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■■ Japan On the Globe(398)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

        人物探訪: 日本電産・永守重信の新「日本的経営」

               「雇用創出こそ企業の最大の社会的貢献である」

■■■■ H17.06.12 ■■ 33,174 Copies ■■ 1,645,741 Views■

■1.目標は「従業員100万人」■

         私は企業の最大の貢献は雇用だと思っています。世界で
        もっともたくさんの従業員を抱えるということを日本電産
        グループの誇りにしたいですし、それは、ある程度健全収
        益が上がらないとできません。私の目標は、売上高10兆
        円で従業員100万人です。[1.p260]

     こう語るのは日本電産の永守重信・社長。売上高や利益を会
    社の目標として掲げるのが普通だが、従業員数を目標とする経
    営者は珍しい。それも100万人とは、並大抵の数字ではない。

    「世界最大のウォルマートでも30万人ぐらいですよ」との質
    問には、こう答える。

         例えば、メーカーの工場がアフリカにたくさんあるでしょ
        う。先日テレビで見ましたが、七十歳で、ウガンダの工場
        で、40年間縫製会社をやっている人がいる。そういう工
        場では、苦労している従業員をたくさん雇っている。働き
        手を亡くして子どもを抱えた母親だとか、内戦で親が死ん
        でしまったまだ若い娘さんとか、そういう人を採用してい
        るわけです。あれはいいなと思います。[1,p260]
        
■2.わずか一年での企業再建■

     これが単なる「大風呂敷」でないことは、最近の事例で鮮烈
    に実証された。デジタルカメラや光ディスク装置用のモーター
    などを製造している三協精機が平成14年間から3年連続の大
    幅赤字で倒産寸前の状況だったのを、日本電産が資本参加し、
    永守が経営指導をすることで、最初の一年目から黒字に転換さ
    せたのである。

     しかも、この間に、一人の首も切っていない。すなわち、同
    じ人々が同じ設備で同じ製品を作り、景気の波もそれほど変わっ
    ていないのに、平成16年の純損益ベースの赤字額が287億
    円だったのが、17年には150億円の黒字見込みである。経
    営の違いとしか言いようがない。

     三協精機の従業員数は連結ベースで1万人強である。もし倒
    産したら、これだけの人間が路頭に迷うところだった。それを
    救い、一年で大幅に利益を出させる。永守社長率いる日本電産
    グループはこのような人を切らない企業買収や合併を23件も
    成功させてきた。これが従業員100万人という目標に向かっ
    ての永守の歩き方である。

■3.「これは十分ペイするな」■

     三協精機支援の話が持ち込まれたのは、平成15年7月の事
    であった。実は6年前にも、永守社長が三協精機の技術力を高
    く評価し、買収を申し入れていたのだが、先方の社長が「かん
    べんしてください」というので、あきらめた事があった。相手
    の意思を尊重しない敵対的買収はよくない、というのが永守社
    長の考えである。

     約束した東京丸の内のホテルでは、三協精機・小口社長とそ
    の主力取引銀行である八十二銀行の成澤頭取、さらに同銀行の
    大株主である東京三菱銀行の五味・副頭取が永守社長を待ちか
    まえていた。

    「永守さん、率直に言います。三協精機に資本参加していただ
    けないでしょうか」と三協精機の小口社長が切り出し、窮状を
    訴えた。八十二銀行の成澤頭取が言葉を継いだ。

         永守さん、弊行は主力取引銀行という立場から三協精機
        の再建を支援してきました。人員削減などこれまでにない
        外科的な手法も実施したのですが、思うように進みません。
        永守さんはこれまでに人を切らずに買収企業を再建してこ
        られました。もうこれ以上地元の雇用情勢を悪化させるわ
        けにいかないんです。なんとか、人を切らずに三協を再建
        していただけませんでしょうか。[1,p35]

     日本電産の社内では、三協精機が300億円もの不良資産を
    抱えていることから、反対の声があがっていた。しかし、永守
    は三協精機の技術力を1500億円分の価値はあると踏んだ。
    三協精機の優れた製品を生み出すには、年間1千万のエンジニ
    アが500人で30年はかかる、という計算である。

         私は会社を買収する時、技術しか見ていない。技術さえ
        よければ、他のものは相当悪くてもいい、というのが昔か
        らの考え方だ。悪い部分は自分が治すことが経営者だと思っ
        ている。[1,p20]

■4.「日本電産から社長を派遣している会社は一社もありません」■

     8月6日、日本電産が三協精機に出資することが新聞発表さ
    れ、盆休みあけの8月20日、永守は長野県下諏訪にある三協
    精機の本社に足を踏み入れた。これから1年以上、毎週2泊3
    日に渡る諏訪通いの始まりだった。並み居る役員たちを前に、
    永守はこう言った。

         私は過去22社こういう関係で、再建をやらせてもらっ
        ています。

         私の過去の手法を見ていただきますとわかりますように、
        決して我々が来て何か会社を食い物にするとか、とんでも
        ない人事をやって恐慌に陥れることは一切やっておりませ
        ん。22社をご覧いただければ分かりますように、日本電
        産から社長を派遣している会社は一社もありません。
        [1,p68]

     ただし、三協精機が独り立ちするまでは3人程度の役員を派
    遣し、永守流経営の伝道師として使う。そして、永守流経営が
    現実の経営に反映され、再建が完了すると、派遣役員を引き揚
    げる、と説明した。

     この後、1ヶ月ほどかけて永守は三協精機の国内外の製造拠
    点、開発拠点をすべて自分の目で見て回った。「再建の見取り
    図が見えつつある。重病だが不治の病ではない」と新聞のイン
    タビューで答えた。永守の次の言葉は、「再建の見取り図」の
    基盤をなすものだろう。

         私の考えでは、人間の能力の差は5倍しかない。人間の
        知能とか経験とか知識なんてものは、そこそこの会社の社
        員であれば5倍もないのです。普通は2倍から3倍ですわ。
        頭がええとかね、そんなことはもう大して差がない。しか
        し、社員の意識といいますか、やる気、「それやろう」と
        か、「今日は絶対売るぞ」とか、「絶対に悪い品物出さん
        ぞ」とか、そういう意識は百倍の差がある。実際は百倍以
        上ですな、おそらく。千倍くらいあるかもしれません。
        [1,p182]

     三協精機の社員の意識、やる気をどう変えていくのか、ここ
    から永守は取り組んだ。

■5.6つのS■

     永守流経営の基本は「6S」である。これは整理・整頓・清
    潔・清掃・作法・躾の6つの「S」を意味する。この観点から
    各事業所を100点満点で評価するのだが、これが60点を超
    えれば事業はかならず黒字になる、という。それが三協精機を
    視察したときの評価点は、わずか5点だった。

         百点満点で5点ということは、ゴミ溜め。工場を見ると、
        油は散り放題、切り粉は飛び放題、作業員の作業服は真っ
        黒。ねじなどのものが落ちとっても誰も拾わない。こうい
        う工場です。お客が来ても従業員は「いらっしゃいませ」
        も言わない。守衛はグーグーいびきかいて寝とる。

     すぐに、全社運動として始業前の8時から8時10分まで、
    各自の周りを清掃することから始めた。従業員だけでなく、役
    員も含めてである。

     日本電産から派遣された6Sの伝道師が、窓枠を指でなぞっ
    て、ほこりがないか確かめ、不十分な所はやり直しをさせる。
    次第に掃除のレベルが上がって、でこぼこの曇りガラスを歯ブ
    ラシで磨く社員、ブラインドを一枚一枚磨く社員も出てきた。

     また役員と管理職がトイレ掃除を始め、従業員に任せられる
    水準にまできれいにしてから、従業員にも当番制でトイレ掃除
    を担当させた。不要な書類を整理すると、トラック数十台分と
    なった。建物のペンキ塗りまで自分たちで行った。

■6.「ものを大切に使おう」■

     こうした活動を通じて、社員の意識が大きく変わっていった。
    三協精機でこの活動の旗振り役となった人々は、こう語ってい
    る。

         社員が「磨けば短時間に光ってくる」「その効果が目に
        見えてわかってくる」って言うんです。ある種の達成感と
        いうのか。みんなでやれば成果が出る。そういうことを体
        感させてくれた部分がある。[1,p118]

         不思議なもので、便器を自分で掃除すれば、その後きれ
        いに使おうと思いますし、人にもきれいに使ってもらいた
        いと思います。何か壊れているものを見ると、「あ、会社
        のものが壊れている」という気持ちになります。今までは
        壊れたら総務に言えばいいとか、自分にはあまり関係ない
        という世界だったんですけど、意識が変わりました。もの
        を大切に使おうとか、そういう気持ちは自然に芽生えつつ
        あります。何か自分のもののように感じる、親身に感じて
        くるんです。[1,p118]

■7.「餌付けーション」と「飲みニュケーション」■

     こういう意識改革と並行して、永守は若手社員20名程度と
    の昼食懇談会、課長以上の幹部との夕食会を繰り返し開催して、
    自分の仕事に関する考え方を浸透させるとともに、社員や幹部
    からの意見を吸い上げていった。

     1年間で昼食懇談会52回を開催し、若手1056人と話し
    合った。またの25回の夕食会で課長以上の管理職327人と
    語り合った。これらを永守は「餌付けーション」「飲みニュケ
    ーション」と呼んでいる。

         なんでみんなと飯を食うかというと、食事をしたり、一
        杯飲んでできる話ならだいぶ様子が違ってくるから。ばか
        話でもしながら、わかりやすく話をする。みんなの質問を
        受け付ける。細かい話も出てきます。昼間働いているが、
        立ち作業でしんどいとか、休み時間になったら椅子が足ら
        んとか言うわけや。そんなことなぜその場ですぐやらんの
        かわからんけれど、そういう意見がいっぱい出てくる。
        ・・・それを全部解決していくわけですね、順番に。

     こうして現場の細かな不平、不満を解決しながら、経営者と
    して会社の将来の姿を説明する。1年たったらこうなりますよ、
    2年たったらこうなりますよ、と。社員の考え方を一致させて、
    進むべき方向を合わせるための手段であった。

■8.「みんなでやれば効果は出る」■

     永守が社員たちに指摘したのは、次のようなムダだった。

        (日本電産では10人でやっているモーター製造の仕事を
        三協精機では20人かけていることから)まったく同じモ
        ーターで、日本電産で20%儲かっているものが、三協精
        機では20%損をしている。言い換えれば40%原価が違
        うわけです。40%も原価が違って勝てるものはありませ
        んし、仮に注文をとってもその製品からは1円の利益も上
        がらないどころか、大きな赤字を出すということになって
        いきます。[1,p90]

        (設備も)まったく信じ難い値段のものを買っている。設
        備費は2倍から3倍です。日本電産では1千万で買ってい
        る機械を三協精機では3千万円で買っている。そんなのは
        ざらです。あのような設備を使って世界競争に勝てること
        はまったくありません。[1,p91]

        (部品の仕入れコストは)だいたい10%高いです。とい
        うことは年間売上高1千億円のうち、6百億円を仕入れに
        しますと、10%高くて60億余分にお金を払っていると
        いうことです。[1,p91]

     トイレの清掃などから芽生えた「ものを大切に使おう」とい
    う意識が、こういう問題に向けられ、設備や部品を少しでも安
    く買い、また設備や作業者や事務員の時間を大切に使おうとい
    う、当たり前の事が徹底して行われるようになった。

     こうした社員全体の無数の努力が積み重なって、平成16年
    の純損益ベースの赤字額287億円だったのが、わずか1年で
    17年には150億円の黒字見込みと、400億円以上の収益
    改善をもたらしたのである。まさに「みんなでやれば効果は出
    る」である。

■9."手塩にかける"■

         最近はあまり使われなくなったが、"手塩にかける"とい
        う言葉がある。厳しさのなかにも愛情があふれ、未熟で不
        慣れな後輩をそれぞれの個性やタイプに応じて、手間暇か
        けてじっくりと一人前に育て上げていくというイメージが
        あって、わたしの好きな言葉の一つである。[2,p150]

     トイレ掃除まで徹底してやらせたり、餌付けーション、飲み
    ニュケーションを何度も開いて多くの社員たちと直接語り合っ
    たのは、まさに「手塩にかけて」社員を育てるためであろう。
    その結果がわずか一年での劇的な黒字転換である。

     しかし、黒字転換は結果の一つに過ぎない。最大の成果は
    「ものを大切に使おう」「みんなでやれば効果は出る」を体験
    を通じて習得した社員たちだろう。こういう社員たちが、今後
    のさらなる事業成長を支えていく。

         世間では敗者と評価されているような人の闘争心に火を
        つけて勝者にしていく。倒れかかった会社の腐りかけた柱
        を新しくして立派なものに立て直す。自信ややる気を失い
        かけている部下を叱咤激励して夢と希望を持たせる。

         このように人や会社、そして部下が大変身を遂げ、強く、
        たくましくなっていく姿を眺めるのが、わたしの最高の喜
        びであり、生き甲斐でもある・・・[2,p221]

     こういう「人づくり」こそ、古くて新しい「日本的経営」の
    特質であろう。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(010) Global Standard となった日本の生産マネジメント
    世界中の国々が日本の真似をしてキャッチアップしてくる。

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
1. 日本経済新聞社・編『日本電産 永守イズムの挑戦』★★★、
   日本経済新聞社、H16
 2. 永守重信『人を動かす人になれ』★★★、三笠書房、H10

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「日本電産・永守社長の新「日本的経営」」について

                                               一郎さんより
     私は日本電産の工場のある福井県小浜市に住むものです。も
    ともと芝浦製作所の小浜工場であったものが日本電産になった
    工場ですが、その変貌ぶりは目を見張るものがあります。

     本号を読ませていただき、改めて永守社長の指導力を痛感い
    たしました。当初は文句を言う社員もいましたが今では市民も
    ようやく理解できるようになりました。

■ 編集長・伊勢雅臣より

     たった一人の経営者のよって、企業は大きく変貌するもので
    すね。

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