まで、
    現代のハイテク社会はこうした「祈り」に支えられているので
    ある。

■4.産霊(ムスヒ)の力■

     原子力発電所からジェット機まで、現代日本の先端技術は古
    来からの神様と共存している。というより、神道の思想が先端
    技術を支えていると言うべきなのである。

     そもそも神道では、稲作を通じて形成された「モノを生み出
    し、造り成す」という産霊(ムスヒ)の力への信仰がある。古
    事記・日本書紀の神話は、天地の始めに天之御中主神(あめの
    みなかぬしのかみ)、高御産巣日神(たかみ「むすひ」のか
    み)、神産巣日神(かみ「むすひ」のかみ)の造化三神が天
    地・山河・自然を創成したと伝えている。

     産霊は生殖によって生命を産み出す力をも意味し、伊邪那岐
    命(いざなぎのみこと)と伊邪那美命(いざなみのみこと)は
    結婚して、日本の国土を産みなす「国生み」や、多くの神々を
    誕生させる「神生み」を行った。この二神から生まれた子供の
    中に、五穀を実らせる和久産巣日(わくむすひ)の神、火を産
    み出す火産巣日(ほむすひ)の神などがいる。

     このように「産霊」の力は天地万物を創成し、人や作物を産
    み出し、豊穣と繁栄をもたらす。多産による子孫繁栄、豊作に
    よる五穀豊穣、生産と技術による企業の繁栄、さらには国と国
    との結びつきによる平和をもたらす。

    「ムスヒ」とは「結び」であり、さまざまなものを結びつけて、
    そこから生命や活力を産み出していく力である。水素と酸素が
    結びついて水となり、男女が結びついて子供ができ、家々が結
    びついてムラやクニができる。現代流にネットワーキングと言
    ってもよいであろう。すべてのものは「結び」から生み出され
    る、という自然観、社会観は、現代科学にも通ずる合理的な考
    え方である。
    
■5.「神人共働」■

     冒頭でトヨタの守り神の話をしたが、自動車もまた「結び」
    の産物である。土の中に眠っていた鉄鉱石が精錬されて鋼板と
    なり、それが成形されて車体となる。その車体に、ゴムのタイ
    ヤや、ガラスの窓、プラスチックの内装品、織物のシートなど、
    多種多様な材料からなる部品が数万点も組み付けられて、自動
    車が産み出されていくプロセスは、まさに現代版「結び」の力
    そのものである。

     このようにモノを生み成し、造り出す「結び」の力への信仰
    は、モノづくりを尊ぶ姿勢につながる。天照大神も、田の神の
    姿をした祖霊・穀霊も、そして皇居では天皇も、人々と共に働
    き、豊かな秋の収穫を目指す。この「神人共働」の神道的意識
    は、売上げや利益に関わりなく、モノづくりそのものが尊いの
    だ、という信念を醸成する。モノづくりとは、今も時々刻々に
    宇宙をより豊かなものへと創造しつつある神々の大事業に、人
    として参画することなのである。

     旧約聖書では、アダムとイブは知恵の木の実を食べた罰とし
    て、神から楽園を追放され、額に汗してパンを得なければなら
    ない境遇となった。労働は神に追放された人間が、パンを得る
    ためにやむなく、なさねばならない苦行なのである。ヨーロッ
    パでは16世紀前半の宗教改革によって、ようやく労働は神が
    人間に与えた使命である、という労働観が一般化して、日本古
    来からの考え方に近づくが、それまではこの「労働=苦行」と
    いう考え方が主流だった。

     古代中国でも、漢字の「労」は「苦労して働く」という意味
    のほかに、「疲労」や「心労」などの意味をもっていた。つま
    り労働とは、すなわち苦労や疲労、心労である、という考え方
    である。
    
■6.高度産業社会発展の原動力■

     労働とは生きていくための苦行であると考えると、カネさえ
    得られれば、苦労して働く必要などない、という事になる。地
    道に働くより、一攫千金の投機に乗り出した方が利口だ、とか、
    早くカネをためて楽隠居しよう、とか、ひどい場合にはコピー
    商品で手っ取り早く稼ごう、などいう方向に走りがちである。
    これでは技術革新を通じて産業を高度化していく事を本質とす
    る近代産業社会はなかなか発展しない。
    
     それに対して、労働自体が尊いという日本古来の考え方では、
    工場の作業者は現場で地道に技能を磨き、商店主は商品の仕入
    れや並べ方に工夫をこらし、一財産をなした企業のオーナーで
    も、熱心に技術革新に取り組む。一人一人のこうした働きが高
    度な産業社会を発展させる原動力となる。
    
     幕末に日本を訪れたペリーの一行は、日本のモノづくりの技
    術力に驚嘆して、開国後の「日本は将来きっと機構製品の覇権
    争いで強力な競争国の一つとなるだろう」と正確な予言をした
    が、その背景には労働と技術を尊ぶ神代からの伝統があったの
    である。[a]

■7.不良・故障は「ケガレ」■

     モノづくりとは、神々が宇宙を作り出す「むすび」の過程へ
    の人間の参画である、と考えると、不良品を作ることは、神の
    足を引っ張る罪悪であるという事になる。不良品とは「結び」
    の力や方法が不十分なために、本来発揮できたはずのモノの生
    命力が引き出せなかった、ということである。それはそのモノ
    の「生命」を粗末にしてしまった、という、まことに申し訳な
    い事なのである。
    
     不良を出すことに罪悪感を覚える日本人の感性は、製品にわ
    ずかなキズや欠陥があっても恥と感ずる。それゆえに不良ゼロ、
    欠陥ゼロ、故障ゼロを目指して、あくなき努力を続ける。
    
     日本以外の国々では不良とは単なる「経済的損失」に過ぎな
    い。だから百円の不良をなくすために、百万円のコストをかけ
    ても改善に取り組む日本人の執念は非合理的としか考えられな
    い。
    
     しかし、こうした取り組みで不良の生まれるメカニズムが解
    明されれば、製品の信頼性を飛躍的に高める事ができる。自動
    車や飛行機、医薬品、食料品などでは些細な不良が人命事故に
    つながりかねない。また銀行のオンライン・ネットワーク、新
    幹線、原子力発電所などでは、設備の故障が大規模な災害をも
    たらす恐れがある。ハイテク社会になればなるほど、製品の信
    頼性への要求が高まる。不良ゼロ・故障ゼロへの執念を持つ日
    本のモノづくりは、こうした先端技術分野で強い競争力を持つ
    のである。
    
     一方、消費者の方も、ちょっとしたキズや汚れにも実に過敏
    である。見事な「むすび」によって生み出された製品は、美し
    く若々しい生命力に満ちあふれたものでなければならない。そ
    う信ずる日本の消費者は、ちょっとでもキズや汚れがある製品
    には、生命力、すなわち「気」が十分入っていない、と不満を
    感ずる。「気」が枯れている状態が、「気枯れ」すなわちケガ
    レである。日本の消費者は世界一、品質要求が厳しいと言われ
    るが、その背景にはこのケガレを厭う心理がある。

     さらに不良や故障を徹底的になくそうという取組みは、より
    高度な製品を生み出す技術革新につながる。本誌でも、血管の
    4分の一の細さの「痛くない注射針」や、100万分の1グラ
    ムの歯車を作り出した中小企業を紹介したが、こうした桁違い
    の技術力は、何よりも創造を喜びとする「むすび」の思想の賜
    である。[b,c]

■8.モノづくりの国際競争力を支える神道的世界観■

     かつての村落共同体では、人々は鎮守の森を抱く神社で、豊
    作を祈る祭りを執り行い、ムラとしての一体感・連帯感を養っ
    た。これも人々の間の「結び」である。
    
     日本の生産現場では、不良ゼロを狙う小集団活動の発表大会
    が定期的に開かれ、良い成果をあげたグループを顕彰すること
    を通じて、不良ゼロ・故障ゼロへの「祈り」を再確認する。こ
    れが、ムラの祭りと同様に、職場の連帯感を養う。
    
     冒頭で述べた企業ごとの神事も、それぞれの神への繁栄と安
    全の祈りを通じて、連帯感を養うという意味で、ムラの祭りと
    本質的に同じである。
    
     製品や技術が高度化すればするほど、多くの人々が連帯感で
    結ばれて、より緊密な連携を実現し、しかも一人ひとりがミス
    のない完璧な仕事をしなければならない。こうした人々の「結
    び」こそ、高度産業社会に不可欠な組織基盤である。

     神道はキリスト教や、イスラム教、仏教のような明確な教義
    や戒律を持たない。我々自身も神道を宗教として信じていると
    いう自覚のある人は少ない。神道は宗教と言うより、一種の世
    界観であると言った方が良い。その世界観は「むすび」の思想
    にみられるとおり、最先端の科学技術ときわめて相性が良く、
    我が国のモノづくりの国際競争力の基盤を提供しているのであ
    る。こうした強みを、意識的に鍛え、発揮していくことが、我
    が国の産業競争力の強化に有効な道であろう。
    
     2月11日は建国記念日。日本書紀によれば、辛酉の年(紀
    元前660年)の元日であるこの日、初代神武天皇が橿原の宮
    で即位された。企業の従業員が創業記念日に守り神への祈りを
    ともにする事で、歴史を偲び、次代への使命感を新たにする。
    それと同じ事を国家レベルで行うのが、建国記念日の意義であ
    ろう。
                                          (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(274) 日本の技術の底力
    幕末の日本を訪れたペリー一行は、日本が工業大国になる日
   は近いと予言した。 
b. JOG(294) ニッポンの明日を開く町工場
    誰もやらない仕事に取り組んでいるうちに、誰にもできない 
   技術を開発した金型プレス職人。 
c. JOG(321) 100万分の1グラムの歯車
    世界一の超極小部品を作る職人技が日本企業の明日を示す。 
   
■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
1. 本田総一郎、「日本神道がわかる本」★★★、日文新書、H14
   
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「ハイテクを生み出す産霊(ムスヒ)の力」について 

                                             みさとさんより
     私は海外在住で、これまでいろいろな国の方に日本の歴史や
    伝統について質問される機会がありました。どの国へ行っても
    日本の知名度は高く、日本文化に興味を持つ人が急激に増えて
    ることを肌で感じます。

     とは言いましても、やはりまだ日本と中国の違いさえも知ら
    ない人が大多数なことは事実で、アジア人を見れば、途端に軽
    視・侮辱する習慣も根強く残っています。

     海外に住み始めてから、こういった差別行為に慣れるのに大
    変な努力が要りました。また日本という国を偏見視している人
    も多く、第2次世界大戦での日本軍侵略や、高度成長期時代の
    働きアリの日本人、ウサギ小屋の日本家屋などのイメージが今
    でも強いようです。

     今回の産霊(ムスヒ)の力を読んで、日本本来の信仰につい
    て知ることができ、非常に感動しました。日頃アジア人として
    虐げられ、半ば諦めにも似た心境で暮らしていましたが、日本
    人本来の我慢強さ、勤勉さ、正確さのルーツを知ることにより、
    自分自身の誇りを取戻すことができました。何故、戦後の日本
    がここまで急成長できたのか、という謎も解けました。

     今後もこの日本人の特性が社会発展に大きく貢献していくこ
    とを願うと共に、私自身も日本人の良さを見失わないように暮
    らしていきたいと思います。

■ 編集長・伊勢雅臣より

     日本の伝統の力を存分に発揮していくことが、未来を切り開
    く力となるでしょう。

 

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