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■■ Japan On the Globe(339)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

         人物探訪: 安倍晋三 〜 この国を守る決意

                  政治家は「国民の生命と財産を守る」という
                 ことを常に忘れてはいけないと心に刻みました。
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■1.金正日の態度を変えさせた一言■

     平成14(2002)年9月17日午前10時前、北朝鮮・平壌の
    百花園迎賓館の控室で日朝会談を待つ小泉首相と安倍官房副長
    官に、「お話があります」と外務省アジア大洋州局長の田中均
    が近づいてきた。田中はこの直前に行われた事務レベル協議で
    北朝鮮側から知らされた拉致被害者の死者8人、生存者はわず
    か5人という数字を伝えた。小泉首相と安倍は言葉を失った。

     午前11時に始まった首脳会談で、小泉首相は冒頭から「大
    きなショックで、強く抗議する」と不信感をあらわにし、「拉
    致、工作船、ミサイル」の三つの条件をクリアしない限り正常
    化交渉再開はあり得ないことを告げた。金正日は口を一文字に
    し、小泉の顔を凝視しながらほとんど反論することはなかった。

     正午。日本側は北朝鮮側の昼食会の誘いを断り、控室に入っ
    た。田中は「北朝鮮が三つの条件をクリアすればこの宣言文を
    採択したい」と文案を持ってきた。安倍は「拉致したという白
    状と謝罪がない限り、調印は考え直した方がいいのでは」と進
    言した。 小泉はしばらく考え込み、何も言わなかった。

     午後の会談は予想外の展開になった。金正日はいきなり「い
    ままで行方不明と言ってきたが拉致だった」とこれまで北朝鮮
    側がかたくなに拒否してきた「拉致」という言葉を使った。さ
    らに自分の関与は否定しつつも、「遺憾なことで率直におわび
    したい」と、深刻な表情で言葉を選びながら拉致を全面的に認
    め謝罪した。[1]

     安倍の「白状と謝罪がない限り、調印は考え直した方がいい」
    という進言は、北朝鮮側に盗聴されている事を意識した上での
    発言だったという。日本の援助を喉から手が出るほどに欲して
    いる金正日にとっては、ここで日本側に席を立たれたら、元も
    子もなくなる。北朝鮮に翻弄され続けてきた日本外交が初めて
    攻勢に転じたきっかけは、この安倍の一言だった。

■2.国家が断じて国民を守るという意志を喪失していた■

     北朝鮮が拉致を認めて以降、日本国内では「知と情」という
    論理が登場した。「拉致の問題はたしかに可哀想だし、何とか
    してあげたいが、それはあくまで情の問題だ。それよりも核の
    問題はまさに国家の安全保障にかかわる、知の問題である。情
    の問題よりも知の問題を優先すべきだ」という議論である。

         そもそもわが国の国民の生命と財産を守るということは、
        国家の安全保障上の大きな目的です。それが明らかに踏み
        にじられて、主権が侵害されているわけですね。・・・

         私は、「拉致問題は安全保障上の問題以外の何者でもな
        い」と思ったので、感情論・同情論に矮小化しようとする
        マスコミや知識人たちに反論をしてきました。その結果、
        「知と情」と言う人はいまや誰もいなくなりました。

         私は、この拉致問題には、戦後五十八年間の日本の国家
        としてのありようへの反省が込められていると思っていま
        す。いわゆる戦後民主主義のなかで、日本はこれまで拉致
        問題をなおざりにしてきました。安全保障への認識や真剣
        な取り組みがなされてこなかった、また国家が断じて国民
        を守るという意志を喪失していた、そうしたことに対して
        猛省しなければならないと思います。[2,p113]

■3.日本国として「帰さない」■

     交渉の結果、ようやく5人の拉致被害者が帰ってきたが、当
    初は一時帰国ということだった。新聞もテレビも「近いうちに
    また北朝鮮に帰っていく」という前提での報道を続けた。そこ
    に日本政府から「北朝鮮には帰さない」という決断が発表され
    て、マスコミを驚かせた。安倍晋三は決断の理由をこう語る。

         そもそも「日本にとどまる」というのが、拉致された五
        人の皆さんの決断でした。しかし個人の意思は表に出さず
        に、日本国として「帰さない」ということを発表すること
        にしました。

        「個人の意思を超えて、そんなことを国家が決めて問題に
        なるのではないか。その判断はおかしい」という関係者も
        その場にはいました。しかし、個人が北朝鮮のような国家
        と相対峙をしているときには、国が責任を持って表に出て
        いくべきである、と考えました。

         国が責任を回避して、個々人の自由に任せるのは筋がお
        かしいと判断して、総理が最終的に判断を下されました。
        総理が判断をしたということは、政府全員が責任を負わな
        ければならない判断をしたということです。[2,p127]

     個人の意思に任せるのは体裁は良いが、それは拉致被害者に
    個人レベルで北朝鮮と相対峙させる事であり、国民を守るとい
    う日本政府の責任を放棄したことになる。拉致被害者を守ろう
    という国家意思を、初めて日本が表明した瞬間だった。

■4.「国家が日本人を守るべきである」■

     国家が国民を守るという安倍の原則は、日朝正常化交渉に関
    しても貫徹されている。

        「日本人同士が助け合い、守り合っていかなければならな
        い」、さらには、「国家が日本人を守るべきである」とい
        う意識は、戦争が終わったあとのこの五十八年間、日本人
        のなかで眠りつづけていた気がするんです。・・・

         五十八年間の戦後民主主義が、ある種の空気をつくり、
        その空気に影響された人びとが、日本の各界に存在するの
        です。彼らの思惑どおりに事を運ばせないためにも、私は
        拉致問題に関して二つの原則を申し上げています。一つは、
        「正常化交渉を始める前に、帰国された拉致被害者の方々
        の家族、八人を取り戻さねばならない」ということです。
        これは、北朝鮮が最も進めたいであろう日朝正常化交渉を
        ”梃子(てこ)”としなければ、拉致問題を解決できない
        と考えるからです。そしてもう一つは「日朝正常化交渉を
        進めるにあたって、北朝鮮から死亡、あるいは行方不明と
        して情報を提供された十名の拉致被害者の方々の安否確認
        を最優先する」ということです。

     もし拉致問題と並行して、正常化交渉を始めてしまったら、
    北朝鮮は今まで通り、拉致問題は棚上げして経済援助をせっつ
    いてくるだろう。そして8人の家族を早く帰して欲しかったら、
    経済援助を進めることだと言ってくる可能性がある。そうなる
    と8人の家族は「人質」カードとされてしまう。

     正常化交渉を欲しているのは、北朝鮮の方だ。だからこそ逆
    に「8人を取り戻さねば、正常化交渉を始めない」と、国交正
    常化をカードとして8人を取り戻す戦術が成り立つ。同時にこ
    れは「国家が国民を守る」という原則に基づいた外交でもある。

■5.したたかさと剛直さと■

     平成15年8月末に北京で開かれた六カ国協議の開催前には、
    北朝鮮は日本と韓国を協議の場からはずす事を要求した。中露
    は仲介的な立場であり、日韓がはずれれば、アメリカだけを相
    手にすれば良い。同時に拉致問題を棚上げにできる。

     日本は「それは絶対に困る」と頑張り、アメリカも断固とし
    て拒否した。一部には「そう言っていては、協議の場ができな
    いのではないか」という意見もあったが、日米が結束して拒否
    したので、北朝鮮側が折れて日韓を含む6カ国協議となった。

     次の六カ国協議の際には、北朝鮮は「日本が拉致問題を持ち
    出すなら、日本を外せ」と主張し、中国側も「六カ国協議をと
    にかく無事に再開することが大切であって、拉致問題を取り上
    げる事に関しては日本に再考を促す」という態度だった。

         わが国がこの六カ国協議の場において拉致問題について
        主張しないということはありえないことです。・・・

         これをこんど議題から落とせば、「では、拉致問題は日
        朝二国間だけでやるんですね」ということになって、多国
        間協議は核の問題だけで進んでいってしまいます。・・・

         ですから日本が拉致問題を議題としたために協議の再開
        が遅れたとしても、これはもうやむを得ないと考えるべき
        であって、それはむしろ北朝鮮がチャンスを逃したという
        ふうに考えるべきだと思っています。[1,p122]

     北朝鮮は正常化交渉を早くまとめて日米からの経済支援を貰
    いたい。中国もまた6カ国協議を成功させて、自国の北辺を安
    定させ、また北朝鮮を抑えうる立場にある事をアピールしたい。
    日本が拉致問題で突っ張っていれば、折れざるをえないのは北
    朝鮮側であり、またいずれ中国も、早く拉致問題を解決しろと、
    北朝鮮側に圧力をかけるだろう。

     安倍晋三の外交姿勢は、相手側の弱みを読むしたたかさと、
    原則を貫く剛直さとで織りなされている。どちらも戦後の日本
    外交が長らく忘れていたものである。

■6.抑止力としての経済制裁法■

     自民党幹事長になって、安倍晋三は北朝鮮への経済制裁法案
    の準備を進めた。これは直ちに制裁をするというのではなく、
    政府が制裁をできるような権限を法的に与えるということであ
    る。まず外為法と外国貿易法の改正によって、北朝鮮への送金
    を停止することができる。さらに「万景峰号」をはじめとする
    北朝鮮籍の船の入港を、わが国の安全保障上の理由、または相
    当の理由があったときに止めることができるようにする法律に
    ついても、検討を進めた。

         例えば先方が北朝鮮にいる日本人に対して何らかの危害
        を加えたり、あるいは「一ヶ月後に東京を火の海にする」
        と言っているにもかかわらず、淡々と船が入ってきて、そ
        れを止めることができないとすれば、これはどう考えても
        「それはちょっとおかしい」と思うわけですね。ですから
        万一の場合には、その時にはそういう手段もあるというこ
        とも検討しなければいけない。そしてそれは抑止力になり
        ます。[1,p132]

         北朝鮮との貿易量では、日本は三番目です。われわれは
        北朝鮮の核保有などの脅しには決して屈しません。それを
        北朝鮮が見誤ると、経済的な意味で大変なことになると思
        います。[1,p131]

     貿易上では、北朝鮮は日本にとって無視しうる存在だが、北
    朝鮮から見れば、日本からの輸入や送金を止めたら、その経済
    は壊滅的な打撃を受け、それは政権崩壊につながりかねない。
    わが国はそれだけの実力を持ちながら、その力を行使できるだ
    けの法律がなかったのだ。

     制裁という真剣を振り下ろさなくとも、それをちらつかせて、
    「経済的な意味で大変なことになる」と警告することが、北朝
    鮮に勝手な振る舞いをさせない抑止力になる。

     本年2月初め、外為法改正の論議が進められる中で、北朝鮮
    側から拉致問題に関する日朝協議を開きたいとの打診があった。
    外為法改正は2月9日に成立し、その直後に開かれた協議では
    北朝鮮側は「われわれを狙い撃ちにしている法律だ」との強い
    反発を示しながらも、北朝鮮側が席を立つことは一度もなかっ
    た。経済制裁という圧力は確実に効いているのである。[3]

■7.ハト派とタカ派■

     戦後の日本は、外国に謝罪をしたり、圧力をかけられたりす
    ることはあっても、日本から外国に謝罪させたり、制裁の圧力
    をかける、などというのは、今回が初めてのことではないか。

     北朝鮮から見れば、安倍はまことに手強い外交相手である。
    日本国内でも安倍を「タカ派」とか「強硬派」と非難する人び
    とがいるが、その声は北朝鮮シンパの悲鳴のように聞こえてし
    まう。日本国民から見れば、国民と国家を守ってくれるまこと
    に頼もしくも力強い「タカ」である。

         私もよくタカ派と批判されますが、その点はまったく気
        にしていません。ハト派と呼ばれる人たちは、ハト派と言
        われることに目的があるように見えます。でも私の場合は、
        国民の生命と財産を守り、国家の平和と安定を守るという
        目的のために、手段として、時と場合によっては、左翼か
        らタカ派と言われる選択肢も排除しないということです。
        そういう手段を担保するかどうかの違いであって、国民の
        皆さんには結果を冷静に見ていただきたいと思います。
        [2,p213]

     「ハト派」の政治家たちが膨大なコメ支援をしながら、感謝
    の言葉どころか頭越しにミサイルを撃ちこまれた「結果」に比
    べれば、一銭もやらずに金正日に謝罪させ、拉致被害者5人を
    取り戻し、制裁の圧力をかけて協議のテーブルにつかせている
    のだから、安倍の「結果」は余りにも明白である。

     ハト派かタカ派かは手段の問題であって、国民と国家を守る
    という目的のためには、時と場合によって「タカ派」的な手段
    も遠慮なくとる、という所に、安倍晋三の政治家としての覚悟
    が感じられる。

■8.「これは命を賭けるに値する仕事だろう」■

    「日本の国のために」という覚悟が定まったのはいつか、とい
    う質問に、安倍はこう答えている。

         政治家になろうという決意は、父の最後の1年間を見て
        いて、「これは命を賭けるに値する仕事だろう」と思いま
        した。そして政治家は「国民の生命と財産を守る」という
        ことを常に忘れてはいけないと心に刻みました。

     父・安倍晋太郎は晩年、膵臓ガンの手術の後、67歳で他界
    するまでにソ連とアメリカと二回も外遊した。ソ連とは北方領
    土の返還と平和条約の締結、アメリカとは日米安保30周年で
    の関係強化を目指したものだった。秘書官として父の最晩年に
    付き添いながら、政治家としての覚悟を安倍晋三は受け継いで
    いたのである。

     日米安保の第一次改訂は、母方の祖父・岸信介が命をかけて
    取り組んだテーマであった[a]。晋三が5歳の時、「安保反対!」
    のデモ隊に取り巻かれた自宅で、岸は馬になって晋三を乗せて
    遊んでいた。晋三がデモ隊の声につられて「アンポハンターイ」
    とかけ声をかけると、岸は大笑いしたという。

         祖父は、その時流に阿(おもね)ることを排して、超然
        としていました。そういう命を懸けた決断のできる人生は
        いいなあと思っていました。全く微動だにしない観があり
        ました。そこには原則を大切にして筋を通す、という信念
        があったのでしょう。[2,p213]

     祖父の信念、父の覚悟を受け継いだ「この国を守る決意」を
    抱いて、安倍晋三は政治に取り組んでいる。
                                          (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(337) 岸信介 〜 千万人といえども吾往かん
    日本を真の独立国とするための構想に邁進した信念の政治家。

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
1. 産経新聞、「検証、日朝首脳会談 到着直後「死」のリスト 
   言葉失い、崩れる自信」、H14.09.19
2. 安部晋三、岡崎久彦、「この国を守る決意」★★★、扶桑社、H16
3. 産経新聞、「日朝拉致協議・検証 『焦っているのは北』」、
   H16.02.15

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「安倍晋三 〜 この国を守る決意」について 

                                               功成さんより
     今週号と時期を重ねて、イラクで邦人三人が人質に取られる
    事件がありました。街頭インタビューや新聞の記事で気になっ
    たことがあります。自衛隊や政府の批判をする人が多いくせに、
    人質を取った卑劣なイラクのテロリストに対して、糾弾する声
    が小さいのはどうしたことでしょう。どんな大義名分を掲げて
    も、民間人を人質にして他国を脅すようなやり方は許されるも
    のではありません。

     本当にイラク人が自衛隊を嫌がっていたら、派遣地で大規模
    な暴動やデモ行進が行われると思います。そんな話をまったく
    聞かないということは、現地で受け入れられているということ
    ではないでしょうか。イラクにいる日本人の安全が脅かされて
    いるというのに、この期に及んで未だに政府の足を引っ張るこ
    としかせず、結束して事に当たろうとしない共産党や社民党の
    議員には強い怒りを覚えます。

     自衛隊撤退は、絶対してはならないと思います。撤退すれば、
    テロリストに「日本人はやっぱり脅せば簡単に要求を飲む」と
    軽く見られる結果となり、今後テロの標的としてますます狙わ
    れることになると思います。それに同盟国を見捨てて逃げ帰る
    ことがあっては、欧米への信頼度も致命的な傷を受けるのでは
    ないでしょうか。小泉首相には、毅然とした態度でテロリスト
    に挑んでほしいと思います。

■ 編集長・伊勢雅臣より

     今回の人質事件で二つ、良いことがありました。日本政府は
    テロに屈しないと国際社会にアピールできたこと、そして功成
    さんのような意見が世論の主流となってきた事です。

© 平成16年 [伊勢雅臣]. All rights reserved.