[トップページ][平成9年下期一覧][国柄探訪][311 皇室の祈り(平成)]
_/ _/_/ _/_/_/ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ _/ _/ _/ _/ Japan On the Globe (12) _/ _/ _/ _/ _/_/ 国際派日本人養成講座 _/ _/ _/ _/ _/ _/ 平成9年11月22日 1,407部発行 _/_/ _/_/ _/_/_/ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ _/_/ _/_/ 国柄探訪: 仁 _/_/ _/_/ ■ 目 次 ■ _/_/ _/_/ 1.スペイン駐日大使より:パイプオルガンの修復 _/_/ 2.インド駐日大使より:インド人の福祉事業家 _/_/ 3.善意のうずを生み出す仁慈 _/_/ 4.日本のチャオ・ファー・チャイ(皇太子) _/_/ が持ってきてくれた「仁魚」 _/_/ 5.皇室の伝統的精神 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 現代の日本人で国際社会から最も尊敬を受けているのは今上 陛下であろう。陛下は国際派日本人の最高のモデルである。 ■1.スペイン駐日大使より:パイプオルガンの修復■ 平成二年、今上陛下の御即位に際して、世界各国の駐日大使が祝 辞を寄せたが、その中で、スペインのアントニオ・オヤサバル大使 のメッセージは、儀礼的な挨拶もなく、いきなり次のようなエピソ ードで始まっている。いかにもこれだけは言っておきたいという感 じだ。以下はその全文である。[1,p45] 1985年、さる高名な伝統的パイプオルガンの製作・修復技術者 の妻である白川町(註・岐阜県加茂郡)の辻紀子さんが、現在の天 皇・皇后両陛下、当時は皇太子殿下ご夫妻に、スぺインのサラマ ンカの大聖堂のメインオルガンの修復をお願い申し上げました。 そのオルガンはこれ以上放置すればもはや修理不可能なほど老朽 化していました。両陛下は即座にこれに応えられて、前スペイン 大使林屋氏に在スぺイン日系企業の間で基金を募り、また修復作 業の許可をスぺインの当局から得るように依頼されました。 辻夫妻の二年にわたる懸命な修復作業の結果、パイプオルガン は全盛期の姿に復元され、それを記念して、去る3月25日、岐阜 県知事梶原拓氏やサラマンカのすべての地域や教会の著名人列席 のもと、林佑子氏とモンストスクラット・トレンジさんらによる 荘重なコンサートが開かれました。それはこのスペインの美しい 中世風の街を背景として、スぺイン―日本間の友好を象徴する荘 厳な行事でした。 人も国家も自分の身のまわりのことにしか関心を持たない昨今 の風潮のなかで、両陛下が遥か異国の芸術作品の救済に乗り出さ れたことは、まことに稀有な行ないであると思われます。両陛下 はこうした文化財を、国境を超えた人類共通の遺産であると考え られていらっしゃるのでしょう。 ■2.インド駐日大使より:インド人の福祉事業家■ また、インドのA.G.アスラニ駐日大使は祝辞の中で、次のよ うなエピソードを紹介されている。 昨年、78歳になる引退したインド人の魚類学者が私の所に手紙 を寄こしました。私にはまったく面識がありませんでしたが、彼 はアメリカから帰国する途中、東京で数日を過ごす予定だが、そ の際に天皇陛下に拝謁を賜るだろうとのことでした。彼は小児マ ヒのために車椅子や松葉杖を手離せない生活をしていました。こ の比較的無名の老人が果たして本当に拝謁を賜ることができるの かどうか私には確信が持てませんでした。 彼が拝謁を終えて私の所に来た時は、まさにうれしい驚きでし た。彼の学問的業績と福祉事業に陛下は興味を示されたというの です。 この老人は現在インドで小児マヒの人々のための養護院 を経営していますが、この時に陛下の特別のおはからいで、何人 かの日本の身体障害者の訓練をする機会を得られたそうです。 ■3.善意のうずを生み出す仁慈■ 読者諸兄は、この二つのエピソードが共通した構造を持っている ことに気がつかれたであろうか。 1)オルガン修復や、福祉事業を志す人々を見つけられる。 2)その善意に力添えするよう関係者に依頼される。 3)依頼された側は、善意で協力をする。 こうして一つの善意が、陛下のご助力で、他の人の善意を引き起 こす。まさに善意の「うずまき」が生じているのである。 善意を発揮して、世のため人の為になるするのが、人間の最高の 自己実現であるとすれば、その善意を引き出す陛下の行いは、最高 の仁慈であると言える。 ■4.日本のチャオ・ファー・チャイ(皇太子)が 持ってきてくれた「仁魚」■ 今上陛下は皇太子時代、昭和39年に訪問されたタイで、山奥の 苗(ビョウ)族のタンパク質不足の問題をタイ国王からお聞きにな り、魚類学者としてのご研究から、飼育の容易なティラピアという 魚50尾を国王に贈られた。 この魚はタイ国内でさかんに養殖され、国民の栄養状態改善に貢 献するばかりでなく、1973年にはバングラデシュへの食料支援 として50万尾も贈られたという。 陛下の仁慈は、タイの人々を助けたばかりでなく、さらにタイ国 民がバングラデシュ国民を助けるという善意を生み出したと言える。 ある日本人は、魚市場でタイ人から、「この魚は、日本のチャ オ・ファー・チャイ(皇太子)が持ってきてくれたんだ」と聞かさ れたそうである。 この魚の漢字名は「仁魚」という。華僑系市民がこの話に感動し て、陛下のお名前(明仁)をとって命名した由である。[2] ■5.皇室の伝統的精神■ 「仁」は、今上陛下だけではない。昭和天皇(裕仁)、大正天皇 (嘉仁)、明治天皇(睦仁)と続く。仁慈の御心(これを古くは 「大御心」と呼んだ)で国民の安寧を祈られるのは、皇室の伝統的 な精神であった。 だからこそ、中世以降、権力も武力も持たない皇室が、多くの国 民の努力によって支えられてきたのである。(この点については、 本誌でおいおい紹介していこう) 冒頭のスペインとインドのエピソードを見ると、グローバル化の 時代にふさわしく、皇室の仁慈は今や国境を越えて、世界の人々に も及んでいる。 このような皇室を現行憲法は、その第一条に「国民統合の象徴」 として掲げている。憲法の原文を書いた米国占領軍スタッフは気 がつかなかったであろうが、そこには我が国の歴史伝統が生み出し た気高い理想が潜んでいるのではないか。それを明らかにするのは、 これからの国際派日本人の課題である。 [参考] 1. 「『平成の』の理想を世界に HEISE, or Peace and Accord, for the World、 駐日各国大使のメッセージ」、 天皇陛下御即位奉祝委員会編、平成2年 2. 「皇太子殿下の仁魚」、祖国と青年、平成4年1月号
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