[トップページ][平成9年下期一覧][The Globe Now][332.1 日本経済][509 モノづくり大国日本]
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        _/  _/    _/  _/           Japan On the Globe (10)
       _/  _/    _/  _/  _/_/      国際派日本人養成講座
 _/   _/   _/   _/  _/    _/    平成9年11月8日 1,263部発行
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_/_/    The Globe Now:Global Standard となった
_/_/            日本の生産マネジメント
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_/_/           ■ 目 次 ■
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_/_/   1.留学時代の同窓会
_/_/   2.アメリカの工場建設での文化衝突
_/_/   3.作業者はなぜ提案をしないのか?
_/_/   4.労働は神の罰か、神事か
_/_/   5.アメリカの作業者を解放した日本の生産マネジメント
_/_/   6.世界標準となった日本の生産マネジメント
_/_/   7.global standard を作り出す国際貢献
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■1.留学時代の同窓会■

 本誌編集委員の一人、A氏は、大手電機メーカーに勤める中堅幹
部、20代後半にアメリカのビジネススクール(経営学大学院)に
留学している。その時に同級であった、官僚でニューヨークの国際
機関に出向していたB氏、そしてマレーシアで現地企業の社長をし
ていたC氏の二人が帰国したのを機に、15年ぶりに同窓会が開か
れる事になった。

 合計で8人ほど集まったが、銀行、証券会社、メーカーなど、い
ろいろな業界が集まって、四方山話に花が咲いた。特に皆、国際社
会の第一線で活躍している連中だけに、話は自ずから現在の国際情
勢の中での日本の進路と言ったものになった。

■2.アメリカの工場建設での文化衝突■

 A氏は、海外工場の建設や、改善指導などで、年に何回もアメリ
カや東南アジアに出かけるので、その経験を話した。

A氏 
 昔、ウチの会社が、イギリスのある企業と合弁で、アメリカ
に工場を作った事があった。両方の企業からエンジニアが集ま
って、共同で工場の設計を進めることになった。生産設備など
は、両方のノウハウの良い所どりをしてスムーズに進んだのだ
が、建物の設計で双方の作業者に対する考え方の違いが明らか
になって、ビックリした。

 最初の違いは窓についてなんだ。なんとイギリス側は工場に
窓など要らない、と言うのだ。その方が冷暖房の効率も良く、
建築費も安くなるという。また窓があると、明るさにバラツキ
が出るため、電灯の方が作業もやりやすい、という。我々は、
窓のない工場など考えたこともない。なにしろ日本では、工場
内に鉢植えを持ち込んだり、中には石庭や本物のせせらぎまで
作ってしまう工場まであるくらいだ。

 はじめは、日本と欧米の自然に対する感じ方の違いかとも思
ったが、そうでない事は、欧米でも窓のない住居がありえない
事から明らかだ。窓がない方が建設費が安いとか、冷暖房費が
かからない、というのなら、住居もすべて窓なしにしなければ
ならない。彼らは住居は人間が住むところだから、コストがか
かっても窓が必要だと考えている。だから工場は窓がなくても
よいというのは、作業者を人間扱いしていないからなんだ。

 第二の違いは、作業者の休憩所に関するものだった。私は日
本でやっているように、テーブルや椅子をならべ、改善活動の
ポスターや表彰状を掲示できるようなスペースを考えた。日本
ではさらに、パーティションで仕切って騒音を断ち、ソファー
を持ち込んだり、中には靴を脱いで足を伸ばせるように畳のス
ペースまで作ったりする所もあるが、さすがにアメリカだから、
そこまではしなかったけどね。

 この設計図を見せたら、今度は向こうが驚いた。彼らは通常、
作業者の休憩所など作らない、通路の壁に折り畳み式のベンチ
を作って休憩時間にはそこに座らせるくらいで良い、と言のだ。

 欧米人は、住居は個人の生活の場として、美しく飾ることを
好むが、工場は賃金を稼ぐために、仕方なく働く場なんだ。作
業者は、工場の外では、個人として人間生活があるが、一旦工
場内に入ったら、賃雇いの奴隷なのだ。

■3.作業者はなぜ提案をしないのか?■

 また、アメリカの別の製造拠点で、作業者による改善活動を
導入した事があるが、この時も同じような事を感じた。作業者
の提案制度を制定し、作業者が生産性向上や品質改善に寄与す
る提案を行えば、どんな提案でも出すだけで1件数ドル、効果
によっては数千ドルまで賞金が出るようにした。

 ところが、待てど暮らせど作業者からの提案は出てこない。 
なぜかと思って、現場に行き、そこで働いていた黒人の作業者
に聞いてみた。「改善提案制度が出来たのを知っていますか
?」と聞くと、知っていると答える。

「今の作業で何か、改善のアイデアはありませんか」と聞くと、
たとえば、設備の制御盤をこちらの方に移せば、ものの状態を
見ながら微調整ができるので、効率も良くなるし、材料ロスも
減る、などと、我々も見落としていたような、良いアイデアを
いくつか披露してくれた。

 かなり知的な顔をしており、説明も論理的なので、ただ者で
はないと思って、いろいろ聞いてみると、平日はここで作業を
しているが、日曜日には地域の教会でよくボランティアで説教
をしている、と話してくれた。

B氏
 作業者が休みの日に説教師をしているとは、日本では考えら
れない。さすがにアメリカだなあ。

A氏
「ところで、君はそんなに良い改善のアイデアを持っていなが
ら、なぜ改善提案として出さないのか」と最後に聞いてみると、
自分のアイデアが失敗したら、punishment(罰)があるのでは
ないか、それを恐れている、との答えが返ってきて、私は絶句
してしまったよ。

 日本では、仕事を良くしようという前向きの姿勢で出された
提案であれば、たとえ失敗しても作業者が責任を問われること
はない。それは提案を採用した技術者や管理者の責任だ。改善
提案制度の狙いは、改善の効果もあるが、まずは作業者に自分
の職場を良くしようと動機づけ、自分のアイデアで効果が出た
ら、それによる達成感を味わう所にある。こういう仕掛けで、
単調な仕事の中にも、作業者が働きがいを感じ、創造性を成長
させる場にしようというのが、日本の生産マネジメントの考え
方なんだ。

■4.労働は神の罰か、神事か■

C氏
 なるほど。でもどこからそういう労働に関する考え方の違い
が出てきたのだろう。

A氏
 アメリカの奴隷制の影響もあるが、イギリスでも同様だとす
ると、キリスト教の影響かもしれない。ほら、アダムとイブは、
神の目を盗んで、知恵の木の実を食べ、その罰として、楽園を
追放されて、労働しなければならなくなったろう。労働とは
「神の罰」なのだ。したがって人々は一刻も早くお金を貯めて、
労働から逃げ出したいと考える。彼らが定年後に海岸で昼寝を
するような生活を夢見るのは、エデンの園に帰りたい、という
宗教的本能なのだろう。

 それに対して、日本では天照大御神でさえも、田畑を耕した
り、機織りをしたりして、労働にいそしんでいる。労働とは罰
どころか、「神事」なのだ。天皇陛下も毎年お田植えをされて、
五穀豊穣を祈られる。日本が作業現場を尊び、作業者を大切に
するのもこういう日本文化の現れなのだ。

■5.アメリカの作業者を解放した日本の生産マネジメント■

A氏
 日本の製造業の国際競争力は今でも抜群だ。その強みは、や
はり作業者一人一人の創意工夫を引き出した所にある。たとえ
ばウチの会社では、一人の作業者が年間50件程度、改善提案
を出す。これは日本企業としては、まあ平均的な所だ。うちに
は1万人の作業者がいるから、合計年間50万件の改善が行わ
れることになる。1件でたかだか年1万円のコスト低減しか図
られなかったとしても、合計すると年間50億円の利益増大に
なる。

B氏
 でも、最近はアメリカの製造業が復活してきたと言われてい
るが、どうなんだ。

A氏
 作業者のやりがいと創造性を引き出す日本式の生産マネジメ
ントが、日本企業の成功の秘密であると知ったアメリカ産業界
が、それを徹底的に研究して、真似し、さらに発展させたから
だ。また日本企業の在米工場との取引を通じて、学んだ企業も
多い。今ではKAIZEN(改善)、KANBAN(トヨタのかんばん方
式)、5S(整理・整頓・清潔・清掃・躾)などの日本語がその
まま、アメリカの製造現場で使われるようになった。

 これを一番喜んでいるのは、アメリカの作業者だ。アメリカ
企業が元気になって失業率が減っただけでなく、企業内でも奴
隷状態から脱して、人間扱いされ、自らの創造性が発揮できる
ようになったからだ。日本式の生産マネジメントで彼らはやり
がいをもって仕事に取り組めるようになったんだ。もともと教
育レベルは日本と同じくらい高いので、考え方さえ学べば、あ
っと言う間にキャッチアップしてきた。

■6.世界標準となった日本の生産マネジメント■

C氏
 私もマレーシアで社長をしていた時に、5SやKAIZENをやらせ
ていた。日本企業の東南アジア、中国への工場進出に伴い、現
地製造拠点を通じて、日本式の工場マネジメントが今や当たり
前のように普及している。

A氏
 ウチでは、ここ数年でも、ドイツ、ポーランド、ブルガリア
からウズベキスタンといった国々からの見学団を受け入れてい
る。まさに日本の生産マネジメントは、今やglobal standard
(世界標準)となったと言って良いだろう。こうして世界中の
国々が日本の真似をしてキャッチアップしてくるので、我々も
うかうかしていられない訳だ。

■7.global standard を作り出す国際貢献■

B氏
 そうか、私もニューヨークの国際機関にいて、国際標準と言
うと、いつも欧米が決めたものを、日本が受け入れるものだと
ばかり思っていたが、日本も国際的に評価されるものを提供す
れば、それが世界標準となるのだな。確かに世界中でメガ・コ
ンペティション(大競争)の時代になれば、優れたものは世界
中で真似されて、世界標準になるってわけだ。

A氏 
 日本は古代は中国の先進文明を取り入れ、近代は西洋文明を
巧みに取り入れながら、独自の文化文明を発展させてきた。そ
の中には、国際的にも価値のある考え方がたくさんある。たと
えば、江戸時代に実現した廃棄物ゼロの社会など、まさしく地
球環境問題に直面する世界に重大な示唆を与えるものだ。これ
からはこうしたものを、積極的に海外に提供していくことが、
国際的な使命だ。そのためには、内に閉じこもって海外の制
度・ノウハウを「輸入」するだけでなく、「世界の中の日本」 
という視点から、自分の中の良いもの評価し、国際社会に積極
的に提供していくという姿勢が必要だと思う。

C氏
 まさしくそうだ。私がマレーシアにいた時、村山首相と土井
たか子が来て、マハティール首相と会見した。彼らは例の如く、
日本の侵略に対する謝罪から始めたんだが、マハティール首相
に、「いつまでも謝り続けるのは理解できない」と言われて、
赤恥をかいた。

 マハティール首相は東南アジアを代表する政治家だが、中国
の軍拡や覇権主義、それにアメリカのアジアに対する傲慢な態
度に対して、日本はもっとしっかりしてくれ、という気持ちな
んだ。

B氏
 私のいたニューヨークの国際機関でも、50年も前の戦争に
ついての謝罪とか、反省を言い訳として、PKO程度ですった
もんだし、湾岸戦争でも金だけで済ませた日本の態度は、国際
社会の中で他国と一緒に汗をかこうとしない、いかにもエゴイ
スティックな自閉症的なものだと思われている。特に湾岸戦争
では、中東の石油に依存しているのは、日本であって、アメリ
カではない、その日本は何もしないのに、なぜアメリカ青年の
血を流す必要があるのか、という世論で、当時アメリカにいた
我々日本人はずいぶん肩身の狭い思いをした。

 北朝鮮や中国というような火種ばかりではない、地球環境問
題、人口問題、貧困問題、国連の財政危機、欧米諸国でも犯罪
激増・家族崩壊など、世界中で問題が山積している。

 我々はたまたま若い頃に留学できて、その後、国際社会で活
躍できる場を得られたが、これからの若い人達には、温室の中
で「謝罪だ、反省だ」などと国内でしか通用しない事を言って
いないで、どしどし国際社会の第一線で働いて欲しい。日本の
文化、文明をバックに、独自の貢献をしうる日本人を、世界は
必要としているのだ。

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