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■■ Japan On the Globe(335)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

              The Globe Now: 道路公団との戦い

            「北朝鮮と戦っているようなものですよ」と民営化に
            取り組む猪瀬直樹氏は語る。
■■■■ H16.03.14 ■■ 34,607 Copies ■■ 1,114,483 Views■

■1.国民一人あたり30万円の借金■

     日本道路公団の借金は27兆円、首都道路公団が5兆円弱、
    阪神高速道路公団が4兆円、本州四国連絡橋公団が4兆円弱。
    締めて40兆円。国民一人あたりに換算すると30万強の借金
    が、知らないうちに道路建設だけで積み上がってしまっている。

     もっとも借金がいくら増えても、返済にまわせるだけの収入
    があれば問題はないのだが、道路公団の年間収入は平成14年
    度で2兆円強、うち54%が金利支払いや管理費・補修費など
    のコストで、残りは約1兆円。これをすべて借金の返済に回し
    ても、完済まで30年近くかかる計算になる。

     これはまだ良い方で、首都道路公団は50年以上、阪神道路
    公団は80年程度というオーダーの借金である。本州四国連絡
    橋公団にいたっては、収入956億、費用1,412億と年間456億円
    もの赤字(平成14年)で、借金は増える一方だ。

     そう言えば明石大橋をバスで渡ったことがある。観光シーズ
    ンの土曜日なのにガラガラで、美しい吊り橋と早春の瀬戸内海
    の光景を十分堪能できたが、その5分ほどの間にも公団全体で
    は40万円の赤字が増加していたわけだ。

     道路や橋は国民の大事な共有財産であるから、国家の資源を
    投入して必要なものを建設するのは当然だが、あまり使われな
    い道路をさんざん作った挙げ句に、今の子供達の世代に一人あ
    たり30万円もの請求書も押しつける、というのは、まっとう
    な親のすることではない。

■2.赤字道路を作り続けるメカニズム■

     平成14年度の道路公団決算書では、収支率(収入100円
    を上げるのに、必要な支出額)が100以上と赤字状態になっ
    ているのは、高速道路で42路線のちょうど半分の21路線、
    一般有料道路で63道路中23道路に達する。[1]

     黒字とは言っても、国際的に見れば異常に高い料金を押しつ
    けての黒字だ。国土交通省がまとめた日仏伊の高速道路状況を
    示した資料では、一キロ当たりの料金は日本の24.6円と、
    フランスの9.32円、イタリアの6.81円に比べれば何倍も
    高い[2]。もしイタリア並みに料金が4分の一となったら、黒
    字は収支率25以下の道路のみとあり、高速道路では東名や名
    神など4路線しかない。

     一般有料道路での典型的な赤字の例をいくつか挙げてみよう。
    (単位は億円/年、平成11年度、[3])

        道路名              収入     支出    収支率
        東京湾アクアライン  144.2    458.7    318
        伊勢湾岸自動車道     54.7    138.5    253
        湖西道路             25.6     52.9    207
        高松自動車道          4.9     15.7    201
        新湘南バイパス       21.6     41.4    192
        仙台東部道路         24.9     47.1    189
        富津館山道路          4.8      8.8    184
        西九州自動車道       22.5     41.2    183
        隼人道路              5.6     10.2    181

     収支率180以上の道路を挙げてみたが、都会から地方、東
    北から九州までと見事に分散している。赤字道路が地方の一部
    に集中しているとでも言うなら、過疎対策として理解できる余
    地もあるが、これだけ国中に満遍なく散らばっているというこ
    とは、道路公団の中に赤字道路を作り続けるメカニズムが内在
    している、と考えざるを得ない。

■3.「これでは閑古鳥が鳴くでしょう」■

     赤字の原因の一つは、過大な需要見通しである。東京湾アク
    アラインの通行量は着工時点の見込みが1日に3万3千台とさ
    れていたが、実際の平均通行量は1万台以下と見込みの約3割
    でしかなかった。3万3千台では、24時間に往復4車線で満
    遍なく車が通過したとしても、各車線で10秒に1台通過する
    計算になる。料金所での支払いでは平均12秒かかるので、こ
    れでは慢性的な渋滞が生じるほど混雑すると予測されていたこ
    とになる。さらに20年後は倍増して、一日あたり6万4千台
    と見積もられていた。

     平成9年5月、アクアラインの開業を半年後に控え、道路公
    団民営化で粘り強い活動を続けている作家の猪瀬直樹氏が、テ
    レビで、当時の亀井静香建設大臣に「この需要予測には無理が
    あるのではないか」と問いつめた。亀井大臣は「そりゃ、先生
    のように原稿を夜に書いて昼間寝ている人が利用せんだけだ。
    ふつうの人は違う」とガラガラ声で開き直った。

     なおも猪瀬氏が、この時点で設定されていた料金の「5千円
    は高い。これでは閑古鳥が鳴くでしょう」と数字を並べて執拗
    に突っ込んだら、分が悪いとみたのか、「わかった、猪瀬さん。
    4千円台にしよう」と言った。実際に4千円で開業することに
    なって、亀井大臣の決断力はおおいに発揮されたわけだが、裏
    を返せば、政治家の直感からみても、説得性のない需要予測だっ
    たという事になる。

■4.大赤字を出しても公団総裁■

     建設費も見込みを大幅に超過した。昭和62年の段階では、
    1兆1510億円だった建設費は、6年後の平成5年には1兆
    4380億円と膨れ上がり、さらにその3年後に440億円の
    追加工事が決まった。3割近くも増加している。

     通行時間わずか10分で5千円という法外な料金設定をし、
    実際よりも3.3倍もの過大な需要見積もりをして、なおかつ
    コストを実績よりも3割も低く見積もって、ようやく収支が合
    うという計算をしていたわけだ。開通してみたら100円の収
    入をあげるのに300円以上もかかるという破綻状態に陥るの
    も当然である。

     需要予測、料金設定、コスト見積もりという事業活動の基本
    をすべて誤って毎年300億円もの赤字を出したら、民間企業
    なら責任者は更迭されるのが常識だ。しかし道路公団の常識は
    逆で、東京湾アクアライン建設をスタートさせた藤井治芳
    ・有料道路課長は、後に公団総裁に出世しているのである。

     藤井氏は、昨年10月にようやく解任されたが、その理由は、
    民営化推進の動きの中で、債務超過の財務諸表があると公団職
    員が暴露したことに対し、藤井氏の国会答弁が二転三転したこ
    となどが理由として挙げられている。改革の動きがなければ、
    氏は今も総裁の地位に留まっていたであろう。

■5.メートルあたり1億円の道路建設費■

     建設コストの面でも、公団では民間の常識は通用しない。た
    とえば、東京の外周をめぐる外環道は、埼玉県三郷市から千葉
    県市川市までの部分を工事中だが、わずか20キロメートルで
    総事業費1兆3千億円。そのうち松戸〜市川間10キロで97
    00億円、メートルあたり1億円にも達する。海底にトンネル
    を掘ったり、海上に橋をかけたアクアラインでもメートルあた
    り1億円である。陸上に道路を作るのにどうしてこんなに費用
    が掛かるのか。

     用地代は松戸〜市川間で2250億円、2割程度に過ぎない。
    猪瀬氏が関係者に理由を尋ねると、軟弱地盤なので杭を50メ
    ートルの深さに打つためだ、と言う。猪瀬氏はあきれて、

         ならば測量の段階で計画の変更をすればよかった。その
        判断をつけられないこと、当事者性がなくて平気でいる公
        団体質が怖い。[4,P214]

     いくら高コストになっても、大赤字を出しても、所詮は国民
    の財布であり、自分の懐は痛まない、というのが、「当事者性
    がない」公団体質なのである。

■6.工事事務所の職員が移動するのに専属運転手が送迎■

     高コスト体質の原因には、ファミリー企業の存在もある。猪
    瀬氏は持ち株比率などでの正規の連結対象以外にも、さらにファ
    ミリー企業が出資している孫会社、曾孫会社、ファミリー企業
    同士の株の持ち合いなどを含めると、4公団合計で1,255社に
    のぼるファミリー企業があり、それらに3,472人ものOBが天
    下っているのをつきとめた。

     天下りした公団職員はファミリー企業を渡り歩き、退職金を
    幾度ももらう。ファミリー企業では経費の90%が人件費など
    という奇妙な会社がごろごろしており、仕事を丸投げするだけ
    のトンネル会社がいっぱいあるのだ、と猪瀬氏は訴える。

     ファミリー企業の業務内容は、料金収受やサービスエリアの
    売店、保全工事などである。その一つである「車両管理員」と
    呼ばれる一種の運転手派遣は、公団の高コスト体質の象徴だ。
    この車両管理員の実態を、猪瀬氏はこんな光景で説明してる。

         ある朝、道路公団の八王子工事事務所の入り口を観察し
        ていると40代の男が時間をもてあましている。8人乗り
        のバンの車体をから拭きしていたのは初めだけで飽きると
        あたりをうろうろし、腕を上げて伸びをしたり膝を曲げて
        屈伸したり。事務所の建物から若い女性事務員が出てきて
        配車表らしき紙を手渡したのが10時前。・・・結局、事
        務所から二人の乗客、つまり道路公団の職員を迎えたのは
        11時頃である。

     公団では683台の車両を保有し、660人の車両管理員を
    ファミリー企業から派遣させている。職員10人あたり1台の
    車両と1人のお抱え運転手がいる勘定になる。車両管理員の支
    払いは一人あたり月額69万円、委託費総額は55億円にのぼ
    る。工事事務所の職員が工事現場へ移動するのに、専属運転手
    が送迎とは、民間企業の常識では考えられない。[4,p258]

■7.ファミリー企業という寄生虫■

     道路公団ではファミリー企業を競争から守るための排他的入
    札要件がある。たとえば「道路保全工事」の入札に応募するた
    めには高速道路上で「交通規制、緊急作業、交通事故復旧・補
    修工事、雪氷対策工事、清掃作業」の経験がなければいけない、
    と記されている。ファミリー企業以外からの新規参入はシャッ
    トアウトされているのである。当然、工事コストの削減も進む
    わけがない。

     4公団で2兆6千億円の収入に対して、管理費(一般管理費
    と道路管理費)で6千億円も食われている。車両管理員に象徴
    される非常識な贅沢をやめ、また排他的入札規制を撤廃して、
    市場競争を導入すれば、この管理費は大幅に削減できるだろう。
    猪瀬氏は5割の3千億円は可能と言う。

         道路4公団に40兆円もの借金がなぜ累積したのか。不
        必要な道路をコスト意識もなくつくりつづけ、ファミリー
        企業という寄生虫をその醜い肉体に無数に宿らせたからで
        ある。道路公団の民営化は、単に国有企業を民間企業に転
        換させるためだけにするのではない。白昼堂々と行われて
        きた不正が、誰にも監視されずに放置されてきた状態を浄
        化する必要があるのだ。[4,p323]

■8.「9342キロは国民に約束したもの」■

     収支の責任を誰もとらないという公団体質の土壌となってい
    るのが、赤字でも道路を作り続けるという政治体質である。

    「凍結は認めるわけにはいかない。9342キロは国民に約束
    したものだからね。」自民党道路調査会長の古賀誠は、凄みの
    ある険しい表情で、猪瀬氏に言った。猪瀬は行革断行評議会の
    一員として、「道路4公団の分割民営化案」を説明していたの
    だった。

     9342キロの高速道路を建設するという閣議決定が、平成
    9年に作られていた。そのうち7千キロについては、すでに完
    了しており、それで積み上がったのが40兆円の債務だった。
    残りの2300キロを建設しようとすると、あと20兆6千億
    円もかかる。

     これだけの建設をすると毎年5千億円の税金を投入し、通行
    料金をとっても、返済に50年はかかる。だからいったん現状
    の7千キロで凍結して、債務が40兆円のままなら、税金を投
    入しなくとも、4公団を民営化して運営させれば30年くらい
    で返済できる、というのが、猪瀬氏の提案だった。それを古賀
    はつっぱねた。

     地方自治体からも9342キロの完成を求める声が強い。平
    成13年9月の全国都道府県知事会議で、高知県の橋本大二郎
    知事は「高速道路は地方が競争を始めるためのスタートライン
    であり、すでに整備したところと未だ整備されていないところ
    では競争条件が平等でない。高速道路の整備は行政改革とは別
    問題だ」と発言し、これに類する発言が続いた。

     高速道路建設には地方の財政負担はない。国から地方へのク
    リスマス・プレゼントのようなものだ。国費で高速道路を作っ
    てもらう事で、地元が便利になり、また工事でカネが落ちる。
    高速道路の誘致は、まさに知事の再選をかけた生命線なのだ。

■9.「北朝鮮と戦っているようなものですよ」■

     こうして地方の政治家は道路建設の誘致に血まなことなり、
    中央の政治家や官僚は道路建設を自らの権力の源泉とし、公団
    は野放図に赤字道路を作り続け、ファミリー企業はそれに群がっ
    て甘い汁を吸い続ける。その結果として積み上がったのが40
    兆円もの債務なのである。この構造を猪瀬氏はこう形容する。

        「北朝鮮と戦っているようなものですよ」

         道路関係四公団民営化推進委員会が置かれた立場、そこ
        での戦いの実情について、僕はこう説明することにした。
        道路公団を民営化しようとすれば自ずと、官僚「独裁国家」
        が支配する統制経済との戦いになるのだから。

         道路公団は特殊法人で、特殊法人というのはわかりやす
        く言えば社会主義国にみられる特権をもった閉鎖的で非効
        率な組織、不正の温床でもあった国営企業のことである。
        [4,p305]

     北朝鮮と同様の「官僚独裁国家が支配する統制経済」の闇と
    戦うには、民主主義と市場主義の光が差し込むようにしなけれ
    ばならない。3月9日、道路四公団の民営化法案がようやく閣
    議決定された。しかし戦いは始まったばかりである。
                                          (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(250) 亀井正夫〜「おまけの人生」で国鉄改革
    原爆攻撃を奇跡的に生き延びた亀井正夫は「おまけの人生」
   をかけて国鉄改革に挑戦した。
b. JOG(129) 一家の借金2千万
    目先の景気対策など、対処療法にあけくれている間に、つい
   に借金漬けとなってしまった

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
1. 日本道路公団、「日本道路公団(JH)の決算と営業中の高速
   道路及び一般有料道路の収支状況(平成14事業年度)」(ホームページ抹消)
2. 産経新聞、「【変わるか 道路公団民営化】(3)値下げこそ
   メリット」、H16.03.12
3. 加藤秀樹と構想日本、「道路公団解体プラン」★、文春新書、
   H13
4. 猪瀬直樹、「道路の権力 道路公団民営化の攻防1000日」
   ★★、文藝春秋、H15
   

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「道路公団との戦い」について

                                               和人さんより
     今回の「改革」にもかかわらず高速道路は結局当初の計画通
    り作るという話があったり、結局「改革」は骨抜きになった、
    という批判も聞かれます。しかし当の猪瀬氏は今回の改革案を
    「ある程度評価する。」といっておられるし、小泉首相は相変
    わらず「構造改革」を自画自賛しています。今回のJOGは小泉
    構造改革を肯定的に見ているような気がします。しかし、少な
    くとも私は小泉内閣の構造改革とは一体なんだったのか? 掛
    け声だけで結局何も無かったのではないか? という気がして
    います。

■ 編集長・伊勢雅臣より

     今回の構造改革の内容については、評価はまだ差し控えたい
    と思っています。20点かもしれませんし、80点かもしれま
    せん。しかし何もしなければ0点なのですから、とにかく、こ
    れ以上は放置しておけない、という問題提起をしたという点で
    弊誌は小泉首相と猪瀬氏を評価します。その内容については文
    末にも書いた通り、「戦いは始まったばかり」で、我々国民も
    引き続き、問題意識を持ち続ける事が大切だと思います。

© 平成16年 [伊勢雅臣]. All rights reserved.