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■■ Japan On the Globe(402)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

             Common Sense: 民主国家は国民が守る
                    〜 防衛庁長官・石破茂の『国防』
                「民主国家というのは本当はみんなで努力しない
                 と守っていけないものだ」
■■■■ H17.07.10 ■■ 33,096 Copies ■■ 1,681,428 Views■

■1.みんなノー・アイデア■

     1991(平成3)年の湾岸戦争の時、自民党本部の最上階にある
    いちばん大きな会議室で、「政調合同部会」が開かれた。国防
    部会も外交部会もすべて集めた合同の会議である。海部俊樹総
    裁が挨拶で「この事態に当たって、日本国はどうすべきなのか
    議論しよう」と趣旨を述べた。

     衆議院当選2回目で、その会議に出席していた石破(いしば)
    茂は、この会議の様子をこう語っている。

         その意気やよし、なのですが、実際にはその時に、外務
        省もノーアイデア、防衛庁もノーアイデア、そして国会議
        員の中にも、こうすべきだということを言える人がいない。
        その場にいる人間の殆どが「PKO」ということばを初め
        て聞いたというような有様でした。「なにそれ?」という
        ふうで、誰も知らなかったのです。[1,p80]

     わずかに印象的だったのは、故・新井将敬議員が「ハワイへ
    の観光客を禁止しろ」という演説をしていたことだという。戦
    地から米兵の死体がハワイの基地にどんどん帰ってくるのに、
    日本の若者がそこで大勢遊んでいては国際的非難を受けるから、
    という主張だった。しかし、「日本国はどうするべきなのか」
    という問題に対しては、あまりにも些末な事柄である。

         そんな根本にかかわる意見が、役所にもなければ、国会
        議員にもない、というのが私にとって恐ろしいショックで
        した。もちろん、私も偉そうなことは言えません。そのと
        き具体的な妙案を出せなかったのですから。[1,p80]

■2.「消費税大賛成」でトップ当選■

     石破茂が最初に衆議院に当選したのは、昭和61(1986)年の
    ことだった。25歳の会社員が、全国最年少議員として当選し
    た。前年に参議院をしていた父親が他界し、田中角栄から、衆
    議院に出ろ、と言われたのがきっかけである。最初の選挙での
    公約では「鳥取県のために働きたい」ということで、外交とか
    国防などは全く意識の外だった。

     平成2(1990)年の2度目の選挙が、一つの転機だった。消費
    税が争点で、与党の候補者ですら、消費税賛成と選挙でぶつ人
    はあまりいなかった。この時に、石破は「消費税大賛成」と言っ
    て選挙戦を戦った。「そんなことを言ったら絶対落ちますよ」
    と周囲は諫めたが、「それでも賛成なのだからしょうがない。
    うそまで言って代議士をやるのはいやだから、消費税賛成と言っ
    て落ちたなら、それはそれでしょうがない」と考えたのだった。
    結果は前回は最下位当選だったのに、今回は一挙にトップ当選。

         自分の政治行動が変わった原点は、ここだったと思って
        います。格好良く言えば、「本当のことを言えばわかって
        くれる」という確信を得た、とでもなるのでしょうか。当
        選するために媚びてうそを言っても、それは詐欺に等しい
        ものです。有権者というのは、全員にわかってもらえなく
        とも、本当にきちんと話せばわかってくれる人は必ずいる。
        それだけ私は選挙区内の有権者に恵まれていたのかもしれ
        ませんが、そのときそう確信したのです。[1,p79]

■3.「こんなことばかりやっていては、この国は潰れる」■

     湾岸戦争終結後、厚生省関係の仕事をしていたので、イラン
    ・イラク国境のクルド人難民のキャンプを訪れた。一夜のうち
    に何万人もの人々が、山を越えて、イラン側に流入してくる。
    「国境とはこういうものなのか、これから先はこういう時代な
    のか」と肌で感じた。

     もう一つの大きな経験は、北朝鮮に行った時のことだった。
    金日成の80歳の誕生日ということで、自民党、社会党、公明
    党など超党派でチャーター機に乗りこんだ。当時はまだ、みん
    なでお祝いにいこうという雰囲気だった。

     そこで見たのは、マス・ゲーム、子どもの英才教育、個人崇
    拝。「なんなのだ。この国は!?」と大変なショックを受けた。
    石破は後に「北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するため
    に行動する議員連盟(拉致議連)」の会長にもなるが、この時
    の経験も一因だろう。

         北朝鮮という国の本質は何も変わっていませんが、本性
        を現して、あちらこちらで紛争が起きるようになりました。
        そんな状況の時に国会議員が、「私は地元のために小使い
        となって・・・」なんてことばかりやっていては、この国
        は潰れる、と思ったのです。[1,p81]

         皮肉なことに、冷戦のもとに日本は繁栄を享受し、国防
        とか外交はアメリカとお役人に任せておけば良い、という
        幸せな状態が実現していました。しかし、冷戦が終わった
        後はそうはいきません。国民が考え、そして国会議員を選
        出し、選ばれた議員は国民を説得しながら国防や外交を考
        えていく。そうしないと、国は滅びます。[1,p87]
        
     こう思って、石破は国防や外交の勉強を続けた。平成14
    (2002)年9月には防衛庁長官に抜擢された。

■4.「お買い物官庁」■

     冷戦時代の「国防とか外交はアメリカとお役人に任せておけ
    ば良い」という状況下で、防衛庁も平和な役所だった。石破が
    入った長官室には世界地図すら貼っていなかった。すぐに特大
    のものを貼るよう命じたが、庁内にはないという。「そんなバ
    カな」と驚き、「タウンページで調べて買ってきて下さい」と
    頼んだ。

     防衛庁は「お買い物官庁」である事も分かった。

         防衛の大きな指針を記した防衛計画の大綱には別表とい
        うものが付いています。そこに防衛計画を達成するための、
        陸・海・空三自衛隊の規模や主要装備が記されています。

         そして中期防衛力整備計画に基づいて、何年後に飛行機
        何機、船何隻、戦車何両等々を調達します、お買い物しま
        すという官庁でした。要するに、与えられた予算をとりあ
        えず使うこと、それ自体が仕事になっていました。「何の
        ために買うのか」という当たり前のことすら考えなくても
        よかったのです。[1,p101]

    「何のために買うのか」と強いて問われれば、とりあえず戦車
    や戦闘機、護衛艦を並べて、「一応の防衛力はあります。日本
    は国防努力を何もしていない国ではありません」ということを
    国際社会に示すため、ということで良かった。

     また冷戦期には、安全保障の議論をすることそのものがタブ
    ーであった。国防に関する法律は、未整備な部分がたくさんあっ
    たが、そんなことに手をつけようものなら「やめろ、そんな危
    険なもの」という感じだった。国会でも「そんな議論をして、
    他の法案の審議に影響が出たらどうするんだ」と言われる。こ
    う言われ続けているうちに、防衛庁はだんだん「もう、法案な
    んか出さなくてもいいんだ、そのほうが皆に喜ばれるのだ」と
    思いこむようになった。

     他の官庁では、何本法案を出したかが、官僚の出世のバロメ
    ーターとなっているが、防衛庁は逆だった。「防衛庁に入って
    もう二十何年になりますが、まさか法律をやるようになるとは
    思いませんでした」と石破に言った役人までいた。

■5.「戦艦大和がインド洋に行く」■

     こういう状況だったので、防衛費も、総額が国家予算の何%
    になった、というようなことは話題になっても、国会で中身が
    吟味されることはほとんどない。血税が約5兆円もつぎ込まれ
    ているのに。

     イージス艦をインド洋に派遣するか、どうかの議論で、自民
    党の中にも「あんな危険な船をだしてどうするんだ。あれは戦
    艦大和と同じじゃないか!」と大変な剣幕で怒っている政治家
    がいた。「どうしてイージス艦と大和が同じになるんですか」
    と石破が聞くと、

         1万5千トンもあって、4百人も乗組員がいる。そんな
        大きな船は戦艦大和と同じだ。

     防衛白書には、イージス艦は「極めて高い防空能力(数百キ
    ロ以上のレーダー捜索能力、探知、攻撃)を持ち、最新の指揮
    通信能力を持つ」と書いてある。戦闘機が飛び立って敵地を攻
    撃したり、敵艦を撃沈できるようなものではない。こういう事
    も知らない政治家が、「戦艦大和がインド洋に行く」と騒いだ
    のである。

■6.マスコミも軍事音痴■

     マスコミも同様だ。平成15(2003)年に北朝鮮が日本海に向
    けて地対艦(陸地から船を狙う)ミサイルを発射した時のこと。
    その情報はすぐに石破に上がってきたが、いつも2、3月に行
    う恒例の訓練であり、公表するほどのものではない、と判断し
    た。ところが、この情報がマスコミに漏れて騒ぎとなった。

         記者たちには「これは地対艦ミサイルだからそんなに騒
        ぐ事じゃないでしょう」と言ったところ、「どうしてです
        か?」と来た。それにはもう、「君たちは弾道ミサイルと、
        地対艦ミサイルの違いもわからんのか」としか言いようが
        ありませんでした。[1,p123]

     日本列島に届く弾道ミサイルと、射程100キロでせいぜい
    北朝鮮近海にしか届かない地対艦ミサイルとでは、我が国への
    脅威のレベルがまるで違うのである。

■7.防衛長官の選挙応援演説■

     イラクや北朝鮮の問題がきっかけとなって、国民の意識も変
    わってきた。平成15(2003)年11月の選挙では石破は27都
    道府県、延べ38人の候補者の応援演説をした。防衛庁長官に、
    選挙の応援であちこちからお呼びがかかるなど、かつては考え
    られなかったことだ。この応援演説の場で、石破はなぜイラク
    に自衛隊を派遣するのか、ということを正面から語りかけた。

         イラクに自衛隊を出すか出さないかはその時の判断だけ
        れども、基本的にあの地域が安定することでいちばん利益
        を受けるのは(弊誌注:原油の90%を中東地域に依存し
        ている)日本である。そして、国連の決議で加盟国に要請
        が出されている。まだ未熟な小国ならばともかく、国連の
        主要メンバーである日本が国連の要請を無視するようなこ
        とがあっていいのか。同盟国のアメリカが「何とかしてく
        れよ」という時にそれを無視していいのか。それで「北朝
        鮮に何か起こったらアメリカさん助けてね」と言うのはお
        かしいのではないか。[1,p108]

     ちなみに、この「国連の要請」とは、国連の決議1483号
    で加盟国に対して「イラクの復興支援を行い、同国の安定と安
    全に貢献せよ」という要請が出ていることを意味している。

         このようにきちんと話す必要があります。そして経験則
        から言って、きちんと話せばかなりの人に理解してもらえ
        ると思います。[1,p109]

■8.抑止力としての有事法制■

     石破は防衛庁長官・在任中に、「武力攻撃事態対処法案」な
    ど有事関連3法案を国会に提出し、成立させた。

         有事法制を整備しておかなくては、いざとなったときに、
        「野戦病院? 厚生労働省の許可がなければ作れません」
        「壊れた橋や道路を自衛隊が修理する? 国土交通大臣の
        許可がなければ駄目です」となってしまいます。本来、もっ
        とも能力を発揮すべき有事の際、自衛隊は法律にがんじが
        らめに縛られて動けないという馬鹿げたことが起きてしま
        うのです。・・・

         日本を侵略する者、攻撃する者の立場からすれば、「い
        ざとなれば日本は、自衛隊は動けない、国民は右往左往だ」
        となります。とすれば、「それじゃあ、いっちょやったろ
        うか」と思うのではないでしょうか。

         しかし、有事法制がきちんと整備されて、自衛隊は整然
        と行動し、国民は整然と避難するということであれば、
        「やっても、なんだか得るものは少ないなあ」ということ
        になるわけです。これも抑止力のひとつです。[1,p163]

     冷戦時代は有事法制を語ること自体、「やめろ、そんな危
    険なもの」と言われた。しかし、それはアメリカの庇護を受け
    て有事を自ら考える必要がなかった時代の「迷信」に過ぎない。

■9.まず国民が国防や外交を考える■

     石破は徴兵制は、防衛戦略上、意味がないと考えている。弾
    道ミサイル防衛などが必要な時代には、軍隊は少数精鋭のプロ
    フェッショナル集団でなければならないからだ。

     しかし、徴兵制が憲法違反という日本政府の見解には違和感
    を持っている。この見解の根拠は、憲法18条に「何人も、い
    かなる奴隷的拘束も受けない」とあり、徴兵制は「奴隷的拘束」
    にあたるから、というものである。

         私がなぜ、徴兵制を憲法違反だとする発想がすごく嫌い
        なのかというと、民主国家というのは本当はみんなで努力
        しないと守っていけないものだという意識が欠落している
        からです。

         民主国家を守るためには、口で語るだけでなく、税金を
        納め、そして国防の任に就くというのが、本来あるべき姿
        のはずです。しかし、いかにして税金を逃れるかというこ
        とが流行り、徴兵制を憲法違反だと得々として言う。私は
        日本はそういう国家であってほしくないと思っています。

         徴兵制を憲法違反だとか奴隷的苦役だと簡単に言ってし
        まう人は、おそらく十何年か前だと、自衛隊なんて持つの
        はとんでもないとか、自衛隊があるから危ないんだとか、
        平和が一番だよと言っていた方々でしょう。そこで思考が
        停まっているのです。[1,p159]

     平成15年1月の内閣府調査では、「外国から侵略された場
    合の態度」に関して、「自衛隊に参加して戦う」が5.9%、
    「何らかの方法で自衛隊を支援する」は増え続けて48.9%
    に達した。「一切抵抗しない」は年々減り続けて7.7%。
    「民主国家というのは本当はみんなで努力しないと守っていけ
    ないものだ」という観点から見れば、我が国は民主国家に近づ
    いている、と言える。そして、

         国民が考え、そして国会議員を選出し、選ばれた議員は
        国民を説得しながら国防や外交を考えていく。

     これが民主国家における政治のあるべき姿であろう。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(211) 湾岸戦争、日本の迷走
    湾岸戦争での最大の貢献をしたわが国が、なぜ、罵倒されね
   ばならなかったのか? 
b. JOG(378) サマーワに架けた友情の架け橋
    自衛隊のイラク支援活動によって得られた信頼と友情は「日
   本人の財産」 

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
1. 石破茂『国防』★★★、新潮社、H17

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「民主国家は国民が守る」について 

                                           motokuraさんより
     今回の石破長官の一貫した姿勢、考えに非常に感銘を受けま
    した。
 
    「民主国家というのは本当はみんなで努力しないと守っていけ
    ないものだ」という意識を持ってこそ、はじめて防衛問題や増
    税について意義のある議論がなされるはずだと思いますし、こ
    の意識なくしては世界に示すべき国家の姿勢をつくることなど
    できはしないと思いました。

     今号に限らず、尊敬すべき先人の言動を以って自分を省みな
    ければと感じております。今後とも頑張ってください。

                                               ハルさんより
      国益=経済、安全が、当たり前に存在する時代に育った我
     々は、いわゆる平和ボケの中で疑問すら抱かず、しかも、正
     しい歴史認識どころか、歴史知識すら乏しいことを、伊勢さ
     んの記事を読むにつけ痛切に感じます。

      日本という国のすばらしさ、それゆえ(そうでなくても)、
     日本人として母国を守っていくこと。まずは、自分の子供に
     は、正しい歴史と自国のすばらしさを伝えていくことから始
     めようと思います。

                                                yamさんより
      この国は法治と人治が混沌とした状態にあるのではと思わ
     ざるをえません。長官当時の石破さんの行いはすべてにおい
     て法治の手続きを淡々ととっていた。しかるに、一部政治家(
     と呼べる代物かと思えますが)と新聞社のQ&Aを読んでいる
     と、自衛隊が野戦病院を作る・橋を補修するにもなにもでき
     ない。自衛隊の地区司令官が強権を発動してなら、なんでも
     実施可能でしょう。でも、それは法治の国とはいいません!

     一時的な仁治でなんとかなるだろうと思うこと自体非常に危
    ない考えだと思います。日本は明治開闢以前から法治の国であ
    り、一人の独裁者によって物事が法律を超越して左右されたと
    いうことはありません。

     今後、法整備を行い、そして自衛隊=日本国軍が正々堂々晴
    れやに行動できる環境を整えることが大切だと思います。新撰
    組ではありませんが、「誠」のない行いは国民の支持を得られ
    ないと思います。清々しい政こそが、私たちの日本であると思
    いますし、それを誇りに思います。

■ 編集長・伊勢雅臣より

     石破さんのように明快に国防を語る政治家が出てきた所に、
    日本の政治の健全化が感じられます。

© 平成16年 [伊勢雅臣]. All rights reserved.